企業法務コラム
遅刻や欠勤が多い社員がいると、まじめに出社している社員からは不満の声が出ることがあります。また、社員全体の士気が下がるだけでなく、一部の社員がいないことで、業務もスムーズに動かくなくなります。
そのようなことから、勤怠不良の従業員がいる場合には、早めの対応が必要になります。勤怠不良の従業員に対してどのような措置をとればよいのか、解雇することはできるかなど、対応について苦慮している会社もあることでしょう。
そこで、本コラムでは、勤怠不良の社員に対し、会社の人事担当者がとるべき措置や解雇する場合の手続きの流れなどについて、注意点を交えて解説していきます。
長時間労働や人間関係からのストレスでうつ病になるケースが増えています。
精神的な病気は、見た目では分かりにくいため、単になまけていると見られてしまう場合がありますが、本人でさえも自覚できていないことがあるので、普段から元気がないなどの症状が見られる場合、病院の受診を勧めてみるのもひとつの方法です。
保育園の場所が会社から遠く、子どもを預けてから出社すると始業時間ギリギリになる場合や親の介護により、遅刻してしまうなど家庭の事情によるものです。
家族に重い病人がいる場合も看護の関係上、遅刻が続くことがあり得ます。
従業員本人が交通事故などに遭い、大けがをした場合、会社に連絡が取れずに欠勤ということもあるでしょう。病気やケガの程度にもよりますが、重い場合には家族などから連絡があるのが一般的ですが、欠勤の連絡がない場合には、自宅や緊急連絡先に連絡を取ってみる必要があります。
都市部においては、電車通勤が一般的であるため、電車が遅延すると始業時間に間に合わないということがあります。
最近は台風などによる計画運休などもあり、交通機関が使えないことによる遅延や欠勤については、本人に責任がないので、遅刻扱いにしないか特別休暇にすることが一般的です。
問題社員のトラブルから、
これまで見てきたように、遅刻や欠勤をするにはいろいろな理由があります。
特に、本人に責任があるのかどうかは、懲戒処分や解雇が認められるかどうか判断する上で重要な要素になるので、必ず確認しなければなりません。
そのため、遅刻や欠勤を繰り返す職員に、その理由についてヒアリングし、改善に向けて話し合うことが重要です。
ヒアリングをする際は、周囲に聞かれないよう個室で面談を行うようにします。
感情的にならないようにし、相手の主張に耳を傾けることが重要です。
間違っても威圧的な態度で、「今度遅刻したらクビだ」などと言わないようにしなければなりません。後日、パワハラを受けたなどと主張されるおそれがあるからです。
理由を聞いた上で、正当な理由がない場合には、社員に今後は遅刻や欠勤をしないよう注意をします。たとえ、その社員が、仕事ができる場合であっても特別扱いしないのがポイントです。仕事ができる社員の中には、「少しくらい遅刻しても許される」と思っている人もいるため、職場の秩序を維持するためも毅然(きぜん)と注意することが必要です。
その際、「仕事の結果を出しているのだから甘く見てほしい」とか「遅くまで残業しているのだから、多少の遅刻は許してほしい」といったことを言われることがありますが、それを許してしまっては、残業の多い会社では誰もが遅刻してよいということになってしまいます。
超過勤務は減らすべきものであり、超過勤務しているから遅刻してよいというのでは本末転倒になるということをしっかり理解してもらうようにします。
勤怠不良の社員の遅刻や欠勤をする理由を把握することができたら、単に注意・指導するだけでなく、理由に応じた改善策を提示することも大切です。
「遅刻をしないように」というのは簡単ですが、それでは何の解決にもなりません。
たとえば、時間休の制度のある会社であれば、「時間休」をうまく使って正当な休暇として申請するように指導するという方法もあるでしょう。
他方、会社に来るのが嫌で欠勤するというような場合には、会社側にも原因がある可能性があります。詳しくヒアリングした上で、いじめや各種ハラスメントはないか、配置転換はできないかなど調査したり、検討したりする必要があります。
なお、うつ病などが疑われる場合には、病院の受診を勧めるべきでしょう。
勤怠不良の社員を出さないようにするためには、会社が勤怠状況をしっかりと把握していることが前提になります。誰が何時に出社しているのか正確に把握できていなければ、遅刻を注意することはできないからです。
労務管理をしっかりしていれば、勤怠不良の社員にすみやかに対応することができ、規律を維持することができます。
遅刻や欠勤は、さまざまな理由が考えられますが、もし、会社に原因がある場合には、それを改善すれば、勤怠不良の社員は減るはずです。
たとえば、パワハラ上司がいて、何人もの人が辞めていく、あるいは、出社しなくなるという状態が確認されれば、その上司を注意したり、場合によっては降格したりするなどの懲戒処分をするなどして対処することで改善する可能性があります。
