企業法務コラム
独立・起業して新しく事業を立ち上げるとき、過度に悲観的になったり逆に安易に考え過ぎたりすることはあまり好ましくないといわれています。しかし、新規の事業立ち上げにおいてはスタート後のリスクを極力小さくするために、入念な準備が必要であることは言うまでもありません。
事業形態の決定、事業計画の立案、人材やコネクションの確保、初期投資額と資金調達、立ち上げ後に発生する費用の見通し、事業を展開するための場所や設備の確保……、事業の立ち上げにはさまざまな準備が必要です。そして、どのような準備のプロセスにおいても、極めて重要であるのにもかかわらず意外と見落とされがちなのが、弁護士などの専門家による「法的チェック」です。
事業を立ち上げるにあたって、なぜ法的チェックが重要なのでしょうか? 法的チェックをしないことでどのようなリスクが生じ得るのでしょうか? これから事業を立ち上げる方のなかには、このような疑問をお持ちの方もいらっしゃるかと思います。
そこで本コラムでは、事業の立ち上げにおける法的チェックの重要性、そして法的リスクの極小化を支援するための制度や専門家に依頼すべき理由について、企業法務に豊富な知見と問題解決の実績をもつベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
日本国憲法では、すべての国民に対して結社の自由(第21条)や職業選択の自由(第22条第1項)を認めています。しかし、この自由が認められるためには「法律や公共の福祉に違反していないこと」が大前提であり、これは事業においても例外ではありません。あまりにも極端な例ですが、映画や漫画にあるような嘱託殺人の事業を立ち上げようとしても絶対に認められることがない理由は、このような前提があるためです。
つまり、新規事業の立ち上げにおいては、「立ち上げようとしている事業やサービスの内容、そして立ち上げ後のビジネスの進め方は適法か」という観点からの法的チェックが極めて重要になるのです。
殺人などの明らかに違法な事業が認められないのはわかりやすいですが、そうでない一般的な事業においても、なぜ、立ち上げ時の法的チェックが重要なのでしょうか。それはどのような事業においてもさまざまな法律や諸規則などが関係しているからです。
たとえば、事業として飲食店を立ち上げるためには、食品衛生法第52条の規定により、事前に所轄の保健所に申請し立ち会い検査を受け、問題がないことの確認を受けたうえで「営業許可証」を取得することが義務付けられています。また、各都道府県の食品衛生法施行条例の規定により、飲食店を経営する事業者には店舗ごとに調理師や栄養士などの有資格者あるいは都道府県所定の講習を受けた「食品衛生責任者」を配置することが義務付けられています。この他にも、食品衛生法や関連する施行規則・条例などにおいては、飲食店の開業についてさまざまな規定が定められています。
もし開業時の違法行為が発覚すると、たとえば無許可営業の場合は食品衛生法72条の規定により2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、またはその両方を併科され、さらには営業の禁止や停止が命じられることがあります。つまり、飲食店を立ち上げ事業がうまくいっていたとしても、立ち上げ時あるいは立ち上げ後の法令違反発覚が原因で事業が立ち行かなくなってしまうことがあるのです。
企業経営において、関連会社や労働者となど、契約を結ぶ場面は多く発生することと思います。特に事業を立ち上げる際などは、新規で契約書を作成し結ぶことも多いでしょう。この契約において専門家によるリーガルチェックを怠ると、契約書が無効となってしまったり、一方に著しく不利な内容となってしまう可能性があります。
契約とは、当事者間の権利義務に関する合意のことであり、法律行為のひとつです。この合意は法的拘束力のある約束であり、契約当事者間において適用される共通ルールのような役割を果たします。契約は保証契約(民法第446条第2項)のような例外を除き、口頭の合意であっても有効に成立します。しかし、のちのちのトラブルを避ける観点から、合意内容を書面化した「契約書」を作成して当事者間が取り交わすことが一般的です。書面化した契約書は、合意内容の証拠化や合意内容を明確化する役割を果たします。
民法では契約の内容は当事者間の自由であることを基本としていますが、いくつかの例外規定を設けています。
まず、民法第90条では「公序良俗に違反する法律行為は無効」と定めています。たとえば、売春や賭博のように法律で禁止されている行為について定めた契約は、公序良俗に違反し無効とされるでしょう。
また、各種の法律には当事者がその規定と異なる合意を認めない「強行規定」というものがあり、これに違反する合意内容は無効になるか、強行規定の定める内容に変更されます。たとえば、消費者契約法では事業者の債務不履行により消費者に生じた損害について、事業者の賠償責任を免除する契約は無効とする旨を定めています。
このほか、無効にはならない内容の契約であっても、契約当事者間に情報・知識・経験の量に差がある場合において、前述のとおり一方の当事者にとって著しく不利な内容の契約となり、結果的に不利益をかぶってしまうこともあるのです。
事業の立ち上げ時においては、さまざまな契約書を締結することになるでしょう。無効な内容や不利な内容の契約にならないためにも、契約書には入念な法的チェックが必要なのです。
