企業法務コラム
協調性がない、問題行動や無断欠勤・遅刻を繰り返す、まったく仕事ができない、いっそ辞めてくれた方がありがたいのに……。
このような問題のある社員について、世間では「モンスター社員」という呼び方が定着しつつあります。こうした職場へ悪影響を与えている社員の対処に頭を悩ませている企業も多いのではないのでしょうか。
モンスター社員に何も対応せずに放置していると、モンスター社員から被害を受けた他の社員が退職してしまったり、結果として、企業の責任が問われたりする事態も起こり得ます。
本コラムでは、モンスター社員に悩まされている経営者および管理監督者がとるべき対応方法について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
そもそもモンスター社員という呼称は、学校などの教育機関に対して、自己中心的で理不尽な要求をしてくる保護者のことを総称する「モンスターペアレンツ」から派生した和製英語とも言われています。
そのため、きちんとした定義などはなく、一般的に「客観的にみて企業に対して損害を与えるような問題行動を起こす社員」という意味で使われています。
問題社員のトラブルから、
問題行動を起こす社員は、以下のような特徴が考えられます。
仕事が遅い、ミスを連発する、能率が悪い、売り上げを出せないなどのようなタイプは、本人に悪気があるわけではありませんが、企業側が何も対処しないことによって周囲の他の社員のモチベーション低下を招く可能性があります。
能力面での問題はなくとも、周囲との協調性がないため企業全体の生産性に悪い影響を与えてしまうタイプです。
また、正当な理由もないのに、与えられた人事上の評価に対する露骨な不満を示したり、他部署への異動を要求してくることがあります。
無断欠勤や遅刻はもちろんのこと、出社していても自身の業務をまともに遂行しようとしない社員のことです。
サボタージュにより周囲の他の社員の業務負荷が増大するため、放置しておくと真面目に業務を遂行している他の社員のモチベーションに悪影響を与える可能性があります。
私生活においてギャンブル依存症などのため多額の借金がある社員は、借金があるということ自体は問題とはとらえられませんが、企業に債権者が連絡してくることがあるため、注意が必要です。
また、素行不良タイプの社員が及ぼす問題は、プライベートだけではありません。
他の社員と不倫、女性社員に対するセクハラや部下に対するパワハラを繰り返す場合は、懲戒事由に該当する可能性もあります。
問題社員のトラブルから、
企業がモンスター社員に対して、出勤停止、減給、解雇などの懲戒処分を行いたい場合はどうすればよいでしょうか。
以下では、モンスター社員へ処分を行う前に、確認しておくべき事項についてご説明します。
社員に異動や転勤の命令を下す場合、企業が社員に対して配転を命令する権限を有していることが必要となります。
正社員の契約であれば、「移動や転勤の命令に従う」旨の雇用契約書や、就業規則にそのような記載があるのが一般的です。
該当社員の勤務地を限定していなければ、このような事情によって企業に配転命令権があると判断されます。そのほかでは、全国に支店があり、異動や転勤が想像できる場合も配転命令権があると判断される可能性があります。
ただし、異動や転勤命令に業務上の必要性が存在せず、不当な動機や目的をもってなされた場合や、該当社員の受ける生活上の不利益が大きい場合には、配転命令が権利の乱用として有効と認められない場合があります。
懲戒処分として減給する場合、労働基準法にて減給できる額を以下のように定めています。
労働基準法 第91条
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
つまり、懲戒処分等により減給処分が有効な場合において、1回の違反行為に対して減給できる額は半額まで、また違反行為が複数あったとしても、減給できる額は1か月の賃金支給額の10%までと規定されています。
社員を解雇する場合、問題があるからすぐに解雇というわけにはいきません。
解雇権の濫用だと判断されてしまうと、行った解雇は無効となります。
労働契約法では、解雇について次のように定めています。
労働契約法 第16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
どのような場合に無効な解雇となるのかは、個々の事情によって異なりますが、よほどのことでない限りは、問題を起こしたからといって即刻解雇とすることはできません。