遅刻や欠勤をした社員に対して注意や指導を行うのはもちろんですが、社員全体に、時間を守ることの重要性や連絡もなく突然休まれると業務に支障があることなど、日ごろから周知しておくことで、社員に意識させることが重要です。
欠勤については、就業規則にルールを定めることが大切です。
たとえば、「理由なく遅刻・欠勤を繰り返すこと」を懲戒事由としておくことなどです。
もっとも、就業規則に定めたルールについては、内容が合理的でなければなりませんので、ご注意下さい。
また、就業規則を整備しておくことは大切なのですが、作成するだけではなく、従業員に就業規則の内容を説明するなどして、周知することも忘れないようにしましょう。
会社の規模にもよりますが、ストレスチェックを行い、客観的にストレスの度合いをはかることやカウンセリングを実施するなどして、労働者のストレスや精神的な悩みを早期に解決することも勤怠不良を防止する方法として有効です。
勤怠不良の社員から遅刻や欠勤の理由を聞いても特別の事情がなく、再三注意・指導をしても改善しない場合、懲戒処分を検討しなければなりません。
ただ、懲戒処分を行う場合、いきなり懲戒解雇ということではなく、はじめは「戒告」や「けん責」といった軽い処分にとどめるべきです。それによって、欠勤がなくなれば解雇をせずに済むからです。
また、懲戒処分を行った場合、後で争いとなり、裁判に発展することも考えられるので、注意や指導を再三行ったということを証拠として残しておくことが重要です。
具体的には、書面やメールで注意や指導を行うようにしていきます。
遅刻や欠勤が多い社員であっても、簡単には解雇は認められません。
労働契約法では、同法16条に
と規定されています。
会社は生活の基盤であり、安易に解雇が認められると社員は安心して働くことができないことから、この条文を根拠に、多くの裁判例で解雇が無効とされています。
そのため、有効に解雇するためには、客観的に合理的で社会通念上相当でなければなりません。この要件を満たすため、
といった経緯が重要となるわけです。
なお、同じく遅刻・欠勤を繰り返している社員がいるのに、特定の社員のみ解雇するといった不平等な取り扱いをすると、権利の濫用と評価されてしまう場合もあるため、そのような不平等な取り扱いになっていないか注意しましょう。
以下の裁判例は、勤怠不良のため普通解雇したところ、解雇された職員が当該解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上是認し得ないもので違法であるとして不法行為に基づく損害賠償を求めた事案です。
これに対し、最高裁は、本件普通解雇は不法行為を構成しないと判断しました。
遅刻や欠勤の理由を確認し、必要な注意や指導をしたにもかかわらず、改善せず、戒告などの軽い懲戒処分をしても改善が見られない場合、解雇を検討することになります。
解雇する場合、会社からの通告により解雇ということもできますが、できればその前に退職勧奨を行い、社員自らの意思で退職することを促してみるとよいでしょう。
本人も会社に行きたくないと思っているかもしれないからです。
退職勧奨をしても、従業員に退職する意思はないという場合、解雇するしかありません。
解雇には、懲戒解雇と普通解雇がありますが、勤怠不良で解雇する場合、一般的には普通解雇とするのが一般的です。
勤怠不良が懲戒事由に該当する場合、懲戒解雇もできますが、懲戒解雇となると社員の反発も強くなる傾向にあるため、普通解雇とした方がトラブルは少ないという理由です。
繰り返しになりますが、普通解雇をする場合には、客観的合理的理由・社会的相当性がなければいけません。
その他、
も求められます。
法令上の解雇制限に該当しない場合、解雇する手続きとしては、当該社員に少なくとも解雇する30日前までに書面で解雇予告通知をします。
もし、即時に解雇したい場合には、解雇予告手当(30日分の賃金)を支給します。手続き的にはこれで終わりです。
問題社員のトラブルから、
今回は、勤怠不良の社員を解雇する場合の手続きについて解説してきました。遅刻や欠勤を繰り返すような勤怠不良の場合、解雇が有効であると認められるケースもありますが、解雇は容易に認められるものではないため、解雇する場合は慎重に進めましょう。
また、勤怠不良の社員に対して感情的になったりすると、パワハラや解雇権の濫用だとして訴えられることもありますので、当該社員とトラブルにならないように努めるといいでしょう。
もし勤怠不良の社員について対応に苦慮されているというようでしたら、一度ベリーベスト法律事務所までご相談ください。労働問題について経験豊富な弁護士がアドバイスいたします。
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