長時間労働を是正し、ワークライフバランスを改善することを目的として残業時間の上限規制が設けられています。年間の残業時間の上限は、原則として360時間以内ですが、臨時的な特別の事情がある場合は720時間まで年間の残業時間を延長することが可能です。
また、業種によっては、上記とは異なる残業時間の上限規制が適用されることもあるので、残業時間の規制に関する基本的なルールを押さえておくことが大切です。
今回は、残業の年間上限時間の規制、違反した場合の罰則、従業員の残業時間を減らすためにできる取り組みなどについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
残業時間には、どのような規制があるのでしょうか。
以下では、残業の年間上限時間の基本的なルールについて説明します。
労働基準法では、「1日8時間・1週40時間」という法定労働時間を定めています。
そのため、労働者に時間外労働を命じるためには、36協定の締結・届出が必要になります。
ただし、36協定の締結・届出をした場合でも無制限に残業を命じられるわけではなく、残業時間には法律上の上限が設けられています。残業時間は、原則として月45時間・年間360時間以内におさめなければなりません。
上記の残業時間の上限規制には例外があり、臨時的な特別の事情がある場合、特別条項付きの36協定の締結・届出をすることで、年間720時間までの残業を命じることが可能になります。
臨時的な特別の事情の例は以下のとおりです。
なお、年720時間までの残業が可能になっても、以下のような残業時間の規制もありますので注意が必要です。
問題社員のトラブルから、
残業の年間上限時間の一般的な規制は、上記のとおりですが、業種によっては残業の年間上限時間が異なる場合もあります。
以下では、業種ごとの例外的な時間外労働の上限規制について説明します。
自動車運転の業務(運送業)の残業時間の上限は、特別条項付き36協定の締結・届出をすることで、年間960時間までとなります。
また、運送業の場合、年間の残業時間の規制以外にも、一般的なルールと比較して以下のような違いがあります。
このように運送業では、1か月の残業時間の上限規制がありませんので、ある月の残業が100時間を超過していても、他の月の残業を調整すれば上限規制違反とはなりません。
医師の残業時間の上限は、一般企業の労働者の場合とは異なり、以下の3つの水準に応じた規制がなされています。
各水準に応じた残業の年間上限時間は、以下のとおりです。
医療機関に適用する水準 | 年間の残業時間の上限 | 面接指導 | 休息時間の確保 |
---|---|---|---|
A水準 | 960時間 | 義務 | 努力義務 |
連携B水準、B水準 | 1860時間 | 義務 | |
C水準 |
医師と一般労働者との違い
なお、残業時間の規制について、医師と一般企業の労働者とでは、以下のような点が異なります。
残業時間の上限規制は、業種だけではなく労働者に適用される労働時間制によっても異なってきます。以下では、特殊な労働時間における残業の年間上限時間について説明します。
変形労働時間制とは、業務の繁閑や特殊性に応じて、所定労働時間を柔軟に設定することができる制度です。
変形労働時間制の場合、一定期間内における平均した労働時間が法定労働時間の範囲内に収まっていれば、残業代は発生しません。うまく調整すれば残業代削減や長時間労働の防止につながる制度といえるでしょう。
このような変形労働時間制における残業時間の上限は、月42時間・年間320時間となっています。
管理監督者とは、経営者と一体的な立場にある労働者のことをいいます。
管理監督者に該当する場合には、労働基準法上の労働時間、休日、休憩の規定が適用されませんので、残業の年間上限時間も存在しません。
ただし、管理監督者には「名ばかり管理職」の問題がありますので、管理監督者の該当性の判断は慎重に行う必要があります。
管理監督者に該当するかどうかは、課長やマネージャーといった肩書ではなく、経営者と一体的な立場にあるかどうかといった実態に即して判断しなければなりません。
年間残業時間が上限を超えてしまうと、以下のようなペナルティが生じる可能性があります。
労働基準監督署は、企業による労働基準法などの法令違反を取り締まる行政機関です。
労働者による申告により年間残業時間が上限を超えている疑いが生じたときは、事業所に対する立ち入り調査などを行い、実態の確認を行います。
調査の結果、残業時間の上限規制違反が確認された場合には、指導や是正勧告を行い、違反状態の改善が求められます。
企業が労働基準監督署による是正勧告に従わない場合には、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。
残業が年間上限規制を超えているような場合には、労働者に対する残業代が適正に支払われていないこともあります。
未払い残業代を請求するのは、労働者として当然の権利ですので、未払い残業代があることが判明すると、労働者から残業代請求をされる可能性があります。
実際に残業代が未払いになっているのであれば、会社は支払いに応じなければなりません。
裁判にまで発展すると、未払い残業代と同額の付加金の支払いや遅延損害金の支払いを求められるリスクもありますので、注意が必要です。
残業には、上限時間が設定されていますので、残業時間の上限違反にならないようにするためには、従業員の残業時間を減らすための取り組みをしていかなければなりません。
企業ができる具体的な取り組みとしては、以下のようなものが挙げられます。
従業員の残業時間を減らすための取り組みを行う前提として、まずは従業員の正確な労働時間を把握する必要があります。
残業が年間上限時間を超えているような職場・部署だと、サービス残業が常態化していることもあります。タイムカードなどの記録だけでなく、パソコンの使用履歴なども確認し、正しい労働時間を把握するようにしましょう。
残業時間を減らすために単純に残業を禁止したとしても、業務の負担が変わらなければ、結局は隠れて残業をしたり、持ち帰り残業をしたりする可能性があります。
従業員の業務負担の軽減を図るには、業務の効率化などにより所定労働時間内に業務を終わらせられるような工夫が必要です。
企業によっては、IT化により大幅に残業時間を削減できたところもあるようですので、各企業に応じた業務の効率化の取り組みを検討していきましょう。
特定の従業員や特定の部署に業務負担が偏っているようであれば、人員の増員や配置の見直しも必要になります。
各部署のリーダーが従業員それぞれの負担状況を把握しているのが望ましいですが、十分に把握ができていない場合には、従業員との個別面談などを実施して現状の把握に努めるようにしましょう。
問題社員のトラブルから、
従業員の労働時間を適切に管理していないと、
・労働者から残業代請求をされる
・労基署からの是正勧告と刑事罰
などのリスクがあるため、日ごろから適切に労働時間を管理することが大切です。
残業時間を減らすためには、現状の労務管理の見直しや整備に向けて、顧問弁護士を活用することをおすすめします。
まだ顧問弁護士を利用していない企業の経営者は、積極的に顧問弁護士の導入を検討するようにしましょう。
企業の労務管理に関するお悩みは、ベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。
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