企業法務コラム
以前は「密告制度」ともいわれ、敬遠されがちだった「内部通報制度」ですが、コーポレートガバナンス・コードの制定など、企業統治についてますます厳しい目線が注がれるようになりました。近年は、内部通報制度は企業の不祥事を防止するために有効な制度という認識が広がりつつあります。
ところが、消費者庁の調査によりますと、99%を超える大企業がすでに内部通報制度を導入しているのに対して、中小企業における内部通報制度の導入割合は50%未満にとどまるのが現状です。
一方で、内部通報制度を導入している企業と取引したい、あるいは就職したいとの回答が80%を超えています。さらに、企業の不正発見のきっかけは内部通報制度によるものが一番多いという調査結果もあります。企業が健全に成長するために、内部通報制度の導入は必要不可欠なものといっても過言ではないでしょう。
そこで本コラムでは、内部通報制度の概要と導入にあたって注意すべきポイントについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
内部通報制度とは、企業内部の問題を知る従業員から、経営上のリスクに係る情報を可及的早期に入手し、情報提供者の保護を徹底しつつ、未然早期に問題把握と是正を図る仕組みのことをいいます。
内部通報制度の対象は、セクハラやパワハラ、不正行為などの個別の問題から、内部統制や企業風土など、企業が抱える根本的な問題も対象になることがあります。
内部通報と似た言葉に、内部告発というものがあります。
前述のとおり、内部通報とは企業内の問題を「企業の内部」に通報することをいいます。
これに対して、内部告発とは、一般的に企業の問題を捜査機関や行政機関、関連団体やマスコミなどの「企業の外部」に告発することをいいます。
この両者の違いを理解しておくことは、内部通報制度の必要性を理解するうえで重要です。
内部通報制度がない企業で従業員が不祥事を告発する方法は、内部告発しかありません。
したがって、そのような企業において従業員が不祥事等の事実を告発したいと考えた場合には、監督官庁やマスコミなどの外部に知られることになり、その後の企業の対応は非常に負担の重いものになります。
その点、内部通報であれば企業内で問題を解決する余地が残されているため、内部告発と比べれば軽い負担で解決できる可能性があるのです。
問題社員のトラブルから、
平成18年4月に、内部通報制度の枠組みを定めているともいえる「公益通報者保護法」が施行され、その後に「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」が消費者庁より公表されました。
以後、企業経営におけるコンプライアンスに対する取り組みがますます重要視される中、内部通報制度は企業のコンプライアンス体制やガバナンスを構築する制度のひとつとして、重要な役割を担っています。
データの改ざん、不正会計、従業員への違法な過重労働、パワハラ、セクハラ……。
企業の不正行為や法令違反に関する報道は後を絶たず、不祥事が原因で解体に追い込まれた企業も少なからず存在します。
さらに近年は、特に上場企業に対して企業の行動規範として「コーポレートガバナンス・コード」を遵守することも求められるようになっています。
このように企業のコンプライアンス体制や企業統治について厳しい目が注がれるようになる中、内部通報制度は「企業の自浄作用」としての役割が期待されているのです。
企業が内部通報制度を導入することで期待できる効果は、主に3つあります。
① 不祥事の予防機能
企業に内部通報制度があることを従業員が認識することで、不正行為や法令違反を行えば自分が通報されるという一種の緊張感が生じます。
これにより、従業員が不正行為や法令違反をしづらくなり、不祥事を未然に予防する効果が期待できます。
② 不祥事の早期発見機能
内部通報制度により、企業が不正行為や法令違反の存在を早期に発見することが期待できます。早期の発見、早期の是正により、不祥事が拡大することを防ぐことが期待できるのです。
また、外部に公表されることを防ぐことができれば、企業の信用棄損を回避することができます。
③ 株主や取引先等のステークホルダーに対する信頼形成機能
内部通報制度があることにより、企業に対する信頼が生まれ、企業価値の向上が期待できます。
問題社員のトラブルから、
内部通報について「密告」や「チクリ」など、ネガティブな印象を持つ方は少なくありません。そのため、不祥事を認識したとしても後ろめたさから内部通報に踏み切ることができない従業員もいることでしょう。
