企業法務コラム
研修は業務の一環であるため、必要であれば、使用者(企業)は従業員を強制的に研修に参加させることができます。
ただし、研修に参加した従業員には、通常の業務と同様に給料(賃金)を支払う必要があります。研修を延長した場合は、残業代の支払いも必要です。企業が従業員への研修制度を設ける際には、研修中の給与の取り扱いも十分に考慮しておきましょう。
本記事では、研修に関する給料の取り扱いについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
研修に参加する時間が労働時間にあたるかどうかは、通常の業務と同様の基準で判断されます。
「労働時間」とは、客観的に見て、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間です(最高裁平成12年3月9日判決)。そのため、研修参加が使用者の指示によるものである場合は、労働時間に該当すると可能性が高いと考えられます。
問題社員のトラブルから、
使用者は労働者に対し、業務命令の一環として研修への参加を指示(強制)できることがあります。
研修への参加が業務上必要かつ合理的であれば、労働契約に基づく業務命令の一環として、労働者を強制的に研修へ参加させることができます。
たとえば以下のような研修については、労働者に対して参加を強制することが可能です。
これに対して、研修の内容が業務上の必要性または合理性を欠く場合は、労働者を強制的に研修へ参加させることはできません。
たとえば以下のような研修については、労働者に対して参加を強制することはできないと考えられます。
労働者が研修への参加を拒否した場合には、使用者は労働者に対して懲戒処分を行うことが考えられます。
ただし、懲戒処分を行う際には、懲戒権の濫用に当たらないように注意しなければなりません。客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない懲戒処分は無効です(労働契約法第15条)。
たとえば、研修参加を拒否したのが一度だけで、その他には特に問題行動が見られない場合は、懲戒処分を行うべきではないかもしれません。
研修参加拒否の態度がかたくなである場合も、戒告などの軽い懲戒処分から行い、改善指導の効果がない場合には重い懲戒処分へ段階的に移行するのがよいでしょう。
研修時間が労働時間に当たる場合は、通常の業務と同様に給料を支払う必要があります。強制参加と伝えている場合に限らず、名目上は任意参加であっても、給料の支払いを要する場合があるので注意が必要です。
使用者が労働者に対して強制参加だと伝えている研修は、使用者の指揮命令下で行われるものとして労働時間にあたります。
この場合、研修時間に対しても通常の業務と同様に、給料の支払いが必要です。
使用者が主催する研修であっても、労働者に対しては参加が任意であると伝えているケースがあります。
しかし、研修参加が強制であるか任意であるかは、実質的な観点から判断されます。
名目上は任意参加であっても、事実上強制と評価すべき場合には、使用者の指揮命令下で行われるものとして給料が発生するので注意が必要です。
たとえば以下のような研修については、名目上は任意参加であっても給料が発生すると考えられます。
研修に関して不適切な取り扱いがなされやすい以下の3つの事例につき、労働基準法の規定に照らした適切な取り扱いを事例とともに解説します。
研修時間が労働時間に当たる場合は、通常の業務と同様に給料を支払わなければなりません。残業代についても同様です。
事例1の新人研修は、新入社員に対して義務付けられたものであるため、労働時間に当たると考えられます。また、研修時間は平均して1日10時間程度であるため、法定労働時間(1日8時間)を超過しています。
労働時間に該当する以上は、研修であっても残業代を支払う必要があります。
したがって、事例1におけるA社の取り扱いは労働基準法違反です。
会社が内定者に対して課す入社前研修は、労働契約に基づく業務命令によって参加が義務付けられるものです。
したがって、入社前研修の時間は労働時間に当たり、給料を支払う必要があるため、事例2におけるB社の取り扱いは労働基準法違反です。
介護職員初任者研修は、訪問介護員(ホームヘルパー)として働くためには必須の資格とされています。
C社における研修受講の指示が、訪問介護員としての勤務を予定している従業員に対するものであれば、それは労働契約に基づく指揮命令に当たり、事例3の研修時間について給料を支払うべき可能性が高いです。
これに対して、介護職員初任者研修の修了が業務上必須ではなく、従業員の自己研鑽(けんさん)のために任意で受講することを奨励しているにすぎない場合は、研修時間について給料の支払いは不要と考えられます。
研修時間について支払うべき給料を支払わないと、労働基準監督官から是正勧告を受ける可能性があります。
また、労働基準法違反の罪で送検され、事業者名が公表された上に刑事罰を受けるおそれもあるので注意が必要です。
労働基準法違反が疑われる事業場に対しては、従業員の申告などをきっかけとして、労働基準監督官による臨検(立ち入り調査)が行われることがあります。
臨検の結果、労働基準法違反の事実が判明した場合は、労働基準監督官が是正勧告を行います。是正勧告を受けた使用者は、定められた期間内に違反状態を是正して、労働基準監督署へ報告しなければなりません。
是正勧告自体に法的拘束力はありませんが、従わなければ送検される可能性が高いので、速やかに是正を行いましょう。
給料の未払いは犯罪とされています(労働基準法第24条、第120条第1号、第121条)。
給料の未払いが大規模である場合や、労働基準監督官の是正監督に繰り返し従わなかった場合などには、労働基準監督官が検察官に対して事件を送致する可能性が高くなります(=送検)。
この場合、都道府県労働局のウェブサイトで事業者名が公表されたり、行為者・法人の双方に対して「30万円以下の罰金」を科されたりするおそれがあります。
問題社員のトラブルから、
研修時間についても、会社の業務命令によって参加が義務付けられている場合には、通常の業務と同様に給料が発生します。
研修時間について給料を支払わないと、労働基準監督官の是正勧告や刑事罰の対象になるので注意が必要です。
人事・労務管理の取り扱いについては、弁護士のアドバイスを受けるのが安心です。
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