M&Aにより合併などの組織再編を行う場合には、反対株主に株式買取請求権が生じるケースがあります。
組織再編などを行う企業は、弁護士や公認会計士のアドバイスを受けながら、株式買取請求に備えた対策を事前に検討することが重要です。
本コラムでは反対株主の株式買取請求権について、ベリーベスト法律事務所 企業法務専門チームの弁護士が解説します。
「反対株主の株式買取請求権」とは、合併をはじめとする組織再編行為などに反対する株主が、保有する株式を買い取るよう会社に請求する権利です。
なお、会社法では単元未満株式を保有する株主にも株式買取請求権が認められています(会社法第192条)。そのため、本コラムでは反対株主の株式買取請求権に絞って解説します。
反対株主が保有する株主を買い取るよう求められる「反対株主の株式買取請求権」の制度が設けられた背景には、「株主の投下資本回収の保障」という目的があります。
組織再編行為などが行われると、株式の内容や価値は大きく変化する可能性があることは間違いありません。結果、反対株主が株式の保有継続を強いられる場合、不本意な形で株式の変更の影響を受けてしまうことになるでしょう。
そこで反対株主には、組織再編行為などが実行される前の段階で株式買取請求を認め、保有する株式を現金化して投下資本を回収する機会が与えられています。
反対株主が株式買取請求権を行使すると、会社はその株主が保有する株式を公正な価格で買い取らなければなりません。買取の対象となる株式は、組織再編などの対象行為の効力発生日に反対株主から会社へ移転します。
株式買取価格は、原則として反対株主と会社の間の協議によって決定します。協議が調ったときは、会社は反対株主に対し、組織再編などの対象行為の効力発生日から60日以内に買取代金を支払わなければなりません。
価格に関する協議が効力発生日から30日以内に成立しなかった場合、さらに30日以内の期間において、反対株主または会社のいずれかが裁判所へ価格決定を申し立てることが可能です。なお、申立てが行われた際は、買取価格は裁判所によって判断されることになります。
会社法によって反対株主の株式買取請求権が認められているケースと、それぞれの場面における行使要件を解説します。
会社が以下の組織再編行為をする場合は、一定の要件を満たす反対株主が株式買取請求権を行使することが可能となります(会社法第785条、第797条、第806条、第816条の6)。
株式買取請求権の行使が認められている株主の範囲は、株主総会決議の要否によって異なります。
「株式併合」とは、複数の株式を1株に統合して、発行済株式の数を減らす手続きです。
株式併合によって損害を被るおそれがある場合、または1株に満たない端数が生じる場合には、以下のいずれかに該当する株主は、株式買取請求権を行使が認められています(会社法第116条第1項第3号イ、第182条の4)。
「全部取得条項付種類株式」とは、株主の同意を得ることなく、株主総会決議によって会社が全部を取得できる株式です。
株式に対して全部取得条項を付す旨の定款変更をする場合は、その株式を保有し、かつ以下のいずれかに該当する株主は、株式買取請求権を会社に対して行使できます(会社法第116条)。
上記のほか、以下の場面において反対株主の株式買取請求権を行使することが認められています。
不特定多数の株主がいる上場企業がM&Aなどを行う際には、反対株主の株式買取請求を受けることが避けられません。上場準備中の企業を含めて、株式買取請求権の行使に備えて対応手順を整理しておきましょう。
株主が多数存在する企業では、組織再編に対して一定数の反対が生じ、買取請求を受けることは現実的に避けられないケースがほとんどです。
そのため、企業側には、3つの準備が求められます。
これらの対応に当たっては、弁護士や公認会計士などのサポートを受けることが不可欠です。必要な事前準備については「5、M&Aを成功に導く、株式買取請求のリスクマネジメント」で詳しく解説します。
反対株主の株式買取請求の対象となっている行為をする際には、ほとんどの場合で株主総会の決議を要します。
したがって、まずは株主総会を招集しなければなりません。上場企業の場合は、開催日の2週間前までに招集通知などを株主へ送付する必要があります。
招集通知の発送後、株主総会当日の開催直前に至るまで、株主から対象行為について反対する旨の通知が届きます。
この間に反対の通知をした株主と、議決権を行使できない株主が、反対株主の株式買取請求権の対象となります。該当する株主の情報(氏名または名称、住所、保有株式数など)をリストアップしておきましょう。
株主総会では、対象行為について決議を行います。決議の要件は、対象行為の種類によって異なります(特別決議や普通決議など)。
議決権を行使できる株主は、決議に当たって実際に反対票を投じなければ、株式買取請求権を取得できません。反対の事前通知をした株主が、株主総会において対象議案に反対しなかった場合は、その株主をリストから削除しましょう。
なお、会社が反対株主の株式買取請求権の対象行為をしようとする場合は、効力が生じる日の20日前までに、影響を受ける株式を保有する株主に対して当該行為に関する情報などを通知するか、または公告をしなければなりません。
対象行為の効力発生日は、上記のスケジュールを踏まえて設定する必要があります。
反対株主の株式買取請求が認められているのは、効力発生日の20日前の日から前日までです。この期間に、反対株主から買取りを請求する株式の数などが通知されるので、その内容をリストにまとめておきましょう。
その後、会社として公正と考える買取価格を決定し、株式買取請求を行った反対株主に対して通知します。反対株主が特に異議を述べなければ、効力発生日から60日以内に通知した金額を支払いましょう。
