企業法務コラム
就業規則は、社内のさまざまな規則や決まりごとを取りまとめたその会社独自のルールです。就業規則に違反する社員がいれば、会社はその社員に対して懲戒を下すことも可能です。
ただし、どのような重い処分をしても良いわけではなく、決められた手順・方式や法律上の規制を守る必要があります。
今回は、就業規則を違反した社員への正しい対処法と注意点を弁護士が解説します。
就業規則とは、労働条件や労働者が就業上遵守しなければならない規律に関する具体的細目について定めた規則類のことです。
「従業員規則」など別の名称であっても、実態が上記のものに該当する限り、就業規則に該当します。
就業規則には所定労働時間や賃金、昇給昇格、休憩時間や休日などの労働条件や基本事項が定められています。
その会社で業務を続ける限り、労働者は社内の就業規則を守らねばなりません。
ただし、就業規則そのものが法律違反である場合には、その就業規則は無効となります。就業規則が無効であれば、懲戒することもできません。
そこで、就業規則にもとづいて違反社員を懲戒するには、就業規則が「労働基準法」を始めとする各種法令に違反していないか、確認する必要があります。
問題社員のトラブルから、
まずは、社内に就業規則において、以下の点を確認しましょう。
就業規則において、必ず記載しなければならない事項(絶対的必要記載事項)と、制度を設けるためには記載しなければならない事項(相対的必要記載事項)があります(労働基準法第89条)。
始業・就業の時間、休憩時間、休日、休暇、賃金の決定、賃金の計算・支払方法、支払時期や昇給、退職や解雇に関する事項 など
相対的必要記載事項退職手当や、賞与、最低賃金額、安全衛生、職業訓練、災害補償、表彰や制裁などに関する事項 など
就業規則は、法律や労働協約に反してはいけません。
たとえば、賃金額や支払方法、残業や有給、休憩時間、労災などの規定内容が労働基準法や最低賃金法に違反していれば、就業規則のうち違反している部分は無効となります(労働基準法第92条)。
就業規則は、作成するだけではなく見やすい場所へ掲示したり、書面を交付するなどして全労働者へ周知しなければなりません(労働基準法第106条)。
社長や人事だけが把握しているような場合は、周知されているということはできません。
就業規則が周知されていなければ、当該就業規則は労働契約の内容にはならず、これに違反した社員を懲戒することはできません。
また、就業規則を制定した当初は周知していても、改訂内容を知らせていないとその部分について周知が足りないと判断される可能性があります。
たとえば、労働者が就業規則に違反したとき、違反行為の直前に就業規則を改定していると、「周知されてない」として懲戒できない可能性があります。
就業規則は、作成するだけではなく「所轄労働基準監督署への届出」が必要です(労働基準法第89条)。
また、就業規則を変更した場合においても同様に届け出る必要があります。
就業規則は、労働者だけではなく使用者も守るべきルールですので、使用者が定めた内容を労働者が全く知らないといったことがあってはなりません。
そのため、就業規則を作成・変更する際には、過半数組合または労働者の過半数代表者の意見を聴くことが義務付けられています(労働基準法第90条)。
労働条件を社員にとって不利益に変更しようとするときには、原則として、労働者と個別に協議して合意を得る必要があります(労働契約法第9条)。
ただし、以下の場合には、労働者と個別の同意を得ることなく、就業規則の変更を行うことができるとされています(労働契約法第10条)。
社員が就業規則違反の行為に及んだ場合、懲戒処分を適用して解雇できる可能性があります。
ただし、「正しい手順」を踏む必要があるので、以下でご説明します。
就業規則に違反した場合、懲戒処分をするには就業規則に「懲戒規定」を設ける必要があります。
懲戒に関する規定がないのにもかかわらず、社員に懲戒処分を下すことは違法です。
まず、「どういった行為に対して懲戒を行うのか」(懲戒事由)を就業規則に明記しましょう。
次に、それぞれの懲戒事由に対してどの種類の処分(懲戒処分の種類・内容)がなされるかを規定します。
社員が就業規則違反の行為をした場合や、重大な違反行為が見つかった場合などには、就業規則の規定に従って懲戒処分を行います。
このとき、「相当な」処分を選択する必要があります。
軽微な違反行為に対して重すぎる懲戒処分を適用すると、無効になる可能性が高くなります。
懲戒処分には、以下のような種類があります。
①戒告
将来を戒める(注意)ことです。
②減給
給与を減額する処分です。法律上、減額できる額・範囲が定められていますので注意が必要です(労働基準法第91条)。
③出勤停止
一定期間出勤を禁じます。その期間の給与は支払われないのが一般的です。一般的な会社では1か月以内の出勤停止期間が設けられています。
④降職・降格
現在の役職や職位を解いたり、下げたりする処分です。
⑤諭旨解雇
懲戒解雇をする前に、会社側の酌量によって行う処分です。
懲戒対象者へ自主退職を促し、「依願退職」という形をとることで退職金の支給を行います。
⑥解雇
違反の程度が著しい場合に会社側の一方的な意思表示によって労働契約を終了させる措置です。懲戒処分の中で最も重い処分となっています。
懲戒処分をするとき、違反行為と懲戒処分の内容との間のバランスを欠くと「懲戒処分が違法・無効」とされる可能性があります。
労働契約法では、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない懲戒は無効」と定められているからです(労働契約法第15条)。
