企業法務コラム
恋愛は個人の自由です。しかし、社内不倫で企業が受けるプラスの影響は何もないばかりか、それが周知の事実となった場合、企業の社会的評価を損なうなどマイナスの影響を受ける可能性があるでしょう。
あまりにも影響が大きい場合には、社内不倫の当事者である社員に、何らかの処分も検討しなくてはなりません。しかし、企業が不倫を理由に、当事者たちに処分を下せるのでしょうか。
そこで本コラムでは、不倫をしている社員に対して企業は懲戒処分や解雇ができるのか、実際の裁判例をもとに、処分の有効・無効の判断ポイントをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。不倫した社員に対して、企業が行うべき対応や注意点なども併せてご紹介しますので、ご確認ください。
不倫はあくまで社員個人のプライベートの問題です。
基本的に社員個人のプライベートと企業の業務は切り離して考えるべきですので、不倫の事実があったからといって、企業が直ちに不倫について干渉することはできません。
問題社員のトラブルから、
懲戒解雇処分を含む懲戒処分をするに当たっては、まず、就業規則等において懲戒事由を定めておく必要があります。
その上で、「労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして」、「客観的に合理的な理由」が必要であり、「社会通念上相当である」と認められなければなりません(労働契約法第15条)。
そして、懲戒解雇処分とは、社員の規律違反、秩序違反(以下「規律違反等」といいます)に対する制裁として、社員の身分を失わせる処分であり、懲戒処分の中でもっとも重い処分です。
また、懲戒解雇処分の場合には、普通解雇とは異なり、通常は即時解雇として予告期間も解雇予告手当もありません。
さらに、懲戒解雇処分の場合には、退職金の全部または一部が支払われないこともあります。
そのため、懲戒処分を有効に行うためには、社員が単に規律違反をしただけでは足りず、業務を阻害したり、企業に損害が発生したなど、企業秩序を現実に侵害したと認められる必要があり、また、懲戒処分のうちもっとも重い処分である解雇を選択することが相当であり、さらに、本人の弁明の機会を設けるなど、適正な手続を経る必要があります。
したがって、就業規則等で「社内不倫は禁止とする、違反した場合は懲戒解雇処分とする。」などと規定していたとしても、それだけで直ちに有効に懲戒解雇処分をすることができるわけではなく、社内不倫を理由とする懲戒解雇処分が、客観的に合理的な理由を有し、社会通念上相当と認められなければなりません。
なお、「労働基準監督署が就業規則を受理したのだから、その時点で社内不倫の禁止やそれに関する罰則も有効ではないか」とお考えになるかもしれません。
しかし、労働基準監督署に就業規則が受理されているとしても、それは企業が労働基準法第89条に定める「就業規則の届出義務」を履行したことを労働基準監督署が確認したにすぎません。
つまり、上記のような社内不倫を理由とする懲戒解雇処分の規定について、労働基準監督署が、これに基づく懲戒解雇処分を有効であると認めたわけではないのです。
このように、懲戒解雇処分を有効に行うことは簡単ではありません。
先ほども触れましたが、労働契約法第15条は、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」としています。
社内不倫を理由として懲戒解雇処分をすることについて、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められるかどうかは、どのような点に着目して判断されるのでしょうか。
実際に、社内不倫を理由として実質的に懲戒解雇相当であることを認めた裁判例が存在します(東京高裁昭和41年7月30日判決。就業規則上の懲戒事由と同様の内容を労働協約において通常解雇事由として規定していたところ、企業側が労働協約に基づいて通常解雇をした事案)。
これについて、裁判所は以下の理由から運送会社側の主張を認め、バス運転手に対する解雇処分を有効としています。
一方で、懲戒解雇処分が無効となった裁判例もあります(旭川地裁平成元年12月27日判決)。
これについて、裁判所は、以下の理由から女性社員に対する懲戒解雇処分を無効としています。
このケースでは、「企業運営に具体的な影響を与えた」とまではいえない程度の行為であったことが、懲戒解雇が無効になったポイントです。
このように、裁判例を見てみると、当該社員及び不倫相手の地位、職務内容、交際の態様、会社の規模、業態等に照らして、当該社内不倫が、職場の風紀・秩序を乱し、正常な企業運営を阻害したか、企業に損害を与えたかどうかが重要であることが分かります。
社員の社内不倫が、企業運営をどの程度阻害し、企業に対しどの程度損害を与えれば懲戒解雇処分が有効と認められるのかは、個々の事案の具体的な状況を総合的に考慮して判断されるため、企業に一定の悪影響がある場合に、懲戒解雇処分が有効かどうかを判断することは簡単ではありません。
繰り返しとなりますが、社内不倫といってもあくまで社員個人のプライベートな問題のため、これに対する懲戒処分は、慎重に行うべきです。
企業が社内不倫を理由とする懲戒処分をするに当たっては、懲戒処分が相当か(懲戒処分としてもやむを得ないかどうか)を十分に検討しなければなりません。
社内不倫に対して企業が有効な懲戒処分をするためには、たとえば以下のような事実を客観的に認められる(立証することができる)かどうかを考える必要があります。
いずれも、「業務を正常に行っていなかった」「業務に支障をきたした」と客観的に立証できるかがポイントです。
そのうえで、上記行為の態様、企業への影響の程度等に応じ、以下の7種類の懲戒処分から適切な処分を検討します。
最後の懲戒解雇は、先述のとおり数ある懲戒処分のなかでもっとも重い処分です。
懲戒解雇を適用するためには相応の理由が必要となります。
懲戒解雇処分以外の方法として、不倫問題を起こした社員に対し退職勧奨をすることが考えられます。
退職勧奨とは、企業から社員に対して個別に退職を勧めることです。
退職勧奨を穏便に進めたい場合、退職金の増額や再就職先のあっせんなど、社員にある程度譲歩した条件を提示する方法もあります。
なお、あまりにも企業側から執拗(しつよう)かつ一方的に退職勧奨を行うと、退職強要と判断される可能性があります。この場合、企業は損害賠償義務を負う可能性があるため注意が必要です。
適切な退職勧奨の方法については、こちらのコラムで詳しく解説しています。
併せてご覧ください。
社内不倫についてのうわさが広がっているにもかかわらず、これへの対応が不十分だと、いわゆる環境型セクハラを理由として、企業は、損害賠償義務を負う可能性があります。
さらに、たとえば、人事部等からの情報漏えいにより社内に不倫の事実が広まった場合、企業は、個人情報保護法違反やプライバシーの侵害を理由とする損害賠償義務を負う可能性もあります。
社内不倫をした社員に対する処分を検討する際は、社内法務の経験豊富な弁護士へ依頼し、リスクを軽減させることをおすすめします。
社内不倫を理由とする懲戒処分についても、弁護士と協議しながら、対応を検討することをおすすめします。
弁護士であれば、社員の社内不倫に対処するための法的なアドバイスにかぎらず、企業の法的リスクを最小化するアドバイスが可能です。
また、社員との間に入って冷静な話し合いをすることはもちろんのこと、懲戒解雇処分の有効性をめぐって裁判に発展した場合には、企業の代理人として裁判上の手続を進めることができます。
問題社員のトラブルから、
社内不倫は、プライベートな問題のため、有効に懲戒解雇処分をすることは基本的には難しいでしょう。
ただし、社内不倫が企業の業務に明らかに悪影響を及ぼしている場合には、懲戒解雇処分が有効とされる可能性もあります。
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