企業法務コラム
業務委託契約は、さまざまな業種で労働力確保の手段として幅広く活用されています。
ところが、業務委託契約は労働者派遣契約といった他の労働力調達手段と混同されやすく、正しく運用されていないというケースも少なくありません。
そこで本コラムでは、業務委託契約の基礎と、請負契約との違いや業務委託契約書を作成するうえでおさえておくべきポイントについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
業務委託契約とは、企業が雇用している従業員以外の第三者に、業務を委託する契約のことです。
業務委託契約には、業務の繁閑にあわせて柔軟に労働力を獲得すること、つまり人件費の変動費化が可能となり、総人件費の削減につながることが期待できるというメリットがあります。
業務委託契約は、法律的に規定されているものではなく、民法に照らすと「請負契約」と「委任(準委任)契約」を総称した概念として使用されています。
つまり、業務委託契約という枠の中に請負契約があるという関係になります。
それでは、業務委託契約の構成要素ともいえる請負契約と委任(準委任)契約について、それぞれの契約条件の違いをみてみましょう。
請負契約とは、請負人がある仕事を完成させることを注文者と約束し、注文者がその成果物に対して報酬を支払うことを約束することで成立する契約です(民法 第632条)。
請負契約の典型的な例としては、建設工事、プログラムの作成などが挙げられます。
請負契約は諾成契約(だくせいけいやく)です。
したがって、請負人と注文者双方に意思の合致があれば成立します。
しかし、請負契約では請負代金や完成時期、成果物の定義などについてトラブルになりやすいため、後日の紛争を防ぐために契約書を締結しておくことが一般的です。
請負人の仕事が完成しない場合、費用請求・損害賠償はどうなる?
請負人は、請け負った仕事を完成させる必要があり、完成しなければ報酬を請求することはできません。
また、契約の内容に適合しないなど完成させた仕事に瑕疵があった場合は、注文者は請負人に対して当該瑕疵の修補や損害賠償賠償を請求することができます(民法 第636条)。これを、請負人の瑕疵担保責任といいます。
その他、請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約を解除することができます(民法第641条)。
委任契約とは、ある法律行為を、委任者が受任者に委託し、受任者がこれを承諾することによって成立する契約です(民法 第643条)。
たとえば、弁護士との法律事務処理の委託や、不動産売買において不動産会社と締結する媒介契約などが委任契約の典型です。
なお、委任契約と民法上は同じルールが適用されるものの、法律行為以外のことを第三者に委任する契約のことを準委任契約といいます(民法 第656条)。準委任契約は広義の意味としては、委任契約のひとつと考えられるため、ここでは委任契約と準委任契約をあわせて「委任」としてご説明します。
● 請負契約と異なる点1:報酬の請求
委任契約は、請負契約とは異なり、仕事の完成がなくとも、一定の委任事務が適正に履行されれば報酬を請求することができます。
たとえば、医者に治療を委任した結果、完治しなかったとしても報酬は発生します。
つまり、完治という結果に対して報酬を支払うというわけではなく、医者に治療をしてもらうという処理を委任しているためです。
● 請負契約と異なる点2:瑕疵担保責任
また、委任契約では請負契約のように、瑕疵担保責任は問われません。
そのかわり、受任者は委任契約の本質に従い善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務を負います。これを、善管注意義務といいます(民法 第644条)。
● 請負契約と異なる点3:双方がいつでも契約を解除できる
その他、委任契約では請負契約とは異なり、委任者・受任者の当事者双方が、いつでも契約を解除することができます。
ただし、相手方に不利な時期に委任契約を解除したことにより相手方に損害が生じた場合は、委任契約を解除した当事者に損害賠償責任が生じることがあります(民法 第651条)。
業務委託による労働力の確保を検討する場合、一般的にどのような点を検討・考慮する必要があるのでしょうか。
業務委託で仕事を依頼するときに、もっとも注意すべきポイントは、依頼する業務内容や、成果物の有無です。
内容によって、請負契約が適しているのか、委任(準委任)契約が適しているのかは異なります。
また、業務内容が単純な肉体労働である場合は、業務委託契約ではなく、労働者派遣契約とする必要があるという点も留意しておく必要があります。(労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(37号告示))
業務委託契約では企業と委託先の労働者との間に雇用契約が発生しないため、労働基準法の適用を受けることがありません。
その一方で、実際に働いている受注者の労働者と雇用契約がないこと、すなわち発注者として受注者の労働者に対し指揮命令権がないことは、
があることを意味します。
また、人手不足が深刻な職種の場合、必要なときに必要な能力・スキルを持った発注先を見合ったコストで確保できるとはかぎらず、確保できたとしてもかえって高コストになってしまうデメリットも考えられます。
業務委託契約では、何を・いつまで・どのレベルで完成すべきか、そして報酬はどのようなものなのかを明示しなくては、受注者は業務に着手できません。これが業務委託契約書の核となります。
この点を踏まえたうえで、業務委託契約書において特に明確にしておきたい事項は、次のとおりです。
なお、業務委託契約を作成するうえでは、契約書の内容が偽装請負に該当するもの、あるいは疑われるものではないようにしておくことが重要です。
偽装請負とは、実態が労働者派遣法によって規制される労働者派遣に該当するものであるにもかかわらず、契約上は業務委託契約または請負契約としていることをいい、偽装派遣と呼ばれこともあります。
前述したように業務委託契約においては、発注者が受注者または受注者が雇用する労働者に対して、直接指揮命令をすることは認められていません。
したがって、発注者が直接指揮命令するためには、労働者派遣法などの規定に従う必要があります。
しかし、派遣労働者を受け入れることのできない業種や、労働者派遣法上の規制を免れるため、あえて業務委託契約や請負契約というような実態とは異なる契約形態で派遣労働者を受け入れているケースが、偽造請負の典型ともいえるでしょう。
偽装請負は、労働者の不安定な雇用問題や労働災害が発生したときに責任の所在が不明確になるなど、さまざまな問題を生じさせるおそれがあります。
労働者と実態とは異なる契約をし、偽造請負を行った事業主は、次のような罰則を受ける可能性があります。
① 労働者派遣法
許可を受けないで一般労働者派遣事業を行ったとして、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられる可能性があります(第59条2号)。
② 職業安定法
偽造請負の場合、厚生労働大臣の許可を受けず、有償で労働者供給事業を行っているケースがほとんどです。この場合は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます(第44条・第64条9号)。
また、その事業者から供給された労働者を指揮命令の下で労働させた場合も、同様の罰則を受けます。
③ 労働基準法
労働基準法第6条では、中間搾取を禁止していますが、偽造請負は中間搾取に該当する可能性があります。この場合、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます(第118条)。
注文者も搾取をほう助したとして、同様の罰則を受ける可能性があるでしょう。
偽造請負によって労働力を得た場合、行政指導や勧告も
なお、事業主から偽造請負によって労働力を得たようなケースでは、労働者派遣事業主としての許可や届け出のない事業者から労働者の派遣を受け入れたとして、行政指導や勧告がなされます。
また、発注者が勧告に従わなかった場合は、会社名が公表される可能性もあるため注意が必要です。
業務委託契約を締結する場合は、偽装請負のようなリーガルリスクを避けるためにも、弁護士に相談することをおすすめします。
企業法務の実績が豊富な弁護士であれば、業務委託契約書のリーガルチェックはもちろんのこと、トラブルが発生したときは会社の代理人として解決に向けて対応することが可能です。
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