企業法務コラム

2020年05月19日
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遅刻が多い社員を解雇したい! 懲戒解雇はできる? 遅刻を繰り返す社員の対応方法

遅刻が多い社員を解雇したい! 懲戒解雇はできる? 遅刻を繰り返す社員の対応方法

社員の数が多くなると、遅刻を繰り返す社員や無断欠勤をする社員なども出てくることがあります。そのような社員を放置してしまうと、まじめに出社している社員から不満が出て、会社全体の士気が下がってしまうでしょう。

このような問題に対して、人事部の担当者としてどのように対応するのが適切なのか、悩まれる方も少なくありません。では、遅刻を繰り返すことを理由に社員を解雇することはできるのでしょうか。

今回は、遅刻や無断欠勤を繰り返す社員への正しい対応方法について、弁護士が解説いたします。

1、遅刻が多い社員に対して絶対してはいけないこと

  1. (1)原因を確認せずに突然解雇にする

    遅刻と言っても、単に時間にルーズなのか、やむを得ない事情で遅刻するのかでは大違いです。何度も注意したにも関わらず改善が見られない場合には、解雇するということも考えられますが、突然解雇することは避けるべきです。

    まずは、遅刻を繰り返す社員に何度も注意や指導を行って、改善の機会を与えることが重要になります。
    万が一不当解雇に当たるとして争われた場合でも、会社が何度も注意や指導をしているにも関わらず、改善されなかったという事実があれば、解雇の相当性が認められやすくなるからです。

    遅刻を繰り返す社員に対する処分について後々不当であると争われた場合に、会社が社員に改善の機会を与えたことを証明できるように、注意や指導は口頭だけでなく書面やメールなど証拠に残るような形でしておくことが望まれます。

  2. (2)全く何の対応も行わない

    社員が何度も遅刻したり、無断欠勤したりしているのに、会社が何も対応しないと、まじめに出社している社員からは不満が出ます。社内の規律も乱れ、他の社員も遅刻するようになるかもしれません。

    この他、何度も遅刻をする社員に会社が注意や指導をしないと、会社から怒られないことをいいことにさらに社員の遅刻がエスカレートする可能性もあります。
    また、会社から注意されないのだから、多少の遅刻は容認されていると社員に勝手な解釈をされる可能性があります。

  3. (3)一方的に叱責する

    社員が遅刻や欠勤した理由も聞かずに一方的に社員を叱責することは、パワハラと主張される可能性があります。
    上司からすると遅刻や欠勤によって業務に支障が出ることもあるので憤りを覚えるかもしれませんが、あくまで冷静に、どうして遅刻をしたのかについて理由を聞き、理由によっては注意、指導等の対処をすることが大切です。

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2、遅刻が多い社員に対する解雇処分は有効?

結論から言うと、遅刻が多い社員に対する解雇処分が有効と認められることはあります。

しかし、解雇が有効であると認められるためには、法律上の要件を備える必要があります。

具体的には、労働契約法において、以下の通り規定されています。

労働契約法第16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。


このように日本では解雇は簡単に有効であるとは認められません。
では、「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当である」とは、どのようなことなのでしょうか。

裁判で争われたケースを紹介します。

  1. (1)遅刻で解雇が認められた裁判例

    ■事件名
    東京海上火災保険事件(東京地判平12.07.28)

    ■事案の概要
    Xは通勤途上の負傷や私傷病等を理由に、平成4年11月以降4回の長期欠勤(4か月間、5か月間、1年間、6か月間)をはじめ約5年5か月のうち約2年4か月を欠勤し、また最後の長期欠勤の前2年間の出社日数のうち約4割が遅刻であったなど遅刻を常習的に繰り返していた。

    そこでYは、Xの所定労働日における大半の欠務、甚だしく多い遅刻・離席、また業務意欲・知識・能力の著しい低さがYの業務に多大の支障を与えていたものであり、労働協約および就業規則に規定される普通解雇事由「労働能率が甚だしく低く、会社の事務能率上支障があると認められたとき」に該当するとして、Xを解雇した。

    ■判決
    会社側 勝訴

    ■判決理由の要旨
    普通解雇事由の存否について、本判決は、Xには4回の長期欠勤を含め傷病欠勤が非常に多く、また出勤しても遅刻や離席が多く、出勤時の勤務実績についても、担当作業を指示どおりに遂行できず他の従業員が肩代わりをしたり、後始末のため時間を割くなど劣悪なものであり、Xの労働能率は甚だしく低くYの業務に支障を与えたことが認められるとして、普通解雇事由に該当するとしました。

    その上で、本件解雇の有効性について、本判決は、Xの勤務実績・勤務態度は上司らの指導によっても変わらず、労務提供の意欲がみられなかったものであるから、解雇の判断には客観的に合理的な理由があったとして、解雇権の濫用に当たらず有効なものであるとしました。

    ■判決のポイント
    本判決は、長期かつ複数回の欠勤の事実や勤務実績も劣悪であったことに加え、遅刻が多いことも理由に、解雇の有効性を認めました。
    遅刻が多いことは、解雇するにあたり客観的な合理的な理由を基礎づけるひとつの事情になり得るということがわかります。

  2. (2)遅刻で解雇が認められなかった裁判例

    ■事件名
    高知放送事件(最二小判昭52.01.31)

    ■事件の概要
    原告であるアナウンサーXは、2週間の間に2度、寝過ごしたため、午前6時からの定時ラジオニュースを放送できず、放送が10分間ないし5分間中断されることとなった。
    そこで、就業規則15条3項の「その他、前各号に準ずる程度のやむを得ない事由があるとき」との普通解雇事由を適用してXを普通解雇した。

