企業法務コラム
他社から人材の受け入れを検討する場合、どのような契約形態をとるべきかについて考えなければいけません。
一般的にイメージするのは派遣契約かもしれませんが、それ以外に業務委託契約も検討することができます。どのような契約を結ぶのかによって、人材の活用方法が異なるので、実際に受け入れを決める前に十分な検討を行っておきましょう。
この記事では、労働者派遣契約と業務委託契約の違いを中心に、派遣契約の基本についてベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
派遣会社から人材を受け入れる場合、派遣会社との間で「派遣契約」を締結します。
まずは、派遣契約とはどのような契約なのか、またどのような規制が設けられているのかについて、基本的なポイントを理解しておきましょう。
派遣契約とは、派遣会社が雇用する労働者を、他社の指揮命令下で労働させる契約をいいます。法律上は、これを「労働者派遣」といいます(労働者派遣法 第2条第1号)。
最大のポイントは、労働者と雇用契約(労働契約)を結んでいるのは派遣会社であり、派遣先の企業ではないということです。
労働者派遣の場合、派遣先の企業は自社と雇用関係のない労働者に対して、具体的な業務指示を行うことができるという特徴があります。
同一事業所に対する派遣期間は、原則として最大3年とされています(労働者派遣法 第35条の3)。
したがって派遣会社は、労働者が派遣先企業で勤務を開始してから最大3年を経過した段階で、労働者を引き上げなければなりません。
従来の労働者派遣法では、政令で定められた26の業務(政令26業務)については、例外的に派遣期間のいわゆる「3年ルール」の適用が免除されていました。
しかし、平成27(2015)年の労働者派遣法改正以降は、例外なくすべての業種について3年ルールが適用されるようになっています。
労働者派遣事業を行うことができるのは、厚生労働大臣の許可を得た事業者のみです(労働者派遣法第5条)。
したがって、派遣会社(派遣先との間で派遣契約を締結する事業者)は、労働者派遣事業の許可を得ていなければ違法となってしまいます。
また、人材派遣を受け入れる側についても、派遣会社が労働者派遣事業の許可を得ていないことを知りながら派遣契約を締結した場合、法的責任を問われる可能性があるので注意が必要です。
問題社員のトラブルから、
他社から人材を受け入れる際に締結する契約には、派遣契約のほかに「業務委託契約」があります。
派遣契約と業務委託契約は、他社のために業務を行う契約という点で共通していますが、その法的性質は全く異なるので注意が必要です。
前述のとおり、労働者派遣の場合は、派遣先企業と派遣労働者の間に指揮命令関係が発生します。
つまり派遣先企業は、派遣労働者に対して、業務のやり方や勤務時間などを指定したり、その他派遣先企業内におけるルールの順守を求めたりするなど、業務上の具体的な指示を行うことができるのです。
これに対して業務委託の場合、人材を受け入れる企業と作業者の間に指揮命令関係はありません。
業務委託では、業務のやり方は作業者(または作業者を雇用する会社)の裁量に任されており、受け入れ先企業が具体的な業務指示を行うことはできないのです。
問題社員のトラブルから、
業務委託には、主に「請負」と「委任、準委任」の2種類があります。
「請負」は、請負人が特定の仕事を完成させる義務を負う契約形態です(民法第632条)。
たとえば、注文者からの発注を受けて、請負人がソフトウエアを開発して納品し、注文者の検収をもって納品完了となる場合は「請負」に該当します。
請負の報酬は、仕事の完成に対する対価なので、請負人は仕事を完成させなければ、報酬を受け取ることができません。
これに対して「委任・準委任」は、委任者による委託を受けて、受任者が一定の事務を行う契約形態です。委任契約は法律行為を委託するものであるのに対し、準委任契約は法律行為以外の行為を委託するものです。
委任・準委任の場合、請負契約とは異なり仕事の完成を目的とはしていません。
たとえば、コンサルタントが客先常駐してアドバイスを行うようなケースが「準委任」に該当します。
委任・準委任の場合、特定の仕事を完成させたかどうかにかかわらず、契約に従って事務を処理したことをもって、委任者から受任者に対して報酬が支払われます。
労働者派遣には労働者派遣事業の許可が必要であるのに対して、業務委託の場合は、特に許認可の取得は必要ありません。
したがって、労働者派遣事業の許可を得ずに人材派遣などを行う場合は、労働者派遣ではなく業務委託とする必要があります。
問題社員のトラブルから、
他社に対して人材を融通することは、「客先常駐」や「人材派遣」などと呼ばれることがあります。
客先常駐と人材派遣の違いがクローズアップされることもありますが、大切なのは契約の実態に注目して正確に法的整理をすることです。
一般論として、「客先常駐」は業務委託、「人材派遣」は労働者派遣を意味するケースが多いといえます。
客先常駐の業務委託の方式は、仕事の完成を目的とする請負の場合もあれば、SES(System Enginring Service)などの「準委任」の場合もあります。
ただし、客先常駐の名称で労働者派遣が行われているケースも存在します。
人材派遣については、あえて「派遣」という言葉を用いている以上、特に労働者派遣を指す場合が多いです。
しかし、単に「人材を送り込む」という意味合いで使われており、実態としては請負や準委任のケースもあります。
労働者派遣法に基づく許認可の要否は、契約内容や業務の実態を実質的に考慮して判断されます。
「客先常駐」の名を冠していても、常駐先の指揮命令下で労働している場合は、法的には労働者派遣に当たります。
また、「人材派遣」の名目であっても、実態としては指揮命令関係の存在しないSESであるケースもあり得るのです。
したがって、「客先常駐」や「人材派遣」といった言葉の使い分けは法的には意味をなしません。名称ではなく実態に注目して法的整理を行う必要があります。
問題社員のトラブルから、
労働者派遣事業の許可を得た派遣会社と派遣契約を締結するケースでは、多くの場合、基本契約と個別契約の2段階で契約を締結します。
労働者派遣に関するトラブルを防止するためにも、派遣契約は詳細をつめた内容で締結することが大切です。
派遣契約の締結に関して不安がある場合は、お早めに弁護士までご相談ください。
基本契約と個別契約の2段階が必要となるのは、複数の労働者を継続的に派遣することが想定されている場合です。
この場合、基本契約において労働者派遣の基本条件を固めておき、個々の労働者派遣についてはシンプルな個別契約を締結することで、スムーズに労働者を派遣できます。
基本契約では、派遣契約の総論的な内容が規定されます。
基本契約の主な規定内容は、次のとおりです。
個別契約で規定されるのは、個々の労働者派遣の条件に関する事項となります。
個別契約の主な規定内容は、次のとおりです。
問題社員のトラブルから、
派遣契約を締結して労働者派遣を行う場合、派遣会社は労働者派遣事業の許可を取得しなければなりません。
他社から人材紹介などを受け入れる側の会社も、労働者派遣に関する法的なトラブルを防止するため、派遣会社の許認可取得状況はきちんと確認しましょう。
なお、派遣先企業と派遣労働者の間で指揮命令関係が発生する「労働者派遣」とは異なり、指揮命令関係がない「業務委託」であれば、労働者派遣事業の許可なくして人材派遣や客先常駐を実施することが可能です。
労働者派遣と業務委託のどちらに当たるかは、契約や業務の内容を総合的に考慮したうえで判断されます。
法的な判断に迷う部分があれば、弁護士への相談をおすすめいたします。
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