企業法務コラム
政府が推進する「働き方改革」の一環でもある、「同一労働同一賃金」の実施が迫っています。
日本では、これまでも労働基準法や男女雇用機会均等法など各種の労働法規によって、さまざまな差別の禁止や均衡待遇を推進してきました。そして、同一労働同一賃金に関する各種の法改正により、特に正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間における「不合理な待遇差の禁止」が明確化されることになります。
これにより、多くの企業が同一労働同一賃金の実現に向けた対策に迫られることになります。特に多様な雇用形態を有する企業は、パートやアルバイトなど非正規雇用の労働者から正規雇用の労働者との待遇格差についての説明を求められた場合の対策、さらには人事制度の改定などの対策も必要になると考えられます。
このような同一労働同一賃金の実現に向けて企業は何を対策すべきなのか、ベリーベスト法律事務所の弁護士がご説明します。
同一労働同一賃金とは、同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。
この実現は、令和2年4月から企業に対して法律で義務付けられるようになります。
このため、現在の日本では主に契約社員やアルバイトなどの非正規雇用労働者と、正社員など正規雇用労働者との間における、不合理な待遇格差をなくすための対策を講じる動きが広がっています。
この不合理な待遇格差の禁止によって、正規雇用労働者と非正規雇用労働者に違いがあるのであれば違いに応じた待遇をし、待遇差が不合理であってはならないこと(均衡待遇)と、正規雇用労働者と非正規雇用労働者に違いがないのであれば差別的な取扱いをしてはならないこと(均等待遇)が求められるようになりました。
もっとも、同一労働同一賃金の原則は、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との不合理な差別待遇を禁止するものであり、同一の労働には同一の賃金を支払わなければならないというわけでは必ずしもありません。
同一労働同一賃金の法制化は、平成28年に第3次安倍内閣が閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」に初めて明記されました。
これは、顕在化しつつある急速な少子高齢化の進展や、非正規雇用労働者の増大という社会問題への対策の一環です。そのなかでも、同一労働同一賃金は政府が掲げる「働き方改革実行計画」の主要テーマのひとつとして位置づけられています。
また、戦後間もない昭和21年の時点で、すでに国際労働機関(ILO)憲章では「同一価値の労働に対する同一報酬の原則の承認」を掲げており、昭和23年に採択された世界人権宣言でも「すべての人は、いかなる差別をも受けることなく、同等の勤労に対し、同等の報酬を受ける権利を有する」と規定されています。
つまり、同一労働同一賃金は70年以上も前から世界の標準でもあり、すでにアメリカやヨーロッパなどの先進国では法律で同一の労働を行う労働者の間に賃金格差を設けることを禁止しているのです。
ところが、日本の企業や役所は、これまで正規雇用労働者の新卒一括採用と年功序列社会を重視してきました。このような文化の下では当該企業での就業年数と待遇が比例するため、ILO憲章や世界人権宣言にも規定された同一労働同一賃金は必ずしも積極的に受け入れられているものではありませんでした。
しかし、少子高齢化の進展による労働力の不足は、今後の日本の経済・社会基盤の持続可能性すら危うくしつつあります。この対策として、ILO憲章や世界人権宣言により世界では標準とされている同一労働同一賃金を法制化することで、優秀な外国人労働者等の受け入れを促進しようという狙いもあるのです。
世界的には業務に基づいて賃金が決まる職務給が主流となっており、日本のように勤続年数に基づいて賃金が決まる職能給は一般的ではありません。外国人の雇用を増やすためには、外国人にとっても納得しやすい賃金制度にする必要があります。
労働力が不足している中で優秀な外国人が日本で働く意欲を高めるためには、同一労働同一賃金の考え方に基づいて、同一の労働を行っている労働者間の不合理な待遇差をなくすことが必要だと考えられます。
① メリット
