ニュースやドラマなどで耳にすることがある「示談」「和解」は、両者とも話し合いによってトラブルを解決する手段である、という点は共通しています。
ただし、特に「裁判上の和解」には、示談(民法上の和解)にはない重要な法的効果があります。
本記事では、和解と示談の違いやそれぞれの特徴、そして交渉を進める際の注意点や弁護士に相談するメリットについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士がわかりやすく解説します。
示談とは、法律上明確な定義が置かれている用語ではありませんが、刑事事件において双方の合意により、少なくとも損害賠償などの点について解決をする際に用いられることが多い言葉です。その法的な実質は、後述する民法上の和解にあたります。
一方、こちらは実際に民法や民事訴訟法などでも出てくる言葉です。和解には複数の類型があり、大きく、民法上の和解(裁判外の和解)と裁判上の和解の2つに分かれます。日常会話では「和解」という言葉が、民法上の和解(裁判外の和解)を指す意味で用いられることが多いでしょう。以下、それぞれについてみていきます。
裁判上の和解とは、民事訴訟法に基づき、裁判所が関与して成立させる和解手続をいいます。
そして裁判上の和解は、さらに、
に分かれます。
たとえば未払い賃金請求訴訟では、裁判官が双方の主張や証拠を踏まえて和解を提案することがあり、当事者がその内容に合意すれば訴訟上の和解が成立します。
当事者間では感情的対立が生じやすい事案でも、裁判所の手続を介することで、一定の冷静な協議が促されることがあります。紛争の長期化や精神的・金銭的負担を回避することができる可能性がある点が、裁判上の和解の特徴といえます。
裁判上の和解が示談(=民法上の和解)と決定的に異なるのは、その法的効力です。
民事訴訟法267条では以下のように定められています。
和解の内容が記載された和解調書は、確定した判決と同様の効力を持つことになります。つまり、和解調書は「債務名義」となるのです。
債務名義とは、これにより強制執行が可能となる公的な文書のことをいい、どのような文書が債務名義となるかは、民事執行法22条に定められています。
たとえば、裁判上の和解によって、「A社はB社に対して金〇〇円を支払う」という趣旨の記載が調書になされた場合、もしA社側がその支払いをしなければ、B社は改めて裁判を起こす必要なく、直ちに強制執行手続(例:A社の財産を差し押さえること)に進むことが可能です。
このように、裁判上の和解は、合意内容の実現するうえで迅速性、確実性の点で優れた手段であり、合意後のトラブルを防止するうえで非常に有効な手法といえます。
これに対し、示談(民法上の和解)は、たとえ書面化しても、法的には私的な契約書にとどまります。もし相手方が合意内容を守らなかった場合、改めて裁判を起こし、確定判決(債務名義)を得てからでなければ、強制執行をすることはできません。なお、示談書作成の時点で強制執行認諾文言付きの公正証書にしておくことで、改めて裁判を起こさずに強制執行の申し立てを行うことは可能です。
示談や和解は、当事者同士の話し合いで進めるものです。交渉を成功させるためには、法的知識だけでなく、交渉を円滑に進めるためのポイントを押さえておくことが重要です。
交渉の初期段階でもっとも重要なのは、適切な金額や条件を見極めることです。
たとえば、未払い賃金のトラブルであれば、労働契約の内容(給与・所定労働時間)や実際の労働時間、証拠の有無・内容、紛争の原因・経緯などを総合して算出します。労働者側の主張をもとに精査してみたところ、労働者側の証拠が不十分であったり、その信用性に疑義があるケースもあるでしょう。
また、ある程度の事実が確定できる事案においては、その事実を前提に、おおよそ合理的と考えられる和解金額の幅を見込んで交渉をすることもあります。
いずれにしても、適切な金額を知らずに交渉を始めると、相手方から過大な要求をされた場合に適切な対処ができず、不利な条件で和解してしまうリスクがあります。正しい情報を精査し、相場感を踏まえて交渉をはじめることが大切です。
交渉の過程では、相手方が何をもっとも重要視しているのか、その真意を探ることが重要です。相手が金銭的な満足を重視するのか、早期の解決を優先するのか、あるいは将来的な法的措置に抵抗があるかなど、相手の事情を把握し、実情を理解することが、より有利で合理的な解決策を見いだすきっかけとなることがあります。
