企業法務コラム

2024年09月25日
  • 時間外労働
  • 36協定
  • 労働基準法

時間外労働とは?労働者に残業させる場合の上限規制や基準

時間外労働とは?労働者に残業させる場合の上限規制や基準

時間外労働とは、法定労働時間を超過して労働することです。

労働者に時間外労働をさせる場合は、36協定を締結しなければなりません。また、時間外労働には割増賃金が発生する点にも注意が必要です。
弁護士のサポートを受けながら、時間外労働の管理や残業代の支払いを適切に行いましょう。

本記事では、時間外労働に関する労働基準法のルールや、残業代の計算方法などをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、時間外労働とは

時間外労働とは、法定労働時間を超える労働のことです。

労働日における残業は、「法定内残業」と「時間外労働」の2つに大別されます。

・法定内残業
法定内残業とは、所定労働時間を超え、法定労働時間を超えない労働のことをさします。所定労働時間とは、労働契約や就業規則によって定められた労働時間を意味します。
法定内残業に対しては、通常の賃金と同じ時給による残業代が発生します。

・時間外労働
これに対して、法定労働時間を超える労働は時間外労働に当たります。
法定労働時間は原則として1日当たり8時間・1週間当たり40時間とされていますが、会社がとっている制度によって異なる場合があります。
時間外労働に対しては、通常の賃金に対して25%以上または50%以上の割増賃金を支払わなければなりません。
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2、時間外労働と「36協定」の関係とは

労働者に時間外労働をさせるためには、労働者側との間で「36協定」を締結する必要があります。

  1. (1)36協定とは

    「36協定」とは、時間外労働や休日労働についてのルールを定めた労使協定です。
    労働者に時間外労働をさせるためには、36協定の締結が必須とされています(労働基準法第36条第1項)。

    また、時間外労働の要件や時間数などについて、使用者は36協定のルールを守らなければなりません

  2. (2)36協定に定めるべき事項

    36協定では、以下の事柄を定める必要があります(労働基準法第36条第2項、労働基準法施行規則第17条)。

    ・通常の規定事項
    • ① 時間外労働・休日労働をさせることができる労働者の範囲
    • ② 時間外労働・休日労働をさせることができる期間(1年間に限る)
    • ③ 時間外労働・休日労働をさせることができる場合
    • ④ 時間外労働の上限時間数、休日労働の上限日数(1日・1か月・1年)
    • ⑤ 36協定の有効期間
    • ⑥ ②の期間の起算日
    • ⑦ 1か月につき時間外労働・休日労働の合計時間数を100時間未満とする旨
    • ⑧ ②の期間の初日から1か月ごとに区分した上で、連続する2か月・3か月・4か月・5か月・6か月の時間外労働・休日労働の合計時間数を、1か月当たり平均80時間以下とする旨

    ・特別条項
    ※1か月当たり45時間、1年当たり360時間(=限度時間)を超えて時間外労働をさせる際のルールを定める条項
    • ⑨ 1カ月の時間外労働+休日労働の合計時間数、1年の時間外労働時間
    • ⑩ 限度時間を超えることができる回数
    • ⑪ 限度時間を超えて労働させることができる場合
    • ⑫ 限度時間を超えて労働させる労働者の健康・福祉確保措置
    • ⑬ 限度時間を超える労働に係る割増賃金率
    • ⑭ 限度時間を超えて労働させる場合の手続き
  3. (3)36協定の締結・届け出の手続き

    36協定は、事業場ごとに締結する必要があります。

    36協定の当事者となるのは、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合または事業場の労働者の過半数を代表する者(=過半数代表者)と、使用者です。

    なお、管理監督者や使用者の意向に基づいて選出された者は、労働者の過半数代表者になることができません(労働基準法施行規則第6条の2第1項)。
    36協定の締結と併せて、その内容を労働基準監督署に届け出る必要があります(労働基準法第36条第1項)。

    届け出をもって36協定が発効し、それ以降は36協定の範囲内で、時間外労働や休日労働を指示できるようになります。

  4. (4)36協定を締結した場合でも、時間外労働には上限がある

    36協定を締結したとしても、時間外労働の指示は36協定で定めたルールの範囲内に限って認められます

    さらに、36協定の定めにかかわらず、以下のルールが強制的に適用される点にも注意が必要です。

    ・原則
    1か月当たり45時間未満、1年当たり360時間未満

    ・特別条項に基づく例外
    • ① 1か月につき時間外労働・休日労働の合計時間数は100時間未満
    • ② 1年につき時間外労働は720時間以内
    • ③ 1か月につき時間外労働が45時間を超える月数は、1年につき6か月以内
    • ④ 坑内労働など、健康上特に有害な業務についての時間外労働は、1日につき2時間以内
    • ⑤ 対象期間の初日から1か月ごとに区分した上で、連続する2か月・3か月・4か月・5か月・6か月の時間外労働・休日労働の合計時間数が、平均1か月当たり80時間以下

3、時間外労働について発生する割増賃金

時間外労働をした労働者に対しては、割増賃金を支払わなければなりません。
時間外労働について発生する割増賃金(=時間外手当)について、計算方法や考え方を解説します。

