企業法務コラム
企業から労働者に対する賞与の支給は、法的な義務ではありません。賞与の有無および支給額の算出方法などは、企業が独自に定めることが可能です。
例外的に、賞与の定め方によっては支給義務が生じるため、一方的に減額または不支給にするのは、違法と判断されるおそれがあります。
今回は、賞与の支給基準と賞与の減額が違法・合法と判断されやすいケースなどについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
まずは、賞与の種類やメリット・デメリットといった基本事項を説明します。
賞与とは、毎月の固定給とは別途、労働者に支給する給与のことです。
具体的には、以下の要件に該当するものが賞与にあたります。
賞与は、性質に応じて主に以下の3種類に分けられます。
賞与は、一般的に年2回、夏と冬に支給する企業が多いですが、毎月支払われる給料とは異なり、賞与の支給に関する法的な定めはありません。
つまり、企業には賞与の支払義務はなく、支給するか、どのような算定基準を設けるかなどは、企業が独自に定めることが可能です。
就業規則で賞与の支給を定めている場合
就業規則に賞与の支給制度を定めている企業は、当該基準に従って賞与を支払う義務が生じます。
そのケースでは、一方的に賞与の減額や不支給を行うと、違法と判断されるリスクがあります。
賞与の支給対象者にも法律上の定めがないため、企業が自由に決めることが可能です。
たとえば、正社員のみに給与を支給し、パート・アルバイトなどの非正規労働者に対しては賞与を不支給とすることもできます。
「同一労働同一賃金」に注意
ただし「同一労働同一賃金」により、正社員と非正規労働者の職務内容や責任が同じであるケースで賞与の支払いに差を設けると、違法となるおそれがある点にご留意ください。
問題社員のトラブルから、
賞与の有無で、企業側にどのようなメリット・デメリットが生じるのかを紹介します。
賞与の算定基準は、企業によってさまざまです。
一般的な賞与の算定基準を紹介します。
従業員の基本給に支給月数を掛け合わせ、賞与の支給金額を決定する方法です。
この計算方法だと賞与の算定が明確になりますが、労働者の貢献が賞与に反映されないため、モチベーションの向上という効果を十分に得られない可能性があります。
等級や役職に応じて同一の賞与額を支給する方法です。
たとえば、「部長職は一律○万円」など、職位や階層に応じて賞与額が変動するのが特徴です。企業への貢献度は、等級や役職に比例するという考えを基本にした算定方法といえるでしょう。
基本給をベースにした支給基準や等級・役職をベースにした算定基準に個人の業績評価も加味して、賞与額を決定する方法です。
これにより、労働者個人の企業への貢献度が賞与額に反映されるため、モチベーションが上がり、業績の向上が期待できます。
企業の業績に応じて賞与額を決定する方法で、一般的に「業績連動型」と呼ばれます。
業績が安定していない中小企業では、業績が落ち込んでいるときに賞与支給の負担が大きくなる給与連動型ではなく、業績連動型賞与が採用されるケースが多いです。
賞与評価期間中の勤怠実績を評価して、賞与額を決定する方法もあります。
賞与評価期間中に欠勤などがあった場合、その期間を控除して賞与額を決定しますので、まじめに働いている労働者ほど満額に近い賞与を受け取ることが可能です。
有給休暇、育児・介護休業などは欠勤扱いにはできない
有給休暇、育児・介護休業などを理由とした休みを不利益に取り扱うことは法律により禁止されているため、これらの期間を賞与計算上、欠勤扱いにすることはできません。
賞与の支給基準を就業規則により明確に定めている会社は、労働者に対する賞与の支払義務が生じます。
賞与の減額や不支給が可能かどうかは、賞与の支給基準の内容や個別具体的な状況によって異なります。
たとえば、正当な理由なく賞与の減額・不支給を行えば、違法と判断される可能性が高いです。嫌がらせ目的で特定の労働者のみ賞与を減額する、育休取得者の賞与を減額するなどの扱いは、違法といえるでしょう。
賞与の減額や不支給についての合法・違法は、規定や状況により個別判断が必要となるため、まずは弁護士に相談するのがおすすめです。
企業の業績悪化を理由に、賞与を減額するのは違法なのかを解説します。
賞与の支払いに関する法律上の規定は存在しないため、賞与の支払いをするかどうかは、基本的には企業が独自に定めることができます。
しかし、多くの企業では「業績状況などにより賞与を支給しないことがある」といった規定を設けています。
この場合、業績を踏まえて減額したとしても、企業の裁量の範囲内となるため、直ちに違法になることはありません。
賞与の算定に基本給をベースとする方法、役職・等級をベースとする方法を採用しているケースは、その内容に従うことが基本です。
就業規則で、「賞与を支給することがある」と書いている場合
就業規則において、単に「賞与を支給することがある」という規定だけを設けている際は、賞与支給の有無および支給額は、すべて企業の裁量で決めることが可能です。
このようなケースでは、業績悪化を理由に賞与を不支給としても、合法と判断される可能性が高いでしょう。
就業規則で、「賞与を支給しないことがある」と書いている場合
また、就業規則で賞与の算定基準を明確に定めていたとしても「企業の業績状況などにより賞与を支給しないことがある」という留保を設けておけば、業績の悪化を理由に賞与を減額することもできます。
業績の変動が大きい企業では、賞与の支払いにより経営状態が悪化することがないようにするためにも、就業規則を見直して、そのような留保を設けておくとよいでしょう。
就業規則に留保を設けていない場合は要注意
就業規則において賞与の算定基準を明確に定めており、上記のような留保を設けていない場合、会社には算定基準に従って計算した賞与を支払う義務が発生します。
このようなケースでは、労働者の同意なく、会社側が一方的に賞与を減額することはできず、違法と判断される可能性が高いでしょう。
これはあくまでも一般論で、結論が異なることもあります。合法か違法かを正確に知りたいときは、弁護士にご相談ください。
賞与を支給する際には、賞与から社会保険料や所得税の控除を行わなければなりません。
賞与から控除される社会保険料としては、以下のものが挙げられます。
問題社員のトラブルから、
毎月の給料とは異なり、賞与を支給するかどうか、どのような算定基準を設けるかは、企業が独自に定めることが可能です。
特別な規定がなければ、賞与を支給しないという判断も可能ですが、賞与の支給基準を明確に定めているケースは、一方的な減額・不支給は違法と判断される可能性もあります。
労働者とトラブルになるのを回避するには、就業規則の見直しなどが重要です。
その際は、弁護士によるアドバイスやサポートが有効ですので、まずは弁護士にご相談ください。
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