高騰する人件費の削減などを理由に、パート・アルバイトのシフトカットを検討することもあるでしょう。
しかし、会社都合により従業員のシフトカットを行った場合、労働基準法上の休業手当の支払い義務が生じる可能性があるので、会社としては慎重な対応が必要です。
この記事では、会社都合によるパート・アルバイトのシフトカットと、労働基準法上の休業手当の関係について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
シフトカットという言葉を耳にしたことがある方は多いかと思いますが、法的にはどのような意味として捉えられるのでしょうか。
まずはシフトカットの意味と具体例について見てみましょう。
シフトカットとは、法的な用語ではありませんが、一般的には会社都合によりパート・アルバイトなどのシフトを減らすことを意味します。
シフトカットが行われる背景事情は、次の項目で解説するようにさまざまですが、労働者側ではなく使用者側の都合による点がポイントです。
シフトカットの一例としては、次のようなケースが挙げられます。
問題社員のトラブルから、
会社都合によるパートやアルバイトのシフトカットはしばしば行われていますが、法的に問題はないのでしょうか。
使用者は、労働契約を締結している労働者に対して、業務上の指揮命令権限を有しています。
この指揮命令権限には、『仕事をせずに自宅で待機してください』と指示する権限も含まれています。したがって、業務命令に基づき、自宅待機を命ずることは可能です。
しかし、シフトカットをした場合、働いていないのだから賃金を全く支払わなくて良いというわけではありません。
労働基準法第26条では、「使用者の責に帰すべき事由による休業」の場合には、使用者は労働者に対して休業手当の支払い義務を負う旨が定められています。
シフトカットは会社都合によるものですので、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当します。
したがって、シフトカットをした使用者は労働者に対して、平均賃金の60%に相当する休業手当を支払わなければなりません。
労働基準法上の「休業手当」について、もう少し詳しく確認しておきましょう。
休業手当は前述のとおり、「使用者の責に帰すべき事由による休業」が行われた場合に、使用者から労働者に支払われる手当です。
この「使用者の責に帰すべき事由」は、通常の故意・過失よりも広く解されており、天災地変などによる不可抗力が休業の原因でない限り、使用者側に休業の帰責性があるものとして取り扱われます(最判昭和62年7月17日)。
休業手当の金額は、「平均賃金の100分の60以上」支払わなければならないと定められています。
休業手当の支払いを受けられるのは、労働基準法上の労働者全員です。
労働基準法上の労働者には、正社員・非正規社員などの区別はありません。
つまり、使用者との指揮命令関係を前提とする労働契約を締結していれば、パートやアルバイトも労働基準法上の労働者に該当します。
したがって、パートやアルバイトであっても、会社都合でシフトカットをした場合は休業手当の支払い対象となる可能性があるのです。
労働基準法上は「休業補償」という制度もありますが、シフトカット時に問題となる休業手当とは別の制度であることに注意しましょう。
休業手当が使用者都合による休業の場合に支給されるのに対して、休業補償は労働災害による療養期間について支給されます(労働基準法第76条第1項)。
休業補償の支給金額は「平均賃金の100分の60」で、休業手当と同じですが、支給要件が休業手当と休業補償とでは全く異なることを理解しておきましょう。
シフトカット時の休業手当の算出方法について、労働基準法の規定に沿って具体例を用いながら解説します。
労働基準法第26条によると、休業手当の基本的な計算式は以下のとおりです。
したがって、休業手当の金額を計算するには、平均賃金を正確に計算する必要があります。
平均賃金の定義は、労働基準法第12条第1項に定められています。
同項によると、平均賃金は原則として、以下の計算式により求められます。
平均賃金の基準となる「賃金の総額」には、基本給・手当などの名目を問わず、使用者から労働者に対して支払われた労働の対価が原則としてすべて含まれます。
ただし、例外的に以下の期間中の費目または以下の賃金については、平均賃金の算定における期間及び賃金の総額には考慮されません(同条第3項、第4項)。
時給制・日給制で働くパート・アルバイトの方は、正社員などよりも労働日数(時間数)自体が少なくなる傾向にあります。
平均賃金を求める際には、所定期間の賃金総額を実労働日数ではなく「当該期間の総日数」で割るものとされているところ、原則どおりの計算を行ってしまうと、パート・アルバイトの方の平均賃金は非常に低額となってしまいます。
そこで、労働基準法第12条第1項第1号では、時給制・日給制の労働者については、以下のとおり平均賃金の最低保障額を定めています。
では、設例を用いて、パート・アルバイトの方がシフトカットをされた際に受け取れる休業手当の金額を実際に計算してみましょう。
まずは、この労働者の平均賃金を求めます。
20xx年7月から9月の賃金総額は46万円ですので、原則的な計算式を用いて平均賃金を求めると、以下のようになります。
しかし、この労働者は時給制で働くパートですので、平均賃金の最低保障も考慮しなければなりません。
平均賃金の最低保障額は、以下のとおりです。
原則的な計算式を用いて計算した平均賃金(5000円)が最低保障額(6000円)に達していないことから、この労働者の平均賃金は6000円に修正されます。
この平均賃金を用いて、1日分の休業手当を計算します。
したがって、20xx年9月30日に行ったシフトカットについて、会社はこの労働者に対して3600円の休業手当を支払わなければなりません。
シルバーハート事件は、週3日勤務のシフトを削減されたとして、社会福祉施設の従業員が、労働契約に基づく賃金などを請求した事件です。
本事件では、雇用契約書において、始業・終業時刻、休憩時間について「始業時刻午前8時00分、終業時刻午後6時30分、休憩時間60分の内8時間」のほか、手書きで「シフトによる」と記載していました。
勤務体制は毎月組まれるシフトで決定し、
という状況でした。
本事件では週3日労働を希望する当該従業員について、5月は13日、6月は15日、7月は15日、8月は5日、9月は1日シフトに入れ、10月以降は1日もシフトに入れていませんでした。
東京地方裁判所は、シフト制で勤務する労働者にとって、シフトの大幅な削減は収入の減少に直結するものであり、労働者の不利益が著しいことを指摘して、合理的な理由がなければ大幅なシフト削減は「シフト決定権限の濫用」にあたり、違法になると判断しました。そして、会社が一方的にシフトカットした月について、直近3か月の賃金額との差額の支払いを会社に命じています。
本件では、シフトを大幅に削減した理由について具体的な主張がされていないことを根拠として、「合理的な理由」がないと判断されています。
そのため、本件の裁判例において、どのような事情であれば「合理的な理由」に該当するのか、については判示されていません。
しかし、そのような事情としては、従業員の勤務態度や会社の経営上シフトカットがやむを得ない事情、契約内容などが該当すると考えられます。
合理的な理由なく突如大幅なシフトカットをすると、本事件のように「シフト決定権限の濫用」と判断される恐れがあるため、トラブルへ発展しないよう事前に弁護士へ相談しましょう。
参考:シルバーハート事件(東京地裁 令和2年11月25日)
問題社員のトラブルから、
会社都合のシフトカットには休業手当の支払い義務が伴うため、シフトカットをする際には事前の慎重な検討が必要です。
法的な側面から万全を期すためにも、労務管理にまつわる問題は弁護士に相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所では、業種別・分野別に専門チームを設けているので、ご相談者さまの事業に合わせたオーダーメードのご相談・サービスをご提供することが可能です。
パート・アルバイトのシフトカットを検討している場合や、現場判断でシフトカットを行っており対応を見直したい場合、労働者からシフトカットについて苦情を受けているといった場合は、ぜひ、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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