2025年10月08日
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内部通報制度の構築と運用における重要ポイントを弁護士が解説

内部通報制度の構築と運用における重要ポイントを弁護士が解説

内部通報制度の導入が決まったものの、具体的にどのように構築・運用すればよいか悩んでいる企業担当者も多いでしょう。

内部通報制度の運用に当たっては、公益通報者の保護や、調査の公正性の確保などを図る必要があります。弁護士のサポートを受けながら、適切に内部通報制度を運用しましょう。

本コラムでは、内部通報制度の構築・運用に当たって留意すべきポイントや企業不祥事が発覚した事例などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、内部通報制度の概要と必要性

内部通報制度とは、企業が自社内に通報窓口を設置し、従業員などが違法行為を報告できる仕組みのことです。通報者を保護しつつ、迅速な問題解決を図るもので、公益通報者保護法で定められる公益通報制度の一部に位置づけられます。

企業が内部通報制度を設けることで、従業員などは社内の違法行為を安心して通報できるようになります。その結果、大規模な不祥事に発展する前に問題を把握し、迅速に対処することが可能です。

また、コンプライアンスを徹底し、株主や取引先などのステークホルダーから得た信頼を維持・強化するためには、内部通報制度の導入が欠かせません。

なお、令和4年に施行された改正公益通報者保護法により、常時使用する労働者の数が300人を超える事業者においては、内部通報制度の整備が義務付けられました(公益通報者保護法第11条第1項、第2項)。

2、内部通報制度を導入する際の手順

企業が内部通報制度を導入する際の手順は、以下のとおりです。

  1. (1)経営幹部が内部通報制度の導入を検討する

    内部通報制度の導入および運用は、経営幹部が責任をもって行うべきものです。まずは取締役会などにおいて、内部通報制度の導入に関する検討を始めましょう。

  2. (2)内部通報対応の責任者と窓口設置部署を選定する

    内部通報制度の導入を決めたら、実際に内部通報への対応を行う責任者と担当部署を選定します。

    責任者や窓口設置部署の選定に当たっては、従業員が心理的に通報しやすい人や部署を選ぶなど、安心して通報できる環境を重視することが大切です。
    外部の弁護士に社外窓口を依頼すれば、社内の人間関係などを気にすることなく通報しやすくなります。

  3. (3)公益通報対応業務従事者を定め、研修を行う

    通報者を特定する情報を業務として扱う担当者(=公益通報対応業務従事者)は、業務上知り得た通報者を特定させる事項を漏らしてはならない守秘義務を負います(公益通報者保護法第12条)。

    公益通報対応業務従事者としては、信頼性が高く守秘義務を遵守できる従業員などを選定し、公益通報者保護法のルールなどに関する研修を行いましょう。

  4. (4)社内規程や対応マニュアルなどを準備する

    内部通報への対応に当たって、注意すべき点や遵守事項などを定めた内部規程や対応マニュアルを作成しましょう。また、通報内容を記録化するための受付票も準備してください。

    内部規程・対応マニュアル・受付票のサンプルは、消費者庁が公開している「はじめての公益通報者保護法」のページ内、「内部通報制度導入支援キット」にて確認することが可能です。

  5. (5)従業員や役員に対して周知・研修を行う

    内部通報制度を導入する準備が整ったら、窓口の連絡先・設置場所や内部規程の内容などを、従業員や役員に対して周知しましょう。従業員や役員の間での認知度が高まれば、内部通報制度が効果的に機能しやすくなります。

    消費者庁が公開している「はじめての公益通報者保護法」のページでは、規程やマニュアルだけでなく、内部通報制度に関する従業員向けの研修に利用できる動画を視聴することも可能です。

3、内部通報制度を適切に運用するための5つのポイント

企業が内部通報制度を適切に運用するためには、特に以下の5点に留意しましょう。

  1. (1)内部通報を理由とする解雇は無効|その他の不利益な取り扱いも禁止

    内部通報(内部公益通報)を行ったことを理由に、従業員を解雇することはできません。

    法律で通報者の保護が徹底されているため、解雇は無効となります(公益通報者保護法第3条)。また、降格・減給・退職金の不支給など、その他不利益な取り扱いも禁止されています(同法第5条第1項)。

