社内で労災事故が発生した場合、会社はさまざまな対応が求められます。たとえば、被災した従業員の救護や原因調査はもちろん、労働基準監督署への報告、労災申請への協力、再発防止策の検討といった対応が発生します。また、対応を誤ると、法的リスクにつながる可能性も少なくありません。
「労災申請は従業員が行うものだから、会社は関係ない」などと誤解しているケースも見られますが、実際には会社にも法律上の義務があるので、注意しましょう。
本コラムは、労災が発生した際に会社が取るべき対応の流れや、労災申請における会社の役割、注意すべきポイントについて、ベリーベスト法律事務所 企業法務専門チームの弁護士が解説します。
社内で労災が発生した場合、会社には迅速かつ適切な対応が求められます。対応を誤ると、行政指導を受けることにもなりかねません。
以下では、会社が取るべき基本的な労災時の対応を説明します。
労災が発生した場合、最優先すべきは被災労働者の救護です。
必要に応じて救急車を手配し、医療機関を受診してもらうようにしましょう。重篤な事故の場合には、二次災害を防ぐため、現場の安全確保も欠かせません。
また、身体的なケアだけでなく、精神的なフォローも重要です。事故直後は不安やショックを抱える労働者も多く、会社として誠実な姿勢で対応することが、信頼関係の維持につながります。
事故の状況や発生原因を正確に把握することも、会社の重要な役割です。以下のようなことを整理し、事実関係を確認しましょう。
この調査は、労働基準監督署への説明や、再発防止策の検討にも直結します。事実を隠したり曖昧にしたりせず、客観的な資料や証言をもとに整理することが重要です。
労働者が業務上の事故や疾病で4日以上休業した場合、労働安全衛生規則に基づき、会社は「労働者死傷病報告」を労働基準監督署へ提出しなければなりません(労働安全衛生規則第90条第1項)。
この報告は、労働安全衛生法第100条1項に基づき法的に義務付けられているため、提出しなかった場合や、虚偽の内容を記載した場合には罰則の対象となります(同法第120条第5号)。
労災かどうか判断に迷っても、まずは事実を正確に記載したうえで提出することが重要です。
労災保険の申請は、原則として被災労働者が行います。
一方、ケガなどにより被災労働者自身での申請が困難な場合には、会社には被災労働者を助ける義務が定められています(労働者災害補償保険法施行規則第23条第1項)。申請に必要な書類の説明や、事実関係の確認など、最低限のサポートを行うべきであることを覚えておきましょう。
なお、サポートすべきことの詳細については、2章で説明します。
労災の内容によっては、労働基準監督署による立ち入り調査が行われることがあります。その際、虚偽の事実を述べた場合には、30万円以下の罰金の対象となります(労働基準法第120条第4号)。そのため、関係資料の提出や事情聴取に誠実に対応しなければなりません。
労災事故を二度と起こさないためには、再発防止策の検討と実施が不可欠です。
以下のような、具体的な対策を講じることが求められます。
単なる形式的な対策にとどまらず、現場に根付く仕組みづくりを意識することが重要です。
問題社員のトラブルから、
労災が発生したら、会社は労災保険制度に基づき、いくつかの実務対応が求められます。
以下では、労働者災害補償保険法施行規則23条・23条の2を踏まえて、会社が果たすべき対応を説明しましょう。
先述のとおり、労災保険給付の請求は、原則として被災した労働者本人が行います。療養補償給付、休業補償給付、障害補償給付などの申請書を労働者が作成し、労働基準監督署へ提出するのが基本です。
このとき、会社は労災申請を妨げたり、不当に申請を控えさせたりすることは認められておらず、適切な協力姿勢が求められます。
申請書の準備や提出の代行義務はないものの、会社が対応するケースもあります。詳しくは(3)でご紹介しましょう。
労災申請書には「事業主証明欄」が設けられており、被災労働者から求められた場合、会社は速やかに記載しなければなりません。
この証明欄は、事故の日時や業務内容などの事実関係を確認するものであり、会社が労災認定の可否を判断するものではありません。
そのため、「労災ではないと思う」「会社に責任がないと考えている」といった理由で、証明欄の記載を拒否することはできません。
記載を拒否した場合、労働基準監督署から指導を受ける可能性があるため、注意が必要です。
被災労働者が重傷で入院している場合や、精神的ショックにより手続きが困難な場合は、労働者災害補償保険法施行規則第23条第1項により、会社は労災申請をサポートする義務が発生します。
具体的には、以下のような対応が想定されます。
なお、先述のとおり、労働者が自ら申請できる状態であっても、会社が積極的に申請をサポートすることは可能です。
むしろ、会社が主体的に関与することで、従業員との信頼関係が維持・向上する、事実関係を正確に整理できる、再発防止策の検討につなげやすくなるといったメリットがあります。
会社としては、「この事故は業務とは無関係ではないか」「私的行為ではないか」と考えられることもあるでしょう。
しかし、その場合であっても、労災申請そのものを拒否することはできません。会社が労災に該当しないと考える場合には、労働基準監督署長に対して意見書を提出し、事業主としての見解を説明することが可能です(労働者災害補償保険法施行規則第23条の2第1項)。
