2025年03月12日
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従業員が人事異動を拒否! 業務命令に応じない社員への処分や対応

従業員が人事異動を拒否! 業務命令に応じない社員への処分や対応

人事異動のうち配置転換については、原則として従業員(=労働者、社員)は拒否することができません。

しかし、合理性に欠ける配置転換は拒否される場合があるため、従業員の人事異動を検討する際は注意が必要です。トラブルのリスクを避けるため、疑問点がある場合は弁護士に相談することをおすすめします。

本記事では、従業員が人事異動を拒否することはできるのか、および従業員が拒否した場合の対処法などについてベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、従業員は人事異動を拒否できる? 会社による強制は可能?

  1. (1)人事異動とは|種類と定義

    「人事異動」とは、企業内において従業員の配置・地位・勤務条件などを変更することをいいます。
    人事異動の種類はさまざまですが、以下の3パターンに分類するのが一般的です。

    ① 配置転換
    同一の企業内において、従業員の配置・地位・勤務条件などを変更します。
    転勤や昇進・降格(降職)なども、配置転換の一種です。

    ② 出向
    自社との雇用契約を維持しつつ、別の会社で従業員を働かせます。
    「在籍出向」と呼ぶこともあります。

    ③ 転籍
    自社との雇用契約を終了させ、別の会社へ従業員を移籍させます。
    「転籍出向」と呼ぶこともあります。
  2. (2)企業には従業員に対する配置転換権がある

    前述の人事異動にあたるパターンのうち、出向については、従業員の個別同意を得るか、または労働契約もしくは就業規則における出向規定に基づいて命ずる必要があります(最高裁平成15年4月18日判決参照)。
    また、転籍については、必ず従業員の個別同意を得なければなりません

    これに対して配置転換については、使用者の裁量が幅広く認められており、従業員に拒否されても強制できるケースが多いでしょう。

    ただし後述するように、配置転換を強制することができないケースもあります。
    従業員に配置転換を拒否されたら、対処法について弁護士にご相談ください。

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2、従業員に人事異動を拒否された場合の対処法

従業員に人事異動を拒否されたら、以下の対応を順に検討しましょう。

  1. (1)就業規則や雇用契約書の内容を確認する

    まずは、就業規則や雇用契約書の内容を確認し、人事異動が認められる範囲をチェックしましょう。

    配置転換については幅広く認められますが、就業規則や雇用契約書で配置転換の範囲が限定されているケースもあるので注意が必要です。

    出向については、就業規則や雇用契約書に出向規定が定められていない限り、従業員に対して強制はできません。また、出向規定が定められている場合も、規定された条件に従う必要があります。

    会社にある人事権の範囲外となりうる人事異動については、拒否されたら取り下げざるを得ないでしょう。

  2. (2)人事異動の必要性を十分に説明する|待遇の見直しも検討すべき

    人事異動を強制できる場合でも、仕事のパフォーマンスなどの観点からは、従業員が納得した上で異動してもらうことが望ましいです。

    会社としては、人事異動を拒否する従業員に対して、その必要性を十分に説明すべきです。また、人事異動のメリットを感じてもらうために、待遇の引き上げなども検討しましょう。

  3. (3)代替人員を検討する

    嫌がる従業員を無理やり異動させるのではなく、別の従業員を代わりに異動させた方がよいかもしれません。

    特に従業員が豊富にいる会社では、進んで人事異動を受け入れてくれる別の従業員を探すことをおすすめします。

  4. (4)懲戒処分や退職勧奨を検討する

    正当な人事異動命令を拒否した従業員に対しては、懲戒処分を行うことも検討しましょう。ただし、重すぎる懲戒処分は無効になるおそれがあるので(労働契約法第15条)、事前に弁護士へご相談ください。

    また、従業員が会社そのものにフィットしていないと思われる場合は、退職勧奨をすることも選択肢のひとつです。ただし、強要にあたる退職勧奨は違法となる点に注意しましょう。

3、理由別|人事異動の拒否を受け入れざるを得ないケース

以下のようなケースでは、従業員が人事異動を拒否したら、会社としては受け入れざるを得ない可能性が高いです。

  1. (1)契約外の職種・部署へ配置転換する場合

    雇用契約で配置転換の範囲が限定されている場合には、会社が従業員を契約外の職種や部署へ配置転換する権限はありません

    過去の裁判例
    過去の裁判では、技術職に限定して雇用されていた従業員を、使用者が総務課施設管理担当へ配置転換しようとした事案が問題となりました。
    最高裁は、従業員の個別同意がない限り、使用者は総務課施設管理担当への配置転換を命ずる権限を有しないと判示しています。(最高裁令和6年4月26日判決(裁判所))

    契約外の職種・部署への配置転換を拒否された場合は、代替人員を探すほかないでしょう。

  2. (2)従業員が家族の介護などをしている場合

    家族の介護などをしていて、家から離れると家族に深刻な影響が及ぶ従業員に対して配置転換を命ずることは、人事権の濫用として無効となる可能性が高いです

    過去の裁判例
    精神障害を患う妻と高齢の母を介護する従業員に対して、使用者が遠方への転勤を命じた事案が問題になり争われた裁判例があります。
    本件では、従業員が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとして、転勤命令を無効と判示しました(大阪高裁平成18年4月14日判決)。

