2026年05月25日
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【弁護士が解説】繁忙期を理由に有給申請を拒否してもいい?

【弁護士が解説】繁忙期を理由に有給申請を拒否してもいい?

繁忙期の年末年始・お盆・ゴールデンウィークなどは、サービス業やシフト制の店舗で、もっとも人手不足が発生しやすい時期です。そのような時期に従業員から有給休暇の申請が出ると、「休まれると困る」「繁忙期だから認められない」と感じる企業担当者も少なくありません。

しかし、法律上、有給休暇は原則として従業員が請求する時季に与えなければならず、「繁忙期だから」「人手不足だから」という理由だけで一方的に拒否することはできません。シフト制で働くパート・アルバイトにも有給休暇は付与されるため、企業としては制度に沿った対応と、繁忙期を見越した人員計画の策定が重要となります。

今回は、繁忙期における有給申請の扱い、時季変更権を行使できるケース、有給取得に関するトラブルの予防策などをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、繁忙期の有給申請は拒否できる?

繁忙期に有給休暇を申請されると、人手不足や業務負担の問題から「繁忙期は認められない」と判断したくなる企業も少なくありません。しかし、有給休暇は法律上、従業員が取得時季を指定できる制度であり、繁忙期だからといって安易に拒否することはできません。まずは、有給休暇の原則と例外の仕組みを説明します。

  1. (1)【原則】有給休暇は従業員が請求する時季に与えなければならない

    有給休暇(年次有給休暇)について、労働基準法は、「使用者は、その雇入れの日から起算して6箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。」(同法第39条第1項)と定めています。したがって、有給休暇は、労働基準法39条1項に基づく、一定期間勤務した従業員に付与される法的権利といえます。
    そして、有給休暇の取得時期については、「使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。」(労働基準法第39条第5項本文)とあります。そのため、従業員は、有給休暇を取得したい日を自ら指定することができ、企業側は、原則として、その希望日に有給休暇を与えなければなりません。これは、繁忙期であっても変わりません。

    なお、有給休暇の制度の対象となっているのは、「その雇入れの日から起算して6箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、」(労働基準法第39条第1項)です。したがって、正社員に限られたものではなく、パートやアルバイトなどの非正規雇用にも適用されます。雇入れから6か月間継続して勤務し、一定の出勤率を満たしていれば、勤務日数に応じた日数の有給休暇が付与されます。シフト制で働く従業員であっても有給休暇は認められ、原則として本人が指定した日を優先する必要があります。

  2. (2)「繁忙期だから」「人手不足だから」は有給申請を拒否する理由にならない

    企業側が繁忙期に有給休暇を認めたくない理由の多くは、人手不足や業務量の増加といった事情です。しかし、労働基準法上、有給休暇は原則として従業員が指定した時季に与えなければならない制度であり、「繁忙期」「忙しい」「人手不足」といった抽象的理由だけでは申請を拒否することはできません

    例外的に「時季変更権」を行使し、取得日を変更できる場合もありますが、その要件は限定的です。時季変更権の具体的な要件や判断基準については、次章で詳しく解説します。

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2、繁忙期に有給休暇の「時季変更権」を行使できるケース

繁忙期に有給休暇を拒否できる唯一の例外が「時季変更権」です。ただし、行使には厳格な要件があり、単に忙しい・人手が不足しているといった事情だけでは認められません。以下では、法的根拠と具体的に認められ得るケースを説明します。

  1. (1)有給休暇の時季変更権とは|法的根拠と要件

    時季変更権とは、企業が従業員の指定した取得日を、他の時季に変更するよう求めることができる制度で、労働基準法39条5項に根拠があります。時季変更権は、「事業の正常な運営を妨げる場合」に限り、例外的に行使することができます。
    事業の正常な運営を妨げる場合に該当するかどうかは、最高裁判例(最高裁昭和52年10月13日判決)によれば、主に以下の事情を踏まえて判断されます。

