企業法務コラム
「紹介予定派遣」は、採用する側・される側のミスマッチを防ぐための人材紹介手法として、近年注目を集めています。
派遣元企業・派遣先企業のどちらにとっても、紹介予定派遣はメリットがある制度ですので、人材受け入れ・紹介の選択肢として念頭に置いておくとよいでしょう。
この記事では、紹介予定派遣の概要・メリット・デメリット・手続きの流れ・注意点などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
紹介予定派遣は「労働者派遣」の一種ですが、通常の労働者派遣に比べると、いくつか異なる部分があります。
紹介予定派遣は、派遣先企業が派遣元企業から人材派遣を受けたうえで、その人材を後に自社の社員(正社員・契約社員など)として正式採用するという一連の仕組みです。
人材派遣と人材紹介の両方の要素が組み合わせられているのが、紹介予定派遣の特徴と言えるでしょう。
通常の「労働者派遣」の場合、派遣社員はあくまでも、派遣元企業に雇用され続ける状態です。
これに対して紹介予定派遣では、派遣社員の雇用主が、派遣元企業から派遣先企業に変更されることが当然に予定されています。
そのため紹介予定派遣は、通常の労働者派遣とは以下の点で異なります。
問題社員のトラブルから、
紹介予定派遣は、派遣元企業・派遣先企業の双方にとって、メリットのある制度です。
その一方で、注意すべきデメリットも存在するため、制度の特徴をよく理解したうえで利用しましょう。
派遣元企業から見た紹介予定派遣のメリットは、労働者派遣に関する手数料に加えて、人材紹介に関する手数料も受け取れる点です。
派遣社員の年収の25%~30%程度が相場となっており、派遣元企業にとっては大きな収益源となるでしょう。
派遣先企業から見た紹介予定派遣のメリットは、派遣社員の働きぶりや人柄などを見てから正式採用できるため、ミスマッチが発生しにくい点にあります。
通常の新卒採用や中途採用では、候補者を採用する前に、実際の仕事ぶりを見ることはほとんどできません。
これに対して紹介予定派遣では、最大6か月間、候補者である派遣社員の働きぶりを観察できるため、派遣先企業にとってはじっくり適性を見極めることができるでしょう。
また、紹介予定派遣を経て、派遣社員を正式採用した派遣先企業は「キャリアアップ助成金」などを受給できます。
助成金の申請要件や申請方法は、厚生労働省の相談窓口などで確認しましょう。
※参考:厚生労働省リーフレット
ただし、上記の各メリットも、実際に派遣社員が派遣先企業で正式採用されなければ、実現しません。
正式採用が実現するには、候補者である派遣社員と派遣先企業の間で、雇用に関する合意が成立することが条件となります。
しかし、派遣社員の側で正式採用を辞退するケースもあり、そうなると派遣元企業・派遣先企業のいずれも、紹介予定派遣のメリットを享受することができないのです。
紹介予定派遣は、正式採用を保障するものではなく、あくまでも人材紹介スキームの1パターンにすぎないことを理解しておきましょう。
問題社員のトラブルから、
紹介予定派遣を行う際には、大まかに以下の流れで手続きが進行します。
派遣元企業は、派遣先企業との間で締結した「紹介予定派遣契約」に従い、派遣先企業に対して候補者となる派遣社員を紹介します。
派遣先企業は、提供された候補者の資料を吟味し、派遣元企業に対して事前面接の依頼を行います。
実際に紹介予定派遣を受け入れる前に、派遣先企業は、候補者である派遣社員の事前面接を行います。
基本的には新卒採用・中途採用の面接と同様に、「本当にこの人を職場に受け入れてよいか」という観点から審査が行われます。
事前面接を経て、派遣社員を受け入れてもよいと派遣先企業が判断した場合、実際に派遣社員が、派遣先企業の事業所において就労を開始します。
紹介予定派遣による就労期間は、前述のとおり、最大6か月です。
派遣先企業は、派遣社員の働きぶりを観察して、正式採用の可否を検討します。同時に、派遣社員の側でも「この職場で腰を据えて働いていけるかどうか」という観点で、正式採用をお願いするかどうかを検討・判断する期間になります。
派遣社員と派遣先企業の両者が合意すれば、正式採用となります。
なお、派遣先企業の側から正式採用を拒否する場合には、派遣元企業の求めに応じて、その理由を明示しなければなりません(派遣先が講ずべき措置に関する指針第2 18(2))。
問題社員のトラブルから、
紹介予定派遣制度を利用する際には、法令・ガイドライン・社会保険・税務等に関する、特有の注意点に留意しておきましょう。
派遣先が、派遣先において直接雇用されていた労働者を、離職後1年以内に再び派遣社員として受け入れることは禁止されています(労働者派遣法第40条の9第1項)。
これは、直接雇用となっている労働者を派遣社員に切り替えて働かせることを防止するためです。
そのため、紹介予定派遣の場合も、派遣先企業は、いったん直接雇用した労働者を、1年以内に再び派遣社員に切り替えて受け入れることは認められません。
紹介予定派遣期間が、すでに候補者の適性を見極める試用期間として機能しているため、二重に試用期間を設けることは、労働者側の地位を一方的に不安定にする意味で不当と言えます。
そのため、紹介予定派遣を通じて直接雇用した者については、試用期間を設けてはならないとされています(労働者派遣事業関係業務取扱要領 第7 18(7)①)。
派遣先企業が派遣社員を直接雇用した場合、それ以降は派遣先企業が雇い主となります。
常勤として雇用する場合や、非常勤でも一定の加入要件を満たす場合には、社会保険への加入手続きをとらなければなりません。
※参考:「適用事業所と被保険者」(日本年金機構)
当然、社会保険料の事業主負担も発生するので注意しましょう。
また、自社で雇用する他の労働者と同様に、給与の支払いを行うことに伴い、源泉所得税の徴収も必要になります。
人事上の手続きについては、十分なノウハウがない場合には、担当行政機関の窓口か、弁護士・社会保険労務士などに相談するとよいでしょう。
紹介予定派遣によって外国人を派遣・紹介する場合、職種に応じた就労ビザや在留カードを、派遣元企業・派遣先企業の双方が確認しなければなりません。
また、派遣先企業が正式採用したことに伴い、外国人労働者の所属先が変更された場合には、地方出入国管理局への届け出が必要になる点も覚えておきましょう。
問題社員のトラブルから、
紹介予定派遣は、流動性の高まっている人材市場の中で、企業が自社にマッチした人材を確保するうえで有意義な制度です。
紹介予定派遣の特徴やメリット・デメリットを理解したうえで、うまく制度を活用すれば、人材の充実により、さらなる企業の発展につながるでしょう。
紹介予定派遣に関しては、法令その他の観点からさまざまな留意点が存在するため、利用の前に弁護士へのご相談をお勧めいたします。
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