最終的に労災に該当するかどうかを判断するのは労働基準監督署であり、会社が一方的に判断することはできません。
そのため、労働者の申請を妨げるのではなく、適切な手続きを踏んだうえで、意見を述べることが重要です。
労災発生時の対応を誤ると、行政指導や刑事責任、さらには損害賠償請求といったリスクにつながるおそれがあります。
以下では、会社が特に注意すべきポイントについて解説しましょう。
労災が発生したにもかかわらず、労働者死傷病報告を提出しなかったり、虚偽の内容を記載したりする行為は、いわゆる「労災隠し」に該当します。
労災隠しは労働安全衛生法違反となり、罰則の対象となるだけでなく、会社の社会的信用を大きく損なう結果につながります。
また、労災隠しが発覚した場合、労働基準監督署による立ち入り調査や是正指導が厳しくなる傾向があります。
「会社の評価が下がる」「保険料が上がる」といった理由で労災を隠すことは許されません。事実を正確に報告することが、結果的に企業を守ることにもつながります。
労災が発生すると、労働基準監督署による調査が行われることがあります。調査では、事故の状況や安全管理体制について詳しく確認されるでしょう。
主に提出を求められる資料としては、以下のようなものが挙げられます。
これらの資料を事前に整理し、事実に基づいて説明できる体制を整えておくことが重要です。虚偽説明や資料の隠蔽(いんぺい)は、結果的に不利益となるため、誠実な対応を心がけてください。
労働基準監督署の調査が入り、法令違反が認められた場合には、是正勧告を受けることがあります。是正勧告を受けた場合には、以下のような対応を行わなければなりません。
重要なのは、形式的な対応で終わらせないことです。再発防止策を実効性のあるものとして、運用し続ける体制づくりが求められます。
再発防止策を検討する際には、次のような点を意識することが重要です。
また、調査委員会を設置するなど、第三者的な視点を取り入れることも有効です。再発防止策は一度決めて終わりではなく、継続的に改善していくことが重要です。
労災が発生すると、労働基準監督署への対応や従業員のケアなど、会社は短期間で多くの判断を求められることになります。対応を誤ると、行政指導、企業イメージの低下といった深刻なリスクにつながりかねません。
労災発生後に適切な対応をとるには、早めに弁護士に相談するのがおすすめです。弁護士に相談する主なメリットを紹介しましょう。
労災が認定された場合、労災保険とは別に「安全配慮義務違反があった」などと主張し、従業員から損害賠償を請求されることがあります。
このような場合、会社は、交渉や訴訟対応を迫られることになりますが、弁護士に依頼すれば以下のような対応を一任できます。
法的観点から適切に対応することで、過度な請求を防ぎ、企業リスクを最小限に抑えることが可能です。
労働基準監督署の調査や是正勧告への対応は、専門的な知識が欠かせません。
弁護士に相談することで、以下のような実務面でのサポートを受けることができます。
対応を誤ると、追加の指導や再調査につながるおそれがあるため、法的知識の専門家の関与は、大きな安心材料となるでしょう。
労災トラブルを未然に防ぐためには、単発の対応ではなく、継続的な安全管理体制の構築が重要です。
弁護士は、就業規則や安全衛生規程の見直し、マニュアル整備や社内ルールの構築、教育・研修体制の整備などについて、法的観点からアドバイスを行うことができます。
これにより、同様の事故の再発防止だけでなく、企業としてのコンプライアンス体制の強化にもつながるでしょう。
労災が発生した際は、初動対応の早さが、その後のリスクを大きく左右します。
弁護士との顧問契約がない場合は、労災発生後、委任契約を締結してから対応が始まるため、初動が遅れてしまうことも少なくありません。
一方、顧問契約があれば、労働基準監督署対応や社内対応について、スムーズに助言を受けることが可能です。
ベリーベスト法律事務所と顧問弁護士契約を結んでいれば、相談後すぐに対応を開始できるため、労災のような突発的なトラブルにも迅速に対処できます。
また、日頃から企業の状況を把握している弁護士であれば、実情に即した現実的な対応が期待できます。労災のような緊急時に備える意味でも、顧問弁護士契約を検討することは有効な選択といえるでしょう。
問題社員のトラブルから、
社内で労災が発生した場合、会社には被災労働者への対応だけでなく、労災申請への協力や労働基準監督署への対応、再発防止策の実施など、さまざまな義務が生じます。対応を誤ると、行政指導や損害賠償請求といったリスクにつながりかねません。
そのため、労災発生時には早期に状況を整理し、適切な対応を行うことが重要です。専門的な判断が必要な場面も多いため、弁護士と相談しながら進めることで、負担やリスクを最小限に抑えることができます。
ベリーベスト法律事務所では、労災発生時の対応のほか、社内ガバナンスの見直しなどのサポートも行っています。労災対応に不安がある場合は、お早めにご相談ください。
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