企業法務コラム
使用者は、労働者に対して、適正な賃金を支払わなければなりません。適正な賃金の計算にあたっては、労働基準法の割増賃金の定めをきちんと理解しておかないと、未払い賃金が発生してしまう可能性もあります。
特に、休日出勤における賃金の計算は、その休日が「法定休日」か「法定外休日」かによって変わるので、注意が必要です。
法定休日とは、「毎週少なくとも1回」もしくは「4週で4回以上」、労働者に与えるべき休日のことをいいます。会社によって法定休日・法定外休日の扱いが異なっているため、就業規則での指定の有無などを確認する必要があります。
今回は、休日出勤における割増賃金のルールについて、そのポイントをベリーベスト法律事務所の弁護士がケース別に解説します。
法定休日とは、労働基準法35条で規定されている、使用者が労働者に必ず与えなければならない休日のことです。
使用者は、労働者に毎週少なくとも1回の休日を与えなければなりません(週休1日原則)。ただし、4週間の間に4日以上の休日がある場合には、この週休1日原則は適用されません(変形週休制)。
法定休日は、労働基準法が定めた最低ラインの休日日数なので、これより休日を少なくすることは許されていません。
法定休日を労働者に与えなかった場合、6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科せられる場合があります。(労働基準法119条1号)
使用者が、労働者に対して、法定休日に勤務させる場合には、三六(サブロク)協定の締結が必要です。
使用者は、労働者の過半数で組織する労働組合か、そのような組合がない場合はその場所に勤めている労働者側の過半数代表と労使協定を締結し、これを労働基準監督署に届け出た場合、その定めにしたがって休日労働をさせることができます(労働基準法36条1項。この条文番号から、三六協定といいます。)。
ただし、この三六協定は、労働基準法の最低ラインの規制を解除するという効果がありますが、三六協定の内容どおりに労働者を強制的に休日労働させることができる、という効果はありません。
そのため、実際に労働者に法定休日労働を命じるためには、三六協定だけでなく、労働契約において休日労働義務を盛り込み、その契約に双方が合意する必要があります。
労働基準法上、休日労働や法定時間外労働、深夜労働(午後10時~午前5時までの労働)に対しては、通常の労働時間または労働日の賃金よりも、割り増しして賃金を支払わなければならないことも定められています。
割増率は、次のとおりです。
法定時間外労働 | 1.25倍以上 |
---|---|
法定休日労働 | 1.35倍以上 |
深夜労働 | 1.25倍以上 |
法定時間外労働かつ深夜労働 | 1.5倍以上 |
休日労働かつ深夜労働 | 1.6倍以上 |
月60時間超の法定時間外労働 ※中小企業は2033年3月まで猶予有 |
1.5倍以上 |
※法定休日労働の場合は、時間外労働の規制は及ばないので、1日8時間を超えて勤務しても、割増率は1.35倍のままです。
問題社員のトラブルから、
先に解説した法定休日は、あくまで労働基準法上で定められた最低ラインの休日です。
労使間の取り決めで、これを上回る数の休日を労働者に与えることもできます。
実際に、土曜日と日曜日の週休2日制を採用している会社も多いでしょう。
このように、労使間の取り決めなどによって定めた、法定休日以外の休日のことを、「法定外休日」といいます。「法定休日」と区別して「所定休日」と呼ぶ会社もありますが、一般的には法定外休日と同義です。
その他、休日の概念としては、年次有給休暇があります。
使用者は、労働者が以下の2つの条件の両方を満たした場合には、10日以上(継続または分割)の有給休暇を就労年数に応じて、与えなければなりません。
三六協定は、法定休日に労働を課す場合には、届け出ることが義務付けられていますが、法定外休日の勤務については、三六協定を届け出る必要はありません。
法定外休日に出勤した場合には、割増賃金の点についても、法定休日の出勤と異なる考え方をする必要があります。
法定外休日の労働については、労働基準法において割増賃金の規定が設けられていないため、労働者が法定外休日に労働をした場合であっても、法律上は割増賃金を支払う必要はありません。
たとえば土曜日を法定外休日、日曜日を法定休日と就業規則で定めている会社のケースを考えてみましょう。
法定休日の出勤では、通常の労働時間における賃金の1.35倍を支払う必要があります。
月 | 7時間 |
---|---|
火 | 7時間 |
水 | 7時間 |
木 | 7時間 |
金 | 7時間 |
土(法定外休日) | ― |
日(法定休日) | 6時間×1.35倍の割増賃金 |
