企業法務コラム

2024年04月18日
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無断欠勤が続く社員がうつ病だった。会社の適切な対応は?

無断欠勤が続く社員がうつ病だった。会社の適切な対応は?

無断欠勤が続く社員がうつ病を発症していた場合には、当該社員から損害賠償請求を受けるなどのトラブルに発展する可能性があります。また、安易に解雇してしまうと不当解雇を理由に訴えられるリスクもあります。

無断欠勤の社員がうつ病と診断された場合には、会社としては適切な対応をとることが求められるのはもちろんのこと、社員のメンタル不調を早期に発見して解決できる体制づくりも重要になります。

今回は、無断欠勤が続く社員がうつ病だった場合の会社の適切な対応などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、無断欠勤社員がうつ病だった場合に、まず会社がやるべきこと

無断欠勤をしている社員がうつ病だった場合には、会社として以下のような対応が必要になります。

  1. (1)医師・産業医の受診を促す

    無断欠勤を続ける社員のメンタル面で不調が認められた場合には、うつ病の可能性がありますので、まずは精神科医や産業医の受診を促しましょう

    本人にはうつ病の自覚がないこともありますので、会社から積極的に受診を促す必要があります。精神科医や産業医の受診の結果、うつ病であると診断された場合には、今後の対応を検討する際に必要になりますので、休業の要否、休業期間などが明記された診断書をもらうよう指示しましょう。

    なお、うつ病であることを知らずに働かせるなどして初期対応が遅れた場合、当該従業員から安全配慮義務違反などを理由に損害賠償を求められるリスクが生じますので注意が必要です。

  2. (2)有給休暇などを利用し療養に専念することをすすめる

    うつ病により休業が必要な状態になった場合には、休職制度などを利用して療養に専念することをすすめてください

    就労を強制すれば、症状を悪化させて回復が遅れる可能性や、本来のパフォーマンスが発揮できず社員自身の業績評価が低下する可能性が高まるばかりでなく、仕事の遅滞や連携の不備等で、社員の所属する部署全体に悪影響を及ぼす恐れもあります。
    うつ病にり患した社員には、まずは療養に専念するようにすすめましょう。

  3. (3)就業時間を短縮する

    うつ病と診断されたが休業する必要がない場合でも、メンタル不調が悪化しないように配慮が必要になります。

    就業時間の短縮やより負担の少ない部署への異動なども検討してみるとよいでしょう。

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2、うつ病の従業員を「休職させる」際の対応

以下では、うつ病の従業員を休職させる際の対応と注意点について説明します。

  1. (1)休職制度とは

    休職制度とは、従業員が病気など業務外の原因により働くことができない状態になった場合に雇用関係を維持したまま、一定期間労働義務を免除する制度です

    労働基準法では、休職に関する定めはありませんので、休職制度を設けるかどうか、休職制度としてどのような内容を定めるのかは、会社が自由に決めることができます。

    休職制度は法律上、設置することを求められている制度ではありませんので、休職制度を設けなかったとしても、特に問題はありません。

    しかし、休職期間が満了しても復職が難しい場合には(自然)退職する旨の規定を設けておけば、復職できなかった社員を退職させても正当性を認められやすくなります。不当解雇として争われるリスクを回避するためにも、できる限り休職制度を設けるべきでしょう。

  2. (2)休職の申請方法・手続き

    休職制度の申請方法や手続きは、会社によって内容が異なる部分もありますが、一般的には、以下のような流れで行います。

    ① 医療機関の受診
    従業員のメンタルに不調が生じたとしても、会社の一方的な主観により「業務遂行が困難」との判断を下すのは、後々のトラブルの原因にもなる可能性があります。
    そのため、まずは、メンタル不調の原因を特定するためにも医療機関の受診を促します

    ② 診断書の発行
    医療機関でうつ病などの精神疾患と診断された場合には、診断書の発行を受け、それを会社に提出するように指示します
    休職の要否や期間を判断するために必要になりますので、以下のような事項の記載を求めましょう。

