会社の経営者や総務または人事・経理などを担当している方であれば、従業員の給料を差し押さえる通知を裁判所から受け取ったことがある方もいらっしゃることと思います。突然、裁判所から書類が届くと驚かれることでしょう。しかし、従業員の給料の差し押さえ通知は、何も会社の責任を問うものではありません。
とはいえ、法律に基づいた手続きですので、正しく対応しなければ会社が金銭的に損をしてしまう可能性もあります。正しく対応するためには、給料差し押さえに関する正しい知識を持っておくことが前提となります。
従業員の給料差し押さえ通知を受け取って、どうすればよいのかお悩みの方に向けて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説していきます。
従業員の給料差し押さえ通知として受け取る書類の正式名称は「債権差し押さえ通知書」といいます。
まずは、裁判所から会社に送られてきた債権差し押さえ通知書とは何であるのかについて、詳しくご説明します。
裁判所からの書類を受け取って驚かれたかもしれませんが、まずは何が書いてあるのかを把握しなければなりません。
給料の差し押さえ通知には以下の3点が書かれているはずなので、落ち着いて確認してみてください。
これを読めば、ある従業員の給料が差し押さえられ、会社はその従業員に給料を支払ってはいけないことはおわかりいただけると思います。
しかし、従業員に支払わない給料を会社としてはどうすればよいのかはわかりにくいことでしょう。この記事では、その点について順を追って解説していきます。
差し押さえ通知には、「債権者」「債務者」「第三債務者」といった言葉が記載されているはずです。これらの言葉の意味を押さえておきましょう。
裁判所からの書類を受け取ると、「会社に何らかの責任があるのでは?」と思ってしまう方もいらっしゃるかもしれませんが、そうではありません。何も、従業員が返済しない借金を勤務先の会社が代わりに返済するように請求されているわけではないのです。
債権者としては、債務者に直接請求しても返済してくれないため、債務者が第三債務者に対して有する債権を回収することによって、借金の返済に充てようとしているのです。
つまり、会社としては、差し押さえられた給料を従業員に対してではなく、債権者に対して支払うことになります。何ら会社が金銭的な負担を負うわけではありません。
問題社員のトラブルから、
では、従業員の給料差し押さえ通知に対して、会社は具体的にどのように対応すればよいのでしょうか。
差し押さえ通知を会社が受け取った時点で差し押さえの効力が生じ、会社が従業員に給料を支払うことは禁止されます。
そのため、給料差し押さえ通知を会社が受け取った後は、その従業員に対する給料の支払いをストップする必要があります。
第百四十五条 執行裁判所は、差押命令において、債務者に対し債権の取り立てその他の処分を禁止し、かつ、第三債務者に対し債務者への弁済を禁止しなければならない。
(中略)
5 差押えの効力は、差押命令が第三債務者に送達された時に生ずる。
(以下略)
引用元:民事執行法
従業員への給料の支払いを裁判所が禁じている以上、従業員に支払ってしまった場合には、さらに債権者に対しても支払わなければなりません。このような二重払いを避けるため、従業員への給料の支払いはストップしてください。
とはいえ、給料の全額を差し押さえることは禁止されているため、債権者へ支払うのは給料の一部だけです。残りは通常どおり、従業員へ支払うことになります。
債権者によって差し押さえられるのは、月額手取り給料の4分の1のみです(民事執行法第152条1項)。ただし、33万円を超える部分は全額差し押さえられます。
したがって、債務者である従業員へ支給する月額手取り給料が28万円だとすれば、4分の1にあたる7万円を債権者へ支払い、残りの21万円は従業員へ支払うことになります。
月額手取り給料が44万円以上の場合は、従業員へ33万円を支払い、残りを債権者へ支払います。
裁判所から給料差し押さえ通知が届けられた際、通常は「催告書」と「陳述書」も同封されています。
催告書とは、裁判所が第三債務者である会社に対して、給料差し押さえ通知を受け取ってから2週間以内に陳述書に記入して返送するように求める書類です。
陳述書には、以下の内容を記載します。同封されている陳述書は書き込み式となっているので、順番に記入していけば難しくありません。
陳述書は2部作成し、債権者と裁判所へ返送します。返信用封筒も同封されています。
なお、催告書と陳述書が同封されていた場合には、正確に陳述書に記入して返送する義務があります。
