企業法務コラム
起業の際には、各種契約書の作成や手続申請など法律に関わる対応を多数行っていかねばなりません。
将来、思わぬ不利益を受けることのないよう、当初から法律の専門家である弁護士に相談し、サポートを受けておきましょう。
この記事ではスタートアップ企業の経営者が知っておきたい法務手続き、必要な契約書の種類やベンチャー企業が陥りがちなトラブル対策方法について解説していきます。
起業の際には、以下のような手続が必要となります。
法人を設立したら社会保険への加入が必要です。一人社長で従業員を雇用しない場合でも、基本的に厚生年金と健康保険(社会保険)への加入義務があります。社会保険への加入手続は年金事務所で行います。
スタートアップ企業が従業員を1人でも雇った場合、特殊な例外を除き、労働保険(雇用保険、労災保険)に加入する必要があり、加入を怠ると法律違反となります。手続は労働基準監督署で行いましょう。
法人を設立したら、税務署へ法人設立届出書を提出する必要があります。また、源泉所得税関係の届出も必要ですし、資本金の額が1000万円を超えるなどの理由で必要な場合には消費税関係の届出もしなければなりません。
常時10名以上の従業員を雇用する場合には、社内のルールとなる就業規則を作成して労働基準監督署へ届け出なければなりません。
スタートアップ起業後に許認可を要する事業を行う場合には、法人設立後に申請をして許認可を得る必要があります。また、許可までも必要がなくとも、登録や届出が必要な業種もあります。
起業をすると、リース契約、取引基本契約、雇用契約など、各種の契約を締結して必要な契約書を作成する機会があります。
スタートアップ企業では、起業後に以下のようなトラブルが発生しやすくなっています。
共同で事業を始めると、将来株式の配分や会社の支配権を巡ってトラブルになりやすいので注意が必要です。たとえば、当初は仲良く3人で起業して株式を3等分しても、後に特定の者に大きな負担がかかって不満が出るケースがあります。また、スタートアップメンバーのうち1人が経営から完全に離脱しているのに、当初に分配した株式を保有しているからといって、株主として経営に口だしするケースもあります。トラブルを防ぐには、最低限「取締役でなくなった場合には、株式を手放さなければならない」などの仕組みを構築しておくのが無難です。
ベンチャーキャピタルなどの第三者から支援を受ける際には、その条件設定でトラブルになる事例があります。たとえば、創業者が深い考えなく相手の言うままに出資契約書や株主間契約書にサインしたところ、経営の細かい部分まで口出しされ、創業者がやろうと思っていたことができなくなるなど、思ってもみなかったような干渉を受けるケースなどです。
なお、このような事態を防ぐために、種類株式を発行することによって対応することが適切な場合もあります。種類株については後記4(3)でも述べます。
ベンチャー企業としてビジネスを始める際には、オフィス賃貸借契約、事務機器や什器備品の売買契約、リース契約、労働契約、金融機関からローンを借りる際の金銭消費貸借契約、取引先との取引基本契約など、さまざまな契約を締結して契約書にサインしなければなりません。
その際、契約内容を深く理解しないまま適当に署名押印してしまうと、将来思ってもみなかった契約条件が適用されてトラブルになる可能性があります。
会社には、さまざまな法律が適用されます。許認可がないとできない事業や業種もありますし、他者の商標権などの知的財産権を侵害してはなりません。
また、労働者保護の法律も数多く、企業の都合を優先して法令を無視していると労基署から摘発を受けたり労働者から訴訟を起こされたり、時には刑事事件になってしまったりするおそれもあります。
広告を行う際には景品表示法や特定商取引法、不正競争防止法などの法律を遵守しなければなりません。
これらの例からもお分かりのとおり、法律の知識がないと、知らない間に違法行為をしてトラブルになる可能性が高くなります。
以上のように、スタートアップ企業が安全に経営を進めていくためには、企業法務についての知識やノウハウが必須といえます。
