企業法務コラム
「働き方改革」が進む中、会社には有給休暇を取得しやすい環境作りが求められています。しかしながら、業務が忙しく依然として有給休暇が消化できないとの声も聞かれます。
そのような状況において、退職予定者から有給休暇の取得あるいは買い取りの申し出があった場合、会社としてはどのように対応すればよいのでしょうか。
今回は、退職時に有給休暇の取得や買い取りの申し出があった場合に応ずる義務はあるのか、会社側がとるべき対応方法について解説したいと思います。
有給休暇とは、所定の休日以外に有給で休める休暇のことです。
労働基準法では、
と規定されています(第39条第1項)。
その後、最初の付与日を起算日として1年単位で、1日ずつ加算された有給休暇が付与されます(同条第2項)。
たとえば、2年目は11日、3年目は12日といった具合です。
6年6か月以上になると、20労働日分の有給休暇が付与されることになります。
もっとも、就業規則において労働基準法で定められた日数よりも多い日の有給休暇を付与することを定めている場合は、この限りではありません。
有給休暇の取得は、労働者の権利であって、会社に拒否権はありません。
労働者は自由に有給休暇の申請をすることができます。
ただし、繁忙期など、事業の正常な運営を妨げるような場合、他の日に変更してほしいと会社が労働者に申し出ることは許されています。これを「時季変更権」と言います。
時季変更権は、あくまで日時を変更するよう求めることができるだけで、「休まないでくれ」とは言えないということに注意してください。
有給休暇を拒否するようなことがあれば、労働基準監督署に通報されるおそれがあります。
また、有給休暇を申請・取得する際の休暇簿に、理由欄や上司の承認印があるものも見かけます。承認印については、形式的な確認として必要とする場合は問題ありませんが、有給休暇の取得について理由を述べる必要はなく、会社は理由を聞いてもいけないとされています。
ただし、複数の労働者が一斉に有給休暇を取得しようとしたため、会社が時季変更権を行使せざるを得ない場合や、理由によっては時季変更権行使を控えようという趣旨で理由を尋ねることは差し支えないとされています。
有給休暇が日ごろから取得しやすい会社であれば、退職時に多くの有給休暇が残っていることはないかもしれません。しかし、有給休暇が取得しにくい会社の場合、退職時に有給休暇を一気に消化したいと申し出られる場合があります。
有給休暇は労働者の権利なので、退職がきまっていたとしても基本的に有給休暇を与えなければならず、これを拒否することはできません。
問題社員のトラブルから、
退職する労働者に有給を取得させるにあたっては、次のような点に注意する必要があります。
退職が決まると、会社に対する気持ちが離れてしまい、引き継ぎが面倒に感じる労働者もいるでしょう。しかし、会社としてはしっかりと引き継ぎをしてもらわないと業務に支障をきたしてしまいます。
退職する労働者の気持ちにも配慮しながら引き継ぎのスケジュールを確認し、調整する必要があります。特に、有給消化を申し出ている場合には、早めに引き継ぎをスタートするなどの対応が必要になります。
ただ、1か月前に退職の申し出があり、有給休暇の残りが1か月以上あるような場合、極端な例ですが「有給休暇を消化するので明日から会社に来ない」と言われても、会社は拒否できません。その場合には、粘り強く引き継ぎをお願いするしかありません。
有給休暇期間中にボーナスの支払日が来る場合、支払う必要があるのかについては、就業規則などの規定によります。
たとえば、「5月30日時点で在籍している全職員に支給する」と規定されている場合には、5月30日に在籍していれば、実際のボーナス支給日に退職していたとしても支払わなければなりません。仮に、5月30日に有給休暇中であってもそれは変わりません。
有給休暇期間中であっても会社に在籍していることに変わりはないからです。
退職前に有給休暇を消化する場合、最終出社日の前に取得するのか、後に取得するのか確認する必要があります。
どちらも可能ですが、事前にしっかりと決めておくことが大切です。
有給休暇は、休みを取ることによって心身をリフレッシュさせることが目的なので、有給休暇をお金で買い取り、休みなしに働かせるということはできません。
