企業では、従業員の規律違反や人事評価などにより、減給の処分を下したいと考えることもあるでしょう。
しかし、減給に関しては守るべき法律上のルールがあり、会社側の一存で減給できるとは限りません。減給が可能な場合でも、上限などのルールを守って行う必要があります。ルールを知らず安易に減給をすると違法となり、当該従業員から未払い給料や慰謝料などを請求され、訴訟にまで発展するおそれがあるため、慎重に対応しなくてはなりません。
そこで今回は、問題のある社員の減給をお考えの経営者や担当者の方に向けて、ベリーベスト法律事務所の弁護士がわかりやすく解説します。
減給とは、広い意味では従業員に支給する給料の額を減らすことを一般的に指す言葉です。狭い意味では、懲戒処分の一種として従業員に支給する給料の額を減らす「減給処分」のことを指します。
会社側は、従業員の不祥事や職務懈怠、能力不足、あるいは会社の業績悪化など、さまざまな理由で減給を検討することがあるでしょう。しかし、労働者にとって給料は生活の糧として欠かせないものなので、安易な減給は許されません。
減給は、例外的な場合に限り、法律上のルールに従って行う必要があります。
問題社員のトラブルから、
減給に関して守るべき法律上のルールとして、以下の4点を知っておく必要があります。
以下で、具体的な内容をひとつずつみていきましょう。
従業員に支給すべき給料の額は、雇用契約で定められています。契約した内容は、原則として当事者双方の合意がない限り変更できないため、会社側の判断による一方的な減給はできないのが原則です。
労働契約法でも、使用者は、労働者と合意することなく、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできないと定められています(同法第9条本文)。
同法第10条では、例外的に労働者との個別の合意がなくても、就業規則の変更によって労働条件を変更することが認められています。しかし、この変更が認められるのは、変更後の就業規則を労働者に周知し、かつ、その変更が合理的なものでなければなりません。
合理的な変更といえるかどうかは、変更の必要性や、変更によって労働者が受ける不利益の程度など、さまざまな事情を総合的に考慮して判断されます。
会社の業績が悪化した場合などは、労働契約法第10条に基づき、就業規則の変更による減給が行われることが多いですが、労働者の利益は最大限に守らなければならないことに注意が必要です。
もう一つ、労働者の合意がなくても減給できるケースとして、懲戒処分としての減給処分を行う場合が挙げられます。懲戒処分を行う場合には、さらに以下のルールを守らなければなりません。
懲戒処分としての減給処分には、労働基準法第91条で以下のとおり上限が定められています。
① について、問題行動を起こした従業員の平均賃金の1日分が1万円とすると、1回の減給の上限額は、その半額にあたる5000円となります。
② について、複数の問題行動を起こした従業員に対しては、問題行動の数に応じて複数回の減給処分を行えます。しかし、その総額は、1回分の賃金支払期間中の賃金総額の10分の1以下でなければなりません。
月給30万円の従業員の場合は、1回分の賃金支払期間中の賃金総額(30万円)の10分の1にあたる3万円が減給の総額の上限となります。たとえ10回の問題行動を起こしていたとしても、1回(1か月)分の給料から5万円(5000円×10回)を差し引くことはできず、3万円までしか差し引けないのです。
減給処分を行えるのは、ひとつの問題行為に対して1回のみであり、繰り返し行うことは許されません。
新聞やニュースなどの報道で、「3か月間、30%減給」といった表現を見聞きすることもあると思いますが、これは、委任契約に基づき就任した取締役や、労働基準法が適用されない公務員などに対して行われる制裁です。雇用契約に基づき働く労働者に対して、同様の制裁を行うことはできません。
ただし、ひとつの問題行為に対する減給の総額が、一賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えた場合、超えた分は次の賃金支払期に持ち越すことが可能です。
前述した月給30万円の従業員の例で、10回の問題行為(減給の総額5万円に相当)があっても、1回分の給料からは3万円しか差し引けませんでしたが、残りの2万円は翌月の給料から差し引くことが認められます。
懲戒処分は、対象となる従業員に重大な不利益をもたらす処分なので、厳格な要件の下に、適切に行う必要があります。
懲戒処分を行う際に満たさなければならない要件は、次の3つです。
何の根拠もなく労働者に対して不利益な処分を下すことはできません。就業規則に懲戒処分の種類と、各処分に該当する事由を掲げておくことで、所定の事由に該当する場合には就業規則を根拠として懲戒処分を行うことが可能となります。
ただし、その処分に、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる場合でなければ、懲戒権の濫用にあたり、無効となります(労働契約法第15条)。つまり、問題行動の内容・程度に照らして重すぎる懲戒処分は認められないということです。
