企業法務コラム
服務規律とは、会社の秩序を守るために従業員が守るべきルールです。服務規律の作成は、法律上の義務ではありません。
しかし、服務規律を定めておくことでコンプライアンス意識の向上やトラブルの防止などのメリットがありますので、まだ服務規律を作成していないという企業は、早めに対応した方がよいでしょう。
今回は、服務規律の作成時のポイントや運用時の注意点などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
服務規律とは、会社の秩序を守るために従業員が守るべきルールです。
会社という組織で働く者として、とるべき行動やあるべき姿を定めた行動規範ともいえます。
服務規律の作成は、法律上義務付けられているものではありません。
しかし、服務規律を作成することによって、
・労働者のコンプライアンス意識の向上
・トラブルの防止
などのメリットがありますので、特別な事情がない限りは作成しておいた方がよいものといえるでしょう。
問題社員のトラブルから、
服務規律を作成することによって、以下のようなメリットが得られます。
パワハラやセクハラだけでなく、SNSでの不適切な発信など労働者によるコンプライアンス違反行為が後を絶ちません。
コンプライアンス違反があるとSNSなどで、すぐに拡散されてしまいますので、企業の信頼性を大きく失墜させる事態にもなりかねません。
このようなコンプライアンス違反を予防するためには、労働者のコンプライアンス意識を向上させることが必要です。
服務規律は、労働者が守るべき最低限のルールを定めたものになりますので、その内容を周知・徹底させれば、労働者によるコンプライアンス違反を防ぐことができます。
服務規律で定める内容としては、以下のようなものが挙げられます。
このようなルールは、労働者が守るべき最低限のルールですので、多くの労働者は当たり前のこととして認識しているかもしれません。
しかし、労働者によって社内のルールの認識にズレがあるのは好ましいことでなく、それぞれ別々のルールで行動してしまうと、社内で混乱が生じてしまいます。
そのような事態を防止するために、会社としては服務規律により、労働者に一律に適用されるルールを定めておくことが大切です。
服務規律は、企業秩序の維持という面でも重要な役割を担っているといえるでしょう。
服務規律を作成したとしても、すべてのトラブルを回避できるわけではありません。
しかし、服務規律があればトラブルへの適切な対応が可能になります。
たとえば、就業規則において服務規律違反を懲戒事由と定めておけば、服務規律違反によりトラブルを起こした労働者に対して、懲戒処分による制裁を与えることが可能です。
服務規律は、就業規則とは異なり、義務的ではないものの、労働者全員に適用するルールとして会社が定めていくものになります。
服務規律で規定すべき事項としては、以下のものが挙げられます。
労働者の勤務中の義務として、職務専念義務を定めます。
場合によっては、1時間ではない短時間の休憩についても、定めることもあるでしょう。
セクハラやパワハラなどのハラスメント行為により、職場の秩序を乱してはならない旨を定めます。
企業にはさまざまなハラスメントから労働者を守ることが義務付けられていますので、セクハラやパワハラに限らず、あらゆるハラスメントを禁止する内容を盛り込んでおくとよいでしょう。
衣服・髪型・化粧・爪・アクセサリーなどの身だしなみに関するルールを定めます。
どの程度の規制を設けるかは、業種によって異なりますが、接客業などでは客に不快感を与えないような身だしなみを義務付ける必要があります。
社内施設の利用に関するルールとして、私的使用の禁止、使用時の許可、使用目的の制限などを定めます。
また、会社から労働者にパソコンなどの備品を貸与する場合には、備品の利用や持ち出しに関するルールを定めます。
遅刻、早退、欠勤に関するルールを定めます。
一般的には、遅刻・早退・欠勤をする際には、事前に会社の許可を得ること、遅刻・早退・欠勤による不就労は、賃金控除の対象になることが定められます。
企業の扱う秘密の漏洩を防止するために秘密保持に関する事項を定めます。
在職中だけでなく、退職後も含めた秘密保持義務が課されるのが一般的です。
個人情報の漏洩は、重大なコンプライアンス違反になりますので、そのような事態を防止するために個人情報の保護に関する事項を定めます。
労働者には、職業選択の自由が保障されていますし、労働時間外で何をするかは基本自由ので、副業を一切禁止する規定は、法的に無効ともなりかねません。
副業を容認する場合について、本業への支障を少なくするためにも、事前申請や会社の許可に関する手続きを定めておくとよいでしょう。
近年、労働者によるSNSでの投稿内容がコンプライアンス違反になるケースも増えてきています。
SNSの適切な利用を促すためにも、特に会社の名前や事業に関わるようなSNSの利用に関するルールを定めておくとよいでしょう。
服務規律は、就業規則の一部として作成するのが一般的です。
そのため、服務規律の作成・変更は、就業規則の変更手続きに準じて行う必要があります。