  1. (1)時間外手当の計算式

    時間外手当の金額は、以下の式によって計算します。

    時間外手当
    =1時間当たりの基礎賃金×割増率×残業時間数
  2. (2)基礎賃金の計算方法

    1時間当たりの基礎賃金は、給与体系ごとに以下の式によって計算します。

    基礎賃金の計算式
    給与体系 1時間当たりの基礎賃金
    年俸制 1年間の基礎賃金÷(1日の所定労働時間×1年間の勤務日数)
    月給制 1か月の総賃金(以下の手当を除く)÷月平均所定労働時間

    ※月平均所定労働時間=年間所定労働日数×1日の所定労働時間÷12か月
    日給制 1日間の基礎賃金÷1日の所定労働時間
    時給制 時給

    ただし、以下の手当は総賃金から除外されます。

    総賃金から除外される手当
    • 時間外手当、休日手当、深夜手当
    • 家族手当(扶養人数に応じて支払うものに限る)
    • 通勤手当(通勤距離等に応じて支払うものに限る)
    • 別居手当
    • 子女教育手当
    • 住宅手当(住宅に要する費用に応じて支払うものに限る)
    • 臨時に支払われた賃金
    • 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
  3. (3)時間外手当の割増率

    時間外手当について支払うべき賃金の割増率は、以下のとおりです。

    時間外労働の区分 割増率
    1か月当たり60時間以内の部分 通常の賃金×125%以上
    ※深夜労働(午後10時~午前5時の労働)でもある場合は、通常の賃金×150%以上
    1か月当たり60時間を超える部分 通常の賃金×150%以上
    ※深夜労働(午後10時~午前5時の労働)でもある場合は、通常の賃金×175%以上


  4. (4)さまざまな労働時間制における時間外手当の考え方

    特殊な労働時間制が適用される労働者については、時間外手当の計算方法も異なる部分があります

    実際の時間外手当の計算ルールは複雑ですが、ここでは主な労働時間制について概要のみ紹介します。

    労働時間制の種類 時間外手当の考え方
    変形労働時間制 日・週・対象期間ごとに時間外労働の時間数を計算した上で、各時間数を合算して時間外手当の額を計算します。
    フレックスタイム制 労使協定で定めた清算期間ごとに、時間外手当の額を計算した上で精算します。
    事業場外みなし労働時間制 原則として所定労働時間働いたものとみなされるため、時間外手当は発生しません。
    ※事業場内で勤務する時間がある場合は、時間外手当が発生することがあります。
    専門業務型裁量労働制 労使協定で定めたみなし労働時間を基準として、時間外手当の額を計算します。
    企画業務型裁量労働制 労使委員会決議で定めたみなし労働時間を基準として、時間外手当の額を計算します。
    管理監督者 時間外手当は発生しません。
    ※責任・権限・待遇などの観点から、経営者と一体的な地位にある労働者に限ります。
    高度プロフェッショナル制度 時間外手当は発生しません。

4、時間外労働のトラブルによって会社が負うリスク

時間外労働について労働者とのトラブルが生じると、会社は以下のリスクを負うことになってしまいます。
これらのリスクを防ぐため、日頃からコンプライアンスを徹底して、時間外労働に関するトラブルの予防に努めましょう。

  1. (1)労働者との訴訟リスク

    時間外手当を含む残業代の未払いが生じていると、労働者から最大3年分をまとめて請求される可能性があります。

    残業代の支払いに関する交渉がまとまらなければ、労働審判や訴訟などの法的手続きへの対応が必要になり、会社は時間的・人的・経済的なコストを負うことになります。
    また、実際に残業代請求が認められると、一度に多額の支出を強いられるおそれがあるので注意が必要です。

  2. (2)報道やSNS拡散によるレピュテーションリスク

    違法な長時間労働を行わせている、残業代を正しく支払わないなどの悪評が報道やSNSなどを通じて拡散されると、会社の評判は低下します。

    その結果、取引先や就職希望者から敬遠され、会社の業績が低迷してしまうおそれがあるので要注意です。

  3. (3)労働基準監督署の調査リスク

    残業代の未払いは労働基準法違反であり、その疑いがある会社に対しては、労働基準監督署が臨検(立ち入り調査)を行うことがあります。

    臨検で労働基準法違反の事実が判明すると、労働基準監督官は事業場に対して是正勧告を行います。
    是正勧告を受けた場合は企業名を公表されることがある上に、悪質なケースでは刑事訴追されるケースもあるので十分ご注意ください。


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5、まとめ

時間外労働などの勤怠管理について労働基準法に違反した取り扱いを続けていると、労働者とのトラブル、レピュテーションの低下、労働基準監督署の指摘などのリスクを負ってしまいます。弁護士のアドバイスを受けながら、速やかに労務管理の改善を図りましょう。

ベリーベスト法律事務所は、労務管理に関する企業のご相談を随時受け付けております。

全国各地にオフィスを設けており、業種別の専門チームも設置しているため、幅広い地域において高品質のリーガルサービスをご利用いただけます。
定額制の顧問弁護士サービスをご契約いただければ、労務管理その他の法律問題について、いつでもお気軽にご相談が可能です。

時間外労働の取り扱いなど、労務管理についてお悩みの企業経営者・担当者の方は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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