企業法務コラム
独占禁止法は、事業者間の公正かつ自由な競争を促進し、消費者の利益を図ることを目的とした法律です。
公正取引委員会が令和5年6月1日に発表した「令和4年度における独占禁止法違反事件の処理状況について」によると、令和4年度は延べ29名の事業者に対して独占禁止法違反行為について8件の排除措置命令を行い、4名の事業者に対して独占禁止法違反被疑行為について3件の確約計画の認定を行ったとのことでした。
事業者は、独占禁止法を正しく理解し、違反により刑事罰・過料・課徴金納付命令を受けるリスクを避けましょう。
今回は独占禁止法について、その概要や規制される行為・状態、違反に対するペナルティー、最新の改正内容などを、ベリーベスト法律事務所の弁護士がわかりやすく解説します。
独占禁止法は、消費者の利益を図ることを目的として、事業者間の公正・自由な競争を阻害する行為や状態を禁止しています。
市場において公正・自由な競争が行われれば、商品やサービスの品質は向上し、価格の適正化も期待できます。
しかし、一部の事業者による市場の独占や寡占、他の事業者を締め出す行為などがなされると、公正・自由な競争は阻害されてしまいます。
そうなると、事業者による品質向上の取組はストップし、価格が不当に高く維持される事態になりかねません。
このような事態を防ぐため、独占禁止法では、公正・自由な競争を阻害し得る行為・状態を禁ずる規制を設けているのです。
公正・自由な競争を阻害し得るとして独占禁止法で規制されている行為は、大きく以下の6つに分類されます。
「私的独占」とは、他の事業者を市場から排除し、または支配することで、競争を実質的に制限する行為です(独占禁止法第2条第5項)。
具体的には、以下の行為が私的独占に当たる可能性があります。
私的独占に当たる行為は、一律で禁止されています(同法第3条)。
「不当な取引制限」とは、複数の事業者が話し合って、商品やサービスの供給量や価格などを決めてしまう行為です(独占禁止法第2条第6項)。
「カルテル」と「入札談合」の2種類に分類されます。
私的独占と同じく、不当な取引制限も一律で禁止されています(同法第3条)。
複数の事業者から成る事業者団体が主導して、不当な競争の制限が行われるケースも想定されます。
そのため独占禁止法では、事業者団体による以下の行為が禁止されています(同法第8条)。
「企業結合」とは、株式保有や合併などを通じて、複数の事業者が結合することを意味します。
「M&A」などと呼ばれることもあります。
企業結合自体は有益なケースもありますが、事業支配力の過度な集中を招いたり、競争を実質的に制限する結果を招いたりする企業結合も存在するのが実情です。
そこで独占禁止法では、企業結合を一律に禁止するのではなく、実質的に公正・自由な競争を阻害し得る企業結合のみを禁止しています(同法第9条以下)。
「独占的状態」とは、一定規模以上の市場において、独占企業または寡占企業が過大な利益を得ており、かつその独占・寡占状態を打破することが難しい状態を意味します。
具体的には、以下の①~⑤の要件をいずれも満たす場合、独占的状態に該当します。
独占的状態にある市場には構造上の問題があり、自発的な改善は期待できないため、公正取引委員会による競争回復措置命令の対象とされています(同法第8条の4)。
「不公正な取引方法」は、事業者間の公正な競争を阻害し得る行為です。
以下に挙げる行為が、不公正な取引方法に該当します(独占禁止法第2条第9項)。
(参考:「不公正な取引方法(昭和五十七年六月十八日公正取引委員会告示第十五号)」(公正取引委員会))
事業者が不公正な取引方法を用いることは、一律禁止です(同法第19条)。
独占禁止法違反を犯した場合、事業者は刑事罰や過料、さらに公正取引委員会による課徴金納付命令を受ける可能性があります。
独占禁止法違反の各行為は、刑事罰または過料の対象とされています。
主な独占禁止法違反についての刑事罰・過料は、以下のとおりです。
違反行為の内容 | 罰則条文 | 量刑等 |
---|---|---|
|
独占禁止法第89条 | 5年以下の懲役または500万円以下の罰金 ※法人・団体は5億円以下の罰金 |
|
同法第90条 | 2年以下の懲役または300万円以下の罰金 ※法人・団体は3億円以下の罰金(確定した排除措置命令または競争回復措置命令への違反)、または300万円以下の罰金(それ以外) |
|
同法第97条 | 50万円以下の過料 |
※排除措置命令
独占禁止法違反に当たる行為を排除するために、必要な措置を講ずべき旨の命令です。公正取引委員会によって発せられます。
※競争回復措置命令
特定の商品やサービスについての独占的状態を排し、競争を回復させるために必要な措置を講ずべき旨の命令です。公正取引委員会によって発せられます。
刑事罰や過料とは別に、独占禁止法に違反した事業者には、公正取引委員会により課徴金納付命令が行われることがあります。
課徴金納付命令の対象となる行為と算定率は、以下のとおりです。
課徴金の対象行為 | 根拠条文 | 課徴金算定率 |
---|---|---|
|
独占禁止法第7条の2 | 10% ※違反事業者およびそのグループ会社がすべて中小企業の場合は4% |
|
同法第7条の9第1項 | 10% |
|
同法第7条の9第2項 | 6% |
|
同法第20条の2 同法第20条の3 同法第20条の4 同法第20条の5 |
3% |
|
同法第20条の6 | 1% |
なお、違反の発覚前に公正取引委員会に対して通報を行った場合、課徴金の減免が認められることがあります(課徴金減免制度)。
2019年から2020年にかけて施行された改正独占禁止法では、課徴金制度の見直しが大きな注目ポイントとなりました。
具体的には、違反の実態に即した課徴金を課すことができるように、以下の変更が行われました。
<改正前>
申請順位 | 減免率 | |
---|---|---|
調査開始日前の申請 | 1位 | 全額免除 |
2位 | 50% | |
3位から5位 | 30% | |
6位以下 | なし | |
調査開始日以後の申請 | 最大3社※ | 30% |
それ以降 | なし |
<改正後>
申請順位 | 申請順位に応じた 減免率 |
協力度合いに応じた 減算率 |
|
---|---|---|---|
調査開始日前の申請 | 1位 | 全額免除 | - |
2位 | 20% | +最大40% | |
3位から5位 | 10% | ||
6位以下 | 5% | ||
調査開始日以後の申請 | 最大3社※ | 10% | +最大20% |
それ以降 | 5% |
※調査開始前の申請と併せて5社まで
独占禁止法によって禁止されている競争制限行為は、非常に多岐にわたります。
各事業者は、知らないうちに独占禁止法に違反することがないよう、規制内容をよく理解しておくことが大切です。
ベリーベスト法律事務所では、独占禁止法や下請法に関する事業者からのご相談を随時受け付けております。
自社の独占禁止法違反が心配な経営者の方は、お早めにベリーベスト法律事務所へご相談ください。
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