企業法務コラム
経営者が「これから労働者派遣事業を行いたい!」と思ったとしても、すぐに開始できるわけではありません。労働者派遣事業を開始するためには、都道府県労働局に許可申請をする必要があります。そして、許可申請にあたっては、さまざまな書類を準備する必要があるのです。
また、そもそも「許可要件」を満たしていなければ、許可を受けることができません。どのような要件を満たせば許可が認定されるかについて、理解しておくことが重要です。
本コラムでは、労働者派遣事業の許可申請の手続きや注意点について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
労働者派遣事業の許可要件は、労働者派遣制度の仕組みと関わっているものです。
まず、労働者を派遣する際の基本的な流れについて、説明します。
労働者派遣とは、「自己が雇用している労働者」を、その雇用関係を維持したまま、他人のもとに派遣をして、他人の指揮命令を受けて働かせることです。
一般的な労働では、会社と労働契約を締結して、当該会社の指揮命令を受けて、当該会社で働くことになります。
しかし、労働者派遣では、労働者は派遣元との間で労働契約を締結して、派遣元から給料が支払われることになりますが、実際に働くのは派遣元ではなく派遣先であり、派遣先の指揮命令を受けて働くことになるのです。
労働者派遣は、派遣元、派遣先、派遣社員という三者間の契約になります。
そのため、
その両方が必要とされるのです。
派遣契約では、業務内容、就業場所、派遣期間などを定めることが必要とされます。
また、業務によっては、派遣先の派遣受入期間に制限があることがあります。
このような場合には、派遣先の派遣受入期間の制限に抵触しない範囲で派遣期間を定めなければなりません。
さらに、派遣契約には、派遣先の都合による派遣契約の中途解除の際に、派遣社員の雇用安定を図るために必要な措置に関する事項も定めることが必要です。
派遣会社は、派遣社員との労働契約の締結の際に、就業条件明示書を交付して、就業場所、就業時間、業務内容などを明示しなければならないとされています。
また、多くの場合、派遣社員とは期間の定めのある労働契約を締結します。
このような有期雇用労働者に対しては、無期転換ルールが適用されるという点にも注意が必要です。
派遣会社が労働者を派遣する際には、以下の点に注意が必要となります。
労働者派遣事業では、「どんな業務でも労働者を派遣することができる」というわけではありません。
労働者派遣法では、以下の業務については労働者派遣を禁止しているのです。
労働者の保護と雇用の安定を図る目的から労働者派遣法では、労働契約が30日以内の「日雇派遣」は、原則として禁止されています。
ただし、業務内容や日雇労働者の属性によっては、例外的に日雇派遣が認められるものもあります。
労働者派遣事業を営むためには、労働者派遣事業の許可が必要になります(労働者派遣法第5条第1項)。
労働者派遣事業の許可は、厚生労働大臣から受けることになりますが、労働者派遣事業の許可申請は、主たる事務所を管轄する都道府県労働局に申請することになります。
たとえば、東京に本社のある会社が、大阪の支店で労働者派遣事業を行うという場合には、大阪ではなく、東京の労働局に申請を行うことになるのです。
問題社員のトラブルから、
労働者派遣事業(人材派遣業)を新しく行う際には、労働者派遣事業の許可申請が必要になります。
そして、許可申請が認められるためには、以下の要件を満たす必要があるのです。
以前は、労働者派遣事業には、一般労働者派遣事業と特定労働者派遣事業の2種類があり、特定労働者派遣事業を営む場合には、許可ではなく届出で足りるとされていました。
しかし、平成27年の労働者派遣法の改正により、現在は、許可制の一般労働者派遣事業のみになりました。労働者派遣事業を行おうとする場合には、厚生労働大臣の許可が必要になります。
労働者派遣事業の許可が認められるための要件としては、以下の(2)~(5)があります。
労働者派遣事業は、労働力需給調整システムとして認められた事業です。
したがって、特定の企業に対してのみ労働者派遣を行う目的での労働者派遣事業は許可の対象外となります。
派遣事業を行おうとする会社にキャリア形成支援制度があり、派遣労働者に対する適切な雇用管理能力(派遣元責任者の選任、労働保険・社会保険の加入など)があることが必要になります。
派遣事業を行おうとする会社は、個人情報保護法に沿った個人情報の管理をすることが求められます。
派遣事業を適正に遂行することができる能力としては、資産要件と事務所要件があります。
事務所要件としては、以下の要件を満たすことが必要になります。
なお、資産要件については、後述します。
労働者派遣事業の許可申請において要求される資産要件は以下のとおりです。
これまで特定労働者派遣事業者として派遣業を営んできた小規模事業者を対象に、資産要件が当面の間暫定的に緩和されています。
1つの事業所のみを有し、常時雇用する派遣労働者が10人以下である事業主の申請の場合、以下の①~③の要件が求められます。
なお、この緩和された資産要件で申請を行うことができるのは、旧特定労働者派遣事業を行っている事業者に限定されます。
したがって、これから新規に労働者派遣事業を開始する事業者に対しては、この緩和措置の適用は認められず、通常の申請の場合と同様(1)の要件を満たす必要があります。
問題社員のトラブルから、
労働者派遣事業の許可申請の具体的な流れとしては、以下のとおりです。
提出された書類に不備がないかどうかを、労働局の担当者が調査します。
申請書類に不備がない場合には、申請が受理されます。
申請が受理された後、労働局の担当者による現地調査が行われます。
現地調査では、労働者派遣事業を適正に行うことができるかどうかがチェックされ、派遣元責任者に対するヒアリングも行われます。
労働局の調査が終了した後は、申請に対する審査・調査結果を厚生労働省に送付し、厚生労働省において、審査内容をさらに精査します。
厚生労働省では、厚生労働大臣が労働政策審議会に諮問を行い、労働政策審議会からの答申を踏まえて、厚生労働大臣によって申請に対する許可または不許可の決定がなされます。
厚生労働大臣による決定がなされた後に、労働局を通じて許可証が交付されますので、許可証を受領した後に、労働者派遣事業を行うことができます。
労働者派遣事業の許可申請から許可証の交付までに要する期間としては、2か月から3か月程度かかります。
書類に不備があった場合には、さらに時間がかかることもありますので、十分に準備を整えてから申請を行うことが大切です。
労働者派遣事業(人材派遣業)の許可申請の際に提出する必要のある書類は、申請者が法人であるか個人事業主であるかによって異なってきます。
以下では、それぞれの場合に必要な書類について説明します。
法人と個人事業主に共通の提出書類は、以下のとおりです。
法人に特有の提出書類は、以下のとおりです。
個人事業主に特有の提出書類は、以下のとおりです。
問題社員のトラブルから、
労働者派遣事業許可申請の手続きは、非常に細かく複雑であり、要件を満たしているかどうかの確認や、求められる書類の作成や収集が必要となります。
このような手続きは、専門的知識のない経営者がひとりで行ったとしても、スムーズに行うことができず、場合によっては、許可を受けられないこともあります。
そのため、労働者派遣事業の許可を申請する際には、申請の代行を弁護士に依頼することをおすすめします。
また、弁護士に依頼をすることによって、申請代行だけでなく、許可後に労働者派遣事業を具体的にどのように運営するかという点についても相談することができるようになるのです。
労働者派遣事業の許可申請を検討している方は、ぜひ、企業法務の実績豊富な弁護士が多数在籍しているべリーベスト法律事務所にまでご相談ください。
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