なお、法定休日の労働時間は、1週40時間までの労働とする法定労働時間の計算に含みません。そのため、上記ケースの1週間の労働時間は月曜日から金曜日までの35時間となり、法定労働時間を超過していないことになります。
土曜日(法定外休日)に出勤した場合、その労働時間は法定労働時間に合算されるため、通常の労働時間の賃金を残業代として支払えば問題ありません(ただし、就業規則等に特段の規程がない場合です)。
ただし、法定労働時間を超過した分には、法定時間外労働として1.25倍の割増賃金を支払う必要があります。
月 | 7時間 |
---|---|
火 | 7時間 |
水 | 7時間 |
木 | 7時間 |
金 | 7時間 |
土(法定外休日) | 5時間+2時間×1.25倍の割増賃金 |
日(法定休日) | ― |
上記ケースでは、月曜日から金曜日までの労働で35時間となっているため、法定労働時間は残り5時間です。
土曜日の7時間は、以下のように計算します。
以下のように法定外休日と法定休日の両方に出勤した場合の賃金を考えてみましょう。
月 | 7時間 |
---|---|
火 | 7時間 |
水 | 7時間 |
木 | 7時間 |
金 | 7時間 |
土(法定外休日) | 6時間 |
日(法定休日) | 5時間 |
①のとおり、法定休日の労働時間は法定労働時間の計算に含まないため、法定外休日の労働時間6時間のみ法定労働時間に合算します。
月曜日から金曜日までの労働で、35時間働いているため、土曜日は法定時間内労働5時間と、法定時間外労働の1時間に分解されます。
※上記計算はあくまで一つの例示になりますので、具体的事案については、弁護士にご相談ください。
労働基準法では、休日の特定を使用者に義務付けておらず、何曜日を休日とするか、あるいは祝日を休日とするかについては定めがありません。
したがって使用者は、1週間のうち好きな曜日を休日にでき、また、週により違う曜日を休日とすることも認められています。
ただ、就業規則により休日を特定するよう、行政から方針が示されています。
休日が前もって決まっていたほうが労働者としても働きやすい環境となり、また、休日出勤時の賃金計算の際に混乱が生じにくいため、就業規則において休日(法定休日・法定外休日)はあらかじめ特定しておきましょう。
就業規則で法定休日を定めていない場合の休日の判断方法については、まず、起算日を把握しておく必要があります。
起算日は、週は何曜日からはじまるのか、という観点です。
就業規則などで特段、起算日を定めていない場合は暦上、日曜日から一週間がはじまるという考えが一般的でしょう。
法定休日を定めていない土日週休2日制の場合、法定休日はより後ろにある休日となるため、土曜日が法定休日と扱われることになります。
日(週のはじまり。起算日) | 法定外休日 |
---|---|
月 | |
火 | |
水 | |
木 | |
金 | |
土 | 法定休日 |
土日両方を勤務した場合は上記表のとおり、日曜日の勤務を法定外休日、土曜日の勤務を法定休日として賃金を計算します。
ただ、土曜日か日曜日のいずれかで勤務した場合は計算の際に、労働していない休日を法定休日として取り扱います。
土曜日のみ勤務 | 日曜日のみ勤務 | |
---|---|---|
日曜日 | 法定休日 | 法定外休日(勤務日) |
土曜日 | 法定外休日(勤務日) | 法定休日 |
今回は法定休日と法定外休日について、賃金の計算方法を中心にご紹介してきましたが、振り替え休日や代休を取得した場合、より計算は複雑になります。
勤怠管理・賃金支払いについて、労働者との間でトラブルになってしまった場合には、迅速に解決しなければ、労働審判や訴訟などにつながるリスクもあります。
そうなると、時間的・金銭的な負担が大きくなるだけではなく、他の従業員や、社会的な信用にまで影響が生じてしまうこともあるでしょう。
もし、休日出勤について労働者側とトラブルが起きたら、会社内だけで解決するのではなく、労働問題の解決実績豊富な弁護士に早めに相談することをおすすめします。
弁護士であれば、そのトラブルに対して法的説得力を持って労働者側と交渉、場合によっては裁判の代理もできるほか、同じようなトラブルが起きないよう、就業規則などを見直すことも可能です。
問題社員のトラブルから、
賃金や労働時間の管理にあたっては、まずはしっかりと法律、特に労働基準法を確認し、漏れのない就業規則を作成することです。
そして、顧問弁護士等を活用し、労働問題の起こりにくい環境、起こっても解決できる体制を整えましょう。
ベリーベスト法律事務所では、業種別の専門チームを結成し、業種ごとの商習慣やノウハウなどを共有しています。全国各地に弁護士が多数おり、かつグループ会社の社労士法人と連携して、質の高いサービスを全国どこでもご提供できます。
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