このような従業員に対して内部通報制度の活用を促進するためには、就業規則などで従業員に内部通報を義務付ける方法が考えられます(ただし、当該義務に違反した従業員に処分を課すことについては慎重な検討が必要です)。
また、内部通報制度の活用について、経営者自らが従業員に声がけする姿勢も必要でしょう。
公益通報者保護法第5条では、一定の条件を充たした内部通報者に対する「不利益取扱いの禁止」を定めています。
内部通報制度が機能するためには、通報者の利益が確実に守られるべきものでなければなりません。従業員が「不正を見つけたけど、通報したら人事上の不利益を受けるかもしれない…」と委縮してしまうようでは、内部通報制度は機能しないのです。
企業の内部通報制度を従業員が安心して利用できるように、通報した人の匿名性を確保することはもちろんのこと、研修などを通じて「内部通報を行うことで不利益を被ることはない」と従業員に周知するとよいでしょう。
「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」によりますと、経営上のリスクに係る情報を把握する機会を拡充するために内部通報の窓口を「法律事務所や民間の専門機関等に委託する(中小企業の場合には、何社かが共同して委託することも考えられる)等、事業者の外部に設置すること」が適当な方法のひとつとして挙げられています。
また、コーポレートガバナンス・コードにおいても、「内部通報に係る体制整備の一環として、経営陣から独立した窓口の設置を行うべき」としています。
内部通報の対象は、言うまでもなく企業内部の事実です。
それにもかかわらず、内部通報制度の受付窓口を企業内とすると、通報対象と受付窓口が同一となるため、内部通報制度の牽制機能が働かなくなる可能性もあるのです。
経営陣は、企業の意思決定をする権限や業務執行権限を有しています。
これに対して、監査役や社外取締役は経営陣が暴走しないようにチェックやストッパーの役割を行う「監査機関」としての性質を有しています。
内部通報制度が有効に機能するためには、前述したとおり社外に通報窓口を置くことが望ましいとされています。
そして、通報窓口から企業へのレポートルートとしては、経営陣から一歩距離を置いてそれらを牽制する存在である、社外取締役や監査役といった監査機関とすることが望ましいでしょう。
問題社員のトラブルから、
内部通報制度を有効に機能させるためには、公益通報者保護法や「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」を遵守することはもちろんのこと、それぞれの企業の実態に即した制度設計が必要です。
企業の実態を踏まえずに制度設計をしてしまうと、内部通報制度が機能しなくなる可能性もあるのです。
有効に機能する内部通報制度を設計するにあたっては、弁護士が心強いパートナーとなります。弁護士は、その職務上、企業の不祥事に関する相談や他社の内部通報制度の設計などを通じて、内部通報制度に関する事例を数多く経験しています。
その専門家として蓄積された見地から、企業が置かれている状況や企業内部の実情を理解したうえで、法的リスクも考慮しながら適切な内部通報制度の設計についてのアドバイスやサポートを受けることが期待できます。
前述のとおり、「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」では、内部通報制度における適切な通報窓口のひとつとして、法律事務所を推奨しています。
内部通報窓口を法律事務所に指定しておけば、企業の経営陣に対する牽制機能はもちろんのこと、通報に対する対応方法について、法的なアドバイスを受けることができます。
問題社員のトラブルから、
企業法務を取り扱っているベリーベスト法律事務所では、内部通報制度の設計に関するサポートはもちろんのこと、通報窓口となることもできます。
また、企業法務の対応に豊富な経験と実績を持つベリーベスト法律事務所では、ワンストップで対応可能な顧問弁護士サービスを提供しておりますので、内部通報制度にかぎらず、幅広い法律問題に対応可能です。
内部通報制度の構築といったコーポレート・ガバナンスや、企業法務についてお悩みのときは、ぜひベリーベスト法律事務所の弁護士までご相談ください。貴社のために、ベストを尽くします。
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