企業法務コラム
派遣労働者を派遣先からさらに別の会社へ供給する「二重派遣」は、職業安定法違反の違法行為です。
違反に対しては刑事罰が科される可能性もあるため、別の会社から労働力を受け入れようとする企業は、二重派遣に巻き込まれることがないように十分注意しなければなりません。
本コラムでは、二重派遣に関係する法律上の基本的な知識から、二重派遣による違法状態を回避するためにとるべき方法などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
まずは、二重派遣がどのような状態であるのか、またなぜ違法なのかについて解説します。
二重派遣とは、派遣先が派遣元(派遣会社)から受け入れた派遣労働者を、さらに別の会社に対して労働力として供給し、供給先の指揮命令下で働かせることをいいます。
労働者派遣の仕組みは、派遣契約に基づき「派遣元の従業員でありながら、派遣先の指揮命令下で働く」というものです。
労働者派遣の場合、派遣元は「自社が雇用している」労働者を派遣することになるので、労働者派遣法に基づき、適法に行うことができます(労働者派遣法第2条第1号参照)。
これに対して二重派遣は、派遣先が別の会社に対して、「自社が雇用していない」労働者を送り込む行為です。
二重派遣は、職業安定法に定義される「労働者供給」に該当し(職業安定法第4条第7項)、ごく一部の例外を除いて違法とされています(同法第44条、第45条)。
二重派遣にあたる労働者供給事業が行われた場合、派遣労働者の供給元(=派遣先会社)だけでなく、供給先(=派遣労働者をさらに受け入れる会社)についても、職業安定法第44条違反となります。
二重派遣が違法とされている理由は、2つあります。
① 雇用に関する責任の所在が曖昧になるから
1つ目は、雇用に関する責任の所在が曖昧になるからです。
もともと労働者派遣は、派遣元の従業員を派遣先で働かせるものの、派遣先の従業員にはならないという複雑な構造を持っています。
それに加えて、派遣先から別の会社への二重派遣を認めてしまうと、賃金支払いや労災などについてトラブルが生じた場合などに、関係する会社間で責任の押し付け合いになり、派遣労働者が十分に保護されないという問題が生じかねません。
上記の観点を踏まえて、雇用に関する法律関係がいたずらに複雑化することを防ぐために、二重派遣が禁止されているという側面があります。
② 中間搾取の防止
2つ目は、労働者に対する中間搾取を防止するためです。
二重派遣の場合、お金の流れが以下のように多層構造になります。
つまり、労働者に賃金が行き渡るまでに、多くのマージンが発生するのです。
したがって二重派遣の場合、通常の雇用に比べて、労働者の待遇が極めて低く抑えられてしまうことが懸念されます。
そもそも労働者に対する中間搾取は労働基準法第6条で禁じられていますが、雇用の構造上の観点からも中間搾取を防止するために、二重派遣が違法とされているのです。
派遣先が派遣労働者を物理的には別の会社において働かせるとしても、それが派遣先と別の会社との間の「請負契約」に基づく場合には、二重派遣にはあたらず適法となります。
請負の場合、派遣労働者が別の会社で働く点は二重派遣と同様ですが、指揮命令関係の所在に差があります。
二重派遣 | 二重派遣先と派遣労働者の間に指揮命令関係あり |
---|---|
請負 | 派遣先と派遣労働者の間に指揮命令関係あり |
つまり請負は、あくまでも派遣先との間の指揮命令関係に基づき、派遣先の指示によって別の会社で業務を行っているにすぎないので、二重派遣にはあたらないという整理になります。
指揮命令関係の所在については実質的に判断されるので、業務の実態を精査することが必要です。
問題社員のトラブルから、
二重派遣に関与した企業には、刑事上・行政上のペナルティーが科されるリスクがあります。
二重派遣は、職業安定法第44条に違反する行為です。
二重派遣をした側・受け入れた側の双方に罰則規定が設けられており、違反者には「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」が科されます(同法第64条第9号)。