起業家として会社を設立するなら、以下のような契約書のひながたを準備しておいた方がよいと考えられます。
契約書を作成するのは、その契約におけるルールを明らかにするためです。契約書がなかったら、売買契約などで料金不払いに遭った際などにも回収しにくくなりますし、業務委託を受けて納品物を提出して受領してもらえなかったときになどに強く要求することができません。契約を解除・解約したい場合などにおける対応方法も明確にならず、トラブルが拡大してしまいます。
契約書は、正しく作成する必要があります。昨今、インターネットや書籍を通じて契約書のひながたを見つけることも難しくありませんが、こうしたひながたを使っても、専門知識なしに作成した契約書には、肝心な内容が漏れていて、結局トラブルが起こった際に何の役にも立たない事例も少なくありません。
契約書を作成するならば、企業法務を主な取扱分野としている弁護士に依頼することが望ましいといえます。
スタートアップ企業が経営を進めて行く上で、弁護士による法的サポートを受けると安心です。以下で、弁護士に相談すると、どのようなメリットを受けられるのか解説します。
スタートアップ企業が新規事業を始める際には、事業内容が法律に適合しているか確認する必要があります。
自社では調べきれないケースであっても弁護士に相談していれば、正しく判定できるので安心です。許認可が必要な場合には、弁護士が関係官庁と折衝するなど、許認可取得のための支援も行います。
スタートアップ企業は、事業を開始する際にさまざまな契約書や利用規約、プライバシーポリシーや就業規則などを作成しなければなりません。弁護士がいれば、取引形態や企業の実情に応じた書類作成を任せられます。弁護士と、知的財産権の専門家である弁理士が協働している事務所であれば、より望ましいといえます。
今の時代、スタートアップ企業が競争力を向上させるには、商標権や特許権などの知的財産権の活用が必要不可欠です。自社がこうした権利を取得して活用することはもちろんのこと、他者の権利を侵害しないように注意する義務もありますが、弁護士がいれば、そうした対策を任せられます。
スタートアップ企業を共同で創業した場合、共同創業者が会社株式を持ち合います。その際、将来トラブルが顕在化しないように株主間契約を締結しておく必要があります。弁護士がその支援を行います。
スタートアップ企業では、「出資はしてもらいたいが、経営に口をはさまれたくない」などの理由により、配当優先かつ無議決権とした株式(種類株式の一種)を発行して投資家に付与するニーズが出てくることがあります。他方で、役員や従業員に対し、不十分な金銭的報酬を補うために、ストックオプションを発行することもあるでしょう。
これらの発行には、定款の変更のみならず、変更登記の申請も必要となってきます。また、どのような種類株式やストックオプションが会社にとってふさわしいかという視点も重要であり、こうした資本政策を会社にとって適切なものとして策定し、適法に実行するためにも、これらの発行の経験が豊富な弁護士と司法書士による支援を受けることは必須といえます。
スタートアップ企業が弁護士に相談や依頼をするなら、顧問契約を利用することをお勧めします。顧問契約をしておけばいつでも気軽に弁護士に法律相談できるので、自社に法務部を作る余裕がなくても法律的な支援を受けられます。
また、弁護士の側も、顧問先であれば優先的に対応するものです。何かあったときの着手金や成功報酬金等の料金(弁護士費用)割引を受けられることもあります。
最後に、スタートップ企業が弁護士を選ぶ際のポイントを挙げてみます。
スタートアップ企業が弁護士を選ぶなら、企業法務についての経験が豊富で、ノウハウの蓄積があり、積極的に提案をしてくれる法律事務所や、フットワークが軽くスピーディーに対応してくれる弁護士を選びましょう。
顧問契約についても、各社のニーズに応じていくつかの料金コースを設けている事務所が良いでしょう。ホームページなどの料金表を確認して、自社にフィットしそうなところに問い合わせをして相談を受けてみてください。
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