また、懲戒処分を行う際に適正な手続きを踏むことも重要です。問題となる事実の調査は必須であり、さらに、対象者にも弁明の機会を与えるべきでしょう。このような手続きを踏まなければ、誤った事実判断により、重すぎる処分をしてしまうおそれがあります。その処分には「客観的に合理的な理由」があるとはいえず、「社会通念上相当である」ともいえず、無効と判断される可能性が高くなります。
次に、どのような場合に減給が可能なのかをみていきましょう。
業績悪化などの理由で就業規則を変更することで減給が可能な場合もありますが、ここでは、従業員の不祥事や職務懈怠、能力不足など、従業員側の問題で減給が可能なケースとして、以下の4つを紹介します。
それぞれ、内容をみていきましょう。
従業員と個別に話し合い、合意が得られたら、減給することが可能です。この場合には、懲戒処分の要件を満たす必要はありませんし、減給の上限規制も適用されません。ただし、当然ながら自治体が定める最低賃金を下回ることはできません。
また、執拗に減給を迫ったり、不相当に大幅な減給を行ったりすると、形式的には合意があったとしても、その合意は真意ではなかったとして無効になるおそれがあります。その場合は、当該社員から差額分の賃金や慰謝料の支払いを請求され、裁判に発展することもあるので注意しましょう。
減給するためには、当該社員と十分に話し合い、納得して合意してもらうことが重要です。
人事評価で「能力不足」や「意欲の欠如」などと評価された従業員に対して減給を行う場合も、懲戒事由に該当しない場合は合意に基づく減給を目指すことになるでしょう。
懲戒処分としての減給については、前項で説明しました。
減給処分を行うためには、懲戒処分の要件を満たすことと、減給の上限に関する以下の2つのルールを守ることが必要です。
懲戒処分の要件を満たすか疑問があるときや、上限を超えて減額したい場合には、合意に基づく減給を目指すとよいでしょう。
また、問題社員の仕事に対する姿勢を改善させたい場合には、まず戒告や譴責など、減給よりも軽い懲戒処分を行うことを検討すべきです。
懲戒処分の一種として、「出勤停止」を就業規則に規定している会社も多いです。一般的に出勤停止は、減給よりも一段階重い懲戒処分とされています。問題行動の内容・程度によっては、出勤停止処分とすることも考えられるでしょう。
賃金は労働の対象として支払うものですので、出勤停止処分を受けた従業員が働いていない期間中の賃金を支払う必要はありません(ノーワーク・ノーペイの原則。労働基準法第11条参照)。そのため、当該社員の出勤停止期間に応じて減給することが可能です。
出勤停止も懲戒処分ですが、減給とは異なり、上限規制の適用はありません。ただし、問題行動の内容・程度に比して出勤停止処分の期間が長すぎる場合は、懲戒権の濫用として処分が無効となるおそれがあります(労働契約法第15条)。
懲戒処分を行うときは、重すぎる処分を下さないことと、適正な手続きを踏んで処分を行うことに、くれぐれも注意しましょう。
社内のポストによって給料の額が異なる場合は、降格処分に伴い減給することも可能です。
降格処分には、懲戒処分としての降格と、人事権の行使としての降格の2種類があります。
懲戒処分としての降格は、解雇に次いで重い処分です。それだけに、相応に重大な事由がなければ降格処分を行うことはできません。安易に降格処分をすると、懲戒権の濫用として無効となるおそれがあります。
人事権の行使としての降格は、会社側の裁量に基づく判断で行うものです。労働者にどのような役職を与え、どのような業務を任せるかについては、会社側に広い裁量が認められています。この権限のことを「人事権」といいます。
しかしながら、会社側の裁量も無制限に認められるわけではありません。降格という従業員にとって不利益な処分は、業務上の必要性と合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる場合でなければ、人事権の濫用として無効となる可能性があります。
会社の意に沿わない社員に対する嫌がらせや見せしめなどの目的で降格処分を行うと、無効となる可能性が高いといえます。その場合、当該社員から差額分の賃金や慰謝料を請求され、裁判に発展することもあるので注意しましょう。
次に、減給する場合の計算方法をみていきましょう。
従業員との合意に基づく減給の場合は、計算式はなく、労使の協議により合理的な範囲内で減給することになるでしょう。
出勤停止処分の場合は出勤停止の日数に応じて、降格処分の場合は降格前後の待遇差に応じて、減給することになります。
以下では、懲戒処分としての減給処分を行う場合の計算方法について解説します。
懲戒処分としての減給処分では、労働基準法第91条に定められた2つの上限規制を守らなければなりません。そこで、まずは対象従業員の平均賃金を算出します。
「平均賃金」とは、直近3か月間に当該労働者へ支払った賃金の総額を、その期間の総日数で割った金額のことです(労働基準法第12条第1項)。
「直近3か月間」の期間は、賃金締め切り日がある場合には直前の賃金締め切り日から起算します(同条第2項)。
たとえば、毎月末日が賃金締め切り日の会社で、7月の給料支給日に減給を行う場合、「直近3か月間」は4月1日~6月30日となります。
ここでは、この3か月間に対象従業員へ支払った賃金総額が91万円だったとしましょう。
次に、「直近3か月間」の総日数を算出します。