同一労働同一賃金が実現化することは、企業にとって優秀な労働者の確保による人手不足の解消や非正規雇用労働者の労働意欲と能力の向上による生産性拡大、非正規雇用の労働者にとっては福利厚生や各種手当てを含めた待遇の改善というメリットがあります。
② デメリット
ただし、同一労働同一賃金の実現化はメリットばかりではありません。
企業には人件費の高騰が企業経営を圧迫しかねないこと、それにより特に既存の正規雇用労働者には賃金の減少やリストラなどの懸念が生じ得るというデメリットもあるのです。
同一労働同一賃金の対策は、このようなメリットとデメリットも踏まえながら講じる必要があります。
問題社員のトラブルから、
同一労働同一賃金ガイドラインの正式名称は「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」といい、厚生労働大臣により平成30年12月28日に告示されています。
同一労働同一賃金ガイドラインは、同一労働同一賃金の実現に向けた企業のマニュアルというべきものであり、企業が遵守しなければならない事項および対策について、ケーススタディなども交えながら詳細に記載されています。
同一労働同一賃金は、基本的にすべての雇用形態の労働者が対象になります。
派遣労働者についても、基本的に派遣先の労働者の待遇と差が出ないように対策することを要請しています。
では、正規雇用労働者と有期契約から無期転換した労働者との待遇差については、同一労働同一賃金の対象になるのでしょうか。
労働契約法第18条では、別段の定めがある場合を除き、無期転換当時の有期雇用契約と同一の労働条件が無期転換後も引き継がれる旨が定められています。
したがって、有期雇用契約当時の労働条件に正規雇用労働者との待遇差がある場合に、同一労働同一賃金の対象となるかが問題となります。
この点、前述のとおり、同一労働同一賃金とは、正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。
したがって、無期である正規雇用労働者と無期転換した労働者の待遇差は、直接は規制の範疇ではありません。
また、無期転換制度自体、非正規雇用労働者の待遇改善に向けた対策として設けられたものですので、無期転換した労働者と正規雇用労働者との間でさらに同一労働同一賃金を適用(または類推適用)することまでは想定外とも考えられます。
しかしながら、無期転換した労働者と正規雇用労働者と労働条件の相違は、無期転換前の有期雇用契約当時からの待遇差であるのが通常であるため、無期転換後に、無期転換前からの待遇差について同一労働同一賃金の対象になるとして争われる可能性は十分あります。
したがいまして、「無期転換した労働者は有期雇用労働者ではないから、同一労働同一賃金の適用(または類推適用)はない」と短絡的に考えるのではなく、無期転換した労働者と正規雇用労働者との間でも待遇差が生じないように対策を講じるべきです。
同一労働同一賃金ガイドラインの趣旨は、非正規雇用労働者に対し、正規雇用労働者と比較して不合理な労働条件・待遇差を設けることの禁止にあります。
雇用者は、正規雇用労働者・非正規雇用労働者を問わず、従事している職務や責任範囲に応じた合理的な待遇をすることという言い方も可能でしょう。
これは月次の定例給与だけではなく、労働者の貢献度に応じて支払われる性質の賞与(ボーナス)や福利厚生などの待遇についても同様と定められています。
同一労働同一賃金ガイドラインのポイントは、ここでいう「不合理」の判断基準とは何かということを押さえ、対策を講じることです。
同ガイドラインによれば、賃金の決定基準・ルールの相違は、職務の内容、職務の内容・配置の変更範囲、その他の事情に照らして、客観的具体的な実態に照らして不合理なものであってはならないとされています。
たとえば、全雇用期間を通じて職務内容と責任範囲、配置変更などの条件が同一であるにもかかわらず、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間に待遇差がある場合は、「不合理」といえるでしょう。
問題社員のトラブルから、
同一労働同一賃金は、「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律」に規定されています。
これに基づき、
同一労働同一賃金の実現化にともない、今後、非正規雇用労働者から正規雇用労働者との待遇差などについて説明が求められた場合、企業はそれに応じなければならないこともあります。
