企業法務コラム
会社には、人事権があります。そのため、従業員の配置転換や昇格・降格などの人事を自由に行うことが可能です。しかし、気に入らない従業員がいるからといって、正当な理由もないのに配置転換や降格などを行うと、報復人事として訴えられてしまうおそれがあります。
また、そのような意図ではなかったとしても、人事異動に不満を持った従業員から訴えられる可能性もあります。企業としては、このような報復人事によるトラブルを回避するためにも、どのようなケースが報復人事にあたるのか、どのような基準で人事異動の違法性が判断されるのかなどを、しっかりと理解しておかなければなりません。
今回は、報復人事の判断基準や報復人事で訴えられたときの対処法などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
報復人事とはどのようなことをいうのでしょうか。
以下では、報復人事に関する基本事項を説明します。
報復人事とは、特定の労働者に対する報復目的で行われる人事異動のことをいいます。
会社には、労働者の地位や処遇を決定する人事権という権限がありますので、人事権の行使として、労働者の配置転換、転勤、出向、転籍、昇格・降格などを決めることができます。
しかし、人事権の行使は、無制限に認められるわけではありません。
報復人事は、正当な理由に基づく人事権行使とはいえませんので、人事権の濫用として違法・無効です。
報復人事と通常の人事異動は、どちらも人事異動という形式をとりますので、外見上は変わりません。
しかし、人事異動の目的という点で両者は大きく異なります。
通常の人事異動は、以下のような業務上の必要性に基づいて行われます。
一方、報復人事の場合は、このような業務上の必要性はなく、特定の労働者への嫌がらせや報復目的で行われます。
このように通常の人事異動と報復人事は、人事異動の目的が正当であるかどうかによって区別されます。
問題社員のトラブルから、
よくある違法な報復人事や、人事権の濫用にあたるケースとしては、以下のようなケースが挙げられます。
気に入らない部下や性格の合わない社員を別の部署に異動するなど、個人的な感情に基づく人事異動は、正当な理由のない人事異動になりますので、報復人事にあたります。
会社の不正や違法行為を通報する内部告発は、会社の不祥事による被害拡大を防ぐためにも有益な行為といえます。
そのため、公益通報者保護法により内部告発に対して、不利益な取り扱いをすることが禁止されています。
しかし、会社としては、内部告発を会社への裏切り行為と捉え、内部告発をした労働者を閑職に追いやるなどの報復人事が行われることがあります。
妊娠や出産をした女性の労働者に配慮して、負担の少ない部署に異動する、労働時間を短縮するなどの措置は正当な人事異動として認められます。
しかし、妊娠や出産をした女性の労働者を辞めさせる目的で、人事異動を行うことは、不当な動機・目的による人事異動になりますので報復人事に該当します。
退職勧奨は、会社が労働者に対して、退職するよう勧める行為をいいます。
このような退職勧奨は、退職強要にあたらない限りは適法な行為として認められています。
しかし、退職勧奨を拒否したことを理由とする人事異動は、実質的には退職を強要するものと評価できますので、報復人事に該当する可能性が高いでしょう。
配置転換や降格などの人事異動が違法な報復人事に該当するかどうかは、以下のような基準により判断します。
会社による人事権行使は、業務上の必要性に基づいて行われます。
そのため、そもそも業務上の必要性がないにもかかわらず、人事異動を行った場合、報復人事と判断される可能性があります。
ただし、他の人では代替できないといったような高度の必要性までは要求されませんので、労働力の適正配置、人材育成など一定の合理性が認められれば、業務上の必要性は認められる傾向にあります
業務上の必要性が認められるケースであっても、不当な動機・目的による人事異動は、人事権の濫用と判断されます。
動機や目的が不当であるかは、使用者の内心に関わる事情ですので、判断が難しいですが、実務では、異動先の職務の内容や待遇、人事異動がなされた前後の事情などを踏まえて目的や動機を判断しています。
たとえば、人事異動の直前に労働者による内部告発があったような場合には、不当な動機・目的による報復人事と判断される可能性が高いでしょう。
人事異動により労働者に対して著しい不利益を与える場合には、人事権濫用と判断される可能性があります。
労働者に著しい不利益が生じる例としては、以下のものが挙げられます。
なお、人事異動により通勤時間が長くなるなどの事情があっても、著しい不利益とは判断されないのが一般的です。
違法な報復人事を行ったしまった場合には、企業側には、以下のようなリスクが生じます。
