企業法務コラム

2020年07月08日
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従業員の横領が発覚! 適切な対応や解雇・損害賠償請求について解説

従業員の横領が発覚! 適切な対応や解雇・損害賠償請求について解説

ある従業員について横領の疑いがあると相談された人事部は、どう対応すればいいのでしょうか。そもそも横領とはなにか、どのような処分をすべきか、責任を追及する方法など、対応のポイントは多岐にわたります。

横領は、企業に対する裏切り行為になるだけでなく、社会的に大きな事件や問題に発展してしまうケースもあります。
たとえば金融機関や宅地建物取引業者などが横領をした場合、業務停止の処分を受ける可能性もあるため、極めて慎重な対応が求められるでしょう。
つまり、横領が発覚した場合に適正に対処することは、企業にとって非常に重要なテーマといえます。

そこで今回は、従業員の横領が発覚した場合にどう対応すべきかについて、懲戒解雇や損害賠償請求のポイントも含め、弁護士が解説していきます。

1、横領の定義と、よくある横領のケース

そもそも横領とはどんな行為を指すのか、横領の定義とよくあるケースについてご紹介します。

  1. (1)横領の種類と定義

    横領とは、簡単に言えば、他人の占有に属さない他人の物を、不法に自分のものにすることです。
    刑法に規定されている横領の種類には単純横領罪、遺失物等横領罪、業務上横領罪の3つがあります。

    ①単純横領罪(刑法第252条)
    委託を受けて占有する他人の物を横領した場合に成立する犯罪です。
    友人から借りた本やDVDを無断で売却するなどです。
    単純横領罪は5年以下の懲役が科せられます。

    ②業務上横領罪(刑法第253条)
    業務として委託を受けて占有する他人の物を横領した場合に成立する犯罪です。
    業務上横領罪は10年以下の懲役が科せられます。

    業務上横領罪における「業務」とは、委託を受けて物を管理することを内容とする事務を意味します。つまり、企業の経理業務や売上金の管理などはまさに業務上横領罪の業務に該当する行為といえます。

    ③遺失物等横領罪(刑法第254条)
    遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した場合に成立する犯罪です。
    路上に落ちている財布を自分のものにする、放置自転車に乗って帰ってしまう、などです。遺失物等横領罪は1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料が科せられます。科料とは1万円未満の財産刑のことです。

  2. (2)よくある業務上横領のケース

    企業における主な横領とは、業務上横領罪です。
    以下より、よくある業務上横領のケースはどのようなものがあるか見ていきましょう。

    • 経理業務などで金銭の管理を任されている従業員が、預かっている金銭を着服する
    • 商品代金などの集金業務を担当している従業員が企業には未収金として報告し、集金した金銭を横領する
    • 売上金の管理などを担当する店長などが、企業には売り上げを過少申告して差額を着服する

    なお、コンビニなどで店長以外のお店のバイトスタッフがレジのお金をとる行為は、窃盗にあたります。
    横領は、企業から管理者として財産の管理監督を任されている人物が行う必要があるためです。

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2、業務上横領をした社員に対してできる、3つの責任追及

業務上横領をした社員に対してできる、3種類の責任追及の方法を解説します。

  1. (1)企業からの責任追及

    企業の規定である就業規則に基づいて責任を追及する方法を、懲戒処分といいます。
    横領に対する主な懲戒処分は、懲戒解雇や懲戒減給が一般的といえるでしょう。

    ①懲戒解雇とは
    就業規則に基づく懲戒処分として従業員を解雇することです。
    能力不足や病気などを理由とする普通解雇とは異なり、一種の制裁罰として行う解雇であり、業務上横領などの悪質な行為への処分として解雇されます。

    懲戒解雇の特徴
    • 30日前の解雇予告や解雇予告手当の支払いが不要な場合がある
    • 退職金が減額や不支給になる場合がある
    • 失業保険の給付日数が自己都合退職と同じ扱いになる

    などの特徴があります。

    懲戒免職とは?
    なお、懲戒解雇に似た言葉として懲戒免職がありますが、公務員が懲戒処分として仕事を辞めさせられた場合が、懲戒免職にあたります。

    ②懲戒減給とは
    就業規則に基づく懲戒処分として、従業員の給与を減少させることです。
    減給は労働者の生活に大きな影響を及ばすおそれがあることから、労働基準法第91条において、懲戒減給できる限度を規定しています。

    懲戒減給の限度
    • 1回の減給額が平均賃金の1日分の半額を超えないこと
    • 減給の総額が賃金の総額の10分の1を超えないこと
  2. (2)民事上の責任追及

    民事上の責任追及としてできうることは、従業員への損害賠償請求です。

    たとえば従業員が現金600万円を故意に横領した場合は、損害賠償として600万円を請求することが考えられます。
    しかし、従業員が横領した金額を一括で全額支払えるとは限りません。

