企業法務コラム
問題行動を引き起こす職員・従業員に対しては、会社は懲戒処分を行うことも検討すべきです。
しかし、事実誤認があったり、処分の内容が重すぎたりすると、懲戒処分が違法・無効となってしまいます。そのため、必ず合理的な基準に沿って慎重に検討を行い、従業員側からの反論に耐えられる状態を作っておきましょう。
この記事では、労働者の規律違反に対する懲戒処分の判断基準などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
懲戒処分の内容は、会社の就業規則などにおいて定められます。
多くの会社で採用されている懲戒処分の種類には、主に以下のものがあります。
「戒告」は、従業員に対して口頭で注意を行う懲戒処分です。
「けん責」は、従業員に対して始末書の提出を命じ、反省を促す懲戒処分です。
戒告とけん責は、いずれも従業員に具体的な不利益をもたらすものではなく、懲戒処分の中ではもっとも軽い部類に位置づけられます。
「減給」は、会社が従業員に対して支払う賃金を減額する懲戒処分です。
減給の懲戒処分は、以下の2つの金額が上限とされています(労働基準法第91条)。
たとえば、減給処分が4月に行われるケースで、1月から3月までの給与総額が90万円(総日数90日)の場合、平均賃金は1万円ですので(労働基準法第12条第1項)、①は「5000円」です。したがって、1回の非違行為に対する減給は5000円が限度になります。
また、もし4月の給与が30万円であれば、②はその10分の1である「3万円」となります。
したがって、同一の労働者による数回の非違行為があった場合でも、4月に行う減給の総額は3万円が限度となります。
「出勤停止」は、従業員に対して出勤することを一定期間禁止し、その期間について賃金を支払わない懲戒処分です。
出勤停止処分の日数には、法律上の上限はありませんが、就業規則で上限が設定されるのが一般的となっています。
「降格」は、従業員の役職などを下位のものに引き下げる懲戒処分です。
降格処分を受けた従業員には、役職給などが支給されなくなるため、従業員は出勤停止よりもさらに大きな経済的不利益を受けることになります。
「諭旨解雇」は、従業員に対して退職を勧告する懲戒処分です。
仮に従業員が退職届の提出に応じない場合には、懲戒解雇へと移行するのが一般的になっています。
「懲戒解雇」は、会社が一方的に労働契約を終了させ、従業員を強制的に退職させる懲戒処分です。
懲戒解雇は、すべての懲戒処分のうちでもっとも重い処分であるため、会社側としても、その判断には慎重さが要求されます。
問題社員のトラブルから、
会社が適法に懲戒処分を行うためには、労働基準法や労働契約法の規定を踏まえて、処分が合理的であるかどうかをきちんと検証する必要があります。
具体的には、会社が懲戒処分を行う際には、以下の基準を満たしていることを確認しなければなりません。
会社の従業員に対する懲戒権は、就業規則などの定めにより、それが労働契約の一部となることによって発生します。
したがって、会社が懲戒処分を行う場合は、問題となっている従業員の行為が、就業規則などに定められる懲戒事由に該当することが必要です。
労働基準法第89条第9号においても、懲戒事由は就業規則の必須規定事項とされています。
また、就業規則などで懲戒事由が定められていたとしても、従業員に対して適切に周知されていなければ、その内容が労働契約の一部となることはありません(労働基準法第106条第1項参照)。
よって会社は、懲戒事由を明確に定めた就業規則を従業員に周知したうえで、従業員の行為がどの懲戒事由に該当するかをきちんと検討しなければなりません。
会社が懲戒処分を行う際に、もう1つ注意しなければならない基準が「懲戒権の濫用」です。
労働契約法第15条では、仮に懲戒事由が認められる場合であっても、懲戒処分を行うことについて客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には、懲戒権を濫用したものとして、懲戒処分が無効になる旨を定めています。
つまり会社は、「従業員の規律違反がどのくらい悪質か」を踏まえて、その悪質性に釣り合う程度の懲戒処分を行う必要があるということです。