    内部通報制度の運用に当たっては、通報者の保護を徹底することが肝心です。

  2. (2)内部通報を理由とする損害賠償請求はできない

    従業員の内部通報によって企業が損害を受けたとしても、その従業員に対して損害賠償を請求することはできません(公益通報者保護法第7条)。

    通報者の責任を追及しようとするのではなく、違法行為の発生を防ぐためのコンプライアンス強化に注力しましょう。

  3. (3)内部通報窓口の独立性を確保する

    企業における違法行為には、経営幹部が関与するケースもあります。そのため、内部通報窓口は経営幹部から独立させることが大切です。

    外部の弁護士に社外窓口を依頼すれば、経営幹部からの独立性を確保することができます。社外窓口から社内への報告についても、社外取締役や監査役などの独立性が高い役員に対して行わせることが望ましいです。

  4. (4)通報事案の関係者は調査などに関与させない

    内部通報の対象事案に関わる者が調査に関与すると、中立性や公正性が損なわれるおそれがあります。

    したがって通報対象事案の関係者は、内部通報への対応業務から除外しなければなりません。通報者や違法行為をしたとされている本人のほか、その親族や、不祥事の発覚によって実質的に不利益を受ける者などを除外しましょう。

  5. (5)通報者の探索を防ぐための措置を講じる

    内部通による企業不祥事の調査が本格化した際、社内で「犯人捜し」が始まるケースも少なくありません。通報者が特定されて、社内で不利益な取り扱いを受けるようになれば、内部通報制度の効果が低下します。

    このような事態を防ぐため、内部通報制度を導入している企業は、通報者の探索を防ぐための措置を講じるべきです。

    具体的には、内部規程によって通報者の探索を禁止したうえで、懲戒処分などの対象となることを定め、その旨を教育・周知するなどの措置が考えられます。

4、内部通報制度で企業不祥事が発覚した事例

従業員の内部通報をきっかけとして、企業不祥事が発覚した事例を2つ紹介します。

  1. (1)取引先従業員の引き抜きを通報したところ、配置転換を命じられた事例

    東京高裁平成23年8月31日判決では、A社の従業員Bが取引先従業員の引き抜きについて内部通報を行ったところ、その報復として配置転換を命じられた事案が問題になりました。

    東京高裁は、Bの長年のキャリア形成を無視して専門性を活かせない部署へ配置転換点などを問題視し、A社による配置転換命令が人事権の濫用に当たり無効であると判示しました。

  2. (2)パワハラに関する内部通報を受けて、会社が適切に調査を行った事例

    東京地裁平成26年7月31日判決では、C社の従業員Dが上司からパワハラに当たる言動を受けた事案が問題となりました。

    Dは、上司Eからパワハラを受けたとの内部通報を行い、C社に対してEの責任追及および再発防止策の検討を求めました。しかし、内部通報を受け付けたC社コンプライアンス室室長は、Eによる行為がパワハラに該当しないと判断する旨をDに伝えました。

    東京地裁は、Eによるパワハラを認定したうえで、C社とEに対し、連帯してDの損害を賠償することを命じました。

    他方で東京地裁は、C社が内部通報を受けて実施したパワハラに関する調査については、適切に実施されたものと判断しました。

    その要因として、東京地裁は以下のような事情を挙げています。

    • C社はDの同僚である5人の者に対して、DとEの当時のやり取りなどを面談またはメールで事情聴取した
    • C社はDとの間で、6回にわたって面談を行った
    • C社はDとの面談において、Eの行為がパワハラに当たらない理由につき、根拠を示しながら口頭で説明した
    • C社はEとの間で2回の面談を行い、Eにおいて注意指導の方法に行き過ぎの部分があったことなどの反省に至らせた
    など

5、まとめ

内部通報制度の運用に当たっては、通報者の保護を徹底することが大切です。

特に、以下の点に注意しましょう。

  • 通報を理由とした解雇や降格、減給など不利益な取り扱いを避ける
  • 通報者が特定されるような情報を漏らさない
  • 内部規程で通報者の探索を禁止し、社内で犯人捜しが起こらない環境を作る

内部通報制度の導入や運用に関しては、弁護士に相談することで適切なアドバイスを受けることが可能です。また、弁護士と顧問契約を締結していれば、制度運用の疑問だけでなく、その他の企業経営上の悩みについても、いつでも相談できる体制を整えることができます。

ベリーベスト法律事務所は、内部通報制度、企業不祥事、その他の企業法務に関するご相談を随時受け付けております。お客さまのニーズに応じてご利用いただける顧問弁護士サービスもご用意しておりますので、まずは当事務所へご相談ください。

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