企業法務コラム
平成25年の労働契約法の改正によって、有期契約労働者の無期転換ルールが新たに設けられ、これによって、派遣社員であっても無期雇用派遣という形で働くことが可能となりました。
また、労働者派遣法も施行以来、何度も重要な改正が行われていますので、派遣事業を行う企業としては、無期雇用派遣だけでなく労働者派遣に関するポイントを押さえておく必要があります。
今回は、無期雇用派遣事業を検討している事業者に向けて、派遣事業を行う場合の基本的なポイントについてベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
派遣には、「登録型派遣」、「常用型派遣」という2つの派遣体制があります。
以下では、登録型派遣と常用型派遣の概要とそれぞれの違いについて説明します。
登録型派遣とは、派遣先での就業期間のみ、派遣元である派遣会社との間で雇用契約を締結するタイプの派遣です。
「派遣」という言葉からイメージするものとしては、この登録型派遣であることが多いといえるでしょう。登録型派遣は、派遣会社に登録をすることによって、自分の希望に合う派遣先を紹介してもらうことができます。
しかし、派遣会社に登録している状態では、派遣会社との間に雇用契約関係はありませんので、給料が発生するということはありません。
派遣先が決定し、派遣先で働くことになった時点で派遣会社と雇用契約を締結し、派遣先での就業期間が終了した場合には、派遣会社との雇用契約も終了するという特徴があります。
なお、登録型派遣であっても、2か月以上の雇用見込みがある場合には、社会保険に加入させる必要があります。
常用型派遣とは、派遣会社との間で常に雇用された状態で、派遣先で就業するタイプの派遣です。
これによって、派遣先が決まらない間も派遣会社は労働者に対して給料を支払わなければなりません。
そのため、登録型派遣のように単にエントリーするだけでよいというわけではなく、派遣会社で入社試験を受けて、採用選考に通過しなければ採用されることはありません。
問題社員のトラブルから、
平成25年の労働契約法改正によって新たに「無期雇用派遣」という働き方が生まれました。以下では、無期雇用派遣の概要と注意点について説明します。
労働者派遣のタイプとしては、上記のとおり、登録型派遣と常用型派遣の2つがありますが、無期雇用派遣とは、常用型派遣の一種です。
無期雇用派遣社員として働くためには、
のいずれかの必要があります。
無期転換申込権が発生するためには、有期雇用派遣契約が通算5年を超えて更新されたことが要件となりますが、契約期間が3年の場合には、1回目の更新後の3年間に無期転換の申込権が発生します。
そのほかにも、
も要件となります。
無期転換申込権がある派遣労働者から無期転換申し込みがあった場合には、派遣会社は、それを断ることはできず、その時点で無期労働契約が成立することになります。
ただし、無期労働契約が成立したとしても、派遣社員が派遣先企業の正社員となるわけではなく、派遣会社との間で期間の定めのない労働契約が成立するだけです。
派遣先企業の正社員のように、ずっとその会社で働けるわけではなく、将来派遣先企業が変更になる可能性もあります。
無期雇用派遣には、以下の3つの注意点があります。
① 採用の注意点
無期雇用派遣には、以下の2つがあります。
当初から無期雇用派遣として採用する場合には、募集にあたって「無期雇用派遣」という文言を使用するなどして、無期雇用派遣労働者の募集であることを明示する必要があります。
② 解雇の注意点
期間を定めないで雇用された派遣労働者については、派遣先への労働者派遣が終了したとしても、そのことのみを理由として無期雇用派遣労働者を解雇することはできません。
③ 管理の注意点
派遣会社は、派遣元管理台帳を作成して、有期雇用派遣労働者と無期雇用派遣労働者を区別して管理する必要があります。
また、派遣会社は、当該台帳を3年間保存しなければならない義務があります。
問題社員のトラブルから、
労働者派遣法では、労働者派遣を行う事業者に対して、派遣労働者保護の観点からさまざまな義務を課しています。
以下では、派遣事業者が守るべき基本的なルールについて解説します。
同一労働同一賃金とは、