    • その事業の規模
    • 年休請求権者(当該従業員)の職場における配置
    • 当該従業員の担当する業務の内容及び性質
    • 業務の繁閑
    • 代行者(代替要員)の配置の難易
    • 熟練の度合い
    • 時季を同じくして年休を指定した者の人数
    • 当日の人員確保の必要
    • 欠員補充の困難な事情の有無

    なお、単なる人手不足や抽象的な繁忙のみでは、時季変更権行使の要件を満たさないと判断される可能性が高く、企業は代替措置の検討や人員調整などの努力が求められます。アルバイトやパートといった非正規労働者であっても制度の適用は同様で、雇用形態により扱いが変わることはありません。

  2. (2)時季変更権を行使できる可能性があるケース

    時季変更権が認められるかどうかは、実際の状況に応じて判断されます。以下のような場合には、時季変更権の行使が認められる可能性が高いと考えられます。

    ① 代替人員をどうしても確保できない場合
    他の人員への割当や外部調達ができず、特定の従業員の休暇により業務停止が生じる場合は、時季変更権行使が認められる可能性があります。

    ② 同時期に有給休暇申請が集中した場合
    同一部署や同一技能者に集中し、一定の調整をしても業務継続が困難な場合は、時季変更権行使が認められる可能性があります。

    ③ 本人の参加が欠かせない業務がある場合
    特定業務が属人的である場合で、その日に休まれると業務が困難になるという事情がある場合には、時季変更権行使が認められる可能性があります。ただし、企業側には、属人化自体を避ける努力も求められます。

    ④ 有給休暇が長期間にわたる場合
    連続して長期取得することにより、事業の正常な運営に具体的な支障が生じる場合には、時季変更権行使が認められる可能性があります。ただし、長期休暇の場合でも企業側に具体的な調整努力が求められる点は変わりません。
  3. (3)シフト制で時季変更権を行使する場合の注意点

    シフト制の従業員に対して時季変更権を行使する場合、有給申請日は、事前に組まれたシフトとは別に扱われるため、「シフトを出しているから有給は不可」とする理由にはなりません

    また、年次有給休暇は本来、労働義務のある日に取得する制度であるため、シフトに入っていない日については有給を取得する必要はありません。一方で、会社が後からシフトを変更して年休取得を回避するような運用は、年休制度の趣旨に反すると評価される可能性があります。

    シフト制は繁忙期や長期連休に有給取得希望が集中しやすいため、事前ルールの明確化や希望日の早期ヒアリングを行い、代替要員の確保や調整努力を尽くすことが重要です。

3、繁忙期における有給申請対応の実務上のポイント

繁忙期の有給申請を巡ってトラブルが発生する背景には、制度理解不足や管理体制の不備があるケースが少なくありません。法的ルールを踏まえた上で、有給休暇の処理を適切に行うことが重要です。

  1. (1)非正規労働者を含めた全従業員の有給取得状況を管理

    有給休暇は、正社員だけでなく、パートやアルバイトなどの非正規労働者にも付与される制度です。シフト制を採用する業種では、非正規労働者の比率が高い場合が多く、繁忙期に取得希望が集中しやすい点も踏まえ、取得状況を一元管理する必要があります。

    特に繁忙期は、取得希望が事前に把握できていれば配置調整が可能なことも多いため、計画的なヒアリングやルール整備が有効です。

  2. (2)有給休暇の「消滅時効」と「年5日取得義務」に注意

    有給休暇の請求権は、付与日から2年間で時効により消滅します(労働基準法第115条)。そのため、企業側は、従業員が有給休暇の取得機会を確保できるよう適切な管理が求められます。繁忙期に取得を先送りにした結果、年休が消化できず時効消滅することはトラブルの原因となり得るため、注意しましょう。

    また、働き方改革関連法による法律の改正により、年次有給休暇が10日以上付与される従業員に対しては、年5日の有給を取得させることが使用者の義務となります(労働基準法第39条第7項)。繁忙期を理由に取得を制限していると、この取得義務違反が問題となる可能性もあるため注意が必要です。