「公正な価格」とは何かについては、「4、株式買取請求時の「公正な価格」とは? 算定方法と交渉のポイント」で解説します。
買取価格について反対株主が異議を述べた場合は、その反対株主との間で価格に関する協議を行います。協議が調った場合は合意書を締結し、合意した金額を効力発生日から60日以内に支払いましょう。
株式の買取価格について、反対株主との間に協議が成立しないときは、反対株主または会社は裁判所に対して価格決定の申立てをすることが可能です。
価格決定の申立てが認められているのは、効力発生日の31日~60日後の期間です。この期間が過ぎても価格決定の申立てが行われない場合は、会社が反対株主に通知した金額で買取価格が確定します。
したがって会社としては、自ら価格決定の申立てをすることもできるものの、基本的には反対株主による申立てを待つ方針で問題ありません。
価格決定の申立てが行われた場合、裁判所は非訟手続きによって審理を行い、株式の買取価格を決定します。当事者が提出した証拠に基づいて審理が行われるので、会社として公正と考える価格の算定根拠を示す資料を提出しましょう。
裁判所が決定した買取価格のうち未払いの部分については、効力発生日の61日後から支払い済みまで、法定利率(年3%)による利息を支払わなければなりません。
利息の支払いを避けたいなら、会社として公正と考える買取価格に相当する代金を、効力発生日の60日後までに支払っておきましょう。
反対株主が株式買取請求権を行使した場合の買取価格は「公正な価格」とされています。公正な価格とは実務上、「ナカリセバ価格」または「シナジー分配価格」のいずれかを用いるものとされています。
最高裁平成23年4月19日決定では、吸収分割に関する反対株主の株式買取請求について、「公正な価格」の意義が争点となりました。
最高裁は、組織再編行為(本件では吸収分割)を通じて企業価値の増加やシナジーが発生しないケースでは、当該組織再編に関する契約(本件では吸収分割契約)の承認決議が株主総会で行われなかったと仮定した場合の株式価格を、公正な価格として認めるとの判断を示しています。
判決文中でこの価格概念が「ナカリセバ価格」と名付けられたことから、現在では実務上も広くこの呼称が定着しています。
上場会社の場合は、市場において株式が取引されているため、ナカリセバ価格は市場価格を参照して決まります。具体的には、吸収合併等の対象行為が公表される直前の市場価格がナカリセバ価格となります(最高裁平成23年4月26日決定)。
他方で、吸収合併等によってシナジーその他の企業価値の増加が生じるときは、吸収合併等の比率が公正な場合における株式買取請求日時点での株式価値が公正な価格となります(最高裁平成24年2月29日決定)。
これは一般に「シナジー分配価格」と呼ばれており、企業価値の増加分を反映した額を公正な価格とする考え方です。
他に、組織再編の前提としてTOBが行われている場合、そこで提示されている買付価格が参照されるなど、当該事案の背景や経緯によって何が「公正」とされるかが変わってくる点には注意が必要です。
上場株式とは異なり、非上場株式は市場で取引されていないので、公正な価格を決定するに当たって市場価格を参照することができません。
非上場株式の価格を算定する際には、以下の方法などが用いられます。
どの評価方法が適しているかは状況によって異なります。公認会計士のアドバイスを受けましょう。
反対株主の株式買取請求に関して、裁判所は主に以下の3つの観点から「公正な価格」の審査を行います。
会社としては、買取価格をできる限り低く抑えることが望ましいです。そのためには、以下の方向性で主張を行うのが基本線となります。
弁護士のサポートを受けながら、適切な主張・立証の戦略を立てて裁判手続きに臨みましょう。
M&Aに伴って合併などの組織再編を行う場合は、反対株主の株式買取請求に備えたリスクマネジメントが欠かせません。以下のポイントを押さえながら、リスクを最小限に抑えられるように努めましょう。
多数の反対株主が株式買取請求権を行使すると、買取資金の確保が難航するおそれがあります。
組織再編行為などに反対する株主の数は、できる限り少ない方が望ましいです。M&Aの必要性を丁寧に説明したうえで、適切な合併比率を設定するなど、反対株主の数を最小限に抑えるための取り組みを行いましょう。
上場会社がM&Aなどを行う際には、一定数の株主から株式買取請求を受けることは避けられません。したがって、株式買取請求を受けることを前提として資金計画を立てる必要があります。
特に大株主の動向は、事前にヒアリングをするなどして確認しておくべきです。株式買取請求が見込まれる株式数が分かったら、内部留保の活用や借入れ、社債の発行等による資金計画を立てましょう。
組織再編行為等に関する手続きは、会社法によって定められています。
会社法上の手続きを遵守しないと、株主から株主総会決議の取消しや無効などを主張され、大きなトラブルに発展してしまいかねません。
弁護士のサポートを受けながら、反対株主の株式買取請求に関する対応を含めて、会社法上の手続きをきちんと踏まえて進めましょう。
M&Aの過程では、会社法上の手続きや企業価値の評価、トラブル対策など、専門的な対応を多岐にわたってこなさなければなりません。これらの対応には高度な知見を要するため、経験豊かな弁護士や公認会計士のサポートが必要不可欠です。
弁護士や公認会計士へ初回の相談を行うベストタイミングはM&Aの検討を始めた初期段階です。法律・会計の両面からサポートを受けることで法的リスクを最小化し、財務面でも適切な準備を整えたうえでM&Aを進めることができます。
ベリーベスト法律事務所は、M&Aに関するご相談を随時受け付けておりますので、ぜひお早めにご連絡ください。
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