企業法務コラム
スタートアップ企業の経営者の方の中には、自社製品が他社製品の権利を侵害していないか不安に感じている方もいるかもしれません。他社製品と類似の商品を製造・販売したときには、不正競争防止法に違反する可能性があります。
不正競争防止法は、市場や消費者、競合先、取引先など多くの人の利益を守るために作られた法律です。もし、知らずに不正競争防止法違反をしてしまった場合であっても、損害賠償責任や刑事罰を科される可能性がありますので、不正競争防止法が規制する行為類型を先に理解しておくことが重要です。
本コラムでは、起業家が知るべき不正競争防止法のポイントをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
不正競争防止法とは、どのようなことを目的に作られた法律なのでしょうか。まずは、不正競争防止法の概要について説明します。
不正競争防止法は、不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるかもしれないという不安を持っている人に対して、不正競争の停止・予防請求権などを与えることによって、不正競争の防止を図る目的があります。また、営業上の利益が侵害された者の損害賠償について条文を定めることによって、公正な競争を確保する目的があります。
このように不正競争防止法は、「事業者の営業上の利益」という私益と、「公正な競争秩序」という公益を保護法益としています。
現代社会においては、職業選択の自由が憲法で保障されており、営業の自由についても保障されていると言われています。しかし、市場経済が正常に機能するためには、営業の自由についても一定の制約がされなければならず、そのために制定された法律が不正競争防止法です。
不正競争防止法は、その手段として差止請求や損害賠償請求が規定され、事業者の被害の防止・回復の規定があることから、民事法としての性格を有しています。また、一定の不正競争防止法違反行為については罰則規定も設けられていますので、刑事法としての性格も有しています。さらに、不正競争防止法では、事業活動の成果である財産的な価値を有する情報の保護に関する規制が含まれています。そのため、特許法などとならぶ知的財産法の一部であるといえます。
このように、不正競争防止法は、さまざまな性格を有する法律です。
不正競争の態様については、時代の変化によって多種多様になってきています。そのため、不正競争防止法は、制定から何度も改正を繰り返し、その規制対象が拡大していますので、経営者の方は、今後も改正のポイントを押さえた事業活動を展開していく必要があるのです。
不正競争防止法では、規制の対象となる不正競争行為を10類型に分類して規定しています。以下では、商品を作るときや売るときに問題となる4類型の行為について説明します。
不正競争防止法2条1項1号は、他人の氏名、商号、商標などの他人の商品等表示として、需要者間に広く知られている物と同じ、もしくは似たような表示をして、その商品または営業の出どころについて混同を生じさせる行為を混同惹起行為として規制しています。
たとえば、大阪の「動くカニの形をした看板」という特徴的な商品等表示を、それと無関係な第三者が使用した場合には、同じ系列の店であると誤認させるおそれがあるため、混同惹起行為にあたります。
ただし、混同惹起行為のうち、以下の行為については規制の対象外とされています。
① 商品および営業の普通名称・慣用表示
普通名称や慣用表示については、誰かの独占使用に適さないため、規制の対象外となります。たとえば、板型のチョコレートを「板チョコ」と呼ぶような場合です。(不正競争防止法19条1項1号)
② 自己の氏名を不正の目的ではなく、使用すること
自分の名前を使用する利益は本人は享受できるものです。そのため、不正の目的ではない限り、自分の名前の使用は適用除外とされています。(不正競争防止法19条1項2号)
③ 周知性・著名性を獲得する以前からの使用
先に商品等表示を使用していた者の既得権を保護し、周知・著名商品等表示主と先使用者との公平を図るため、その名前が世の中に知られる以前から、他人の商品等表示を使用しているときには不正競争防止法違反とはならない、とされています。(不正競争防止法19条1項3号、4号)
不正競争防止法2条1項2号は、他人の著名な商品等表示の勝手に使う行為を規制の対象としています。
他人の著名な名前を使っていた場合、それが他の商品と性質などと混同をしていなくても、規制の対象となります。
しかし、混同を要件としないことによって、規制対象が多くなってしまうおそれがあるため、「著名」な商品等表示といえるためには、当該他人の商品等表示が全国的に知られている必要があります。
なお、混同惹起行為については、全国的な知名度までは不要で、一地域で広く認識されていれば足りるとされています。
たとえば、全国チェーンのコンビニエンスストアの商号を、無関係の第三者が利用すれば、著名表示冒用行為になり、特定の地域のみで展開するコンビニエンスストアの商号を第三者が利用したときには、混同惹起行為に該当することになります。
ちなみに、著名表示冒用行為のうち以下の行為については、不正競争防止法19条により、規制の対象外とされています。
不正競争防止法2条1項3号は、他人が作った商品の形をまねして作った物の譲渡などを商品形態模倣行為として規制しています。
たとえば、似たような包装・配置によってタオルセットを販売したときには、商品形態模倣行為に該当することになります。
商品形態模倣行為においても、以下の行為については規制の対象外とされています。
① 一定期間経過後の模倣商品の譲渡など(不正競争防止法19条1項5号イ)
日本国内で、初めて販売された日から3年を経過した商品については、その商品の形態を模倣した商品を販売したとしても規制の対象外となります。
② 善意取得者による模倣商品の譲渡など(不正競争防止法19条1項5号ロ)
模倣商品を譲り受けた者が、その譲受時に模倣商品であることを知らず、かつ、知らないことについて重過失のない場合、その商品を譲渡などしても、規制の対象外となります。