これは、労働者から有給休暇の買い取りを求められた場合でも変わりはありません。有給を買い取ることは、労働基準法第39条の違反になります。
ただし、例外的に有給休暇の買い取りが認められるケースがあります。
それが、退職時の有給休暇の買い取りです。
また、時効となり消滅した分の有給や、法定の付与日数を上回る分の有給についても、同様に買い取りが認められています。
では、退職する労働者から有給休暇の買い取りの申し出あった場合、会社側は必ず買い取らなければいけないのでしょうか。
結論から言うと、会社に有給休暇の買い取り義務はありません。
会社に有給休暇を買い取る義務が生じるのは、退職時の有給休暇の買い取りが就業規則などに義務として規定されている場合です。
この場合には、就業規則に従い有給休暇を買い取る必要があります。
なお、「有給休暇を買い取ることができる」という規定の場合には、あくまで会社の任意になります。
また、就業規則に有給休暇の買い取りについて規定がなくても、会社と労働者が合意できれば、有給休暇を買い取ることは可能です。
有給休暇を買い取る場合、その金額は原則として1日あたりの賃金になります。
ただし、就業規則に「1日あたり金○○○○円」というように定額で定めることも可能です。
退職までの有給休暇中、労働者は出社しないものの在籍はしているので、会社は社会保険料の負担をしなくてはなりません。ただし、有給休暇を買い取ることで退職日を早めることができれば、社会保険料を支払う期間を短縮することができます。
たとえば、1か月の営業日が22日あったとします。22日分の有給休暇を買い取れば、1か月早く退職となり、1か月分の社会保険料を支払う必要がなくなります。
普段から有給休暇が取りやすい環境であれば、労働者は積極的に有給休暇を取得するはずです。有給休暇を適切に消化できていれば、退職時にまとめて何十日も有給休暇を取るということはなくなります。
たとえば、最低でも月に1日は有給休暇を消化することを奨励したり、管理職が積極的に有給休暇を使ったりすることなどが有効です。
なお、働き方改革関連法の成立に伴い、2019年4月1日から、年5日の有給休暇を取得させることが義務となりました。
労働者がどうしても有給休暇を取らないという場合には、会社が時季を指定して休ませなければいけません。
就業規則に、退職時の業務の引き継ぎについて定めておけば、退職の申し出があった際、引き継ぎを依頼しやすくなります。
規定したからと言って有給休暇を消化できないとすることはできませんが、退職時期を延ばしてもらい引き継ぎが終わり次第有給を取得してもらう、有給を買い取るなどの相談もしやすくなるでしょう。
人手不足の世の中なので難しいことではありますが、業務を全て複数制にしておくこともリスクヘッジになるでしょう。
一方が辞めても残った担当者が業務を遂行できるので、たとえ引き継ぎがなかったとしても、業務を継続することができます。
引き継ぎもしないで辞めるということは、会社に何らかの不満があったと考えるのが妥当でしょう。そのような事態にならないように、日ごろから労働者とのコミュニケーションをしっかり取ることが大切です。
退職の兆候をつかんだり、不満を解消して退職を防止したりすることにも役立ちます。
問題社員のトラブルから、
今回は、退職時の有給休暇の取得や買い取りについて、解説してきました。
有給休暇は労働者の権利であり、会社は拒否することはできません。
日ごろから、有給休暇の取得を推奨し、退職の際に有給休暇の残日数が多くないようにしていれば、退職時の有給取得も大きな負担にならないでしょう。
併せて、就業規則に引き継ぎについて規定を定め、引き継ぎに支障がでないようにしておくことも有効な手立てと言えます。
ベリーベスト法律事務所では、労働者とのトラブルはもちろんのこと、社労士と連携して、会社のルール作りなどのアドバイスを行うことも可能です。
退職する労働者とトラブルになっている場合や、就業規則の改定などでお悩みの場合は、お気軽にご相談ください。
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