企業法務コラム
知的財産権は、現代企業が営業を行うにあたって必要不可欠な権利といえるでしょう。
知的財産権を第三者に侵害された場合、対応せずに放置していると、売り上げ減少などの被害がどんどん広がってしまいます。そのため、過去の事例などを踏まえて、早急に対応策を講ずることが大切です。
この記事では、知的財産権の侵害事例を紹介しつつ、企業が知的財産権を侵害された場合の対処法などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
知的財産権の侵害事例は、日々あらゆる場所で発生しています。
まずは、知的財産権の侵害について争われた裁判例の中から、代表的な事例をいくつか見ていきましょう。
知財高裁令和2年1月29日判決の事例では、A社が某有名テレビゲームのキャラクターを模したデザインの、衣装やカートなどをレンタルするサービスを提供していました。
この事例において、A社はテレビゲームの名称を盛んに強調して宣伝を行ったり、ドメイン名にテレビゲームの略称を使用したりするなど、無断でテレビゲームの知名度を活用した集客を行っていたのです。
権利者であるB社(ゲーム会社)は、こうした行為を無断で行っていたA社に対して、不正競争防止法違反などを理由とした損害賠償等の請求をしました。
裁判所は、当該テレビゲームの名称が非常に有名である点などを考慮して、A社からB社に対し、5000万円もの多額の損害賠償金を支払うように命じました。
東京地裁平成28年12月19日決定の事例では、C社が運営する某有名コーヒーチェーン店の店舗外観・内装・メニューなどを、同業他社であるD社が無断で模倣していました。
C社は、D社がC社の有名な店舗外観などを利用して集客を行っている点について、不正競争防止法違反を根拠として、当該店舗外観などの使用の差し止めを求める仮処分を申し立てました。
裁判所は、C社の店舗外観などが特徴的かつ有名であることや、D社の使用していた店舗外観などがC社のものと誤認混同されるおそれがあることなどを認定して、使用差し止めの仮処分を一部認めました。
知財高裁平成24年3月22日判決の事例では、切り餅の国内シェア第2位のE社が、第1位のF社を特許権侵害で訴えました。
第一審では請求棄却となりましたが、知財高裁はこれを覆して、控訴人(一審原告)の請求を認めた点が特徴的です。
E社が特許出願していた特許の内容は、加熱した際に内部の餅が外部に突然膨れ出て落ちてしまうことを防ぐために、切り餅の側面に切り込みを入れるというものでした。
一方F社は、側面のみならず上下面にも切り込みを入れた切り餅を販売して、利益を得ていたのです。
裁判所は、E社の特許の範囲には、切り餅の側面だけでなく、上下面にも切り込みを入れた切り餅も含まれていると判断して特許権侵害を認め、F社に対して約8億円の損害賠償および食品・製造装置の廃棄を命じました(その後、第2次訴訟でも7億円以上の損害賠償が認められています)。
そもそも知的財産権とは、どのような権利なのでしょうか。
所有権などとは異なり、つかみどころがなくわかりにくい面もありますので、ここで基本的な知識を押さえておきましょう。
特許庁のホームページによると、知的財産権制度とは、人間の幅広い知的創造活動の成果について、その創作者に一定期間の権利保護を与えるようにした制度をいいます。
たとえば何らかの技術が発明された場合、創作者に知的財産権を与える見返りとして、それを社会全体に公開させます。すると、その技術をベースとしたさらに新しい技術が生まれるなど、社会の発展が促進されます。
創作者の側も、「知的財産権」という報酬が認められることにより、「創作を行って公開しよう」というモチベーションが高まり、次々と創作物が生まれる好循環が発生します。
このように、知的財産権制度によって創作者を保護することには、創作活動を促進して社会の発展に寄与するという目的があるのです。
知的財産権にはさまざまな種類があります。日本で認められている知的財産権は、おおむね以下のとおりです。
① 特許権
自然法則を利用した高度な技術的思想の創作にあたる「発明」を保護する権利です。特許法でルールが定められています。
② 実用新案権
「発明」のように高度性は求められないものの、自然法則を利用した技術を保護する権利です。実用新案法でルールが定められています。
③ 意匠権
模様・色彩・建築物の形状・画像などのデザインを保護する権利です。意匠法でルールが定められています。
④ 著作権