たとえば、事業主には、パートタイム・有期雇用労働者への説明義務が課せられることになります(パートタイム・有期雇用労働法14条2項)。説明すべき内容はパートタイム・有期雇用労働者と正規雇用労働者の待遇の相違の内容やその理由及び各種措置に関する事項を決定するに当たって考慮した事項です。
また、パートタイム・有期雇用労働者がこれらの説明を求めてきたことを理由として解雇などの不利益な取扱いをすることも禁止されます。
非正規・正規を問わず、労働者に対し待遇差について納得のいく説明をするための対策として、まずは、正規雇用労働者よび非正規雇用労働者がそれぞれどのような職務内容でどの程度の責任範囲の仕事をしているのか、現状を把握する必要があります。
この現状把握により、待遇差についての説明を求められたとしても「職務内容と責任範囲の違い」を根拠に合理的な説明が可能になります。
また、現状把握の結果、本来正規雇用労働者が行うべき職務を非正規雇用労働者が担当している、あるいは逆のパターンが分かった場合は、同一労働同一賃金の対策の一環として担当職務や賃金などを見直す契機にもなるでしょう。
続いて、現状把握の結果を踏まえながら、同一労働同一賃金に関する法令や趣旨から逸脱しない人事制度を構築しておく必要があります。
具体的には、全労働者に対する職務評価基準および待遇に関する見直しが主要なポイントになるでしょう。また、これにともない就業規則や雇用契約書の見直しも必要になるケースも考えられます。
新しい人事制度を構築したあとは、研修会などを通じて全労働者に対し十分な説明を行う必要があります。
新しい人事制度の周知と定着を徹底することで、同一労働同一賃金に関する各種法令に則した人事運営が可能になり、企業として法的リスクへの対策にもなるのです。
同一労働同一賃金に関する法令がどのように改正されたのかを把握することももちろん重要です。前述した説明義務以外にも、たとえば、改正前のパートタイム労働法では、差別的取扱いの禁止規定は短時間労働者のみを対象としていましたが、改正後のパートタイム・有期雇用労働法ではフルタイムの有期雇用労働者も対象とされることになりました。
改正前の労働契約法には有期雇用労働者に対する不合理な差別が禁止され、均衡待遇の規定は設けられていましたが、法改正によって、職務内容や職務内容・配置の変更範囲が同じ場合には正規雇用労働者の賃金等について差別的取り扱いをすることも禁止されるようになり、均等待遇の規定も設けられるようになりました。
また、同様の規定は派遣労働者に対しても設けられることになりました。
問題社員のトラブルから、
同一労働同一賃金の趣旨である非正規雇用労働者の待遇改善を行う企業は、所定の条件を満たすことを前提に「キャリアアップ助成金」の受給が可能です。
同一労働同一賃金の対策について、企業はいろいろと判断や解釈に迷うところがあるかと思います。これについて、厚生労働省は全国の都道府県にある「働き方改革支援センター」に、無料の相談窓口を設けています。
また、同一労働同一賃金については、弁護士と相談しながら対策を講じていくことをおすすめします。
労働関連の制度についても豊富な知見をもつ弁護士であれば、同一労働同一賃金の趣旨に即した就業規則の改定など企業の法的リスクを最小化するアドバイスに限らず、トラブル発生時に企業の代理人としての役割を担うことができます。
当然ながら、法的アドバイスにとどまらず、各企業の個別事情を踏まえながら対策を講じていくことも可能です。
問題社員のトラブルから、
労働関連の法令や制度は頻繁に改正などが行われ、年々複雑化しています。
ただでさえ本業が人手不足のなか、人事担当者とって、これらの改正・新制度をタイムリーにキャッチアップし対策を講じることは、決して容易なことではないと思われます。
そのようなお悩みをお持ちの方にとって、弁護士は心強いパートナーになります。
また、ベリーベスト法律事務所ではワンストップで対応可能な顧問弁護士サービスを提供しています。もちろん、同一労働同一賃金に限らず、幅広い範囲でご対応が可能です。
同一労働同一賃金など労働関連のご相談は、ぜひベリーベスト法律事務所までお気軽にご依頼ください。あなたの会社のために、ベストを尽くします。
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