口頭だけでの合意は、後から言った・言わないのトラブルになる可能性が極めて高いものです。合意した事項は必ず書面にするか、メール等で記録を残すようにしてください。
当事者同士の交渉では、感情的な対立に発展しがちです。特に元従業員とのトラブルでは、過去の人間関係や不満が表面化しやすく、冷静な話し合いが困難になるケースが少なくありません。
このような場合、第三者(弁護士など)に交渉を任せることで、感情的な側面を緩和し、理性的かつ専門的な観点から交渉を進めやすくなります。
口頭だけの合意はリスクが高く、トラブル再燃の原因となります。示談や和解で合意に至った場合は、必ず書面(示談書・和解書・合意書)を取り交わしましょう。書面に盛り込むべき主な記載事項は以下のとおりです。
もっとも重要なのが、具体的な合意内容です。以下の項目を明確に記載します。
もし、相手方が約束の期日までに支払いをしなかった場合に備え、遅延損害金や違反時の対応について定めておくと、履行を促す効果が期待できます。
たとえば、「支払いが遅延した場合は、支払期日の翌日から支払済みまで年○%の遅延損害金を支払う。」「当事者が第○条(口外禁止条項)に違反したときは、相手方に対し、金○万円を支払う。」といった条項を盛り込みます。
ただし、利率や計算方法は法的な制約や合意の範囲で変動しますので、設定時は弁護士に確認してください。
清算条項は、そのトラブルに関して、今後一切の債権債務が存在しないことを確認するための重要な条項です。この条項がないと、後になって「ほかにも請求すべき事項があった」として、新たな紛争に発展する可能性があります。
「甲及び乙は、本書に定める事項を除き、当事者間に存在する一切の債権債務及び請求権を互いに放棄し、今後一切の請求を行わないことを確認する。」といった文言を記載することで、後から新たな請求をされるリスクを回避できます。
一方で、今問題となっていることとは別に、こちら側でも主張したいことがある場合などは、清算条項の範囲を誤らないようにしなければいけません。「本件に関して」という文言を入れるかは、一つの争点です。
万が一、示談書・和解合意書の内容をめぐって再びトラブルが発生し、裁判に発展した場合に備え、どの裁判所で争うかをあらかじめ定めておくと便利です。これを合意管轄といいます。たとえば、「本合意に関する紛争については、○○地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。」といった条項を盛り込みます。
示談・和解交渉は、トラブルを早期に解決できる非常に有用な手段ですが、同時に、専門的な知識と経験が求められます。弁護士に依頼することで、以下のようなメリットを得ることができます。
弁護士が交渉窓口となること自体が、クライアントの負担軽減につながります。弁護士が間に立つことで、感情的対立を緩和し、法的根拠に基づく説得や合意文書の作成が期待できます。また、合意内容を法的に有効な形で書面(示談書・和解合意書)に落とし込むことで、将来のトラブルを防止することができます。
弁護士は、法律や紛争解決に関するさまざまな知識を有しており、これまで対応してきた事案や過去の判例・裁判例などの情報、労働審判などの知見から、実務上の相場感を踏まえた助言が可能です。そのため、相手方の要求が法的に妥当、相当なものなのか、クライアントにとって合理的な解決は何かを、クライアントの意向も踏まえながら見極めたうえで交渉を進めたり、助言をしたりすることができます。
弁護士が交渉に関与することで、最初から、交渉が決裂した場合も見据えた交渉を進めることが可能となります。交渉が決裂した場合を想定して交渉を進めることで、相手の言動に振り回されにくくなり、裁判に移行する際も円滑に対応できます。
紛争解決において重要なのは、いかにして合理的な内容で相手方と合意して紛争を解決するか、です。
ベリーベスト法律事務所では、企業のトラブル対応に特化した顧問弁護士サービスを提供しており、未払い賃金トラブルをはじめ、さまざまな企業法務案件に豊富な経験を持つ弁護士が多数在籍しています。
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