企業法務コラム
令和2年4月1日に施行された改正債権法により、「詐害行為取消権」の要件・効果等が大幅に整理・明文化されました。
詐害行為取消権は、債務者による財産減少行為などを防止するため、債権者の武器となり得る制度です。債権者の方はこの機会に、詐害行為取消権の要件・効果を正確に理解しておきましょう。
この記事では、詐害行為取消権の要件・効果・行使時の留意点などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
詐害行為取消権とは、債務者による財産減少行為や偏頗弁済などを取り消し、債務者の責任財産を保全できる債権者の権利です。
債権の弁済ができなくなることを知りながら、責任財産を不当に流出させたり、一部の債権者に対して抜け駆け的に弁済したりする行為は、債務者の債権者に対する背信行為といえます。
民法は、このような債務者の行為を許さず、債権者の請求によって当該行為を取り消すことを認めているのです。
実のところ、詐害行為取消権自体は、民法の施行時から設けられていたものでした。しかし、その規定は抽象的かつ網羅性に欠けており、要件・効果の大部分が判例法理によってカバーされている状況だったのです。
そこで、令和2年4月1日施行の改正債権法では、従来の判例法理の明文化・整理が全体を通しての大きなテーマとなりました。その一環として、詐害行為取消権についても、その要件・効果などが詳細に規定されることになったのです。
今後は現行民法の詳細な規定に沿って、詐害行為取消権の運用がなされることになります。債権者としては、万が一の場合に備えて、詐害行為取消権に関するルールを正しく理解しておくべきでしょう。
債権法改正後の現行民法では、詐害行為取消権の原則的な要件を定めつつ、通常の財産減少行為とは異なるいくつかの類型について、要件の特則を設けています。
具体的に、詐害行為取消権の要件がどのように定められているのか、現行民法の規定を整理しましょう。
詐害行為取消権が行使できるもっとも原則的な場面は、債務者が「財産減少行為」をした場合です。
具体的には、以下の要件をすべて満たす場合に、詐害行為取消権を行使できます。
なお、受益者からさらに他の者(転得者)に対して、対象財産が移転されているケースも考えられます。その場合には、その転得者に連なるまでのすべての者が詐害行為の存在を知っていた場合に限り、転得者に対しても詐害行為取消権を行使できます(民法第424条の5)。
債務者が財産処分にあたって相当な対価を得る場合でも、たとえば不動産を売却して現預金を得るケースなどでは、債務者財産の流出リスクが高まります。
よって、このような行為についても、以下のすべての要件を満たす場合に限り、詐害行為取消権の対象となります(民法第424条の2)。
特定の債権者に対してのみ、抜け駆け的に債務の弁済や担保の供与を行うことを「偏頗行為(へんぱこうい)」といいます。
偏頗行為も、反射的に他の債権者に対する詐害行為として評価すべきケースがあり得るため、以下の要件下で詐害行為取消しが認められます(民法第424条の3)。
特定の債権者に対して過大な代物弁済を行うことは、財産減少行為と偏頗行為の組み合わせ※と評価できます。
(※超過分は財産減少行為、債務額に対応する部分は偏頗行為)
よって、超過分は一般的な財産減少行為の要件(民法第424条)に従って(民法424条の4)、債務額に対応する部分は偏頗行為の要件(民法第424条の3)に従って、詐害行為取消しが認められ得るとされています。
詐害行為取消権を行使した場合、債務者・債権者を含めて、詐害行為に関連するすべての者の間の法律関係が巻き戻される効果が生じます。
具体的に発生する法律効果は、以下のとおりです。
詐害行為取消請求を認容する判決が確定した場合、その確定判決は、債務者およびそのすべての債権者に対しても効力を生じ、詐害行為が取り消されます(民法第425条)。
債権法改正以前は、判例法理により、詐害行為取消しの効果は債務者に及ばないとされていました。今回の債権法改正により、債務者も効果の対象に含まれた点に注意しましょう。
詐害行為が取り消される結果、債権者は受益者または転得者に対して、取得した財産の返還を請求できます(民法第424条の6)。
財産自体の返還が困難な場合には、価額の償還を請求することも可能です。
当該財産が可分である場合は、債権額の限度で詐害行為を取消すことができるにとどまりますが、不可分である場合には、詐害行為の全部の取り消しを請求できます(民法第424条の8第1項)。ただし、価額の償還を請求する場合、常に可分として取り扱われるため、償還請求できるのは債権額に応じた金額のみです。
なお取消債権者は、金銭の支払を求める場合には、受益者または転得者に対して直接財産の返還または価額の償還を受けた後、自己の債権の弁済に充当することが認められます(民法第424条の9)。
詐害行為取消権が行使された場合、受益者・転得者は債務者からの弁済等によって得た利益を失います。
その反射的な効果として、受益者や転得者は、反対給付の返還請求権を行使することができるようになり、受益者の債権者に対する債権は現状に服してこれを行使できるようになります(民法第425条の2~第425条の4)。
最後に、詐害行為取消権を行使する際の注意点を解説します。
円滑に詐害行為取消権を行使するためには、弁護士に相談しながら対応するのがよいでしょう。
詐害行為取消権は、以下のいずれか早く経過する期間が経過した場合、行使できなくなるので注意が必要です(民法第426条)。
詐害行為取消権の行使を検討する場合、上記の出訴期間を経過しないように、速やかに準備を進めましょう。
弁護士に相談すれば、民法の規定を踏まえて、詐害行為取消権行使の準備をスムーズに整えることができます。
詐害行為取消権の行使は、裁判上で行うことが必須とされています(民法第424条第1項)。
つまり、受益者や転得者に対して口頭や内容証明郵便で行使を伝えるだけでは足りず、必ず訴訟を提起しなければならないのです。
詐害行為取消訴訟は、専門的な手続きであるうえ、立証の難易度も高くなりがちです。弁護士に訴訟対応を依頼すれば、周到に訴訟準備を行うことで、債権者側の主張が認められる可能性が高まります。
詐害行為取消権は、債務者の財産流出を防ぎ、債務者の責任財産を保全するための強力な武器になり得ます。しかし、要件・効果が複雑であるうえ、訴訟による行使が必須となるため、弁護士へのご相談をおすすめします。
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