    ■判決
    労働者側 勝訴

    ■判決理由
    Xの起こした放送事故はYの対外的信用を著しく失墜するものであるが、しかし他面、本件事故はXの過失によるもので悪意ないし故意によるものでないこと、先に起きてXを起こすことになっていたファックス担当者が2回とも寝過ごしており、事故発生につきXのみを責めるのは酷であること、放送の空白時間はさほど長時間とはいえないこと、Yは早朝ニュース放送の万全を期すべき措置を講じていないこと、Xはこれまで放送事故歴がなく平素の勤務成績も悪くないこと、ファックス担当者はけん責処分を受けたにすぎないこと、Yにおいて過去に放送事故を理由に解雇された例がないこと等の事実に鑑みると、Xに対し解雇をもってのぞむことはいささか過酷に過ぎ、合理性を欠くうらみなしとせず(注:合理性を欠くと言われても仕方がなく)、必ずしも社会的に相当なものとして是認することはできないと考えられる余地がある。
    従って、本件解雇を解雇権濫用とした原審の判断は正当である。

    ■判決のポイント
    この裁判例から、短期間に遅刻が繰り返された場合であっても、

    • 遅刻が悪意ないし故意によるものではないこと
    • 遅刻後の対応が適切であること
      (すぐに業務を開始するべく努力したこと、謝罪したこと等)
    • 遅刻の時間が短いこと
    • 同じく遅刻した他の従業員への処分と不均衡であること
    • 処分歴が無いこと、平素の勤務成績が悪くないこと

    等の事情が認められるような場合には、解雇が認められない可能性があるということがわかります。

3、遅刻が多い社員への正しい対応は?

  1. (1)遅刻の原因を確認する

    遅刻を繰り返す従業員の責任を追及するなら、まずはその原因について確認することが重要です。

    家族が病気であったり、本人が体調不良であるなど、やむを得ない事情による遅刻の可能性もあります。場合によっては「上司からパワハラを受けている」「職場でいじめに遭っている」など、職場環境等が原因で勤怠不良が続いている可能性もあります。

    病気や家庭の事情で遅刻が多いのであれば、残業をさせないようにする、医師への受診をすすめる、休職を命じるなどの対処を検討する必要があります。
    また、パワハラやいじめが遅刻の原因であれば、社内調査を行って職場環境を整えるなどの対処を講じる必要があります。

    遅刻の原因を確認して、ただ意欲が低い、規範意識が弱い等、当該社員に改善を求めるべき場合であれば、次のような手順を踏むことになります。

  2. (2)注意・指導を行う

    本人に帰責事由があって遅刻をしている場合、出退勤記録を基に注意・指導を行います。
    はじめの注意・指導は口頭でも構いませんが、それでも改善しない場合には、書面で改善を求める業務指示を行うようにします。

    これは、会社が当該社員を解雇する場合に、当該社員に対して再三注意・指導したが改善が見られなかったということを証明する証拠にするためです。

    また、書面で注意・指導などの業務指示を行う際、今後も改善されず遅刻が繰り返される場合には懲戒処分となる可能性があることを明記しておくとよいでしょう。

  3. (3)配置転換や降格処分を下す

    遅刻が原因で業務に支障を来している場合は、人事権を行使して、該当社員の配置を転換するなどの対処を検討する必要があります。

    就業規則の規定に従って、懲戒処分として降格を命じる場合もありますが、余程の事情がない限り、人事権を行使して配置転換や降格処分などの対応を行った方が、処分の不当性を争われるリスクを回避するためにもよいでしょう。

  4. (4)解雇には至らない懲戒処分

    口頭や書面にて、再三注意・指導したにも関わらず、改善されず遅刻を繰り返すという場合、懲戒処分を行うことになります。
    懲戒処分を行う場合、就業規則の懲戒規定に該当している必要がありますので、どの事由に該当するのかを明確にする必要があります。

    遅刻の程度にもよりますが、初めての懲戒処分であれば、「戒告」や「けん責」といった軽い処分を行うことになります。
    それでも遅刻が改善されない場合には、さらに重い「減給」や「降格」などの処分を行うことになります。

  5. (5)退職勧奨

    再三の注意・指導、懲戒処分を行っても一向に遅刻が改善されない場合は、退職勧奨を行うことも検討します。双方で退職に合意することができれば、退職合意書を交わします。
    それでも折り合いがつかなければ、解雇をするのか考えることになります。

  6. (6)解雇

    それでもまだ遅刻が改善されなければ、解雇を検討します。
    なお、解雇には「普通解雇」と「懲戒解雇」があります。その内容は就業規則によって定められますが、遅刻であれば懲戒解雇ではなく普通解雇が行われることが一般的です。

    懲戒解雇の場合、就業規則上の懲戒解雇事由該当性の判断や懲戒解雇の相当性の判断が厳しく行われ、無効と判断される可能性が高いためです。

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4、まとめ

今回は、遅刻を繰り返す社員を解雇できるかについて見てきました。解雇は労働者にとって生活基盤を失うことになるので、簡単に認められるものではありません。

しかし、だからと言って遅刻を繰り返す社員を放置してよいということではありません。会社としては、注意・指導を粘り強く繰り返し、まずは遅刻させないよう努力することが求められます。それでも、改善されなければ、解雇には至らない懲戒処分、最終的には解雇という選択も検討が必要になってきます。

社員との交渉も含め、労働問題はこじれると時間が掛かるので、早い時点で弁護士に相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所では、労働法に関する相談も積極的に受けておりますので、お困りの際はお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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