使用人兼務役員とは、従業員(使用人)としての業務と役員としての職務を併せ持つ立場の人をいいます。たとえば、平取締役(代表権のない取締役)が部門の責任者として日常業務を行うケースが典型例です。
使用人として給与を受け取る部分については定期同額給与の縛りを受けないため、報酬を柔軟に設定できるといったメリットがあります。また、従業員としての性質が認められる範囲で、雇用保険や労災保険に加入できる点も企業にとって魅力です。
一方で、使用人兼務役員にはデメリットもあります。たとえば、要件を満たさない場合に給与の一部が役員報酬として扱われ、税務否認されるリスクがあります。また、従業員としての地位がある以上、解雇が制限されるなど、人事運用の柔軟性が低下する可能性もあります。
今回は、使用人兼務役員の基本的な仕組み、企業が知っておくべきメリット・デメリット、選任する際に注意すべき税務・法務上のポイントをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
使用人兼務役員は、役員と従業員という2つの立場を併せ持つ点に特徴があります。以下では、使用人兼務役員の基本的な意味や制度が設けられる背景について説明します。
使用人兼務役員とは、会社法上の「役員」でありながら、従業員(使用人)として指揮命令を受けて働く側面も併せ持つ立場の人のことです。
本来、役員は企業の経営に関わる意思決定を行う側であり、賃金労働に従事する存在ではありません。しかし、実務の現場では、特に中小企業を中心に役員が日常業務や現場業務を兼務するケースが多く見られます。
企業が使用人兼務役員を選任するのは、以下のような理由があります。
このような背景から、組織規模の小さい企業では使用人兼務役員という形が選択されることがあります。
問題社員のトラブルから、
使用人兼務役員を設置することには、企業側にとってさまざまなメリットがあります。一方で、税務否認のリスクや雇用保険料の増加などのデメリットも存在し、慎重な検討が必要です。以下では、企業が使用人兼務役員を置くことで得られるメリットとデメリットを紹介します。
① 給与を柔軟に設定できる
役員報酬は原則として「定期同額給与」のルールがあり、毎月同額でなければ経費(損金)として認められません。
しかし、使用人兼務役員の場合、従業員として支払う給与部分については、一般の従業員給与と同じ扱いとなり定期同額給与の縛りを受けません。
そのため、以下のようなニーズにも対応しやすくなります。
特に中小企業では、業績変動に合わせて給与を設計できる点は大きなメリットといえます。
② 雇用保険や労災保険に加入できる
役員は通常、雇用保険・労災保険の対象外です。
しかし、使用人兼務役員であっても、労働者性が認められる場合には、次のような保険に加入できる可能性があります。
企業としては、役員であっても福利厚生を充実させられるため、組織としての安心感が高まります。
① コストが増えることがある|雇用保険や労災保険の保険料、役員退職金など
使用人兼務役員が雇用保険や労災保険に加入する場合、企業はその保険料を負担することになります。
また、従業員として扱われる部分が増えると、以下のような形でトータルの人件費が増加する可能性があります。
特に長期的には、役員退職金が高額になることもあり、企業にとっては軽視できないデメリットです。
② 税務否認のリスクがある
使用人兼務役員として認められなければ、支払った給与が従業員としての給与ではなく「役員報酬」と判断される可能性があります。
その結果、以下のような税務リスクが生じます。
特に、「実質的に現場業務に従事していないのに使用人兼務役員として給与を払っていた」
と判断されると、税務調査で否認される可能性が高まります。
③ 解雇が制限される
使用人兼務役員は、従業員としての地位が認められる部分については、労働法の保護を受けることになります。
そのため、解雇には客観的合理性と社会通念上の相当性が必要となり、従業員としての地位については、一方的に契約終了することは困難となる場合があります(労働契約法16条)。
企業が軽い感覚で「役員と兼務だから簡単に外せる」と判断すると、法的トラブルにつながりかねません。
④ 会計処理の複雑化
使用人兼務役員を置く場合、役員としての報酬と従業員としての給与を明確に区別して処理する必要があるため、経理実務が複雑になりやすい点がデメリットです。
役員分と使用人分を混在させたまま支給すると、税務調査で「本来は役員報酬である」と指摘され、損金不算入や追徴課税につながるおそれがあります。