文芸・学術・美術・音楽等に関する創作物を保護する権利です。著作権法でルールが定められています。
⑤ 回路配置利用権
半導体集積回路の回路配置の利用を保護する権利です。半導体集積回路配置法でルールが定められています。
⑥ 育成者権
植物の新品種を保護する権利です。種苗法でルールが定められています。
⑦ 営業秘密
企業のノウハウや顧客リストの盗用などの不正競争行為は、不正競争防止法により禁止されています。
⑧ 商標権
商品やサービスに使用するマークや音などを保護する権利です。商標法でルールが定められています。
⑨ 商号
事業主が営業上使用する名称は「商号」として保護され、他の人が不正に流用することは商法で禁止されています。
⑩ 商品等表示
有名な商標などの不正使用は、不正競争防止法で禁止されています。
⑪ 地理的表示
産地と結びついた特徴的な産品の名称は、「地理的表示」として保護されます。地理的表示法でルールが定められています。
知的財産権を侵害された場合の対処法は、大きく分けて、
の3通りがあります。
それぞれの対処法について、どのようなことに注意すべきか確認していきましょう。
差し止め請求とは、知的財産権の侵害に当たる行為をやめるように、裁判所から加害者に対して命じてもらうよう請求することをいいます。
知的財産権が侵害された状態が続いていると、被害者の売り上げの一部が加害者に奪われ続けてしまいます。そのような状態を解消するためには、一刻も早く差し止めを実現しなければなりません。
早期に知的財産権の侵害状態を解消するには、前半で紹介した事例にもあったように、侵害行為に対する差し止めの仮処分を申し立てることが有効です。
差し止めの仮処分は、権利が侵害されているか侵害されるおそれがあり、被害者に生じる著しい損害又は急迫の危険を避けるために差し止めをする必要があると認められる場合に申し立てることができ、その後に提起される本案訴訟の前段階で迅速に審理が行われるというメリットがあります。
そのため、まずは差し止めの仮処分を申し立てておき、その後の裁判で知的財産権の侵害を徹底的に主張する、という流れを取るのが良いでしょう。
知的財産権の侵害は、民法上の不法行為に該当するため、被害者は加害者に対して損害賠償を請求できます。
知的財産権の侵害事例では、各法律において損害額の推定規定が設けられていることも多く、通常の不法行為に基づく損害賠償に比べれば、損害額の立証の面で被害者に有利な取り扱いがなされているのが特徴です。
ただし、侵害があったかどうかを立証するには専門的な知識や技術が必要となるので、弁護士のサポートを受けると良いでしょう。
なお、緊急に差し止めを求める必要がなく、損害賠償について柔軟な解決を目指したいという場合は、訴訟ではなく「知財調停」の手続きによることも考えられます。
どの手続きが適しているかはケースバイケースなので、弁護士に相談しながら手続きを進めることをおすすめします。
知的財産権の侵害には、刑事罰が設けられている場合もあります。被害者として加害者に刑事的制裁を受けてほしいと考える場合は、捜査機関に対して刑事告訴を行いましょう。
特に知的財産権の侵害については、刑事訴追には被害者の告訴を必要とする「親告罪」も含まれており、その場合、訴追には刑事告訴が必須となります。刑事告訴の手続きについては、弁護士にご確認ください。
知的財産権を侵害されているのではないかと思い至った場合には、その段階で早めに弁護士に相談することをおすすめします。
前述のとおり、知的財産権の侵害がある状態では、被害者には売り上げ減少などの実害が継続的に発生している可能性があります。
また、知的財産権にはさまざまな種類があり、どのような対応を取っていくべきなのか、ケース別に判断していかなくてはなりません。
適切な対応を取り、一刻も早い侵害状態の解消を目指すために、弁護士と協力して迅速な対応を取ることが大切です。
訴訟や知財調停などの法的手続きにおいて知的財産権侵害を主張する場合も、ベリーベスト法律事務所の弁護士にお任せいただければ安心です。
知的財産専門チームの弁護士が、過去の対応事例なども踏まえつつ、依頼者の親身になって対応いたします。
また、特許などの事案であれば、グループ所属の弁理士と適宜連携をしたうえでの対応も可能です。
知的財産権が侵害されているのではないかと少しでも疑問に思った方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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