上記の例では、4月1日から6月30日までの総日数が91日です。
「出勤日数」ではなく、「総日数」を算出すべきことにご注意ください。
直近3か月間の賃金総額を、総日数で割ることで、1日分の平均賃金を算出できます。
上記の例では、4月~6月の賃金総額91万円を総日数91日で割り、1日分の平均賃金は1万円となります。
平均賃金を算出できたら、労働基準法第91条の上限規制の範囲内で、減給額を決めます。
1回の減給額は平均賃金の1日分の半額までなので、上記の例では5000円(1万円×1/2)が上限となります。
複数の問題行為があった場合は一度に複数回の減給処分が可能ですが、減給の総額は一賃金支払期における賃金の総額の10分の1までです。
対象従業員の月給が30万円の場合、「一賃金支払期における賃金の総額の10分の1」は3万円となり、これが減給総額の上限となります。
10回の問題行為があった場合、1回あたりの減給の上限が5000円だとすると、総額は5万円となります。しかし、労働基準法91条により、1回の給料日には3万円しか差し引けません。
ただし、差し引ききれなかった2万円は、次の「一賃金支払期」に持ち越すことが可能です。したがって、翌月の給料日に2万円を差し引くことが認められます。
このように、減給の1回あたりの金額と、総額の両方について、労働基準法第91条に定められた上限を超えていないかを確認することを忘れてはいけません。
減給が違法と判断された裁判例は、数多くあります。
懲戒処分としての減給処分で上限規制に違反した事例は客観的に明らかなので、ここでは、それ以外の理由により減給が違法と判断された事例を3つ紹介します。
デイサービスセンターに勤務していた職員について、無断でアルバイトをしたことや、施設の女性利用者から苦情が寄せられているなどの理由で、使用者側が当該職員の同意を得て減給した事例です。
裁判所は、当該職員に問題行動があったとしても、賃金を25%(月給24万円から18万へ)も減額するのは重すぎると判断しました。
使用者側が、このように大幅な減給をしなければならない根拠について、十分な事実調査をした事実や、客観的な証拠を示して当該職員に説明した事実は認められませんでした。
そのため、形式上、当該職員の同意があったとしても、自由な意思に基づく同意であるとは認められないとして、減額処分は違法と判断されました。
会社が定めた賃金グレードに基づき、年1回の人事評価によってグレードのアップダウンを定めていたところ、4年連続のグレードダウンで約30%の減給が行われた件につき、10%を超える減給は無効と判断された事例があります。
1回あたりの減額幅は10%以内であったものの、4年で約30%の減給は労働者に大きな不利益をもたらすものであり、このように大幅な減給を行うことに客観的で合理的な理由があるとは言いがたいとして、10%を超える部分が無効とされたのです。
人事評価に基づく減給に法律上の上限規制はありませんが、事実上は懲戒処分としての減給処分の場合と同様に、「10分の1」を上限の目安として考えた方がよいでしょう。
エステティックサロン等を営む会社で部長職を勤めていた従業員について、部下への接し方や指導監督の手法に問題があるとして次長に降格させ、それに伴い40%を超えて賃金を減額した処分が無効と判断された事例があります。
裁判所は、降格処分については相当であると認め、それに伴い減給をすることにも一定の合理性があると判断しつつも、本件では減給処分を違法と判断したのです。
そもそも会社側は賃金体系の全体を明らかにしていなかったため、減額基準の客観性・合理性が明らかでなく、40%を超える減給は過大に過ぎると判断されました。
このように、降格処分に伴う減給でも、社会通念上相当な範囲を超えると違法となることがあります。
問題社員のトラブルから、
ここまで説明してきたように、減給には難しい問題が数多くあります。従業員に対する減給を適正に行うためには、企業法務に詳しい弁護士へのご相談がおすすめです。
ベリーベスト法律事務所には、企業法務の実績が豊富にございます。当事務所にご相談いただければ、減給の種類の選択から減給の計算、減給処分の手続きに至るまで、わかりやすくアドバイスいたします。
減給の問題に限らず、企業の運営に関わる法律問題全般について、親身にサポートいたします。顧問契約をしていただければ、優先的に対応することも可能です。顧問契約につきましては、月額3980円から豊富なプランをご用意しております。
初回のご相談は30分まで無料ですので、減給などの労働問題でお困りの方は、当事務所までお気軽にお問い合わせください。
企業では、従業員の規律違反や人事評価などにより、減給の処分を下したいと考えることもあるでしょう。しかし、減給に関しては守るべき法律上のルールがあり、会社側の一存で減給できるとは限りません。減給が可能…
近年、長時間労働などを原因とする過労死の増加が社会的に問題視されており、国も働き方改革を推進するなどして、過労死の防止に注力しています。企業としても、過労死が発生すると損害賠償義務を負うだけでなく、…
扶養手当は、従業員が家族を支える際の経済的負担を減らし、安心して働いてもらうための制度です。給与に直接上乗せされるため、従業員にとってはすぐ生活費にしやすく、会社にとっても従業員のモチベーション向上…