また、どの業務が役員としての職務になり、どの業務が従業員としての職務になるのかを社内で整理しておく必要があり、勤務時間の管理や社会保険の取り扱いも複雑化します。
企業としては、給与体系・職務内容・人事管理を厳密に分け、日常的に適切な運用を行うことが求められます。
使用人兼務役員を設けるための要件を満たさない場合、従業員として支払った給与が「実質的には役員報酬」と判断され、損金不算入や追徴課税につながるおそれがあり注意が必要です。以下では、使用人兼務役員として認められるための要件を説明します。
使用人兼務役員として認められるためには、役員であると同時に、部長・課長など法人の使用人としての職制上の地位を実際に持っていることが必要です。
たとえば、営業部長として日常の実務に従事し、部下の指揮命令を行っているケースや総務課長として現場業務を遂行しているケースは、使用人としての職制上の地位を有していると判断されます。
一方で、肩書を持たない一般社員(いわゆる平社員)が、そのままの状態で取締役に就任しただけでは、使用人としての職制上の地位を有しているとはいえませんので、使用人兼務役員の要件を満たしません。
使用人兼務役員として認められるためには、日常的に従業員としての業務に従事していることが求められます。
たとえば、以下のようなケースです。
名目だけ肩書をつけていても、実際には経営判断のみを行っている場合は、使用人兼務役員とは認められません。
実態として企業の指揮命令下で労務を提供しているかどうかが判断基準となります。
役員としての業務と従業員としての業務が混在している場合には、給与の区分が曖昧になり、使用人兼務役員として認められにくくなります。給与のどの部分が役員報酬で、どの部分が従業員給与なのか判断できないためです。
そのため、企業としては職務分掌(各担当者の職務範囲を明確にする規程)を定め、どの業務を従業員として行うのかを整理しておく必要があります。勤務時間の管理や評価基準を区分し、日常の業務内容も役員業務と従業員業務が判別できるようにしておくことが重要です。
役員であっても、以下のような範囲の役員は、使用人兼務役員として認められません。
このように、役員の中でも「経営の中心的な地位」と判断される者や、特定の職制上の地位を有する者は、使用人兼務役員としての適用が除外されています。
したがって、自社で「使用人兼務役員」を検討する場合には、まずこの範囲に該当しないかどうかを確実に確認する必要があります。
使用人兼務役員の選任は、企業にとって柔軟な人事制度を構築するうえで有益な方法ですが、その一方で、税務・法務の両面で慎重な判断が求められます。以下は、選任時に生じる主なリスクと、専門家に相談すべき理由について説明します。
使用人兼務役員は、要件を満たせば「使用人分給与」が損金として認められる一方で、認定基準は非常に厳格です。形式上の肩書だけで兼務させた場合、税務調査で否認されるリスクがあります。
特に注意すべきポイントは次のとおりです。
このように、税務上の取り扱いは複雑で、誤った判断が大きな経済的損失につながる可能性があるため、慎重な制度設計が欠かせません。
使用人兼務役員には、会社法上の「役員」と労働契約上の「従業員」という2つの立場が併存します。これが法務面の複雑さを生み、以下のようなリスクが生じます。
このように、法務上の判断も専門的な知識が必要となる点に注意が必要です。
使用人兼務役員の選任を検討している場合、事前に弁護士に相談することをおすすめします。弁護士なら、以下のようなサポートが可能です。
使用人兼務役員は便利な制度である一方、判断を誤ると企業に大きな負担が生じます。リスクを回避しつつ最適な制度設計を行うためにも、専門家への相談が重要です。
問題社員のトラブルから、
使用人兼務役員は、従業員としての業務と役員としての職務を兼ねる制度であり、給与設計の柔軟性や社会保険加入といったメリットがある一方、税務否認や法的責任の不明確化などのリスクを伴います。このようなリスクを回避するには、専門家によるアドバイスやサポートが不可欠です。
ベリーベスト法律事務所なら弁護士だけでなく、グループ内の税理士法人と協働し、法務と税務の両面でサポートすることも可能です。導入を検討される企業の方は、リスクを回避するためにも早めのご相談をおすすめします。
使用人兼務役員とは、従業員(使用人)としての業務と役員としての職務を併せ持つ立場の人をいいます。たとえば、平取締役(代表権のない取締役)が部門の責任者として日常業務を行うケースが典型例です。使用人と…
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