具体的には、以下のような手順で服務規律の作成を行いましょう。
就業規則を変更する際には、意見書の作成・添付が義務付けられています。
意見書は、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合が作成し、労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する人の意見を聞いて作成します。
就業規則の変更をするためには、労働基準監督署に就業規則変更届を提出しなければなりません。様式については、労働基準監督署のホームページからダウンロードできますので、それを利用するとよいでしょう。
所轄の労働基準監督署に就業規則変更届、意見書、変更後の就業規則を提出します。
提出方法は、窓口で直接提出する方法以外にも郵送での提出も可能です。
服務規律の作成・運用にあたっては、以下の点に注意が必要です。
服務規律の作成・変更により就業規則の変更を行った場合、労働者にその旨を周知することが義務付けられています(労働基準法106条)。
労働基準監督署に届け出を行っても、労働者への周知を怠ると、服務規律の効果が無効となるリスクがありますので、しっかりと周知の手続きするようにしましょう。
服務規律の作成・変更により労働者に不利益が生じる場合には、原則として、労働者の同意を得る必要があります。
ただし、変更内容や理由が合理的なものであり、その内容が労働者に周知されるのであれば、労働者の同意がなかったとしても、就業規則の変更を行うことができる場合もあります(労働契約法10条)。
労働者に服務規律違反があった場合、そのことを理由に懲戒処分をすることができるのでしょうか。
企業が労働者に対して懲戒処分を行うためには、就業規則において、懲戒事由と懲戒処分の種類が定められていることが必要です。
服務規律違反を理由に懲戒処分をするためには、その前提として、服務規律違反が懲戒事由として定められていなければなりません。
そのため、服務規律違反が懲戒事由として定められているのであれば、懲戒処分を行うことができます。
懲戒処分には、以下のような種類があります。
懲戒事由に該当するからといって、企業はどのような処分でも自由に選択できるわけではありません。
服務規律違反の内容に応じて相当な処分を選択しなければ、懲戒権の濫用として無効になるおそれがあります。
どのような処分が適切であるかは、社内での過去の事例や裁判例なども検討しながら判断する必要がありますので、実際に服務規程違反の労働者が出たときの対応は、弁護士に相談した方がよいでしょう。
社内規定・体制の整備に関するご相談は、弁護士にお任せください。
企業は、労働者を雇って事業活動を行っていますので、人事労務の問題は避けて通ることができません。
解雇の有効性、未払い残業代請求、ハラスメントを理由とした損害賠償請求、懲戒処分の有効性など、さまざまな場面で紛争に発展する可能性があります。
このような紛争を最小限に抑えるためには、紛争化のリスクを踏まえた社内規定の整備が必要です。
弁護士であれば、紛争回避のためのポイントを押さえた適切な社内規定の整備が可能ですので、労働者とのトラブルの発生を最小限に抑えることができます。
就業規則、服務規律などの社内規定などは、一度作成すればそれで終わりというわけではなく、法改正や社会の動向に応じて定期的に見直しを行っていかなければなりません。
このような継続的な対応に関しては、単発の依頼ではなく顧問弁護士を利用するとよいでしょう。
顧問弁護士であれば、企業から日常的に相談を受け、企業の実情をよく把握していますので、社内規定が実情に見合わない状況になっていれば、規定の見直しを提案してくれます。
まだ顧問弁護士を利用していないという企業は、服務規律の作成のタイミングで顧問弁護士の利用を検討してみるとよいでしょう。
問題社員のトラブルから、
服務規律の作成は、法律上の義務ではありませんが、服務規律を作成することによりさまざまなメリットが得られます。
そのため、まだ服務規律の整備ができていないという企業は、早めに作成にとりかかるようにしましょう。
服務規律の作成にあたって、就業規則の不利益変更が生じる場合には、無効にならないようにするために法的側面から内容のチェックが必要になります。
また、今後定期的な見直しを行っていくためには顧問弁護士によるサポートが必要です。
適切な服務規律を作成するためにも、まずはベリーベスト法律事務所までご相談ください。
多くの企業では、労働者の採用時に試用期間を設けています。試用期間は、企業が労働者の能力・適性を見極めるための期間ですが、元々の期間だけでは本採用をするかどうか判断できないこともあります。そのような場…
労働基準法は、労働条件に関する最低限の基準を定めた法律です。労働者を雇用する企業としては、労働基準法が定めるさまざまなルールをしっかりと押さえておかなければ、罰則などのペナルティーを受けるおそれがあ…
会社には、人事権があります。そのため、従業員の配置転換や昇格・降格などの人事を自由に行うことが可能です。しかし、気に入らない従業員がいるからといって、正当な理由もないのに配置転換や降格などを行うと、…
お問い合わせ・資料請求