という考え方です。
労働者派遣法の改正によって、同一労働同一賃金は、令和2年4月1日から適用されています。
派遣労働者に対する同一労働同一賃金は、派遣事業者が以下のいずれかの方法によって実現することになります。
派遣事業者は、派遣労働者を雇い入れる際には、教育訓練やキャリアコンサルティングの内容といったキャリアアップ措置について、派遣労働者に対して説明することが義務付けられることになりました。
これまでは、派遣会社におけるマージン率などの開示は、インターネットによる方法以外にもパンフレットの作製や事業所への備え付けでも可能でした。
しかし、令和3年の労働者派遣法の改正によって、マージン率などについては、原則としてインターネットの利用による情報提供が義務付けられました。
なお、情報の公開が義務付けられているのは以下の項目です。
問題社員のトラブルから、
有期雇用労働者からの無期転換申込を回避するために、無期雇用申込権を取得する前に雇い止めをしようと考える事業者もいるかもしれません。
そのような雇い止めは、場合によっては、無効と判断されるリスクがありますので注意が必要です。
有期雇用労働者の雇い止めが問題になった最近の裁判例としては、以下のものがあります。
概要
1年の有期雇用契約を29回、繰り返してきたのに、無期転換ルールが作られたことをきっかけに「契約の更新をしない」という契約更新時に条項を入れ、その年で雇止めをした、という事例です。
労働者はこの雇止めは無効であるとして、会社を訴えました。
裁判の結果
これに対し裁判所は、長い間、更新を繰り返してきたことから、労働者の「今年も契約更新できるだろう」という期待はかなり高かったと思われるし、その期待は合理的であるとし、その期待は労働契約法19条2号により保護されるべきである、と判断しました(福岡地裁 令和2年3月17日判決)。
ある労働者が初めに派遣社員として働き始め、平成24年から被告会社との間で、有期雇用契約を締結し複数回更新しました。
会社側は、労働契約法改正により、契約書に「契約期間は通算して5年を超えない」という条項を、この期間の途中で付け加えました。
付け加えたことに対して、労働者側に特に説明がなされず、その後も契約が更新されていましたが、事業所自体が無くなることになり、会社は労働者に対して雇い止めを言い渡しました。
この雇い止めを言い渡された際に、労働者は契約に「雇用期間は5年を超えない」という条項が追加されていたことを初めて知りました。
労働者は、せめて5年の満了期間までは働きたいと希望し、その満了期間まで働いた後、改めて契約の満了を言い渡されました。
労働者は本件雇止めが無効であると主張して、会社を訴えました。
裁判の結果
裁判所は、この事件に関し、不更新条項が付け加えられた契約について、事業所が無くなる際に説明があったこと、その後は契約更新に関する合理的な期待は消えているとして、本件雇い止めを有効と判断しました(東京地裁 令和2年10月1日判決)。
問題社員のトラブルから、
複数回、契約更新をしている派遣労働者に対しては、契約更新に対する合理的な期待が生じているといえますので、場合によっては雇い止めが無効になるリスクがあります。
雇い止めが有効と判断された上記の裁判例も控訴がなされたため、確定的な判断ではありません。
そのため、派遣事業者としては、今後の裁判所の判断を踏まえた体制の整備が必要になってきます。
労働者派遣法や雇い止めに関する裁判例を踏まえた体制整備や有効な雇い止めを行うためには、弁護士によるサポートが必要不可欠です。
これから労働者派遣事業を始めようとする事業者の方であれば、弁護士に相談をしながら進めていくことによって、法律を順守した体制整備が可能になります。
派遣労働者との間でトラブルが生じる前に、弁護士に相談をすることをおすすめします。
問題社員のトラブルから、
労働契約法の改正に伴う無期転換ルールによって、一定の要件を満たす派遣労働者には無期転換申込権が認められることになります。
派遣事業者としては、無期契約になることを回避するために、契約開始から5年を前に雇い止めを検討することもあるかもしれません。
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