    介護で大変な従業員に対して、遠方への配置転換を命ずることは避けましょう。

  3. (3)人事異動を行う業務上の必要性がない場合

    人事異動命令は、業務上の必要性がある場合に限って行うことができます。業務上の必要性に乏しい人事異動命令は、無効と判断される可能性が高いです

    過去の裁判例
    過去の事案では、心臓病の長女を介護するために関西地域限定勤務を希望していた従業員が、東京営業部に配置転換された事案が問題になり、争われました。

    最終的に裁判所は、勤務地限定の合意があったことを認定した上で、それに反する配置転換は無効であると判示しました。また、従業員を東京営業部に異動させる必要性を否定し、仮に勤務地限定の合意が認定できないとしても、配置転換は権利濫用として無効であると判断しています(大阪高裁平成17年1月25日判決)。

    特に遠方への転勤を伴う配置転換については、その必要性が認められるかどうかを慎重に検討してから行いましょう。

  4. (4)大幅な賃金の減額を伴う場合

    配置転換に伴って従業員の賃金を減額する際には、原則として従業員の同意を得る必要があります(労働契約法第8条~第10条参照)。

    特に、大幅な賃金の減額を伴う配置転換は、従業員が拒否すれば強制できない可能性が高いです。

    過去の裁判例
    過去、従業員が営業部から倉庫へと配置転換され、さらに課長職からの降格が命じられるとともに、賃金も減額された事案が問題となった裁判がありました。
    本件においては、賃金が従前の2分の1以下へと大幅に減額されたことが、社会通念上、従業員に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであると指摘し、配置転換命令を権利濫用として無効と判断しています(大阪高裁平成25年4月25日判決)。

    賃金の減額を伴う配置転換については、特段の事情がない限り、従業員の同意を得た上で行うべきです。

  5. (5)退職勧奨目的など人事異動の動機や目的が不当である場合

    人事異動の動機や目的が不当である場合には、その人事異動が権利濫用として無効となります

    過去の裁判例
    前掲した大阪高裁平成25年4月25日判決の裁判では、従業員が配置転換後の倉庫において行うべき業務がほとんど存在しないことや、退職勧奨後に配置転換が行われたことなどが指摘されています。
    大阪高裁はこれらの経緯を踏まえて、配置転換には報復として退職に追い込む目的があったことを認定し、配置転換命令を権利濫用として無効と判断しているのです(大阪高裁平成25年4月25日判決)。

    特にパワハラや嫌がらせを目的とした配置転換などは、無効となる可能性が高いのでやめましょう。

  6. (6)うつ病を理由に人事異動を拒否された場合

    うつ病などの精神疾患を患っている従業員に対しては、人事異動を行うに当たって一定の配慮をすることが求められます
    たとえば、通院が難しくなる地域へ強引に転勤させることなどは、人事権の濫用として無効となる可能性が高いです。

    過去の裁判例
    実際に、うつ病で継続的に通院している従業員を、静岡から埼玉に転勤させた事案が問題となった裁判があります。
    裁判所は結論として転勤命令を有効としましたが、うつ病患者が信頼関係のある精神科へ継続的に通院する必要性はそれなりに尊重されるべきであることや、転勤によってうつ病患者に社会生活上の支障が生じ得る可能性を指摘しています(東京地裁平成25年3月6日判決)。

    うつ病の従業員が通院を理由に転勤を拒否した場合には、できる限り代替人員を探すことが望ましいといえるでしょう。

4、従業員との労働問題が生じたときに、弁護士へ相談すべき3つの理由

会社と従業員の間に労働問題が生じたときは、速やかに弁護士へ相談するべき3つの理由があります。

  1. (1)トラブルの早期解決が期待できる

    労働問題の実績がある弁護士は、従業員とのトラブルを解決するためのノウハウを有しています。弁護士がノウハウをいかして適切に対応すれば、トラブルの早期解決が期待できます

  2. (2)本業に集中できる

    弁護士にトラブル対応を一任すれば、会社がその対応に多くのリソースを割かずに済みます。その結果として本業に集中でき、売り上げなどへの悪影響を最小限に抑えられるでしょう。

  3. (3)再発防止策を適切に講じることができる

    弁護士に相談すれば、従業員とのトラブル対応だけでなく、問題の再発防止策についてもアドバイスを受けることができます
    弁護士のアドバイスを踏まえてコンプライアンスを徹底し、従業員にとっても働きやすい職場を作ることにより、将来的なトラブルのリスクを抑えられます。

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5、まとめ

従業員に人事異動命令を拒否されたら、会社の人事権の範囲を確認した上で、どのように対応すべきかを判断しましょう。引き続き人事異動を命ずることも十分考えられる一方で、代替人員を探すことも検討すべきです。

人事異動を拒否する従業員への対応については、トラブルの深刻化を防ぐため、弁護士のアドバイスを受けましょう。

ベリーベスト法律事務所は、人事・労務管理に関する企業のご相談を随時受け付けております。従業員に人事異動を拒否されてお悩みの企業は、お気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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