    • 病名
    • 休職の要否と理由
    • 医師が必要と判断した休職期間

    ③ 休職届の提出または休職命令
    休職は、休職が必要な従業員から会社に対して「休職届」の提出を受けて、実施するのが一般的です。もっとも休職を命じる合理的な理由がある場合には、会社から休職命令という形で休職を命じることもできます。

  3. (3)傷病手当金・社会保険料の取り扱い

    ① 傷病手当金
    傷病手当金とは、健康保険給付の一種で、傷病による療養のために会社から十分な報酬が受けられない場合に支給されるお金です。

    休職期間中に給料を支払うかどうかは、会社が自由に定めることができますので、休職中は無給とすることも可能です
    その際には、傷病手当金の支給要件を満たす可能性がありますので、休職する従業員に案内してあげましょう。

    ② 社会保険料
    休職により給料の支払いがない場合でも、従業員は社会保険料を納める必要があります。通常は、従業員の給料から労働者負担分の社会保険料が控除されますが、控除できるだけの給料がない場合には、直接従業員に対して請求しなければなりません

  4. (4)復職の判断基準

    復職の判断にあたっては、休職事由がしっかりと消滅しているかどうかを確認する必要があります。そのため、本人との面談と主治医からの診断書の内容に基づいて、復職の可否を判断します。

    ただし、主治医の診断書だけでは判断が偏るおそれがありますので、産業医の意見も踏まえて復職の可否を判断するとよいでしょう。

3、うつ病の従業員を「休職させる」際の注意点

うつ病の従業員を休職させる際には、以下の点に注意が必要です。

  1. (1)休職制度について従業員に説明する

    休職制度は、法律上の設置が求められている制度ではありませんので、会社によって休職制度の内容が異なっています。
    従業員は、休職制度の有無や内容などを正確に理解していませんので、安心して療養に専念させるためにも、休職制度について従業員にしっかりと説明するようにしましょう。

  2. (2)連絡先を明確にしておく

    休職後に従業員と連絡が取れなくなってしまうと、その後の対応も困難になりますので、従業員本人の連絡先だけではなく、同居家族や両親の連絡先など複数の連絡先を聞いておくようにしましょう。

    また、会社側の窓口はひとつに限定した方が混乱も少ないため、担当者を決めて対応するようにしましょう。

  3. (3)他の従業員への伝え方にも配慮が必要

    従業員が休職することになった場合、仕事の調整や引き継ぎが必要になりますので、他の従業員にもその旨を伝えることになります。
    その際には、「うつ病で休職することになった」など休職理由の詳細まで伝えることは避けましょう。本人のプライバシーにも配慮した伝え方の工夫が必要です。

4、うつ病の従業員を「解雇する」ときの対応・注意点

以下では、うつ病の従業員を解雇するときの対応と注意点について説明します。

  1. (1)うつ病を理由に直ちに解雇すると不当解雇のリスクがある

    うつ病を理由として無断欠勤を続ける従業員がいる場合には、労働契約上の債務不履行を理由として解雇を検討する会社も少なくないでしょう。

    しかし、産業医の受診、休職、業務調整、部署異動など解雇以外の手段により労働契約を維持する可能性がある段階で、いきなり解雇を選択してしまうと労働審判や裁判で不当解雇と判断されるリスクが高くなります

    裁判例
    実際の裁判例でも、精神的な不調のため有給消化後40日間欠勤をした従業員を、勤怠不良として諭旨退職の懲戒処分とした事案について、裁判所は、精神的な不調を抱える労働者に対する対応として適切なものとは言いにくいとして、諭旨退職処分を無効と判断しました

    判例:最高裁判所平成24年4月27日判決、日本ヒューレット・パッカード事件
  2. (2)解雇をする際には慎重な対応が求められる

    休職制度を利用して療養に専念したものの、休職期間が満了しても職場に復帰できる見込みがないという場合、就業規則に休職期間満了による(自然)退職とする等の規定がない場合には、解雇を検討することになるでしょう。

