企業法務コラム
近年、女性の社会進出が進み、女性社員を多く抱える企業も増加しています。
職場でマタハラ(マタニティーハラスメント)が起こると、その労働者自身の権利が侵害されるだけでなく、マタハラについて企業の責任を追及される可能性もあります。
そこで、企業としては、社内でマタハラが生じないようにするための対策をとることが必要です。今回はマタハラで裁判になった事例も含め、企業に義務付けられているマタハラ対策方法や責任について、法律的な観点から弁護士が解説します。
そもそも「マタハラ」とは何なのか、定義を確認しましょう。
マタハラは、マタニティーハラスメントの略です。
これは、労働者の妊娠・出産、育児休業等の利用に対して、職場において、上司・同僚が労働者に対して行う嫌がらせや、使用者(企業)が労働者に対して行う不利益な取扱いをいいます。
たとえば、労働者が妊娠・出産し、産休や育児休業等の制度を利用しようとした際、上司や同僚が嫌みを言ったり、制度の利用を妨害したり、使用者(企業)が当該労働者を解雇したりすると、マタハラとなります。
妊娠・出産するのは女性労働者のみですが、育児休業等を申請・取得した男性労働者もハラスメントの被害者になる場合があります。これが、最近言葉を耳にするようになった「パタハラ」です。
すなわち、「男性」が育児休業等を取得しようとしたときや実際取得した後に、上司や同僚が嫌がらせをしたり、使用者(企業)が不利益な取扱いをしたりすると、パタハラとなります。育児休業取得後、企業から出向や転勤を命じられたというような報道もあり、近年「パタハラ」という言葉は広く社会に知られつつあります。
また、「逆マタハラ」という言葉を耳にするケースもあります。逆マタハラとは、妊婦の側が「マタハラ」を盾にして自分勝手に振る舞うことです。
たとえば、妊娠中や育児中の女性がその立場を最大限に利用し、妊娠中や育児中は周囲からフォローしてもらって当然と考え、周囲に負担をかけても平気で感謝の気持ちも持たず自分勝手に振る舞い、注意されると「マタハラを受けた!」と騒ぎたてるようなことです。
近年はTwitterなどのSNSで誰でも簡単に情報を発信できるため、「○○という会社からマタハラを受けた!」「夫が勤めている会社からパタハラを受け解雇された」などの情報が広まると、企業の社会的評価を急激に低下させてしてしまう事態にもなりかねないため、「パタハラ」や「逆マタハラ」を含む「マタハラ」対策は、企業にとって非常に重要な課題となっています。
問題社員のトラブルから、
マタハラは法律によって禁止されており、企業にはマタハラ対策が求められています。
以下でマタハラを規制する各種の法律をご紹介します。
労働基準法では、企業は、妊娠中や産後の女性労働者から請求があった場合、時間外労働、休日労働、深夜労働をさせてはならないと定めています(66条)。
また、企業は、妊娠中の女性労働者から請求があった場合、他の軽微な業務に変更しなければなりません(65条3項)。
男女雇用機会均等法では、企業は、職場において、女性労働者の妊娠・出産及び育児休業等の取得に関する上司や同僚の言動により、当該女性労働者の就業環境が害されないよう、当該女性労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備やその他の雇用管理上必要な措置を講じなければならないと定めています(11条の2)。
また、企業が、女性労働者が妊娠や出産、産休等を取得したことなどを理由として、解雇その他不利益な取扱いをすることは禁止されており、妊娠を理由とした解雇は無効となります。
(※)「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」の略
育児介護休業法でも、企業は、労働者の育児休業や介護休業等の取得に関する上司や同僚の言動により、当該労働者の就業環境が害されないよう適切な措置をとらねばならないと定めています(25条)。
また、企業が、労働者が育児休業を申請・取得等したことを理由に、解雇その他不利益な取扱いをしてはならないとも規定されています(10条)。
(※)「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」の略
以上のように、各種の法律がマタハラを禁止し企業にマタハラ防止措置を講じることを義務付けていることからも、企業としてはマタハラ対策をしなければならないのです。
以下では実際に起こったマタハラのトラブル事例をご紹介します。
社内で起こりやすいマタハラの事例をご紹介します。
2002年3月13日大阪地裁堺支部
幼稚園の教諭の女性労働者が妊娠し、切迫流産等の診断により入院の必要性があることを園長に伝えたところ、園長から、中絶するよう暗に迫られ、「無責任」と非難されたり、育児休業中の代替教員の採用は難しいなどと退職を勧められたりするなどして、解雇に追い込まれた事案です。
当該労働者は、解雇は無効であるとして未払賃金の請求を行うとともに、幼稚園及び園長に対して慰謝料の支払いを求めて裁判を起こしました。
裁判所は、解雇権の濫用として解雇無効を認め、未払賃金の支払いを命じるとともに、当該園及び園長の行った言動はマタハラであることを認め、慰謝料の支払いを命じました。
2018年9月11日東京地裁
正社員(週5日、1日7時間勤務)の女性労働者が、育児休業終了時点で子を入れる保育園が決まっていなかったため、1年更新の契約社員(週3日又は4日勤務)として復帰しました。復帰前の就業形態説明文書には、「契約社員は、本人が希望する場合は正社員への契約再変更が前提です」等の記載がされていました。