不正競争防止法2条1項20号は、商品・役務の原産地などについて消費者が間違いやすい表現することを、を誤認惹起行為として規制しています。
また、商品や役務の原産地、品質、内容などについて誤認を生じさせる表示に関しては、不当景品類及び不当表示防止法によっても規制されています。
以下では、不正競争防止法の規制対象となる10類型のうち、取引先・競合先との関係で問題となる6類型の行為について説明します。
不正競争防止法2条1項4号から10号は、営業秘密に関する不正行為を規制対象としています。問題となる情報が不正競争防止法上の「営業秘密」に該当するためには、秘密管理性、有用性、非公知性の三つの要件を満たす必要があります。
たとえば、従業員が会社の重要な機密文書を盗んだり、競合会社に開示するなどの行為は、営業秘密に関する不正行為にあたります。
営業秘密に関する不正行為については、営業秘密だと知らずに、または無重過失で取得した場合には、取得した権原の範囲内でその秘密を使用または開示する行為は、不正競争防止法違反とはみなさないとしています(不正競争防止法19条1項6号)。
不正競争防止法2条1項19号は、不正な利益を得たり、他人に損害を加えたりする目的で他人の営業表示等と同一、または類似のドメイン名を取得、保有、使用する行為を規制しています。
ドメイン名は、原則として早い者勝ちで取得できますので、有名企業の知名度にただ乗りし利益を得たり、ドメインを高額な価額で買い取らせるといった行為が規制対象となります。
不正競争防止法2条1項11号から16号は、IDやパスワードなどによって管理し見る人を限定しているデータを不正取得などする行為を規制しています。
たとえば、許可なくIDやパスワードを用いてサーバーに侵入し、情報データをダウンロードするなどの行為が規制対象となります。
限定提供データの不正取得については、そのデータを、見る人が限定されているデータであると知らずに得た場合には、取得した権原の範囲内で、当該限定提供データを開示しても不正競争防止法違反とはならないとしています。(不正競争防止法19条1項8号イ)。
また、無償で広く世間一般に提供されているデータと同じ内容の、見る人を限定したデータであった場合、それを取得したとしても、不正競争防止法の適用はしないとしています(不正競争防止法19条1項8号ロ)。
不正競争防止法2条1項17号、18号は、見る相手を限定するようプロテクトをかけたデータを、そのプロテクトを外したり無力化できる装置や、プログラムの譲渡などの行為を規制しています。
たとえば、CDやDVDなどのコピープロテクションを無効にするソフトを提供する行為が規制対象となります。
不正競争防止法2条1項21号は、競争関係にある者が客観的真実に反する虚偽の事実を告知するなどして、競業者の信用を害し、自ら競争上有利な地位に立とうとする行為を規制しています。
たとえば、競合するラーメン店に対し「粗悪な材料を使っている」、「衛生管理がずさんだ」などの虚偽のうわさを流したときには規制対象となります。
不正競争防止法2条1項22号は、販売権や代理権が消滅したにもかかわらず、代理店といった表示を継続使用する行為を代理表示等冒用行為として規制しています。
不正競争防止法に違反した場合には、以下のように民事上および刑事上の責任を問われることがあります。
① 差止請求
不正競争行為によって、営業上の利益を侵害され、または侵害されるおそれがある場合には、その行為をやめるよう停止する、または利益を侵害しないよう予防することを請求できます(不正競争防止法3条1項)。
営業上の利益は、知的財産権のような排他的独占権があるわけではありませんが、侵害された場合には、金銭的賠償では被害が回復できないおそれがあるため、このような差止請求権が認められています。
② 廃棄除去請求
不正競争行為によって、営業上の利益を侵害されたとき、もしくは侵害されそうなときは、上記の差止請求の際に、当該営業秘密を使用して作られた類似商品や設備の廃棄などを請求することができます。
③ 損害賠償請求
不正競争行為によって、営業上の利益を侵害された場合には、侵害者である相手方に対して損害賠償請求をすることができます(不正競争防止法4条)。不正競争防止法では、損害額の推定規定を設けるなどして、被害者の被害回復を容易にしています。
④ 信用回復措置
営業上の利益を侵害された場合には、故意・過失を要件に、謝罪広告の掲載など、信用の回復するための必要なことをするよう相手に請求することができます。
不正競争行為のうち、違法性の高い行為については、刑事罰の適用があります。
たとえば、営業秘密に関する不正行為のうち、悪質な行為については、営業秘密侵害罪として、10年以下の懲役もしくは2000万円以下の罰金またはこれらを併科すると定めています。(不正競争防止法21条1項)このように、非常に重い刑事罰が予定されていますので、注意が必要です。
スタートアップ企業が新規に事業を始める場合には、取引先や競合先との関係で不正競争行為とならないかどうか、製造する予定の商品が他者の営業上の利益を侵害していないかどうかについて慎重な検討・配慮をしなければなりません。
そのような配慮を怠って、事業活動が不正競争防止法に違反する行為に該当してしまった場合には、せっかく製造した商品がすべて無駄になるだけでなく、企業のイメージを傷つけることになり、回復困難な損害を被ってしまいます。
不正競争防止法に違反するリスクを負うことなく、新規事業をスムーズに進めるためには、顧問弁護士による助言や指導を受けながら進めていくことがおすすめです。また、顧問弁護士がいれば、自分が違反するリスクを減らせるだけでなく、自社の権利を侵害された際には侵害の停止を求めるなどスムーズに対応することが可能です。
ベリーベスト法律事務所では、業種別・分野別に専門チームが設けられていますので、それぞれの企業の特色に応じた法的サービスを提供することが可能です。新規事業を検討している企業は、ベリーベスト法律事務所の顧問弁護士サービスをぜひご利用ください。
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