企業法務コラム

2024年07月31日
  • 解雇

従業員を解雇したい! 解雇できるケース、できないケース

従業員を解雇したい! 解雇できるケース、できないケース

労働者保護の観点から、会社による労働者の解雇には厳しい制約・条件が定められています。

解雇理由が不適切である場合や、解雇手続きに不備があった場合には、不当解雇として労働者とトラブルに発展する可能性があるので注意が必要です。

本記事では、会社が労働者を解雇する際に注意すべきことについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、解雇とは

「解雇」とは、使用者が一方的に、労働者との間で締結している労働契約を解除することをいいます。適法に解雇が行われた場合には、労働契約が終了します。

  1. (1)解雇の種類

    解雇には、「懲戒解雇」「整理解雇」「普通解雇」の3種類があります。

    ① 懲戒解雇
    労働者の就業規則に基づく懲戒の一つとして行う最も重い処分としての解雇です。

    ② 整理解雇
    業績不振に伴う人件費の削減を目的とした解雇です。

    ③ 普通解雇
    懲戒解雇および整理解雇以外の解雇です。

    後述するように、解雇の種類によって要件が異なっており、適法に解雇を行うためにはそれぞれ要件を満たす必要があります。

  2. (2)解雇と退職勧奨の違い

    会社は退職させたい労働者に対して、解雇ではなく「退職勧奨」を行うことがあります。

    退職勧奨とは、使用者が労働者に対して退職を勧めることです。退職勧奨に応じるかどうかは労働者の任意であり、拒否することもできます
    労働者が退職に同意した場合には、退職届を提出させるか、または退職合意書を締結して合意の下で退職したという形をとります。

    これに対して解雇の場合は、会社が一方的に労働契約を解除するため、労働者が同意しなくても労働契約が終了します

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2、解雇を適法に行うための要件

解雇を適法に行うための要件は、解雇の種類によって異なります。懲戒解雇・整理解雇・普通解雇のそれぞれについて、解雇の要件を確認しておきましょう。

  1. (1)懲戒解雇の場合|就業規則上の懲戒事由に該当すること

    懲戒解雇については、就業規則上の懲戒事由に該当することが要件とされています

    就業規則では、労働者がやってはいけない不適切な行為を懲戒事由として列挙することが一般的です。労働者が懲戒事由のいずれかに該当する場合、使用者は労働者に対して懲戒処分を行うことができます。
    懲戒解雇は懲戒処分の最も重いものであり、労働者が懲戒事由に該当することが必要です。

  2. (2)整理解雇の場合|整理解雇の4要件を満たすこと

    整理解雇については、以下の4要件を総合的に考慮して、その適法性を判断すべきものと解されています

    ① 整理解雇の必要性
    高度の経営危機状態にあり、整理解雇が真にやむを得ないと評価できることが必要です。

    ② 解雇回避努力義務の履行
    役員報酬のカット、希望退職者の募集、新規採用の抑制など、解雇を回避する努力を尽くしてもなお、整理解雇がやむを得ないといえることが必要です。

    ③ 被解雇者選定の合理性
    整理解雇の対象者は、合理的な選定基準を策定した上で、それを合理的な方法によって運用して選定しなければなりません。

    ④ 手続きの妥当性
    労働者本人や労働組合に対して、整理解雇の必要性などにつき説明を尽くして、納得を得るプロセスを経ることが求められます。
  3. (3)普通解雇の場合|労働契約・就業規則上の解雇事由に該当すること

    普通解雇については、労働契約または就業規則上の解雇事由に該当することが要件とされています

    解雇事由として挙げられることが多いのは、傷病や障害による労働不能、著しい能力不足や成績不振などです。懲戒解雇や整理解雇の要件を満たす場合についても、念のため解雇事由として挙げられることがあります。

  4. (4)すべての解雇に共通|解雇権の濫用に当たらないこと

    すべての解雇に共通するルールとして、「解雇権濫用の法理」(労働契約法第16条)が適用されます。客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は、解雇権の濫用として違法・無効です

    特に懲戒解雇と普通解雇については、懲戒事由や解雇事由に該当するだけでは、解雇が適法と認められないことがあるのでご注意ください。

3、不当解雇をした場合のリスク

労働者を不当解雇した会社は、以下のリスクを負うことになってしまいます。


  1. (1)労働者の復職を認めざるを得なくなる

    不当解雇は無効であるため、労働契約は終了せずに存続します。したがって、会社は原則として労働者の復職を認めなければなりません

    その結果、たとえばすでに行った配置転換を巻き戻すなど、現場の混乱が生じてしまうおそれがあります。また、代替人材をすでに採用している場合には、余分な人件費が生じてしまいます。

