企業法務コラム
謹慎処分には、懲戒処分と業務命令がありますが、どちらに該当するかにより、労働者への制限の範囲が違いますので、謹慎処分をする際には根拠を明確にすることが大切です。
また、謹慎処分は、労働者の権利を制約する面もありますので、不当な謹慎処分であった場合には、労働者から訴えられるリスクが発生します。その点、注意が必要です。
今回は、謹慎処分と何か、従業員から不当な処分と言われた場合の対処法などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
謹慎処分には、以下の2種類があります。
この2つには、根拠となる規則や賃金の支払いに違いがありますので、以下で詳しく説明します。
懲戒処分としての謹慎は、労働者が何らかの非違行為や問題行為をした場合に、懲戒処分の一環として行われる謹慎です。一般的に「出勤停止」と呼ばれています
この謹慎処分は、懲戒処分ですから、懲戒処分に関する法規制が適用されます。
すなわち、就業規則に懲戒事由や懲戒の種類(出勤停止)が定められていること、および従業員が起こした問題行動の内容と比較して、重すぎる処分にならないよう配慮が必要です。
また、懲戒処分としての謹慎の場合、出勤停止期間の賃金は支払わないのが原則です。
業務命令としての謹慎は、業務上必要がある場合に、会社が労働者に出勤停止を命じることです。一般的には「自宅待機」と呼ばれています。
業務命令としての謹慎は、以下のようなケースで行われます。
懲戒処分としての謹慎は、就業規則などに根拠がなければ行うことができませんが、業務命令としての謹慎は、労働契約上の業務命令権を根拠として行われますので、労働契約関係があれば足ります。
また、業務命令の場合には、労働者は働いていませんが、会社は賃金を支払わなければなりません。
問題社員のトラブルから、
謹慎処分により労働者には、どのような制限が生じるのでしょうか。
以下では、謹慎の手段ごとに労働者が受ける制限の範囲について説明します。
謹慎処分を受けた労働者は、会社への出勤が停止されますが、その期間には、法律上特別の規定はありません。
しかし、無制限に出勤停止処分を命じることができるというわけではありません。
懲戒処分の場合、出勤停止期間中は賃金がもらえないので、長期間の出勤停止になれば労働者は大きな不利益を被ります。
謹慎が懲戒処分である場合、労働者に対して賃金の支払いが行われないことが多いです。
懲戒処分として減給が行われる場合には、労働基準法91条により、
・ひとつの問題行動にたいする減給額が平均賃金の半額(月給20万円であれば、1日約3333円)を超えてはいけない
・総額が賃金の総額の10分の1(月給20万円であれば2万円)を超えてはいけない
と定められています。
謹慎が懲戒処分である場合には、出勤停止期間中の会社での就労が禁止されますが、それ以外の行動は基本的には制限されません。
そのため、出勤停止期間中に旅行、アルバイト、副業をすることは可能です。
どんな場合に謹慎処分を命じることができるのか、ケース別に解説します。
やむを得ない事情により出勤停止になるケースも含めて説明します。
労働者の非違行為や問題行動により、会社に不利益や損害が生じた場合には、懲戒処分としての謹慎処分を行うことができます。
この場合は、出勤停止期間中の賃金が支払われないのが通常です。
懲戒処分を行う前提として、労働者に不正行為があったかどうかを調査する必要があります。不正行為の調査期間中は、労働者に会社への出勤を認めると調査に支障が生じるおそれがありますので、業務命令としての謹慎を命じることができます。
この場合は、謹慎期間中の賃金の支払いが必要になります。
労働者が感染症に罹患(りかん)した場合には、会社への出勤を認めると他の労働者への感染が拡大して、会社の運営自体が難しくなってしまいます。
そのため、このようなケースでは業務命令として謹慎を命じることができます。この場合は、謹慎期間中の賃金の支払いが必要になります。
退職予定者が競合退社への転職を予定している場合、退職日までの期間、会社への出勤を認めると、機密情報や顧客情報などを持ち出すなどして会社に損害を与えるおそれがあります。
