企業法務コラム
企業の知名度向上や売り上げを伸ばすうえで、広告や宣伝などのマーケティング活動はとても重要です。しかし、企業のマーケティング活動には法律でさまざまな規制が設けられています。
企業のマーケティング活動において近年問題となっているのが、「ステルスマーケティング」です。ステルスマーケティングそのものを規制する法律は存在しませんが、表示内容によっては行政上・刑事上の処分や損害賠償請求の対象となるおそれがあります。
本コラムでは、ステルスマーケティングがなぜ問題になるのかという点と、マーケティング活動を行うにあたり企業が注意するべき点について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
「ステルス」とは英語で、「こっそり行うこと」「隠密」といった意味をもちます。この意味のとおり、ステルスマーケティングとは、消費者に特定の商品やサービスの宣伝だと気付かれないように、宣伝や口コミなどを行う手法です。ステルスマーケティングはアンダーカバーマーケティング、あるいは略してステマと呼ばれることもあります。
ステルスマーケティングという言葉が世間に広く知られるようになったきっかけは、平成24年に発生した「ペニーオークション詐欺事件」といわれています。この事件では、入札者が応札しても事実上落札することができない仕組みのネットオークションサービスを作り、手数料をだましとったとして、4人が詐欺の容疑で逮捕されました。
この事件で大きく取り上げられたのが、実際には落札していない複数の芸能人などが、自身のブログに格安で落札できたかのように投稿し、同サービスをポジティブに評価していたことです。事件に関与したとされる芸能人やネットメディア関係各社は、立件こそされなかったものの、世間から強く批判されることになりました。
このように、ステルスマーケティングの性質は「さくら」や「やらせ」に近く、今見ているものがマーケティングの一種であるということに、消費者が気付くことが難しいという特徴があります。
ステルスマーケティングは、主に「なりすまし型」と「利益提供秘匿型」の2つに分類することができます。
なりすまし型とは、口コミ情報サイトやインターネット通販のユーザーレビューなどを利用する手法です。事業者が消費者になりすまし、特定の商品・サービスにポジティブなコメントを大量に投稿することで、一般の消費者が購入することを狙うものです。
利益提供秘匿型とは、宣伝目的であることを一切明示していないブログやSNS、動画などのサイトに、企業から依頼を受けた投稿者が、中立的な立場を装いながら特定の商品・サービスについて、ポジティブに捉えられるような表示をすることです。利益提供秘匿型は、芸能人や著名ブロガー(インフルエンサー)など、消費者に対して影響力や発信力のある人物を利用することが多いでしょう。前述した「ペニーオークション詐欺事件」では、この手法が用いられました。
現在、日本においてはステルスマーケティングを直接規制する法律はありません。しかし、景品表示法などの法令違反に問われる可能性があるため注意が必要です。
景品表示法とは、「不当景品類及び不当表示防止法」の略称です。この法律の主な規制対象は、事業者が消費者に対して行う、不当な広告表示や過大な景品の提供などです。これらを規制することで、消費者が自主的かつ合理的にサービスや商品を選択できることを目的としています。
景品表示法は、消費者の「優良誤認」(同法第5条第1号)や「有利誤認」(同法第5条第2号)を招く宣伝・広告などにおける不当表示を禁止していますが、ステルスマーケティングはこの優良誤認または有利誤認に該当する可能性があります。
優良誤認表示とは、実際のものよりも著しく優良であることや、事実に反して競争業者のものよりも著しく優良であると一般消費者に示す表示のことです。
たとえば、実際には80%しか国産の材料を使っていないにもかかわらず、あたかも100%国産の材料を使っているように表示した場合は、優良誤認表示に該当します。
有利誤認とは、取引条件について実際のものよりも著しく有利であることや、競争業者のものよりも著しく有利であると一般消費者に示す表示のことです。
たとえば、「他社商品の2倍の内容量です」と表示していたものの、実際には他社と同程度にすぎなかった場合は、有利誤認表示に該当します。
ステルスマーケティングは、その手法から消費者に対して明確な広告・宣伝表示を行わないため、景品表示法に抵触しないという見方もあるようですが、必ずしもそうとは言い切れないケースもありますので注意が必要だといえるでしょう。事業者が提供する商品やサービスについて広告・宣伝する意思があり、その表示が社会一般の常識に照らし、消費者を著しくあざむく行為である場合は、景品表示法に抵触するおそれがあります。
ステルスマーケティングを行うことによって、企業はどのようなリスクを負う可能性があるのでしょうか。
景品表示法に違反すると、事業者は行政上と刑事上の処分を受ける可能性があります。
行政上の処分は、消費者庁からの「措置命令」と「課徴金納付命令」です。なお、都道府県知事も措置命令を行う権限をもっています。
「措置命令」とは、事業者に対して違法行為を改善するように促す命令のことです(景品表示法 第7条)。誤認を排除するのはもちろんのこと、再発防止策も講じる必要があります。
「課徴金納付命令」は、景品表示法第8条に規定されています。処分の対象となった商品やサービスの売上高か、政令で定める方法によって算定された売上高に対して、3%を乗じた金額を納付しなければいけません。ただし、課徴金が150万円以下になる場合などは、納付の対象外です。
事業者が措置命令に従わない場合、刑事上の処分として、2年以下の懲役または300万円以下の罰金、またはその両方が科されることになります。また、法人に対しては、3億円以下の罰金が科せられます(同法第36条、第38条)。
商品やサービスを購入した消費者から、不法行為に基づく損害賠償を請求される可能性があります。
違法なステルスマーケティングにより行政上や刑事上の処分を受けることで、企業の信用が失墜し、消費者や取引先企業の離反が起こることも考えられます。その結果、企業の経営そのものが行き詰まってしまうこともあるでしょう。
日本ではステルスマーケティングそのものを直接規制する法律はまだありませんが、諸外国の事情は異なります。
たとえばアメリカでは連邦取引委員会法において、商品などを推薦するにあたり、販売者と推薦者の間に「信用性に重大な影響を与える関係」がある場合や「金銭の授受」がある場合は公表するべきという指針を示しています。また、イギリスではステルスマーケティングは違法とされています。
このように、国によって取り扱いは異なるため、海外でのプロモーションを考えている場合は、マーケティング手法についても慎重に検討するべきといえるでしょう。
ステルスマーケティングは、企業にさまざまなリーガルリスクやレピュテーションリスクを招く可能性があります。SNSの普及により、企業も気軽にマーケティング活動を行えるようになりましたが、活動内容に違法性がないのかを慎重に判断するべきといえるでしょう。
企業でのマーケティング活動において法的な問題を抱えている場合や、違法性がないか不安を抱えている場合は、顧問弁護士を活用することをおすすめします。顧問弁護士は企業にとって専属性のある弁護士であり、企業の抱える法的な問題などを相談することが可能です。
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