企業法務コラム
会社内で労災事故が発生した場合には、企業イメージの低下や労災保険料の値上がりなどを懸念して、労災事故の隠蔽、いわゆる「労災隠し」が行われることがあります。
しかし、企業には、労災が発生した場合には法律上適切に報告することが義務付けられていますので、労災隠しを行ってしまうとさまざまなリスクやペナルティーが生じてしまいます。そのため、労災事故が発生した場合には、正しい対応が求められます。
今回は、労災隠しによる罰則やリスクおよび正しい労災対応について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
労災隠しとはどのようなものなのでしょうか。
このような労災事故が発生し、労働者が死亡または休業を余儀なくされた場合には、事業主は、労働基準監督署長に対して、遅滞なく労働者死傷病報告を提出しなければなりません。
しかし事業者が、労働者死傷病報告の提出が必要な状況であるにもかかわらず、故意にそれを提出しない、または虚偽内容を記載して提出することがあります。
具体的には、以下のような行為が労災隠しにあたります。
なお、労災は、製造業や建築業などに多く発生しますが、業務上の災害、通勤途中の災害、業務上の疾病などさまざまなパターンがあり、どのような会社でも労災は発生し得るものといえます。
そのため、すべての企業で労災隠しが問題となる可能性を有しています。
問題社員のトラブルから、
そもそもなぜ企業は労災隠しを行ってしまうのでしょうか。
企業が労災隠しを行う主な理由としては、以下のものが挙げられます。
従業員数が100人以上の企業や建設業などの危険な作業を伴う事業には、メリット制という仕組みが適用されます。これは、労災の発生状況に応じて労災保険料の金額が変動する制度です。
メリット制が適用される企業では、労災が発覚すると翌年の労災保険料が増額してしまいますので、費用負担を軽減する目的で労災隠しが行われることがあります。また、メリット制が適用されない企業でも、労災事故により労災保険料が増額すると誤解して労災隠しが行われることがあります。
なお、労災保険に関する詳しい内容については、以下の記事をご参照ください。
労災事故の発生が世間に知られてしまうと、「労働環境に問題がある企業」、「ブラック企業」などのネガティブなイメージを持たれてしまい、企業イメージが低下するおそれがあります。
それにより、取引を打ち切られてしまったり、顧客離れによる売上げの低下が生じたりする可能性があることから、労災隠しを行う場合があります。
中小企業では、労災事故が発生した場合の手続きを理解しておらず、担当者も決められていないことから、必要な報告を怠り、結果として労災隠しになってしまうケースがあります。
また、業務が忙しく労災申請の手続きまで手が回らないという理由で労災隠しが行われることもあります。
労働安全衛生法では、労災事故により労働者が死亡または休業した場合には、労働者死傷病報告を労働基準監督署に提出することが義務付けられています。
労災隠しは、このような労働安全衛生法上の義務に違反する行為となりますので、労災隠しを行った企業には、50万円以下の罰金が科されます。
労災隠しは犯罪
厚生労働省のホームページでも「労災隠しは犯罪です」と明示されています。
企業は、労災隠しが犯罪であるという意識を持ち、誠実に労災にあった従業員に向き合い対応することが大切です。
労災隠しをすることにより、企業には、以下のようなリスクが生じます。
労災事故が生じたということでも企業イメージは低下しますが、さらに労災隠しも明らかになれば、企業イメージは大きく失墜します。世間には、犯罪を行う会社とのレッテルが貼られてしまいますので、信頼回復は困難となります。それによる損害も多大なものとなるでしょう。
労災隠しは、労災発生後の危機管理として、もっともリスクの高い対応といえます。
労災事故であれば、労災により被害を受けた従業員は、労災保険から補償を受けることができます。しかし、会社が労災隠しをすると、労働基準監督署への労災申請は行われませんので、従業員が自費で治療を行わなければなりません。
このような対応をすると、従業員は、会社に対して不信感を抱くことになり、多くの従業員の離職を招く事態にもなりかねません。
労災隠しをする職場では、従業員の安全管理もずさんなケースが多いです。会社には、労働者の健康や安全に配慮する義務(安全配慮義務)がありますので、安全管理を怠った結果、労災が発生したという場合は、被害を受けた従業員から損害賠償請求をされるリスクがあります。
労災による損害については、労災保険から補償を受けることができますが、労災保険による補償だけでは十分なものではありませんので、従業員に障害が残るようなケースでは、高額な賠償金を請求される可能性もあります。
労災事故が発生した場合には、企業としては、以下のような対応が求められます。
労災事故が発生した場合、まずは被災者の救護を最優先に行います。
労災により怪我をした従業員がいる場合には、救急車を呼び病院へ搬送し、二次災害を防止するために速やかに他の労働者へ避難指示を出す必要があります。
そして、事業主は、労働基準監督署に遅滞なく労働者私傷病報告書を提出しなければなりません。提出しなかったり、虚偽の内容を記載したりした場合には、労災隠しとして刑事罰の対象になる可能性もありますので注意が必要です。
会社には労働者が健康で安全に働くことができるよう配慮する義務があります。
労災事故が発生した場合には、職場内の安全管理に不備があった可能性がありますので、労災の経緯や原因を究明して、適切な対策を講じることが求められます。
設備管理の不備であれば、必要な安全対策を講じることになりますし、従業員の不注意による事故であれば安全衛生教育の実施が有効な再発防止策となるでしょう。
労災により被害を受けた従業員は、怪我の治療などで精一杯の状態ですので、1日でも早く労災保険から補償を受けられるようにするためにも、会社が主導して労災申請のサポートをすることが大切です。
労災により従業員は心身ともに大きな負担が生じています。負担の緩和のために少しでも迅速にケアができるようしてあげるとよいでしょう。
労災事故が発生してお困りの企業は、弁護士に相談することをおすすめします。
労災事故が発生した場合に労災隠しをすることは、会社として最もまずい対応になります。しかし、労災隠しが犯罪であることを理解していない企業では、目先の利益から労災隠しを選択してしまい、取り返しのつかない事態になってしまうケースもあります。
そのような事態に陥らないようにするためにも、労災が発生した場合には、まずは弁護士に相談し、会社としての対応をアドバイスしてもらうとよいでしょう。
会社の安全配慮義務違反により労災が発生した場合や会社が雇用する従業員の不注意により労災が発生したような場合には、会社は、債務不履行または使用者責任に基づき、被害を受けた従業員への賠償金の支払いが必要になります。
このようなケースでは、被害を受けた従業員から会社に対して損害賠償請求がなされることが予想されますので、会社としては、従業員への対応が必要になります。
労災に関する損害賠償請求においては、責任の有無、賠償金の計算、過失相殺、損益相殺など考慮すべき事項がたくさんあります。
これらに適切に対応するには、専門的知識や経験が不可欠となりますので、まずは、弁護士に相談することをおすすめします。
問題社員のトラブルから、
労災隠しは、刑事罰の適用の可能性がある犯罪行為です。
労災が発生した場合には、被害を受けた従業員へのケアを行うとともに、労働基準監督署に労働者死傷病報告書を提出しなければなりません。間違っても虚偽の内容を記載したり、報告書の提出を怠ったりしないよう注意しましょう。
また、労災が発生した場合には、従業員から損害賠償請求をされるリスクもあります。労災隠しをしてしまった、もしくは従業員から損害賠償請求されて困っているといった場合は、適切な対応を進めるために、まずはベリーベスト法律事務所までご相談ください。
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