たとえば、軽微な就業規則違反行為があったとき、いきなり社員を解雇したら社員側は「不当な解雇だ」と主張するでしょう。
懲戒解雇するときには「解雇が必要なほどの重大な違反」があったことが必要です。
また、同種の違反行為には同程度の処分を行う「平等性」も要求されます。
過去には甘い処分をしておきながら、「今回同じような問題を起こしたのが気に入らない社員だったので解雇した」などのケースでは懲戒解雇が無効となる可能性が高くなります。
懲戒処分を行うときには、適切な手順で正しい知識をもって進める必要があります。
就業規則に違反した社員を懲戒解雇するなら、事前に最低限、以下の事項を確認しておくべきです。
懲戒解雇するには、就業規則で「懲戒解雇」の規定を設けておくことが必須です。
自社の就業規則に
がきちんと書かれているか、就業規則を労基署に届け出ているか、社員に周知されているか確認しましょう。
懲戒処分を行うときには、本当に懲戒事由に該当する違反行為があったのか確認する必要があります。
社員側からの釈明も聞かず、事実調査もせずに会社の一方的な決めつけによって懲戒処分してしまったら、そもそも懲戒事由がないということで「無効」と主張されてトラブルにつながるでしょう。
必ず適切な方法で事実確認を行い、労働者に弁明の機会を与えた上で、判明した違反行為の内容に応じた懲戒処分を適用しましょう。
ただし、違反行為に対して法的に適切な懲戒処分を選択するというのは、大変難しい作業です。
懲戒解雇する場合でも、基本的に「解雇予告」が必要です。
解雇予告とは、解雇の30日前に解雇予定を告げることです。30日前に間に合わない場合、不足日数分の解雇予告手当を支給する必要があります(労働基準法第20条)。
ただし、事前に労働基準監督署で「解雇予告除外認定」を受けていたら、解雇予告や解雇予告手当の支給が不要となります。
懲戒解雇するとき、除外認定されていないなら必ず解雇予告を行うか解雇予告手当を支払いましょう。
懲戒解雇すると、社員側から「不当解雇だ」と主張されるリスクがつきまといます。
リスクを回避するためには、「退職勧奨」によって社員を自主退職させることも考慮に値します。
退職勧奨とは、会社から社員に対して自主的な退職を促すことです。
会社を辞めるかどうかは、社員が判断しますので、解雇とは異なります。
ただし、退職勧奨が「退職強要」とならないよう注意が必要です。
退職強要とは、無理に退職届を書かせるなどして、会社側が社員を無理矢理退職させることです。退職強要すると、社員から損害賠償請求をされたり、強迫による退職の意思表示の取消しなどの主張をされ結局在職が継続してしまうリスクが生じます。
退職勧奨するときには、
など、後に「強要された」と言われないよう十分注意が必要です。
退職勧奨の際の話を録音しておいたり、社員が退職に合意した場合には退職合意書に署名してもらうなどの対処をしておくと安心です。
退職勧奨ついては、下記のコラムで詳しく解説しています。併せてご覧ください。
人事担当者必見!退職勧奨の方法・弁護士が教える違法にならない辞めさせ方
就業規則に違反する社員、問題行動の続く社員を対処するには、社内に適切な就業規則を策定しておく必要があります。
労働基準法においては、常時働く労働者が10人以上の事業所で就業規則の作成が義務づけられています(労働基準法第89条)。
しかし、就業規則は法律で定めるべき義務のない会社でも作成すべきです。
小さな会社であっても社内にはルールが必要だからです。
就業規則を定めておかないと、違反行為、問題行為を繰り返す社員に適切な懲戒処分をすることができません。解雇したら「根拠のない不当解雇」と主張される可能性が高くなります。問題行為を繰り返す社員がいると、社内全体のモチベーションが低下するリスクもあります。
また、ルールが分からなければ、社員がどのように行動して良いか迷う原因となります。社内環境を適正化し、生産性を高めるためにも必ず就業規則を作成しましょう。
社訓や企業理念などを就業規則に設けることで、社員のモチベーション維持につながる面もあります。
就業規則は定めるだけではあまり意味がないので、効果的に「活用」しましょう。
たとえば、懲戒に関する規定を社員から見えやすい位置に貼りだしたり、社員が業務上で使用するコンピューター上で共有したりして、日常業務において常に意識させます。
労働関係法令は、頻繁に改正が行われています。
実務に影響を与える裁判が出ることもあります。制定時には法令に従っていても、法改正によって法令の定めるルールから外れてしまうケースも少なくありません。
就業規則が労働基準法に違反していると、労基署からの指導を受けたり罰則を受けたりする可能性もあるので、定期的に内容を見直し、必要に応じて更新しましょう。
社内だけで適切な就業規則を定めることが難しい場合には、弁護士によるチェックやアドバイスを受けることをおすすめいたします。
就業規則に違反する社員がいて対応に困った場合や、社員とトラブルになった場合にも弁護士へ相談すれば解決できるケースがあります。
問題社員のトラブルから、
社内に就業規則がない場合や不十分な場合、まずはきちんと就業規則を制定する必要があります。作成方法がわからない場合、弁護士がアドバイスや作成の代行をいたします。
また、就業規則に違反する社員への対応に迷ったときにも、弁護士がご相談をお伺いして適切な対処方法をお伝えします。
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