  2. (2)多額の解決金や未払い賃金の支払いを強いられる

    労働者に退職を受け入れてもらうため、会社が労働者に対して解決金を支払うケースがあります。この場合、賃金の6か月分から1年分程度の解決金を支払うことが多く、会社にとっては大きな出費になってしまうでしょう。

    また、不当解雇によって労働者が職場を離れていた期間については、会社が賃金全額の支払い義務を負います。未払い賃金の支払いを併せて請求されると、会社にとっての金銭的負担はさらに大きくなってしまいます。

4、解雇理由別|認められやすい解雇・認められにくい解雇

解雇が認められるかどうかは、その理由によって個別具体的に判断されます
特に、解雇理由が不合理である場合には、解雇権濫用の法理によって無効となってしまうので注意が必要です。

解雇が認められやすい理由、および認められにくい理由の具体例を紹介します。

  1. (1)認められやすい解雇の例

    たとえば以下のような場合には、解雇が認められやすいと考えられます。

    懲戒解雇
    • 無断遅刻や無断欠勤など、勤務中の素行不良が著しく、何度も改善を指導したのに、一向に改善が見られない
    • 重要な学歴や職歴を詐称していた
    • 会社の資金を横領した
    • 重大な犯罪行為をした
    など
    整理解雇
    • 会社が倒産の危機に瀕しており、他のあらゆる手段を尽くしたが、整理解雇を行うことがやむを得ない
    • 震災や天災が発生し、労働者の雇用を維持できなくなった
    • 整理解雇がやむを得ない状況において、成績不振の労働者から順に整理解雇の対象とした
    など
    普通解雇
    • 簡単なミスを何度も繰り返し、指導をしても改善が見られないなど、著しい能力不足が明らかである
    • 業務外の要因によって重大な病気やケガを患い、労働が不可能になった
    など
  2. (2)認められにくい解雇の例

    これに対して、以下のような理由による解雇は認められにくいと考えられます。

    懲戒解雇
    • 無断遅刻や無断欠勤をしたが、まだ一度だけである
    • 労働者の協調性が不足しており、周囲とあまり馴染めていないようだが、具体的なトラブルを起こしているわけではない
    • プライベートで交通事故を起こして罰金を科されたが、あくまでも軽微な過失によるものだった
    など
    整理解雇
    • 会社の業績が前年比で若干悪化したので、人件費を圧縮するために整理解雇を行った(経営危機には至っていない)
    • 整理解雇の必要性は認められるが、誰を解雇するかは社長の好みで選んだ
    など
    普通解雇
    • 他の労働者に比べてやや能力が不足している(ただし、それほど大きな差はない)
    • 業務上の原因による病気やケガを理由に解雇した
    など
    その他
    • 結婚、妊娠、出産などを理由に解雇した
    など

5、労働者を解雇する際の検討手順・手続き

会社が労働者を解雇する際には、以下の手順で適切に検討および手続きを行いましょう。

  1. (1)解雇要件の確認

    解雇の種類(懲戒解雇・整理解雇・普通解雇)に応じて、解雇要件を満たしているかどうかを確認します。特に、解雇権の濫用については厳格に審査されるので、会社においても慎重に検討しなければなりません。

  2. (2)解雇予告(通知)

    原則として、解雇日より30日以上前に解雇を予告する必要があります。労働者に対して、解雇予告通知書を交付しましょう。
    解雇予告をしない場合や、予告期間を短縮する場合には、解雇予告手当を支払わなければなりません(労働基準法第20条第1項)。

  3. (3)解雇

    解雇予告において告知した日付において、解雇の効力が発生し、労働契約が終了します。

  4. (4)退職に伴う各種手続き

    労働者の退職に伴い、以下の手続きなどを行いましょう。

    • 貸与品、資料、データなどの回収
    • 社会保険および雇用保険の脱退手続き
    • 税金および保険料に関する処理
    • 源泉徴収票、雇用保険被保険者証、退職証明書、離職票、健康保険資格喪失証明書などの労働者に対する交付

6、労働者の解雇はあらかじめ弁護士にご相談を

会社が労働者を解雇することは、労働者保護の観点から厳しく制限されています。安易な解雇は不当解雇として無効と判断される可能性が高いので、慎重な検討を行うため弁護士に相談しましょう

弁護士は、解雇の可否や手続き、代替手段である退職勧奨の方法などを、状況に応じて適切にアドバイスいたします。弁護士へのご相談により、労働者とのトラブルの発生を防ぎやすくなりますので、解雇を検討する際には必ず弁護士へご相談ください。

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7、まとめ

会社が労働者を解雇する際には、厳格な解雇要件をクリアできているかどうか慎重に確認すべきです。弁護士のアドバイスを受けながら、解雇の可否や代替手段を用いる必要性などを検討しましょう。

ベリーベスト法律事務所は、人事・労務に関するご相談を随時受け付けております。労働者の解雇を検討している企業の経営者・担当者は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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