企業法務コラム
労働条件について特別のルールを定める際には、「労使協定」の締結が必要となることがあります。労使協定とは、会社(使用者)と労働組合(もしくは労働者の過半数代表者)が書面で取り交わす契約です。
また、一部の労使協定については労働基準監督署への届出も必要です。労働基準法のルールを正しく踏まえた上で、適切に労使協定の締結・届出を行いましょう。
今回は労使協定について、概要・締結の手順・締結すべきケース・届出の要否などをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
労使協定とは、使用者と労働組合または労働者の過半数代表者が締結する、書面上の取り決めです。
労働基準法などの法律によって、労働条件に関する一定の制度を導入する場合などに、労使協定の締結が義務付けられています。
労使協定は、使用者および労働者側の以下の者の間で締結します。
労使協定は、事業場ごとに締結しなければなりません。
また、管理監督者(労働基準法第41条第2号)や使用者側の意向に基づき選出された者は、労働者の過半数代表者として認められない点に注意が必要です(労働基準法施行規則第6条の2第1項)。
労使協定と就業規則は、いずれも事業場における労働条件を定めたルールですが、両者は主に以下の点が異なります。
内容 | 労使協定 | 就業規則 |
---|---|---|
作成・締結すべき場合 | 特定の労働条件に関する制度を導入する際に締結する必要があります。 | 常時10人以上の従業員を使用する事業場において作成が義務付けられています(労働基準法第89条) |
定めるべき事項 | 導入する特定の労働条件に関するルールを定めます。 | 幅広い労働条件を定める必要があります(同法第89条) |
作成者(締結者) | 使用者側・労働者側の双方が当事者として締結します。 | 使用者が作成します(ただし、労働者側に対する意見聴取が義務付けられています) |
労働基準監督署への届出の要否 | 労働基準監督署への届出が必要なものと不要なものがあります。 | 労働基準監督署への届出が必要です(作成義務がある場合に限ります) |
問題社員のトラブルから、
労使協定を締結する際の大まかな手順は、以下のとおりです。
以下の記事では、36協定の締結に関する注意点を紹介していますので、併せてご参照ください。
問題社員のトラブルから、
労使協定の締結義務は、労働基準法や育児・介護休業法によって定められています。
以下に挙げるのは、労使協定の締結が必要な場合の一例です。
36(さぶろく)協定とは、法定労働時間を超えたり、休日労働となったりする場合に、労働者と使用者の間で結ばれる労使協定です。36協定を超えた労働をさせると、企業は懲役または罰金などのペナルティを科せられます。
有給休暇は労働者の権利です。そのため労働者へ有給休暇を計画的に付与する年休計画においても労使協定の締結が必要になります。
専門性の高い特定の業務について、時間配分や業務手段など幅広い裁量を労働者にゆだねるのが専門業務型裁量労働制です。労働者は、労使協定で取り決めた裁量の範囲内で業務を遂行します。
特定の範囲内において法定労働時間を超えた労働をさせるために、変形労働時間制を導入するケースがあります。この場合も労使協定が必要です。
上記のほかにも、次の項目で紹介するように、さまざまな場面で労使協定の締結が必要とされています。
問題社員のトラブルから、
労使協定には、労働基準監督署への届出が必要なものと不要なものがあります。
労働基準監督署への届出が必要な労使協定は、以下の事項を定めたものです。
上記のうち、時間外労働および休日労働に関する事項を定めた「36協定」については、労働基準監督署への届出が効力要件とされています。
そのため、36協定が発効する前日までに、労働基準監督署への届出を済ませなければなりません。
その他の労使協定については、発効後に届け出ることも可能ですが、できる限り早めに届出を行うことをおすすめします。
一方、以下の事項を定めた労使協定については、労働基準監督署への届出が不要とされています。
問題社員のトラブルから、
労使協定の締結義務を怠った場合、該当する労働条件については、労働基準法の原則的なルールが適用されます。
たとえば36協定の締結を怠った状態で、使用者が労働者に時間外労働をさせたとします。この場合、使用者は法定労働時間に関する規制(労働基準法第32条)に違反しているため、「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」の対象です(同法第119条第1号)。
また、労使協定の届出義務を怠った場合、使用者には「30万円以下の罰金」が科されます(同法第120条第1号)。
なお36協定については、労働基準監督署への届出が効力要件とされているため、届出がなされていない36協定は未発効の扱いとなります。
この場合、使用者の労働者に対する時間外労働・休日労働の指示は労働基準法違反に当たり、使用者には「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科されます(同法第119条第1号)。
さらに、上記の各違反行為が会社の代理人または使用人その他の従業者によってなされた場合には、会社にも「30万円以下の罰金」が科されます(同法第121条第1項)。
労働基準法違反により罰則を受けると、会社のレピュテーションにも大きな悪影響が生じるため、労使協定の締結・届出を適切に行いましょう。
問題社員のトラブルから、
労使協定の締結・届出が必要かどうかの判断は、労働基準法その他の法令に精通していなければ難しい部分があります。
労使協定に関するコンプライアンスを徹底するためには、弁護士への相談がおすすめです。
ベリーベスト法律事務所は、人事・労務管理に関する企業のご相談を随時受け付けております。労使協定のドラフト作成や、締結・届出の手続きについても全面的に代行し、コンプライアンス重視の人事・労務管理をサポートします。
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