二重派遣を受け入れる側としては、二重派遣であることを知らなかった場合には、故意が否定され、刑事罰を科されることはありません。
しかし、後で二重派遣であることを知った場合には、それ以降も継続して二重派遣を受け入れていると、職業安定法違反で刑事罰を科される可能性があるので注意が必要です。
二重派遣については、厚生労働大臣により、改善命令等の行政処分が行われる可能性もあります(職業安定法第48条の3第1項)。
厚生労働大臣の改善命令等に違反した場合には、企業名の公表が行われるケースもあるため(同条第3項)、もし改善命令等を受けたら、速やかに違法状態を是正しなければなりません。
問題社員のトラブルから、
別の会社から労働力を受け入れようとする会社が、二重派遣を受け入れてしまうリスクを回避するためには、以下の対応を取りましょう。
派遣労働者を派遣先企業からさらに受け入れる場合には、指揮命令関係がどこにあるかが、二重派遣にあたるかどうかの分かれ目となります。
違法な二重派遣を避けるには、指揮命令関係は派遣先企業に残したうえで、請負の形で派遣労働者を受け入れているという法的整理を行い、受け入れる側の企業は実際に直接指揮命令をしないようにすることが必要です。
したがって、派遣先企業との間で契約を締結する際には、請負であることおよび指揮命令関係が派遣先企業に残ることを明記しておきましょう。
契約上は請負だとしても、業務の実態を見ると指揮命令関係が供給先企業に移っており、実質的に二重派遣と評価されるケースがあります。
これを「偽装請負」と呼びます。
このようなケースで厚生労働省による検査が行われた場合、業務の実態を徹底的に調べられて二重派遣と評価されると、前述した罰金等を科されるリスクが高くなります。
そのため、派遣労働者を受け入れる会社としては、現場において自社から派遣労働者に対する業務指示が行われていないかなど業務の実態を定期的にチェックすることが大切です。
特に業務メールや日報などの報告書には、派遣労働者の業務実態に関する記述が含まれていることが多いので、隅々までチェックすることを心がけましょう。
さらに、派遣労働者本人を含む関係者に対する聞き取り調査も有効です。
また、派遣労働者を「使いやすく」するために、現場の管理職などが勝手な判断によって、派遣労働者に対する業務指示を行っていることがあるかもしれません。
この場合において、二重派遣が違法であると知ったうえで、管理職が業務指示の事実を隠すため、メールや日報などにその事実を記載しないように指示している可能性もあります。
このように、メールや文書に表れない二重派遣を見抜くためには、派遣労働者本人や周囲の従業員などに対して、派遣労働者がどのように業務を行っているかを詳しく聴取し、矛盾や違和感がないかをよく検討することが大切です。
問題社員のトラブルから、
派遣先企業からさらに派遣労働者を受け入れる際には、違法な二重派遣にあたらないように、法律上のチェックを行わなければなりません。
二重派遣にあたるかどうかは、契約の文言は当然のこと、業務の実態にも立ち入って検討・判断する必要があるため、専門的な検討が不可欠です。
そのため、派遣労働者の受け入れを検討する際には、事前に顧問弁護士に相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所にご相談いただければ、契約内容だけでなく労働者の業務実態も踏まえたアドバイスを行います。派遣労働者に関する問題を後顧の憂いなく解決するためには、ぜひベリーベスト法律事務所の顧問弁護士サービスをご利用ください。
問題社員のトラブルから、
派遣労働者については、派遣する側・受け入れる側の双方に対して、法律上の細かいルールが設けられています。
特に二重派遣は明確な違法行為であり、派遣元と派遣先の両当事者に刑事罰が科される可能性があります。
業界スタンダードとして横行している取り扱いの中にも、二重派遣に該当し得るものが含まれているケースがあるので、十分注意が必要です。
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