繰り返しになりますが、いくらもうかりそうな事業でも法律に違反した事業であれば、立ち上げることも継続することもできません。まずは立ち上げようとしている事業が適法なのか法的チェックを行う必要があります。新規事業の立ち上げにおいて関係当局からの許認可が必要である場合は、なおさらです。
立ち上げようとする事業の内容によって適用される法律は多種多様であり、いくつもの法律が複合的に関連して適用されることも珍しくありません。このような複雑性から、適法性チェックを単独で行うことは非常に難しいと考えられます。したがって、事業内容の適法性に関するチェックは、弁護士のような専門家に依頼することはもちろんのこと、関係当局とも連携をとりながら進めるとよいでしょう。
契約書の内容に関する法的チェックは、それが適法な内容の契約書であることはもちろんのこと、あなたにとって不利なものではないか確認することが最大のポイントです。
取引先からの提示に対して安易に妥協することなく、経済的な取り決めに加え契約の解除要件や違反が見つかった場合の損害賠償に関する条項、不可抗力条項などについても入念に確認し、あなたにとって一方的に不利な内容にならないように心がけてください。
法規制の対象となっている事業や提供するサービスは非常に多く、それを立ち上げるときは関係当局から事前の許認可が必要とされます。先述のとおり、この許認可が適正に取得できていないと事業を立ち上げることができません。さらに、適正に許認可を取得することなく事業を立ち上げると、その法律や規制の存在を知っていた・知らなかったに関係なく、違反した事業者には罰則が科せられたり損害賠償を請求されたり、最悪の場合は事業をたたまなければならなくなる可能性もあるのです。
悪意の無許可営業は論外ですが、自分で必要な許認可が取得できていると思っていても、実は一部が不足していたという事態も起こりかねません。事業の立ち上げ時には必要な許認可申請等ができているか、十分に確認してください。
世間でも前例がないような新サービスを提供する事業内容の場合、既存の法律や制度では適法性の判断が難しい「グレーゾーン」が生じることがあります。そのようなグレーゾーンについて当局が適法か否かを確認する制度が、「グレーゾーン解消制度」です。
ただし、グレーゾーン解消制度は必ずしも当局が法令違反がないことを保証する制度ではないこと、事業やサービスの内容に照らしてグレーゾーンと考えられる法律の条文などについては、申請者自ら特定しておかなければならない点に注意が必要です。
企業実証特例制度とは、規制がボトルネックになっている場合に、事業者が安全性等を確保する措置を実施することを条件として、企業単位での規制の特例措置を講ずる制度のことをいいます。
特例を認めてもらうためには、その事業やサービスの内容が公序良俗性や安全性などに照らして問題がないことを申請者が自ら立証しなければなりません。特例が認められないことも多く、さらに認められたとしても申請した時点から相当な時間を要していたことが多い点にご注意ください。
事業を立ち上げたあとの法的リスクを極小化するためには、事業立ち上げ前の法的チェックの有無が極めて重要です。多くの法令が複雑に絡み合う事業であっても、弁護士であれば事業の特性に合ったアドバイスを行います。
弁護士と包括的な顧問契約を締結しておくことで、個別案件はもちろんのこと弁護士が事業全体をトータルでサポートするサービスを受けることができます。これにより、個別案件ごとに弁護士へ対応を依頼するよりも、迅速な対応を受けることが可能になります。
当然のことですが、弁護士は依頼人であるあなたの事業や置かれている状況をしっかりと把握したうえで、各種のサービスを提供します。また、ベリーベスト法律事務所のように案件の概要や必要性に応じて税理士や社会保険労務士などの専門家との連携が可能な法律事務所も存在します。このような法律事務所と顧問弁護士契約を締結しておくことで、案件ごとに外部の専門家に依頼する煩わしさがなくなります。
無事に事業を立ち上げたとしても、その後の運営においてさまざまな法的リスクに直面する可能性があります。特に事業が拡大して従業員を雇用するときは、雇用契約書の作成や就業規則の整備も考慮しなければなりません。
弁護士があなたをサポートするのは事業の立ち上げ時だけではありません。立ち上げ後の運営についても、必要な法的サービスも提供します。
新規事業を立ち上げるときは、立ち上げたあとのことも見据え弁護士に相談することをおすすめします。
さまざまな企業法務の対応に豊富な経験と実績を持つベリーベスト法律事務所では、事業の立ち上げ後もワンストップで対応可能な顧問弁護士サービスを提供しております。
事業の立ち上げをお考えのときは、ぜひベリーベスト法律事務所にご相談ください。あなたの会社のために、ベストを尽くします。
「破門」とは、僧や神職などを宗派から追放することや、弟子との師弟関係を強制的に終了させることなどを意味します。破門される人(破門者)が労働者に当たる場合は、解雇と同等のルールが適用される点に注意が必…
裁判所から送られてくる書類は、訴状だけでなく訴訟告知書であるケースもあります。訴訟告知とは、訴訟で係争中の問題に関係する第三者に対し、訴訟が継続している事実を通知することをいいます。このような訴訟告…
企業にとって自社の商品やサービスをアピールすることは、重要な広告戦略のひとつとなります。しかし、広告内容と商品・サービスの実態がかけ離れており、誇大な内容となっている場合、「詐欺広告」として罰則やペ…
お問い合わせ・資料請求