企業法務コラム
会社の経営難や人事評価、給与規定の見直しなど、さまざまな理由から従業員の給料を減額したいと考えることがあるでしょう。
給料の減額は従業員を解雇するよりは穏便な手段ですが、減給も労働者に対して不利益を与える処分ですので、企業が自由に行うことができるものではありません。適切な手続きを踏んで減給をしなければ、従業員との間でトラブルになる可能性もあります。
今回は、企業が従業員の給料を減額する際のプロセスなどについてベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
労働契約は「契約」ですから、契約当事者である会社と労働者の双方の合意がなければその内容である労働条件を変更することはできません。
労働契約法8条は、「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる」と規定してこの原則を確認しています。
給料も労働条件の1つですから、給料の減額を行うためには、会社と従業員が合意をすることが原則です。
業績が悪化したからという理由で会社が労働者の合意を得ることなく一方的に給料を減額することは、違法です。
問題社員のトラブルから、
上記のとおり、会社が給料を一方的に減額することは違法ですが、以下の場合には、給料の減額を適法に行うことができます。
先に説明したとおり、労働契約の内容を変更する場合、原則として会社と労働者がこれに合意する必要があります。
給料の減額についても、会社が一方的に行うことはできませんが、会社と労働者が減額すること及びその額について合意した場合には給料を適法に減額することができます。
仮に労働者がその後に給与減額に対する同意を取り消すといった主張を行って変更前の給料の支払いを求める訴訟を行うなどした場合、給料の減額は労働者の生活に大きな影響を与えること、また会社と従業員の力関係は対等ではないことから、裁判所はその合意が労働者の真意に基づくものであるかを慎重に判断します。
会社としては、給料減額の必要性や事情についてしっかりと従業員に説明して、従業員の納得を得たうえで行うことが重要です。
なお、個別の合意内容がこの労働者に適用される労働協約と相反している場合には合意は無効となり、労働協約に定める労働条件が適用されます(労働組合法16条)。
また、合意内容が就業規則の定める労働条件を下回っている場合にも合意は無効となります(労働契約法12条)ので注意してください。
労働契約内容を変更するためには、上記のとおり会社と従業員が合意をすることが原則となります。
また、就業規則によって労働条件を不利益に変更することについても、
と規定されており、原則として認められません。
もっとも、就業規則の変更が合理的なものであり、かつ変更後の就業規則を周知させた場合には、例外的に就業規則を変更することによって、労働契約内容を変更することができます(労働契約法10条)。
給料の減額が労働者にとって不利益な変更であることは明らかですから、その変更が合理的である場合に限って、就業規則の変更による給料の減額が有効になるということです。
合理性の判断
合理性の判断に当たっては給料の減額の必要性が考慮されますが、給料の減額が労働者に与える影響は非常に大きいため、高度の必要性がなければならないと考えられています。
また、労働組合等との交渉や労働者への説明など手続きを適切に行って労働者の納得を得ることも重要です。
従業員から個別に合意を得るよりも効率的
従業員から個別に合意を得る方法の場合には、合意を得た従業員との関係でしか給料減額の効果は生じません。
そのため、反対する従業員の給料を減額することはできませんし、従業員の人数が多い場合にはすべての従業員から個別に合意を取ることは非常に労力がかかります。
一方で、就業規則の変更による方法では、給料の減額に反対する従業員に対しても、就業規則の変更によって給料の減額を実現することが可能になります。
労働協約とは労働組合と会社が合意して締結するものですが、労働協約によって労働条件を不利益に変更する方法もあります。
この効力は、原則として労働協約を締結した労働組合の組合員である労働者に及び、一定の条件を満たす場合にはその他の労働者にもこの効力が及びます。
なお、労働組合による組合員の意見集約が不公正・不十分である場合など手続的な瑕疵がある場合や、特定の組合員のみを殊更不利に扱うことを目的とするなど労働組合の目的を逸脱する場合には、労働協約は無効となります。
経営難など会社側の事情を理由とした減額の方法ではありませんが、労働者の能力や成果が芳しくない場合には、それを理由とした減給を行うことができる場合があります。
人事権の行使として降格や配転を行い、それに伴って賃金の引下げをおこなう場合には、就業規則等に予め賃金の体系や基準を定めており、それに基づいて行われることが必要です。
これも経営難など会社側の事情を理由とした減額の方法ではありませんが、
場合には、懲戒処分として給料を減額することができます。
ただし、これはあくまで懲戒処分ですから、他の目的を持って行う場合には懲戒権の濫用として無効となります。
従業員の合意を得る方法で給料の減額を実現する場合には、以下のようなプロセスを経るようにしましょう。
従業員の給料を減額することについて従業員に合意を求める際には、
などについて丁寧に説明することが必要です。
従業員に対する説明を怠ってしまうと、後日、従業員から「詐欺」や「錯誤」を理由にして給料減額の同意を取り消すとか公序良俗に反し無効であるといった主張をされ、減額できなくなる可能性があります。
従業員の理解を真の理解を得るために丁寧に説明しましょう。
従業員に対して上記の説明をした後は、その場で合意をするかどうかの判断を求めるのではなく、十分な検討期間を設けることが必要です。
その場で合意をするかどうかを迫られた結果、従業員が冷静に判断することができないままに合意をしてしまうことや、会社からのプレッシャーによって意に反して同意をしてしまうことがあります。
このような場合には、従業員からの同意があったとしても真意に基づく合意であったとはいえないため、後日、給料減額の合意を取り消すとか無効であるといった主張をされるリスクがありますので注意が必要です。