    ①従業員の給料と相殺できる?
    その場合、従業員の給料と相殺したくなるかもしれませんが、給料は法律上全額を支払うものとされており(労働基準法24条1項)、給料と相殺するには従業員の同意が必要です。

    給料は、従業員の生活の基盤となるものであり、確実に全額を受領させて従業員の経済生活を脅かすことのないようにすべきであるから、会社側が労働者の同意なく相殺することを認めるべきでないという考え方が背景にあります。

    ②退職金を減額できる?
    また、会社としては、退職金を減額したいと思うこともあるかもしれませんが、退職金を減額するためには、横領が従業員の過去の功労を減殺してしまうほどの重大な行為と言える必要があります。

    同意なしで請求者が勝手に給料を相殺したりすることはできませんし、退職金の減額も簡単にはできないので注意しましょう。

    ③横領をした従業員との間に、書面を残しておこう
    また、後々トラブルにならないように、従業員の署名押印のある支払い誓約書などの書面を用意しておくことが重要です。

    記載内容としては、以下の3点が重要です。

    横領した従業員との間に書面に残すべき事項
    • 横領の事実を認めること
    • 横領した金額
    • 横領した金額を企業に返還すること


    ④支払い誓約書を公正証書にしておくことも有効
    支払誓約書を作成したとしても、従業員が退職した場合、後で支払いが滞る危険性があります。支払いが滞った場合に備えて、支払い誓約書を強制執行が可能な公正証書にしておくのも1つの方法です。

    従業員の返済能力や信頼性に疑問がある場合は、弁護士を介し適切な書類を作成することで、トラブル回避につながるでしょう。

  3. (3)刑事上の責任追及

    企業の従業員が横領した場合、刑事上の責任を追及する方法があります。
    企業における横領の典型例は業務上横領罪ですが、行為態様によっては詐欺罪、私文書偽造等罪、背任罪などにも該当する場合もあります。

    一般的な方法としては捜査機関に対して告訴状を提出し、告訴します。
    ただし、逮捕・起訴されることで横領事件として広く世の中に知られる可能性が高まるため、企業としても慎重な対応が必要となるでしょう。

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3、業務上横領をした従業員を処分する際に注意すべきポイント

横領をした従業員を処分する場合に注意すべきポイントをご紹介します。

  1. (1)横領した従業員を懲戒処分する上で注意すべきこと

    懲戒処分の種類には懲戒解雇や懲戒減給のほかに、戒告、降格、出勤停止などがあります。
    懲戒処分は就業規則に基づくものなので、何らかの懲戒処分を下す場合は、就業規則において、会社が一定の場合に労働者に懲戒処分をすることができる旨の規定を設け、処分の種類についても規定しておくことが必要です(労働基準法89条9号)。

    たとえば、懲戒処分として降格人事を行いたい場合は、就業規則に一定の場合に会社が懲戒できる旨の規定を置いた上、懲戒処分としての降格の規定が必要です。
    懲戒処分を検討する場合、まずは就業規則に処分に関する規定があるかを確認しておきましょう。

  2. (2)横領であっても、要件を満たさなければ懲戒解雇はできない

    懲戒解雇は懲戒処分の中でも、もっとも厳しい処分です。
    懲戒解雇されると、従業員は仕事を失うだけでなく、転職や再就職が困難になる場合があります。

    そのため、従業員から不服申し立ての裁判を起こされ、裁判所から要件を満たしていないと判断されれば懲戒解雇が無効になる可能性もあります。
    無効であると認められれば、解雇できなくなるだけでなく、解雇期間の給料未払い分を支払う必要も生じるでしょう。

    懲戒解雇の相当性を判断する場合、一般に以下のような要素を考慮することが重要です。

    懲戒解雇の相当性を判断する要素
    • 横領の金額や期間、横領した社員の地位、勤怠状況、横領による企業の影響などから解雇が相当といえるか
    • 過去に横領があった場合と比較して、不相当に重い処分でないか
    • 従業員側に懲戒解雇の理由や根拠を説明し、必要に応じて弁明の機会を与えたか

    解雇の相当性を判断するのは困難な場合が少なくありません。
    判断に迷う場合は労働問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

  3. (3)横領した従業員に支払い能力がなく、損害賠償請求が困難な場合の対処法

    横領した従業員に支払い能力がない場合、横領された金額の回収は困難になります。
    横領した金銭をギャンブルなどに使い込んで浪費してしまった場合などです。

    そのような場合、以下のような対策を取ることが有効です。

    ①身元保証書を作成する
    横領された金銭を回収できる可能性を高めたい場合は、事前に身元保証書を作成しておく方法があります。

    社員が入社する際に、以下の旨の契約を締結しておきます。

    企業に対して損害を与えた場合は、身元保証人に対して損害賠償を請求できるものとする

    注意点として、身元保証書は事前に作成しておかなければなりません。
    そのため多くの企業が入社の際の必要書類として提出を求めています。
    また、身元保証人の責任はあくまで限定的なものである上に、身元保証人も必ずしも十分な資力があるとは限りません。