    特に、アルバイトやパートは、制度認知が低く、時効により有給休暇が消滅してしまうことを知らないケースもあるため、企業側が積極的に周知するなどして取得機会を確保することが重要です。

  3. (3)有給休暇の申請を不当に拒否した場合のリスク

    本来有給休暇が付与されるべき従業員に付与されていない、法的根拠なく申出を却下している、法律が定める日数どおりに付与していない、などの場合には、労働基準監督署による是正指導や勧告の対象となる可能性があります。さらに、違法な運用は従業員との信頼関係を損ない、労務トラブルや離職につながりかねません。

    繁忙期は、人手不足のリスクが高い一方で、管理や制度運用を誤ると法的リスクが顕在化しやすいため、運用面での慎重な対応が不可欠です。

4、繁忙期の有給取得に関するトラブルの予防策

繁忙期は、有給取得に関するトラブルが生じる可能性が高いため、事前にトラブルを予防するための対策を講じておくことが重要です。以下では、繁忙期の有給取得に関するトラブル予防対策を紹介します。

  1. (1)計画的付与制度(計画年休)の活用

    繁忙期の有給取得トラブル予防に有効な制度が「計画的付与制度(計画年休)」です(労働基準法第39条第6項)。
    これは、年次有給休暇のうち、労使協定に基づいて取得日を特定期間に計画付与できる制度です。繁忙期を外した日程に計画付与を設定することで、繁忙期の人手確保と年休取得の両立が可能になります。

    特に、シフト制や店舗運営型の事業では繁忙期が予測しやすいため、計画的付与は現実的な選択肢の一つといえます。ただし、計画的付与の対象とできるのは、年次有給休暇のうち5日を超える部分に限られます。少なくとも5日分は、従業員が自由に取得できる日数として確保しなければならない点に注意が必要です。

  2. (2)繁忙期の有給休暇取得ルールを明確化しておく

    繁忙期に有給申請が集中する業界では、取得ルールや事前相談の期限を定めておくことが有効です。「繁忙期は事前相談を求める」「希望日を早めに申告してもらう」といった運用ルールにより、企業側は、人員配置や代替業務の調整がしやすくなります。

    ただし、ルールを設定しても、有給休暇の原則や時季変更権を超える形で取得制限を加えることはできないため、法的バランスを意識した制度設計が必要です。

  3. (3)希望日の事前ヒアリングと人員配置の調整

    繁忙期に有給申請が集中すること自体は予見可能なケースが多く、事前に従業員の希望日をヒアリングしておくことで、代替人員の確保やシフトの調整が容易になります。

    特に、アルバイト・パートの多い業種では、長期連休に休暇希望が集中する傾向があるため、繁忙期前に一度希望日を確認するだけでも大きな効果があります。

  4. (4)属人化を避けて業務を共有化する

    特定業務が属人化していることで、有給取得が困難になっているケースがあります。普段から業務の属人化を避け、複数人が代替可能な体制を整えておくことで、繁忙期の有給取得への対応が容易になり、労務トラブルや休暇の阻害要因を減らすことができます。

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5、まとめ

繁忙期であっても、原則として有給休暇の申請を拒否することはできず、時季変更権が行使できる場面も限定的です。企業側としては、繁忙期の有給取得を前提とした人員調整やルール整備、計画的付与制度の活用により、法令遵守と業務運営の両立を図ることが求められます。また、シフト制やアルバイトを多く抱える事業では、制度理解と情報共有がトラブル防止に不可欠です。

もっとも、実際の運用では制度設計や労使協議、就業規則の変更、個別対応など専門的な判断が求められる場面も少なくありません。繁忙期の有給制度運用や労務トラブルでお困りの際は、労働問題を多数取り扱うベリーベスト法律事務所へご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
この記事の監修者
田川 亮
田川 亮  弁護士
ベリーベスト法律事務所
所属 : 第一東京弁護士会
弁護士会登録番号 : 63446
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