問題社員のトラブルから、
モンスター社員を処分する前段階として、モンスター社員に対する注意指導は必要不可欠のものです。
注意指導は、口頭で何回も辛抱強く行うことから始めます。それでも改善されない場合は、メールや書面により引き続き注意指導を行います。
これは企業としてモンスター社員に注意指導をして改善の機会を与えたという事実を、証拠として残す方法として有効です。
何度も注意や指導を行っても改善がみられない場合には、モンスター社員に始末書や今後問題行為を行わないことを約する誓約書などを提出させます。
始末書や誓約書を提出させることで、モンスター社員による問題行動の事実について、当該モンスター社員自身が認めたことを証するものにもなります。
これらにつき社員が提出を拒む場合は、企業として企業側の認識や対応等につき書面やデータとして残しておくことが望ましいでしょう。
それでもまだ改善されない場合は、転勤などの配置転換を検討します。
配置転換を行う際には、前述のとおり
が必要となります。
また、配置転換の検討は、仮に検討の結果配置転換先がなかったり、配置転換を打診したが拒否されて解雇に至った場合でも、企業が当該社員の雇用維持を図るために、他の適正な配置場所を探すという努力、つまり解雇を回避するための努力をしたことを補完することにもなります。
配置転換先がなかったり、配置転換を打診したが拒否された場合は、懲戒処分を検討します。諭旨解雇や懲戒解雇以外の懲戒処分は、譴責・降格・減給・出勤停止などが考えられます。
いずれも裁判など後日のトラブルに備えるため、モンスター社員の行状が就業規則や各種法令などに照らし懲戒事由に該当するものであることを立証できる証拠書類等を作成しておく必要があります。
退職勧奨とは、企業が労働者に対して「もうあなたを雇えない、辞めてくれないか」などと、退職を勧めることです。注意していただきたい点は、退職勧奨は解雇と異なり、あくまで社員が自主的に退職するように促すことです。
退職勧奨とは、あくまで企業側と従業員による「合意退職」を目指すものです。
もしモンスター社員に対して退職勧奨を穏便に進めたい場合は、希望退職のように退職金の割増や再就職先支援など、ある程度モンスター社員に寄り添った退職条件を提示する方法もあります。
なお、執拗な退職勧奨は「退職強要」とみなされ、程度によっては強要罪や脅迫罪に該当することや、ハラスメント等に該当し、慰謝料等の損害賠償請求の対象になることもありますので、注意が必要です。
たとえば、
「自主退職しないなら解雇する」
「辞めないのなら給料をカットする」
など、不当な条件で退職を強要したり、何度も繰り返し当該従業員を呼び出し
「いつまで居座るつもりなんだ」
「辞めるほうがあなたのためだ」
などと、執拗に退職をもちかけるようなことは、ハラスメント等に該当する可能性があります。
適切な退職勧奨の方法について、詳しくはこちらのコラムで解説しています。
併せてご覧ください。
解雇は、モンスター社員に対する対応策の最終手段です。
解雇には社員の行状に応じて普通解雇や諭旨解雇、懲戒解雇などが考えられます。
いずれにしても、解雇は、これまでのステップを踏まえたうえでもモンスター社員の勤務態度の悪さが改まらず、職場に与える悪影響がこれ以上看過できないと判断できる場合に行うものです。
ただし、解雇は、その有効性をめぐりモンスター社員と裁判などで争いになりやすいため、前述のとおり解雇権の濫用とならないように慎重な判断が必要となります。
問題社員のトラブルから、
モンスター社員に対する対応は、企業の経営者や人事担当者にとって頭の痛いものです。
また、対処方法を誤ってしまうと、企業側が法令違反の責任を問われる可能性があります。
モンスター社員への対処についてお悩みであれば、ぜひベリーベスト法律事務所の弁護士までご相談ください。
労働問題の解決について経験と実績のあるベリーベスト法律事務所の弁護士であれば、モンスター社員の対応について個別事情に応じた解決策を提案することができます。
また、モンスター社員と訴訟トラブルになったときも、企業の代理人として最善の対処が期待できます。
ベリーベスト法律事務所ではワンストップで対応可能な顧問弁護士サービスを提供しています。もちろん、モンスター社員への対応に限らず幅広い分野でご相談を承ることが可能です。
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