報復人事が違法・無効と判断されると、配置転換された従業員が元の部署に戻ることになります。
しかし、報復人事をされたということで当該従業員と上司の関係性は、あまりよい関係とはいえませんので、職場の雰囲気が悪化し、他の従業員にも悪影響を及ぼす可能性があります。
違法な報復人事は、パワハラに該当するリスクもあります。
パワハラに該当すると、当該従業員から損害賠償を求められてしまいますので、交渉や裁判に対応しなければならない負担が生じます。
交渉や裁判の対応に時間や労力を割かなければならなくなると、本業にも支障が生じる可能性があります。
報復人事を行ったということが取引先や顧客などに知れ渡ると、企業の信用性は大きく低下してしまいます。
それにより、違法な行為をする企業とは取引できないとして、取引先から取引の打ち切りを通告されてしまうリスクも生じます。
違法な報復人事は、単に会社と従業員との間の問題だけでなく、企業の対外的な信用性にも関わる問題となり得ますので注意が必要です。
違法な報復人事であるとして、従業員から訴えられてしまった場合、以下のような対応が必要になります。
企業には従業員を適材適所に配置する人事権が認められていますので、企業に与えられた裁量の範囲内であれば、自由に人事異動や配置転換を行うことができます。
正当な人事異動や配置転換であるにもかかわらず、従業員が報復人事であるとして、人事異動を拒否した場合、まずは正当な人事異動であることを丁寧に説明するようにしましょう。
それでも従業員が納得しない場合には、業務命令違反として、懲戒処分を検討します。
ただし、懲戒処分の手続きや選択した処分の内容によっては、懲戒権の濫用として無効になるおそれもありますので、事前に専門家である弁護士に相談するのがおすすめです。
違法な人事異動や配置転換だった場合には、人事権の濫用として当該人事異動や配置転換は無効になります。そのため、ただちに人事異動や配置転換を撤回し、もとの部署や地位に戻す必要があります。
なお、人事異動や配置転換が違法であるかどうかは、さまざまな事情を考慮して判断しなければなりません。
違法かどうかの判断に迷うときは、弁護士に相談してから処分の撤回を検討するようにしましょう。
配置転換や労働問題に関するお悩みは、弁護士に相談することをおすすめします。
従業員により報復人事であるとして訴えられてしまうと、会社側にはさまざまなリスクが生じます。このようなリスクを回避するには、人事異動や配置転換を実施する前に、弁護士に相談することが有効です。
弁護士であれば、人事異動や配置転換に至った経緯などを踏まえて、問題が生じるリスクの有無を判断できます。
報復人事と捉えられてしまう可能性がある場合には、それを回避するための方法をアドバイスしてもらうことができますので、それに従って対応することで従業員とのトラブルを未然に回避することが可能です。
正当な人事権行使であったとしても、人事異動に不満を抱いた従業員から報復人事であると訴えられてしまう可能性もあります。
このような訴えがあった場合には、専門家である弁護士に対応を任せるのがおすすめです。
弁護士から正当な人事権行使であることを法的観点から説明することで、従業員の納得が得られる可能性が高くなります。
また、万が一、労働審判や裁判にまで発展したとしても、弁護士に引き続き対応を任せることができるため、不慣れな対応に時間や労力を割かれることもありません。
問題社員のトラブルから、
会社には、適材適所に従業員を配置し、効率的な事業運営を行うための人事権が与えられていますので、人事権を行使して従業員の人事異動や配置転換を行うことができます。
しかし、人事権も無制限に認められるものではありませんので、業務上の必要性を欠いていたり、不当な動機・目的によるものであったりした場合には、報復人事として違法・無効と判断されるおそれがあります。
従業員から報復人事であるとして訴えられてしまったときは、弁護士によるアドバイスやサポートが必要になりますので、お早めにベリーベスト法律事務所までご相談ください。
会社には、人事権があります。そのため、従業員の配置転換や昇格・降格などの人事を自由に行うことが可能です。しかし、気に入らない従業員がいるからといって、正当な理由もないのに配置転換や降格などを行うと、…
時間外労働とは、法定労働時間を超過して労働することです。労働者に時間外労働をさせる場合は、36協定を締結しなければなりません。また、時間外労働には割増賃金が発生する点にも注意が必要です。弁護士のサポ…
服務規律とは、会社の秩序を守るために従業員が守るべきルールです。服務規律の作成は、法律上の義務ではありません。しかし、服務規律を定めておくことでコンプライアンス意識の向上やトラブルの防止などのメリッ…
お問い合わせ・資料請求