企業法務コラム
上場会社である大企業では、コーポレートガバナンス(企業統治)の強化などを目的として、社外監査役の設置が義務付けられるケースがあります。
社外監査役には、会社法において厳しい要件が定められており、同時に業務監査に関して高い資質が求められます。この点、弁護士が社外監査役として適任である場面は多いので、自社で社外監査役の選任が必要となった場合には、弁護士への依頼をご検討ください。
この記事では、社外監査役の役割・要件・他の役職との違いなどについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
株式会社の組織設計には幅広い選択肢が用意されていますが、一定の条件を満たす株式会社については、社外監査役の設置が義務付けられています。
まずは、どのような場合に社外監査役が必要となるかについて、基本的なルールを理解しておきましょう。
会社法上、監査役の役割・権限は、「取締役の職務の執行を監査する」こととされています(会社法第381条第1項)。
取締役には、株主利益を最大化することを目的として、善管注意義務(民法第644条)に基づき、公正・適切に経営を行うことが求められます。
しかし、取締役が経営権を濫用して私腹を肥やすなどの悪行を働いていたとしても、会社経営に日頃から携わっていない株主には、その事実を看破することは困難です。
そこで、取締役に近い場所からその業務執行を監視し、不正があれば取締役の責任を追及することが、監査役に求められる役割といえます。
上記の役割を果たすため、監査役には以下の権限・義務が与えられています。
監査役には、以下の要件を満たす限り、原則としてどのような人でも就任することができます(会社法第335条第2項)。
しかし、例外的に監査役会設置会社では、監査役の半数以上が「社外監査役」でなければならないと定められています(同条第3項)。
社外監査役の要件は後述しますが、大まかに言えば、会社の経営陣と個人的なつながりがないことが高い確度で担保される人材でなければ、社外監査役になることはできません。
つまり監査役会設置会社では、経営陣からの独立性が確保された社外監査役を監査役会の半数以上とすることによって、より実効的に業務執行監査をするべきものとされているのです。
さらに、監査役会の設置は原則として任意ですが、以下の条件をすべて満たす株式会社については、監査役会の設置が義務付けられます(会社法第328条第1項)。
したがって、上記の要件をすべて満たす株式会社は、監査役会の設置が義務付けられる結果、同時に社外監査役の選任も義務付けられます。
社外監査役の役割は、法的には通常の監査役と同様です。
すなわち、監査役の一人として独立した立場から取締役の職務執行を監査するほか、監査役会の一員として以下の職務を行います(会社法第390条第2項)。
監査役会設置会社における監査役の中で、社外監査役にカウントできるのは、以下のすべての要件を満たす者のみです(会社法第2条第16号)。
社外監査役にこのような要件が設けられているのは、取締役などの経営陣との癒着が疑われる人を類型的に排除し、社外監査役の高い独立性を確保することを目的としています。
この観点から、グループ会社を含めた取締役・会計参与・使用人を務めたことがある人は一定期間社外監査役になれないほか、会社の取締役や重要な使用人などについても、社外監査役としては欠格とされています。
社外監査役以外にも、取締役の業務執行を監視する役割を与えられている役員として、「社内監査役」と「社外取締役」があります。
これらの役員と社外監査役を比較した場合、どのような違いがあるのでしょうか。
社外監査役と社内監査役は、どちらも同じ「監査役」として、法的には同じ役割・権限を与えられています。
ただし社内監査役は、もともと会社の使用人であったなど、会社と以前から関係がある人である点が、社外監査役との大きな違いになります。
また、監査役会は常勤の監査役を選定しなければならないとされているところ(会社法第390条第3項)、一般的には社内監査役が常勤となるケースが多いです。
これは、社外監査役に就任する外部専門家などは、他の職をかけ持っているケースがほとんどであることを理由とします。
社外取締役は、社外監査役と同じく、会社からの独立性を確保する観点から、会社法上の適格要件が定められています(会社法第2条第15号)。
しかし、社外監査役とは異なり、社外取締役はあくまでも「取締役」として、会社の業務を執行する立場にあります。
もっとも、社外取締役は取締役会の一員として、他の取締役の職務執行を監督する職責も同時に担っています(会社法第362条第2項第2号)。
それでも、専ら「監査」を職責とする社外監査役に対して、社外取締役の職責は、どちらかと言えば監査よりも「経営」に力点が置かれている点が大きな違いといえるでしょう。
社外監査役に求められる役割や、会社法上の要件を踏まえると、多くの場合、社外監査役としては弁護士が適任となります。
弁護士が社外監査役として適任である理由は、以下のとおりです。
弁護士は、法律の専門家として、会社の経営陣からは独立した立場と職責を有しています。
外部弁護士に社外監査役への就任を依頼すれば、会社法上の、社外監査役の要件との関係でも問題がないケースがほとんどですし、客観的な立場から取締役の職務執行を公正に監査が行われることを期待できます。
さらに弁護士は、訴訟をはじめとしたトラブル解決に関する専門家でもあります。
監査役は、会社経営に関する膨大な資料・報告書などを丁寧に読み解き、会社内でどのようなトラブルや潜在的なリスクが発生しているかを突き止めなければなりません。
この点弁護士は、資料などに表れたトラブルの火種を見逃さず、的確にピックアップすることにたけています。
そのうえで、トラブルやリスクに対する解決策についても、経営陣に対して率直な意見を述べられる立場にある弁護士は、社外監査役として適任といえるでしょう。
監査役会を設置する株式会社は、監査役の半数以上を社外監査役にする必要があります。
社外監査役は、会社のコーポレートガバナンスを強化する観点から大きな役割を果たす存在です。
弁護士は、独立性・専門性の観点から社外監査役として適任であるケースが多いので、もし社外監査役の選任が必要な場合には、弁護士へのご依頼をご検討ください。
ベリーベスト法律事務所では、事業会社への社外監査役その他の役員の派遣も承っております。
全国各地に多数の弁護士が在籍しておりますので、クライアント企業の事情やカラーに合わせて、適任の弁護士を選任することが可能です。
社外監査役の設置をご検討中の企業経営者・担当者の方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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