企業法務コラム

2021年06月22日
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従業員のミスで生じた損害に対して、会社は損害賠償を請求できるのか?

従業員のミスで生じた損害に対して、会社は損害賠償を請求できるのか?

従業員がミスをして会社に損害が生じてしまったということはよくあることです。このような場合に、会社は従業員に対して損害賠償を請求することはできるのでしょうか。

従業員は会社のために働いていることから、従業員の責任は会社の責任とも考えられため、問題になります。また、仮に損害賠償が認められるとした場合、給与から差し引くことは許されるのかなどの問題もあります。

そこで今回は、過去の裁判例も見ていきつつ、従業員に対して責任追及する場合の注意点について解説します。

1、従業員に対する損害賠償請求は許されるのか?

労働者が仕事でミスをしたことによって、会社に損害を与えた場合、それが労働契約に違反するものであった場合、「債務の不履行」にあたり、民法第415条により損害賠償請求が認められます。また、労働者の行為が「不法行為」に該当する場合にも、民法第709条に基づき、会社側は損害賠償請求をすることができます。ただ、「使用者責任」や「報償責任の法理」から従業員への損害賠償責任は一定の制限があります。

報償責任の法理とは、「利益の存するところに損失も帰するべき」という法理です。会社は利益を出すために活動しているのだから、損失も会社が負うべきということです。この法理に従うと、会社が利益を得ておきながら、損失が出たら従業員に負わせるということは許されないということになります。

ただ、従業員の重過失によって損失が生じたような場合には、会社に生じた損害を従業員に求償(請求)するということは可能です。この場合でも、損害の公平な分担という見地から、信義則を根拠として減額されることが一般的です。減額の幅は、労働者側が行った加害行為の態様や労働者の地位、労働条件などによって変わってきます。

一方、従業員が金品を横領した場合や故意による不法行為で会社に損害を与えたような場合には、全額の損害賠償請求が認められます。横領は犯罪行為であり、会社に帰責性があるとは考えられず、従業員の故意行為についても営業によって生じた損失とは言えないからです。

2、会社が従業員に対して損害賠償請求した裁判例

会社が従業員に対して損害賠償を請求した有名な裁判例がありますので、事件の概要やどのような判決が出たのが解説します。

● 茨石事件
この事件は、X社の従業員Yが、会社の業務としてタンクローリーで重油を輸送中に、A社の車両に追突する事故を起こしたというものです。X社は、車両の修理費用などで約33万円の被害を被ったほか、A社に対して損害賠償約8万円を支払いました。そして、これらの計41万円をYに請求しました。しかし、第一審、控訴審とも、請求金額の4分の1の限度でのみ請求を認容したため、これを不服としてX社が上告しました。
しかし判決では、原審の判断は正当として是認できるとし、X社の上告を棄却しました。

この判決は、従業員の加害行為によって損害を被った場合には、信義則を根拠として損害の額から減額すべきことを明らかにしたものです。その減額の内容は、使用者の態様(事業の性質、規模など)と従業員の態様(業務の内容、労働条件など)を勘案して、考えるべきとしました。

その上で、本事案では、X社の事情として、資本金が800万円で従業員が50人もいる規模の会社であること、対物保険、車両保険に未加入であること、Yの事情として、臨時的な業務に従事中の事故であったこと、賃金額が月額4万5000円と少ないこと、勤務成績が普通以上であることなどを考慮して、賠償額を4分の1に減額するのが妥当であると判断しました。

3、損害賠償を予定する契約

前章の裁判例のように、労働者に全額の損害賠償請求することが難しいのであれば、あらかじめ損害賠償について契約で定めておけばよいのではないかと考える方もいるかもしれません。

しかし、労働基準法第16条では、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額の予定をする契約をしてはならない」と規定しています

この規定の立法趣旨は、損害賠償を理由に労働者に労働を強制するなどの弊害を防止し、退職の自由を確保することにあります。

ただ、会社の費用で海外留学をして、帰国後すぐに退社するような場合に、その留学費用については会社に返還すると定めるケースがあります。
このような規定や契約は労働基準法第16条違反にはならないとされることもあります(東京地判平成14.4.16:野村證券留学費用返還請求事件)

ただ、海外留学が、業務命令として行われた場合、または、海外留学において実際には業務の遂行がなされていたような場合には、企業がその費用を負担すべきものであるから、留学費用返還の合意は労働基準法第16条に違反するとする裁判例もあります(東京地判平成10.3.17:富士重工業研修費用返還請求事件)。

4、損害額を給与と相殺することは許されるのか?

  1. (1)賃金の全額支払いの原則

    労働基準法第24条では、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」と規定しており、所得税の源泉徴収など法律に特別の規定がない限りは、勝手に相殺することは許されません。

    この規定は、会社が労働者の給与から不当に搾取することを禁止して、労働者の生活の安定を図ることを目的にしています。

    損害賠償金について賃金との相殺が禁止されるとの明文規定はありませんが、判例上、会社から従業員に対して債務不履行や不法行為に基づき損害賠償請求を行う場合にも、賃金と相殺することは原則として禁止されています(関西精機事件 最二小判昭和31.11.2等)。

  2. (2)罰則

    賃金の全額支払いの原則に違反した場合には、30万円以下の罰金に処せられる可能性があります(労働基準法第120条第1号)。

  3. (3)合意による相殺の有効性

    このように原則は賃金との相殺は許されませんが、判例上、給料からの一定額の相殺について、従業員の合意があり、それが労働者の自由意思に基づいてなされたものであると認められる合理的な理由が客観的に存在する場合には、賃金全額払いの原則に反しないとされています(日新製鋼事件 最二小判平成2.11.26)。

5、まとめ

今回は、従業員のミスにより会社に損害が生じた場合の労働者への求償について解説してきました。労働基準法では、労働者の生活の保護の重要性から賃金の全額支払いの原則が定められており、損害額をかってに賃金から差し引くことは禁止されています。

それを知らず、給与から差し引いたような場合には、30万円以下の罰金に処せられる可能性があります。そのようにならないためにも、しっかりとした対応が求められます。

ベリーベスト法律事務所では、従業員トラブルや労働問題に通じた弁護士が在籍しておりますので、お気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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