当該労働者が就労を開始した後、子を入れる保育園が見つかったとして、正社員に戻すよう企業に求めましたが、企業は現段階では考えていないとしてこれを拒否しました。その後も当該労働者は繰り返し正社員への復帰を求めましたが、企業は復帰時期について明言せずこれを拒否しました。こうしたやり取りが続いていた中、企業は当該労働者に対して自宅待機を命じ、期間満了により雇用契約終了するとの雇止めを行いました。
裁判所は、本件雇止めは無効として、未払い給与の支払いを命じるとともに、正社員への復帰を求める労働者に対して、労働者を正社員に復帰させる時期や条件等について具体的かつ合理的な説明を行わなかったことについて、信義則上の義務違反が認められるとして、慰謝料100万円と弁護士費用の10万円、合計110万円の支払いも命じました。
判決文の中で、会社側の不誠実な対応はいずれも当該女性労働者が幼年の子を養育していることを原因とするものとして、マタハラを認定しました。
2014年10月23日最高裁第一小法廷
妊娠した女性労働者が軽易な業務への転換を希望したところ、管理職から非管理職に降格させられ、育児休業期間が終了しても職位を戻してもらえなかったことが、男女雇用機会均等法9条3項に違反しているとして、この降格措置は無効であると争った事案です。この訴訟は、マタハラに対する初の最高裁判決として注目されました。
この点、原審では、当該降格措置が男女雇用機会均等法9条3項の禁止する取扱いに当たらないと判断しました。
ところが、最高裁では、女性の業務負担が減ったのは明らかではない一方、当該女性労働者にとっては管理職から非管理職に降格させられ、これによって生じた管理職の地位や手当の喪失は重大であるとしました。
また、育児休業後も管理職に復帰していないことから、管理職への降格は妊娠による軽い業務への一時的な措置ではないとして、当該降格措置が男女雇用機会均等法9条3項の禁止する取扱いに当たらないと判断した原審の判断には、審理不尽の結果、法令の解釈適用を誤った違法があるとして、原審に差し戻しました。
法律は企業にマタハラ対策を求めていますが、企業とすれば具体的にどのような対策をすれば良いのでしょうか?
厚生労働省は、企業がマタハラについて相談を受けた場合、次のように対応することを指針として定めています。
マタハラを理由に企業が訴えられた場合、まずは本当にマタハラの事実があったといえるのか、先にご紹介したような調査を行い、事実関係を確認すべきです。
調査の結果、マタハラに該当しないとの判断に至った場合、労働者の請求には理由がないので、企業としては争わなければなりません。そのためには、マタハラはなかったという証拠を集める必要があります。
一方、調査の結果、実際にマタハラがあったとの判断に至った場合には、相手の請求内容、すなわち慰謝料請求やその金額がどこまで妥当かを検討することが必要です。
和解や裁判について検討を進めるにあたっては、過去の同種事例や裁判例に精通している弁護士に早急に相談し、対応を依頼すべきです。そうすることにより、企業にとって不利な解決を防止することができます。
このように、マタハラ関係でトラブルになってしまった場合の事後的な対応も重要ですが、企業が社会的信用を得ながら効率的に事業運営を行っていくには、問題が起きる前に問題が起きないような対策を講じておく「予防法務」も大変重要です。
マタハラ対策として企業が雇用管理上講ずべき措置について、厚生労働大臣の指針に定められており、企業としては次のような措置を講じる必要があります。
とはいえ、自社のマタハラ対策を具体的に進めようとすると、「どこまで社内規程や体制を整えればいいのか」「労働者からマタハラだと訴えがあったが、本当にマタハラにあたるのか」などと、悩まれる企業様も多くいらっしゃいます。
そこで、そのような場合には、労働問題に詳しい弁護士に相談すると良いでしょう。
弁護士に相談すると、以下のようなサポートを受けられます。
労働者がマタハラ被害を主張してきたとき、過去の同種事例や裁判例に精通している弁護士であれば、マタハラに該当するのか法的な観点から適切に判断できます。
企業が男女雇用機会均等法や育児介護休業法に従ってマタハラ防止措置の対策をとろうとするとき、自社だけではどうすれば良いかわからないケースも多々あります。
弁護士に相談すれば、具体的にどういった制度を構築すれば良いのかアドバイスを受けられますし、就業規則等の作成や改定なども依頼できます。
労働者からマタハラを主張されてトラブルとなり、訴えられたケースでも、弁護士に依頼すれば労働者側との交渉や訴訟を任せられるので安心です。
マタハラ対策などの労務管理関係の相談をするときには、必ず労働問題に詳しい弁護士を選びましょう。
普段から労働問題に取り組んでいる弁護士であれば、法改正などにも迅速に対応し、企業に対して有効な対策方法をアドバイスできますし、トラブルを予防することが可能となります。
問題社員のトラブルから、
近年では、法改正や法整備により、マタハラやパワハラなどのハラスメントへの規制がどんどん強化されています。適切にハラスメント行為の内容を理解して対策するには正しい法的知識が必須です。
ベリーベスト法律事務所では、ハラスメント防止をはじめとする労働問題対策に積極的に取り組んでいます。
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