    その際には、まずは退職勧奨をするなど、合意により退職を求めることが望ましいでしょう。会社としていろいろと手を尽くしたものの解雇以外に選択肢がないという状態になれば、正当な解雇と認められる可能性が高まります
    うつ病が長時間労働や職場でのハラスメントなど業務によって生じた疑いが場合には、休業・休職中の解雇は原則として禁止されますから(労働基準法19条1項)、特に慎重な対応が求められます。

    なお、退職勧奨の手順などについては、以下のコラムで詳しく説明していますので、こちらをご参照ください。

5、メンタルヘルスをケアするための社内体制づくり

従業員のメンタル不調により大きな問題にならないようにするためには、メンタルヘルスをケアするための社内体制づくりが重要になります。

  1. (1)労働条件や就業規則の見直し

    従業員のメンタル不調は、長時間労働や職場環境が原因で生じるケースが多いです。そのため、まずは従業員の労働条件の見直しを行い、肉体的・精神的に過度な負担にならないよう配慮することが必要です。

    また、従業員がうつ病になった際の休職や復職に関するルールを定めておくことも必要になりますので、そのようなルールが明確でない場合には就業規則の見直しが必要になります。

  2. (2)上司や産業医に気軽に相談できる体制の構築

    従業員のメンタル面に不調が生じたとしても、早期に対応することでうつ病の発症を防ぐことができる可能性があります。

    メンタル面の不調は、従業員がひとりで抱えてしまいがちな問題ですので、早期に発見・対処するためには、上司や産業医に気軽に相談できる体制を構築することが必要になります。
    普段から従業員とコミュニケーションをとるなどして、信頼関係を築いておけば、何かあったときに頼ってもらうことができるでしょう。

    また、産業医制度があっても従業員に周知されていなければ産業医への受診につながりませんので、定期的な従業員への周知も行うようにしましょう。

  3. (3)メンタルヘルスに関する研修の実施

    メンタルヘルスに関する研修を実施することも従業員のメンタル不調を予防・回避するための有効な対策になります。

    全社員向けにはメンタル不調時に見られる特徴や相談先を伝える、管理職向けには部下のメンタル不調時の対応を学ぶといった研修の実施を検討するとよいでしょう。

6、人事労務に関するご相談は弁護士へ

従業員のメンタルケアを含む人事労務に関するお悩みは、弁護士に相談することをおすすめします。

  1. (1)労務トラブルを回避するための体制づくりのアドバイスができる

    うつ病による無断欠勤、長時間労働、パワーハラスメントなどの労務トラブルが発生すると、労働者の離職や損害賠償請求などのリスクが高くなりますので、そのような労務トラブルを発生させないための体制づくりが重要になります。

    弁護士であれば、労働条件・就業規則の見直し、経営上の課題へのアドバイス、社員研修の実施などにより労務トラブルを回避するための体制づくりのサポートを行うことができます。安定的かつ継続的な企業経営を行うためには、トラブルの予防という視点が重要になりますので、まずは弁護士に相談するとよいでしょう。

  2. (2)労働者とのトラブルが発生した場合でも代理人として対応してもらえる

    労働者との間でトラブルが発生すると慰謝料や解決金などの支払いによる金銭的な負担、労務トラブルに対応するための人的コストが発生しますので、企業経営においても深刻なダメージとなります。

    弁護士に依頼すれば、労働者とのトラブルがあった場合でも代理人として対応してもらうことができますので、貴重なリソースがトラブル対応に割かれることはありません
    また、弁護士は法律の専門家ですので、法的知識を基に交渉を進めることができ、結果、会社への被害を最小限に抑えることができます。

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7、まとめ

うつ病などの精神疾患を理由に無断欠勤をしている従業員がいたとしても、直ちに解雇してしまうのは不当解雇のおそれがあります。会社としては、休職制度の利用などを促して、まずは療養に専念させることが必要になります。

休職期間が満了しても復職が困難であれば最終的に解雇を検討することになりますが、その際にもやはり慎重な対応が求められます。不当解雇のリスクを減らすためには、専門家のアドバイスやサポートがあるのが望ましいでしょう。

まずは、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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