このようなケースでは、退職日までの出勤を禁止する合理的な理由がありますので、業務命令としての謹慎を命じることができます。
しかし、この場合は、謹慎期間中の賃金の支払いが必要になります。
会社の業務内容によっては、天候、原材料不足、機械の故障などが発生すると、業務を行うことができないことがあります。
このようなケースでは、業務命令としての謹慎を命じることができます。
従業員が病気などによる休職している場合には、復職が可能であるとする医師の診断書が提出された後も、会社として復職の可否を判断するために一定の期間が必要になります。そのため、このような期間については業務命令としての謹慎を命じることができます。
なお、復職が可能になるまでは休職期間に含まれると考えられますので、その期間中の賃金の支払いは不要です。
謹慎処分が違法となるケースとしては、以下のケースが挙げられます。
懲戒処分として謹慎処分を命じる場合には、以下のような要件を満たす必要があります。
これらの要件を満たさない懲戒処分は、違法な懲戒処分として無効になります。
業務命令として謹慎処分が命じられた場合には、会社都合による謹慎処分になりますので原則として賃金の支払いが必要になります。
労働者に対して賃金の支払いをしない場合には、賃金不払いとして違法となります。
業務命令として謹慎処分を行う場合には、以下の要件を満たさなければなりません。
これらの要件を満たさない業務命令は、権利の濫用にあたり違法・無効になります。必要かつ合理的な期間を超えた自宅待機命令は、上記の要件を満たさないため違法といえるでしょう。
謹慎処分が違法であるとして従業員から訴えられた場合、以下のような対処法が考えられます。
従業員から違法な謹慎処分だと訴えられた場合には、まずは労働者との話し合いにより解決を図ります。
会社側として正当な謹慎処分を行ったという認識があるのであれば、労働者に対して、謹慎処分の根拠や経緯などを丁寧に説明して理解を求めることが大切です。
業務命令として謹慎処分を命じたにもかかわらず、説明不足により労働者側が懲戒処分としての謹慎処分だと誤解している可能性もありますので、このような誤解が解ければ問題も解決するでしょう。
労働者との話し合いで解決できない場合には、労働者から謹慎処分が無効であるとして裁判所に労働審判が申し立てられる可能性があります。
労働審判は、原則3回の期日で終了しますので、裁判よりも迅速な解決が期待できる手続きです。
また、話し合いによる解決を基本として実態に即した判断がなされますので、裁判よりも柔軟な解決が期待できます。
労働審判を申し立てられた場合、会社側は、期限までに答弁書を作成し、裁判所に提出しなければなりません。
話し合いおよび労働審判で解決しない場合、労働者から訴訟を提起される可能性もあります。訴訟では、労働者側から謹慎処分の違法性が主張立証されますので、会社側としては証拠に基づいて労働者の側の主張に反論していかなければなりません。
裁判は、非常に専門的な手続きになりますので、弁護士のサポートが必要になります。
労働者から謹慎処分が違法であるとして訴えられた場合には、すぐに弁護士に相談するのがおすすめです。
弁護士であれば、当該謹慎処分の違法性の有無を判断できますので、それを踏まえて労働者との対応を検討することが可能です。また、弁護士は、会社側の代理人として、労働者との交渉、労働審判、裁判などの対応ができますので、会社側の負担は大幅に軽減するでしょう。
実際に労働者とのトラブルがまだ発生していない場合でも、顧問を依頼した弁護士であれば、将来のトラブルを回避するために就業規則の見直しなどの対応も可能です。
問題社員のトラブルから、
謹慎処分には、業務命令として行うものと懲戒処分として行うものがあり、それぞれ要件や効果などが異なっています。労働者から不当な謹慎処分であるとして訴えられないようにするためにも、それらをしっかりと理解した上で適切に処分を行うことが大切です。
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