従業員から給料減額についての合意が得られた場合には、合意を得たことを明確にし、後に争いになった場合には証拠とするために、必ず書面を残すようにしましょう。
就業規則の変更の合理性は、以下の要素などによって判断されます。
給料の減額は労働者に与える影響が非常に大きく、生活に直接的な打撃を与える可能性があるものですから、通常その不利益は非常に大きいものと考えられます。
そのため、その変更(減額)の必要性については高度なものが求められます。
また、一部の従業員の給料だけを減額対象とすることは不公平な取り扱いであるとして相当性が否定されることがあります。
どの程度の変更が合理的なものかどうかは、総合的な判断になりますので、給料の減額を確実に進めたいという場合には、専門家である弁護士に相談をするとよいでしょう。
就業規則の不利益変更によって給料の減額を実現する場合には、以下のプロセスを経ることになります。
就業規則の変更に関しては、労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数を代表する者の意見を聞くことが義務付けられています(労働基準法90条1項)。
あくまでも「意見」を聞くことが義務付けられているのであり、「同意」を得ることまでは義務付けられていません。
従業員代表者の意見が「反対」であったとしても、就業規則変更の届出は受理されますが、今後のトラブルを防止するためにも誠意をもって説明し、同意を得ることができるように努めましょう。
変更後の就業規則、従業員代表者の意見書、就業規則変更届については、事業場を管轄する労働基準監督署に提出します。
就業規則による不利益変更が有効となる条件として、変更後の就業規則を従業員に周知させることが必要となります。
事業場のわかりやすい場所に掲示したり、従業員に書面で交付したりするなどして、従業員全員が知ることができるように工夫して周知しましょう。
給料の減額は、従業員の生活に直接的かつ多大な不利益を与えることになりますので、適切に行わなければトラブルになる可能性があります。
従業員との間のトラブルを回避するためにも以下の点に注意をしましょう。
会社と従業員との関係では、圧倒的に会社が優位な立場にあります。
会社から給料の減額に同意するように求められた場合には、従業員としては真意でなく同意をしてしまうこともあります。
しかし、形式的に従業員から同意があったとしても真意に基づく同意でなければ、後日、給料減額の同意の有効性をめぐって争いになる可能性があります。
従業員から同意を得る際には、あくまでも同意をするか否かは任意である旨を説明し、十分な検討期間を設けるなど合意形成のプロセスに瑕疵がないように配慮することが重要です。
従業員の同意がなかったとしても、就業規則の不利益変更の要件を満たす場合には、就業規則の変更によって給料の減額を行うことができるようになります。
しかし、従業員の同意が不要だからといって、会社が従業員や組合などに丁寧な説明をするなど同意を得るための努力をせずに一方的に不利益変更の手続きを進めてしまうと、変更の合理性が否定される可能性があります。
就業規則の不利益変更の手続きによる場合であっても、従業員や組合に対して説明をし、同意を得られるように努力をしたということが合理性判断にあたっては重要となりますので、ないがしろにしないように注意しましょう。
基本給や諸手当の減額ではなく、個別の労働契約や就業規則において、「業績給」や「調整給」という名目で予め会社の経営状況などから増減額が可能な部分を設けている場合には、その部分においては従業員との個別合意や就業規則の変更によることなく減額することが可能になる場合があります。
個別の労働契約や就業規則においてその支給条件や金額の決定方法についてどのように定められているかなどによって、一方的な減額が許されるかどうか、許されるとしてその範囲はどこまでかなどが変わってきますので、名称に左右されず、実質を見て判断する必要があります。
後のトラブルを避けるために、「業績給」や「調整給」を定めた労働契約や就業規則を実際に弁護士に見せて相談するとよいでしょう。
従業員の給料を減額する場合には、適切な手続きを踏んで行わなければ、給料の減額が違法になり、支払わなかった給与と遅延損害金(利息)を支払わなければならなくなるおそれがあります。
どのような手続きを踏む必要があるかについては、会社の規模、個別の労働契約や就業規則の内容、労働組合の有無など会社の事情に応じて異なってきますので、会社の実情に応じた対策を講じる必要があります。
弁護士であれば、会社の実情を踏まえて適切な手段をアドバイスすることが可能です。
従業員の給料を減額する場合には、弁護士に相談をしながら進めることをおすすめします。
給料減額の手続きに違法な点があった場合には、従業員から訴訟提起をされるリスクがあります。会社としては、想定できるリスクについては回避できるようにすることが重要です。
また、実際にトラブルが生じてしまった場合でも、顧問弁護士と提携することによって、すぐに問題解決に着手することができますので、早期解決を目指した対応が可能になります。
労使トラブルに関しては、事前事後の対応が重要となりますので、会社の実情に応じた対応が可能な顧問弁護士をぜひご検討ください。
問題社員のトラブルから、
給料の減額を有効に行うためには、会社の実情に応じた対策を検討する必要があります。
ベリーベスト法律事務所では、業種別に専門チームを設けていますので、各業種の商習慣に応じたサービスを提供することが可能です。
また、顧問弁護士を初めてご利用する企業でも、お気軽にご利用いただけるように、さまざまな料金プランを準備しています。
必要なときだけ相談をしたいという企業には、月額3980円からのプランもありますので、固定費を減らしたいという要望にもお応えできます。
従業員にとっては不利となる労働条件の変更を検討している企業や給与減額後にトラブルになった企業は、弁護士に依頼した方が安心です。
まずは、ベリーベスト法律事務所までご連絡ください。
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