実際に懲戒処分を行う際には、懲戒権の濫用と判断されることを防ぐため、懲戒処分が重すぎないよう配慮する必要があります。
問題社員のトラブルから、
どの程度の違反行為が各懲戒処分の種類に相当するかの目安について、例を挙げて紹介します。
以下はあくまでも目安に過ぎないので、各会社において合理的な懲戒処分基準を設けて適切に運用してください。
戒告やけん責は、軽微かつ初回の規律違反に対して課すのが妥当といえます。
たとえば無断欠勤を1日だけした場合や、中程度以下の業務上のミスを犯した場合などは、戒告やけん責に相当することが多いでしょう。
業務上の重大なミスや、職場外での軽微な不祥事などが判明した場合には、初回であれば減給に相当するケースが多いでしょう。
また、戒告やけん責に相当する軽微な規律違反であっても、反省なく繰り返される場合には、減給が相当となるケースもあります。
出勤停止は、従業員を職場から隔離したうえで反省を促すべきと判断される場合に行われることが多いです。
たとえば、職場内での暴力があった場合や、重要な職務命令を拒否した場合などは、出勤停止に相当すると考えられます。
降格は、上司としての資質に重大な疑問符を生じさせるような規律違反に対して行われます。
たとえば、部下に対するハラスメント行為や、職場外で刑事事件(きわめて悪質なものを除く)を引き起こした場合には、降格に相当することが多いでしょう。
諭旨解雇・懲戒解雇は、従業員がきわめて悪質な規律違反を犯した場合や、規律違反について改善の見込みがないと判断される場合に行われます。
その分、違法・無効とされるリスクも高いため、企業は厳格な基準を設けて、諭旨解雇・懲戒解雇の相当性を判断しなければなりません。
たとえば以下のようなケースでは、諭旨解雇や懲戒解雇がやむを得ないと判断されるでしょう。
問題社員のトラブルから、
懲戒処分が違法・無効と判断されないようにするには、会社は以下の各点に留意して、懲戒処分の合理性を慎重に検討してください。
事実誤認に基づく懲戒処分は、常に違法・無効となります。
そのため、従業員が本当に規律違反を犯したのかどうかについて、書類・メール・録音などの客観的な資料から裏付けられるかをきちんと検証しましょう。
会社の一方的な論理によって懲戒処分を行った場合、適正な手続きが行われなかった点を捉えて、懲戒処分の適法性に疑義を呈される可能性があります。
懲戒処分の手続きの適正を確保するためにも、必ず従業員に弁明の機会を与えましょう。
その際、従業員が自由に話せるように、プレッシャーを与えない環境を整えることが大切です(人事担当者が1対1で面接するなど)。
従業員の規律違反を許せないという気持ちがあっても、いきなり減給以上の重い懲戒処分をする場合は、懲戒処分が違法・無効とされるリスクが高まります。
会社としては、社内の基準や裁判例の基準などを踏まえて、懲戒処分の合理性を慎重に検討すべきです。
場合によっては、軽い懲戒処分から段階的に引き上げていくことも検討しましょう。
従業員が懲戒処分に対して不服である場合、懲戒処分の違法・無効を主張されることも考えられます。
会社は、従業員からの反論に備えて、主に以下の点をきちんと説明できるようにしておくべきです。
上記の各事項については、労働基準法や労働契約法との関係を踏まえた検討を行う必要があるので、弁護士に相談しながら対応することをお勧めいたします。
問題社員のトラブルから、
会社が懲戒処分を行う際には、きちんと事実の調査を行い、また処分の内容が重すぎないかを検討する必要があります。事実誤認に基づく懲戒処分や、不相当に重い懲戒処分は違法・無効とされてしまうので注意しましょう。
会社が懲戒権を適切に行使するには、労働基準法や労働契約法の観点を踏まえたリーガルチェックが不可欠です。
ベリーベスト法律事務所にご相談いただければ、懲戒処分の妥当性に加えて、日々の労務管理の方法などについてもアドバイスを差し上げます。
従業員に対する懲戒処分を検討中、あるいは労務管理の改善を目指す企業担当者の方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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