    ②給料を差し押さえる
    次に、横領した従業員が退職して別の企業などで勤務している場合は、横領した金銭をきちんと返済しなくなる可能性があります。
    返済が滞った場合は、元従業員が新しい企業で得ている給料を差し押さえる方法もあります。

    給料を差し押さえるには債務名義が必要です。
    損害賠償請求の訴訟を提起して勝訴判決が確定すると、判決が債務名義になります。
    判決に基づいて給料を差し押さえ、強制執行をして債権を回収します。

    ③横領された金額の回収トラブルは、弁護士に相談を
    身元保証書にせよ、判決による債務名義にせよ、それぞれの手続きをトラブルなく完了させるには専門的な知識が重要なので、労働問題に知見のある弁護士の協力が大変重要となってくるでしょう。

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4、従業員の業務上横領が発覚したときの対応と流れ

従業員の横領が発覚した場合に、具体的にどのような流れで対応すべきかをご紹介します。

  1. (1)横領の事実関係の調査

    従業員の横領が発覚した場合にまず企業がすべきことは、下記の2点です。

    ①横領の事実と金額を確認

    • 横領の有無の確認
    • 横領された金額の確定

    横領したこと自体が明確でなければ、横領を理由に懲戒処分をするのは難しくなります。また、横領された金額がわからなければ、損害賠償請求の金額を確定できません。

    ②事実関係の注意点と調査のポイント
    横領の有無と金額を確認するためには、まず事実関係の調査を行います。
    横領をした疑いのある従業員に話を聞くのは、ある程度調査が進んでからです。
    早い段階で話をしてしまうと逃亡や証拠の隠滅などのおそれがあります。

    横領の事実関係の調査をどのように行うかはケースによりますが、一般的には領収書の裏付け、帳簿の調査、防犯カメラのチェック、取引先の聞き取りなどが調査のポイントになります。

  2. (2)横領した本人への事情確認

    事実関係の調査がある程度済んだら、次は横領をした疑いのある従業員本人の事情聴取の段階に入ります。

    ①事情聴取のポイント
    事情聴取をする際に押さえておくべきポイントは、以下の2点です。

    • 従業員の弁明を全て記録すること
    • 質問する事項をあらかじめ明確にしておくこと

    事情聴取では従業員の発言は全て記録しておくことが重要です。
    記録に残しておくことで、主張の要点の整理や発言の矛盾点の発見などに役立ちます。

    事情聴取をする際は、質問する役と記録する役の最低2名を用意しましょう。
    さらに、聴取内容を録音しておくといいでしょう。

    事情聴取で質問すべき事項をあらかじめ準備しておくと、話の脱線や混乱などを防ぐのに役立つほか、重要なことを質問し忘れるなどのトラブル防止にもつながります。

    ②一般的に自重聴取で確認すべきポイント
    質問のポイントは具体的なケースによって異なりますが、一般的には以下のようなポイントがあります。

    • 横領をしたことを認めるか
    • 横領を認める場合、横領した時期、回数、金額など
    • 横領した金銭をなにに使ったか
    • 謝罪や反省の意思はあるか
    • 弁償する気はあるか、資力や返済方法
    • 横領に使った書類などが現存しているか
    • 横領に協力した人物はいるか
    • 企業以外に横領の被害を受けた人物や法人などがいるか
  3. (3)従業員の横領が発覚したら、早めに弁護士に相談を

    証拠がすぐに見つかったり、本人が罪を認めたりしている場合にはあまり問題はありませんが、下記のような状況にある場合は、基本的に弁護士に相談する必要性が高いケースです。

    弁護士に相談する必要性が高いケース
    • 手口が巧妙で証拠がなかなか見つからない
    • 横領に該当するかどうか判断できない
    • 警察に立件は難しいだろうといわれた
    • どの段階で本人に事情を確認すべきかわからない

    証拠隠滅をした上で突然退職するなど、調査において企業が不利になる可能性もあるので、早めに弁護士に相談するのがおすすめです。

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5、まとめ

業務上横領罪は、業務として預かっているものを、経理担当者や店の店長などが横領した場合に成立します。

企業の従業員が横領をした場合、責任追及の方法としては懲戒解雇などの懲戒処分、民事上の損害賠償請求、刑事告訴などの方法がありますが、何らかの処分をする場合は、事前に十分な調査や事情聴取をして、横領の有無や被害金額を確定することが重要です。

従業員による横領は企業にとって経済的な損失になるだけでなく、調査や処分の検討などに対応するための人的負担や、企業自体の信用の失墜などのリスクもあります。

横領などの深刻なトラブルを防止するためにも、企業担当者の方はぜひベリーベスト法律事務所の顧問弁護士サービスをご検討ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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