返送しなかったり、虚偽の記載をした陳述書を返送したりすれば、債権者に対して損害賠償義務を負うことがありますので(民事執行法第147条2項)、ご注意ください。
差し押さえられた給料は債権者へ支払う必要がありますが、具体的にどのような手順を踏めばよいのかわからない方も多いことでしょう。ここでは、その点についてご説明します。
債権者が1社のみの場合、つまり裁判所から届いた給料差し押さえ通知が1件のみの場合は、その債権者からの取り立てに応じて支払えば足ります。
通常は、陳述書を提出した後に債権者の方から連絡があり、振込先口座なども伝えてくるはずです。
その指示に従って、振り込みましょう。なお、振込手数料は債権者負担なので、差し引いた金額を振り込めば足ります。
債権者が複数いるとき、つまり同一の従業員に対して裁判所から複数の給料差し押さえ通知が届いている場合には、注意が必要です。
この場合には、差し押さえられた給料を勝手に振り分けて各債権者へ支払うのではなく、供託をしなければなりません(民事執行法第156条2項)。
供託とは、差し押さえられた給料を法務局に預けることをいいます。預けた給料は、裁判所が各債権者に対して公平に配当することになります。供託をしたときは、その事情を裁判所に届け出なければなりません(民事執行法第156条3項)。
給料差し押さえ通知に「事情届」という書類も同封されていますので、それに記入して裁判所へ返送しましょう。
従業員の給料差し押さえに対して、会社がやるべきことや注意点をひと通りご説明してきました。
しかし、他にもさまざまな疑問があると思いますので、ここでまとめてお答えいたします。
その場合は、前記「2(3)」でもご説明したように、債権者に対して民事上の損害賠償義務を負う可能性があります(民事執行法147条2項)。
また、刑事上も強制執行妨害目的財産損壊等の罪(刑法第96条の2)に問われることがあり得ます。
会社が従業員を守るために、陳述書に「その従業員は退職した」と記載したり、給料額を実際よりも低く記載したりするケースもままあるようですが、上記のペナルティーを課されるおそれがありますので、ご注意ください。
貴社から債権者に連絡する義務はないのですが、放置しておいても債権者に対する支払い義務から免れることはありませんので、できれば連絡をとった方がよいでしょう。
もし、連絡がつかない場合や、何らかの事情で連絡したくない場合には、差し押さえられた給料を法務局で供託すれば、会社は免責されます。
従業員に対して給料が差し押さえられたことを告げて「あなたには支払えない」と言うと、従業員から「借金はもう返済したので、給料は私に支払ってください」と言われることもあるでしょう。
しかし、金銭に窮した人はうそをつく可能性もあるので、軽信してはいけません。
仮に従業員が返済しているとしても、差し押さえ債権目録に記載されている金額を完済したのでない限り、会社は差し押さえられた給料を債権者へ支払う義務があります。
それにもかかわらず、従業員へ給料を支払ってしまうと、債権者に対しても二重払いしなければなりません。
したがって、従業員から支払いを求められても、支払ってはいけません。従業員の言うことが本当かどうか悩ましい場合は、供託すればよいでしょう。
差し押さえられた給料の額が債権者の請求額(差し押さえ債権目録に記載されている金額)に達するか、債権者が取り下げるまで続きます。従業員が退職すれば、債権者はやむを得ず取り下げることになります。
それまでは毎月、前記「3」でご説明したのと同様の処理を続ける必要があります。
「債権差押命令」を装った詐欺は見聞きしたことありませんが、可能性はゼロとまではいえません。
裁判所から届いた書類に裁判所名と書記官名が書いてあるので、本当に裁判所が適法に発行した書類なのかを電話で確認してみるとよいでしょう。
問題社員のトラブルから、
会社が初めて給料差し押さえ通知を受け取った場合はどうすればよいかわからないでしょうし、この記事を読んでも不安が残ることでしょう。
対応を誤ると二重払いなどによって会社に金銭的な損失が発生するおそれがあるので、慎重に対応する必要があります。
従業員から給料全額の支払いを懇願されたりして、対応に困ることもあろうかと思います。
不安なときは、弁護士に相談してアドバイスを受けることをおすすめします。弁護士からアドバイスを受ければ、やるべきことは難しくありませんので、安心して対応できることでしょう。
対応に慣れていない場合は、無理に社内でのみ対応しようとせず、気軽にベリーベスト法律事務所の弁護士へご相談ください。
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