企業法務コラム
2020年4月1日に施行された改正労働者派遣法に基づき、派遣労働者(派遣社員・派遣スタッフ)についても「同一労働同一賃金」の適用が開始されています。
同一労働同一賃金は、専ら派遣労働者を雇用する派遣元企業(派遣会社)の問題として捉えられがちですが、派遣先企業としても留意すべき事項があるので、労働者派遣法上のルールを正しく理解しておきましょう。
この記事では、同一労働同一賃金をはじめとして、派遣先企業が派遣労働者を受け入れる際に留意すべき点について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
短時間労働者(パート・アルバイトなど)・有期雇用労働者(契約社員など)とともに、派遣労働者についても「同一労働同一賃金」が適用されます。
「同一労働同一賃金」とは、同一企業・団体における正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差を禁止するルールです。
派遣労働者に関する同一労働同一賃金は、労働者派遣法(正式名称:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律)第30条の3に定められています。
端的にいえば、
という条件であれば、派遣元企業は派遣労働者に対して、正社員並みの待遇を与えなければならないのです。
なお、派遣労働者に関する同一労働同一賃金のルールは、大企業・中小企業を問わず、令和2年4月1日から一律で適用が開始されています※。
※短時間労働者・有期雇用労働者については、経過措置により、中小企業は令和3年4月1日から適用
同一労働同一賃金は、基本給・賞与などはもちろんのこと、その他のあらゆる待遇に対しても適用されます。
同一労働同一賃金の対象となる待遇の例は、以下のとおりです。
派遣元企業が同一労働同一賃金に違反したとしても、刑事罰が科されることはありません。
その一方で、派遣労働者から、正当な待遇と実際の待遇との差額を支払うよう請求される可能性があります。
実際に、有期雇用労働者について同一労働同一賃金が問題となった最高裁判決において、労働者側の主張が認められ、使用者に対して金銭の支払いが命じられた例があります(最高裁令和2年10月15日判決)。
問題社員のトラブルから、
派遣労働者の待遇を、同一労働同一賃金に従って決定する方法には、「派遣先均等・均衡方式」と「労使協定方式」の2つがあります。
「派遣先均等・均衡方式」は、派遣先の正社員に準じた待遇を派遣労働者に与える方法です。
労働者派遣法上も、派遣先均等・均衡方式が原則的な待遇決定の方法とされています(労働者派遣法第30条の3第1項)。
派遣元企業は、派遣先から正社員の待遇に関する情報の提供を受け、その情報を踏まえて派遣労働者の待遇を決定することになります。
「労使協定方式」は、派遣元企業と、派遣元企業における労働組合などの間で労使協定を締結し、協定内容に従って派遣労働者の待遇を決定する方法です(労働者派遣法第30条の4第1項)。
なお、労使協定ではどのような待遇を定めてもよいわけではなく、待遇の種類ごとに一定の基準が定められています。
問題社員のトラブルから、
派遣労働者を雇用しているのは、あくまでも派遣元企業です。
そのため、派遣労働者の待遇等については、主に派遣元企業が考えるべき事柄であることは間違いありません。
しかし、派遣先企業は全く無関心でよいというわけではなく、労働者派遣法や派遣先指針との関係で、一定の義務を負っていることに注意しましょう。
(参考:「派遣先企業が講ずべき措置に関する指針」(厚生労働省))
派遣先企業は、派遣元企業との間で労働者派遣契約を締結するにあたり、自社の正社員の待遇に関する情報などを派遣元企業に提供することが義務付けられています(労働者派遣法第26条第7項)。
これは派遣元企業が、同一労働同一賃金を踏まえて派遣労働者の待遇を決定する際の参考資料とするためです。
派遣先企業が派遣元企業に提供すべき情報は、以下のとおりです(同法施行規則第24条の4)。
派遣先企業には、労働者派遣の料金について、派遣元企業が同一労働同一賃金を遵守できるように配慮することが義務付けられています(労働者派遣法第26条第11項)。
つまり、派遣労働者に対して十分な待遇を与えるために、派遣元企業が派遣料金の値上げなどを交渉してきた場合には、派遣先企業は誠実に対応しなければならないのです。
もちろん、必ず値上げに応じなければならないわけではありませんが、値上げを断るためには、それなりに合理的な根拠を提示すべきでしょう。
派遣先企業は、派遣労働者に対して、業務の遂行に必要な能力を付与するための教育訓練を実施するなどの義務を負っています(労働者派遣法第40条第2項)。
教育訓練の実施にあたって、派遣先企業は派遣元企業と協議などを行い、派遣労働者が教育訓練を受講できるように協力したり、便宜を図ったりすることが求められています(派遣先指針第9項第(3)号)。
派遣先企業は、教育訓練や福利厚生の実施について、派遣労働者が障害者であることを理由として、健常者である派遣労働者と比較して差別的な取り扱いをしてはなりません(派遣先指針第9項第(4)号①)。
また、障害者である派遣労働者が能力を発揮するための支障を取り除くための措置について、派遣元事業主から協議や協力を求められた場合には、派遣先企業は可能な限りこれに応じることが求められます(同号②)。
問題社員のトラブルから、
派遣先企業は、労働者派遣に関してトラブルに見舞われるリスクを抱えています。
そのため、顧問弁護士と契約するなどして、弁護士に相談できる体制を整えておくとよいでしょう。
特に以下の場合には、速やかに弁護士に相談して対応を協議することが大切です。
すでにさまざまなポイントを解説したように、労働者派遣法には、派遣先企業が遵守すべきルールも数多く定められています。
中には捉え方が難しいルールもありますので、トラブルを未然に回避するためにも、不明点があればすぐに弁護士に相談して解消することをおすすめします。
労働者派遣契約の更新・解約や、派遣料金の決定・支払いなどについて、派遣元企業とトラブルに発展した場合には、弁護士への相談が必須といえるでしょう。
契約の打ち切りや損害賠償など、具体的な利害が絡んでくるケースでは、弁護士に相談しながら慎重に対応することが大切です。
もしトラブルに発展しそうな気配を感じた場合には、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。
問題社員のトラブルから、
「同一労働同一賃金」は、派遣労働者の待遇に対しても適用されます。
同一労働同一賃金に関しては、派遣労働者を雇用する派遣元企業のみならず、派遣先企業としても注意すべき点があるのです。派遣先企業は、必要に応じて弁護士にアドバイスを求めながら、法令違反などが発生しないように対応してください。
ベリーベスト法律事務所では、労働者派遣に関する法律相談を随時受け付けています。
労働者派遣法や、その他の法令・契約に関して、クライアント企業の抱える疑問点を速やかに解消するため、弁護士が親身になってアドバイスを行います。
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